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9.兄は変態だが天才である①
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辺りに懐かしい血の臭いが漂っている。俺は冒険者時代の事を思い出しながら、剣に付着したゴブリンの血を飛ばして鞘に納めた。
まだまだ未熟とはいえ、前世で培った技術と今世で手に入れた体があれば、ゴブリン五体は俺の相手ではない。もちろん慢心はしないが、ただの雑魚同然だった。
「クレイズ様ー。流石ですねー」
「ふんっ、僕のクレイズならこのくらい当たり前さ!」
余韻に浸っていたらフリルと兄がやってきた。もちろんアルマと護衛の魔術師もいる。というか何で兄が自慢げになっているんだ。
「クレイズ様、魔石を取り出しますか?」
男の魔術師が聞いてきた。魔石というのは、魔物の心臓部に存在する半透明な石のことだ。色は魔物によって違い、内在している魔力の質も量も違う。
基本的には強い魔物ほど魔力の質が高く量も多い。俺が殺したゴブリンの魔石は、質が低く量も少ない。魔石の中でも最低のものだった。
「あー……別にいい。所詮ゴブリンだしな」
「かしこまりました」
仮に俺が新人の冒険者だったら絶対に取り出す。なぜなら、売れば幾らかの金になるからだ。新人の冒険者は総じて金がない。たかだかゴブリンの魔石といえども、十分な収入だった。
しかし、今の俺は侯爵家次男である。食うのも着るのも住むのも困っていない。限度はあるが、欲しいものは手に入れられる。だから、わざわざゴブリンの魔石を取り出す必要性は全くなかった。
「ご機嫌ですねー」
「はっ、当り前だ」
確かに今の俺は機嫌がいい。口角だって上がっているし、今にでも笑い出したい気分だ。まだ五歳の時点でこの実力。未来のことを思うと背中がゾクゾクと震えた。
「今の表情、凄くいいよっ……!」
「ぐっ……」
視界が真っ暗になった。兄に抱き着かれたのだ。くそっ……殺意や悪意には気づくが、兄からはそのような感情を向けられてないので、避けるのが僅かに遅れた。
視界が開ける。が、まだ俺は抱き着かれたままだ。器用なことに、兄は俺を後ろから抱きしめながら歩いている。絶対に歩きづらいはずなのだが……そこまでして俺に抱き着きたいのだろうか。良く分からない。
それからしばらく歩いたところで、兄は俺から離れた。理由は分かっている。魔物がいる事に気づいたからだ。
「クレイズ。ここは僕がやっていい?」
「どうぞ」
自分でやりたい気持ちはあるが、兄の魔術も見てみたい。今まで兄が庭で魔術を捏ね繰り回しているは知っていた。しかし、その全容は知らないし、実戦でどのような動きをするのか分からない。まあつまり……ただの好奇心だ。
因みに魔物は段々と近づいてきている。いや、段々とではなく、かなりの速度で俺たちに接近してきている。姿はまだ見えないが……闘気からは、魔物が複数で四本脚だということが分かった。
足音が響き、姿が露になる。
「ラーウルか」
くすんだ灰色の毛皮に薄緑色の目。呼吸をしている口から見える鋭い牙。決して巨体ではないが、必ず複数で行動する習性を持つ。
危険度はゴブリンの一つ上である八級。仮に十体以上ならば七級となるが……目の前にいるのは六体なので八級だ。仮に一体だけだったら九級である。
俺も前世で八級冒険者だった頃は苦戦したものだ。ラーウルの攻撃手段が咬みつきだけとはいえ、四方八方から襲い掛かってくるのは中々にキツイ。
さて……兄はどんな魔術を使うのだろうか。
「君達には恨みはないけど……僕はお兄ちゃんだからね。弟にいい格好を見せたいんだよ」
おい……警戒しながら寄ってきているラーウルに放つ言葉じゃないだろ。俺は相変わらずな兄に呆れた。近くにいるアルマや魔術師二人も呆れている。
そんな兄の言葉を知らずに六体のラーウルは兄を囲んでいく。俺たちは男の魔術師によって姿を隠しているので、気づかれていない。
ジリジリと包囲の円を狭めるラーウルに対して、兄はいつものままだ。怖気ついてもなく、余計な力が入っているわけでもない。
徐に兄は右掌を上に向けて口を開いた。
「――ウィグマルガ」
兄の右掌の上に気流の刃が何本も渦巻く。本来、気流の刃を視認することは難しいが、一か所で何本も渦巻いているので明確に見えた。
兄の魔術にラーウルは更に警戒する。姿勢を低くして、いつでも動けるような格好だ。襲い掛かるか逃げるか判断に迷っているのだろう。
が、ラーウルの判断は遅かった。
ラーウルの一体が体を少し動かした瞬間、気流の刃の渦が弾けたのだ。
極めて細く、極めて数多くの気流の刃がラーウルに襲い掛かる。身の危険を感じて逃げようと背を向けても遅い。兄の手元から放たれた気流の刃は、全てのラーウルの体に絡みついた。
―「ギャンッ……!」
最後の悲鳴が木霊する。
首や胴体、足や臀部、または頭部を気流の刃が切り刻んだ。
といっても、細切れにするという大層なものじゃない。ウィグマルガという風系統魔術は、あまり切断力が高くない気流の刃を数多く発生させて、数の暴力で相手に攻撃するというものなのだ。
何本発生していたかは俺も分からない。あれは前世でも見かけたことのある、さほど難しくないのに厄介な魔術だった。
まだまだ未熟とはいえ、前世で培った技術と今世で手に入れた体があれば、ゴブリン五体は俺の相手ではない。もちろん慢心はしないが、ただの雑魚同然だった。
「クレイズ様ー。流石ですねー」
「ふんっ、僕のクレイズならこのくらい当たり前さ!」
余韻に浸っていたらフリルと兄がやってきた。もちろんアルマと護衛の魔術師もいる。というか何で兄が自慢げになっているんだ。
「クレイズ様、魔石を取り出しますか?」
男の魔術師が聞いてきた。魔石というのは、魔物の心臓部に存在する半透明な石のことだ。色は魔物によって違い、内在している魔力の質も量も違う。
基本的には強い魔物ほど魔力の質が高く量も多い。俺が殺したゴブリンの魔石は、質が低く量も少ない。魔石の中でも最低のものだった。
「あー……別にいい。所詮ゴブリンだしな」
「かしこまりました」
仮に俺が新人の冒険者だったら絶対に取り出す。なぜなら、売れば幾らかの金になるからだ。新人の冒険者は総じて金がない。たかだかゴブリンの魔石といえども、十分な収入だった。
しかし、今の俺は侯爵家次男である。食うのも着るのも住むのも困っていない。限度はあるが、欲しいものは手に入れられる。だから、わざわざゴブリンの魔石を取り出す必要性は全くなかった。
「ご機嫌ですねー」
「はっ、当り前だ」
確かに今の俺は機嫌がいい。口角だって上がっているし、今にでも笑い出したい気分だ。まだ五歳の時点でこの実力。未来のことを思うと背中がゾクゾクと震えた。
「今の表情、凄くいいよっ……!」
「ぐっ……」
視界が真っ暗になった。兄に抱き着かれたのだ。くそっ……殺意や悪意には気づくが、兄からはそのような感情を向けられてないので、避けるのが僅かに遅れた。
視界が開ける。が、まだ俺は抱き着かれたままだ。器用なことに、兄は俺を後ろから抱きしめながら歩いている。絶対に歩きづらいはずなのだが……そこまでして俺に抱き着きたいのだろうか。良く分からない。
それからしばらく歩いたところで、兄は俺から離れた。理由は分かっている。魔物がいる事に気づいたからだ。
「クレイズ。ここは僕がやっていい?」
「どうぞ」
自分でやりたい気持ちはあるが、兄の魔術も見てみたい。今まで兄が庭で魔術を捏ね繰り回しているは知っていた。しかし、その全容は知らないし、実戦でどのような動きをするのか分からない。まあつまり……ただの好奇心だ。
因みに魔物は段々と近づいてきている。いや、段々とではなく、かなりの速度で俺たちに接近してきている。姿はまだ見えないが……闘気からは、魔物が複数で四本脚だということが分かった。
足音が響き、姿が露になる。
「ラーウルか」
くすんだ灰色の毛皮に薄緑色の目。呼吸をしている口から見える鋭い牙。決して巨体ではないが、必ず複数で行動する習性を持つ。
危険度はゴブリンの一つ上である八級。仮に十体以上ならば七級となるが……目の前にいるのは六体なので八級だ。仮に一体だけだったら九級である。
俺も前世で八級冒険者だった頃は苦戦したものだ。ラーウルの攻撃手段が咬みつきだけとはいえ、四方八方から襲い掛かってくるのは中々にキツイ。
さて……兄はどんな魔術を使うのだろうか。
「君達には恨みはないけど……僕はお兄ちゃんだからね。弟にいい格好を見せたいんだよ」
おい……警戒しながら寄ってきているラーウルに放つ言葉じゃないだろ。俺は相変わらずな兄に呆れた。近くにいるアルマや魔術師二人も呆れている。
そんな兄の言葉を知らずに六体のラーウルは兄を囲んでいく。俺たちは男の魔術師によって姿を隠しているので、気づかれていない。
ジリジリと包囲の円を狭めるラーウルに対して、兄はいつものままだ。怖気ついてもなく、余計な力が入っているわけでもない。
徐に兄は右掌を上に向けて口を開いた。
「――ウィグマルガ」
兄の右掌の上に気流の刃が何本も渦巻く。本来、気流の刃を視認することは難しいが、一か所で何本も渦巻いているので明確に見えた。
兄の魔術にラーウルは更に警戒する。姿勢を低くして、いつでも動けるような格好だ。襲い掛かるか逃げるか判断に迷っているのだろう。
が、ラーウルの判断は遅かった。
ラーウルの一体が体を少し動かした瞬間、気流の刃の渦が弾けたのだ。
極めて細く、極めて数多くの気流の刃がラーウルに襲い掛かる。身の危険を感じて逃げようと背を向けても遅い。兄の手元から放たれた気流の刃は、全てのラーウルの体に絡みついた。
―「ギャンッ……!」
最後の悲鳴が木霊する。
首や胴体、足や臀部、または頭部を気流の刃が切り刻んだ。
といっても、細切れにするという大層なものじゃない。ウィグマルガという風系統魔術は、あまり切断力が高くない気流の刃を数多く発生させて、数の暴力で相手に攻撃するというものなのだ。
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