かみさまの忘れ人

KMT

文字の大きさ
8 / 25
第二章「フォーディルナイト」

第7話「未知の世界へ」

しおりを挟む


ここはとある城の大広間。一人の少女が椅子に座り、腕を頭の後ろに回して足を組んでいた。ドレス姿をしているため、端から見ると実にはしたない。だが、彼女にとってはその目線の考え方が非常に不愉快だった。今日も己の人生に絶望している。

「はぁ…」

ため息を一つこぼす。それは窓の外から覗き込む夜の暗闇に消えていく。今日も外に出られなかった。両親の目が以前より鋭くなっている。私が城を抜け出そうとするとすぐに感づいて連れ戻される。おかげで最近は外の大地を踏みしめていない。あの感触が好きだった。自然と心も体も一つになったような心地よい気持ち。剣を握って戦い、飛行機の操縦幹を握って空を飛び、馬に乗って草原を駆け回った。あれをもう一度味わいたい。だが、現実というものは無慈悲なものである。この頃毎日退屈だ。彼女は天井を見上げながら、外に出ることを夢見る。このマンネリとした気持ちを受け取ってくれる者はこの城には誰もいない。



一人を除いて。

キー
誰かがドアを開けて大広間に入って来た。

「どうしたアンジェラ…ため息なんかついて」
「あら、アーサー!ここに来たってことは、今夜もやってくれるの?」

アンジェラという名前の少女は、彼を見つけるとあっという間に笑顔を取り戻し、椅子から立ち上がって彼の元へ駆け寄る。彼女の目の前に立つアーサーという名前の男。どうやら騎士のようだ。背中に赤いマント、茶色の軍服のようなものを身にまとい、腰には大きな聖剣を携えている。

「俺が来た途端に急に元気になったな…ていうか、あれはお前の仕事だろ?」
「別にいいじゃない、誰が祈ったってどうせ一緒よ♪ねぇ、アーサーお願い!今夜もあなたがやってよぉ~」

何かをお願いするアンジェラに、アーサーはひどく呆れた様子だ。

「昨日も俺がやったじゃねぇか。祈りを捧げるだけだろ、面倒くさがるなよ…」
「嫌だ~!ねぇ、お願い♪」

アンジェラは潤んだ瞳で上目遣いをする。この上目遣い、一体何度目だろうか。アーサーは観念したかのようにため息をつく。彼女のわがままにはなぜか勝てる気がしない。

「しゃーねーなぁ…」
「やった!ありがと~!そろそろ時間だからよろしくね。私先に寝るから、おやすみ~」

アンジェラは大広間のドアを開けて最後に付け足す。

「あ、明日もよろしくね」

バタンッ
大広間のドアが閉じられる。一人取り残されたアーサーは再びため息をつく。

「やれやれ…さてと」

気を取り直し、アーサーは大広間の奥にある巨大な神様の石像の前に立つ。ズボンのポケットから聖典を取り出し、開いてページをめくる。所々付箋が貼られたり、マジックで付け足しの文書が書かれた聖典を、アーサーは次々めくる。読むべきページを見つけると、それを見ながら心の中でその言葉を唱える。声に出しては読まないのだ。祈りは心で捧げることによって、より真意のこもったものとなり、神様に届く。



これは毎晩アンジェラが行っている祈りの儀式である。彼女は最近この儀式をサボり気味であり、近頃特別親しくなった騎士のアーサーに押し付けている。彼はしぶしぶ承諾するのだが、だからといってこの儀式が面倒なわけではない。この城では神様に祈りを捧げることは大切なしきたりなのだ。それに、神様に祈りを捧げると、不思議な安心感に包まれる。この心地よさが気に入り、毎晩彼はこの大広間に来る。そのせいでアンジェラに目をつけられ、儀式を代わりにするよう押し付けられるようになったのだが。

「…」

まただ。心地よさと共に胸に降りてくるこの歯がゆさ。一体何なのだろうか。ここで祈りを捧げるようになってから毎晩この胸の痛みに襲われる。祈りは神様との距離を近づける行為だと聞いている。それが何か関係があるのか。アーサーにはわからない。とにかく心が苦しがっているのだ。

「一体何なんだ…」

心の中で何かが出たがっている。それが何なのかはわからないが、自分は何か大切なことを忘れているような気がしてならないアーサーだった。儀式を終えると、彼は無理やり苦しみを振り払って大広間を後にした。



   * * * * * * *



あれから何時間経っただろう。足の痛みがさっきから捜索の邪魔をしてくる。私は悔しい思いで膝を押さえる。私は歯ぎしりをする。暗闇に覆われた森の中で。

「蓮君…今何時?」

私は草を掻き分けながら蓮君に現在の時刻を尋ねる。蓮君は腕時計で時刻を確認する。

「午後8時58分だよ…」

蓮君が絞り出すように答える。厳しい現実が目の前に立ち塞がる。朝8時に捜索を開始してから約13時間、未だに陽真君は見つからない。既に夕日は沈んで森の中は真っ暗になり、懐中電灯で照らしながらでないと動き回ることができない。時間はたっぷりあったはずなのに、私達はただ森の中をうろうろしただけで一日を無駄にしてしまった。真っ暗な森は、あれだけ固かった私達の決意を容赦なく叩き壊そうとしてくる。

「そろそろ帰りましょう、親に心配かける前に」

哀香ちゃんは木にもたれかかって言う。親には友達と遊びに行って夜まで帰ってこないと言ってある。少々帰りが遅くなっても問題はないけど、これ以上捜し続けるのは体力的にも困難だ。

「うん…」

今日のところは引き上げよう。でも、明日は見つかるのか。最初に陽真君の捜索を決意してからもうすぐ二週間経つ。私達のやっていることは意味のあることなのか。

「…」

後ろ向きな考えは、一度浮かび始めると加速して止まらなくなっていく。私は陽真君の親友なのに、彼を見つけられない。やっぱり私が陽真君を助けるなど無理なのか。私は本当に無力でちっぽけな人間だ。

「行こう、凛奈…」
「うん」

蓮君が私を呼ぶ。私は小さく返事をして森の出口へと歩き始める。しかし、しばらくして足を止め、暗い森の奥をもう一度眺める。何かが私の心にストッパーをかける。

“大事なのは、神様を信じて祈り続けること”

菫さんの言葉が頭に響く。まさにかみさまがお告げをしているかのように。私はもう一度陽真君に会いたい。だったら諦めずに祈らなきゃ。私は手を合わせて目をつぶる。心の中でかみさまに問いかける。

“かみさま、陽真君は一体どこにいるんですか…。陽真君のところへ連れて行ってください…”

「凛奈?」
「何してんの?行くわよ」
「…うん」

私は目を開いて手を下ろす。再び森の出口へと歩き始める。このお祈りも果たして意味があることなのかはわからない。だけど、とにかく今は目に見えない力を信じるしかない。そう思いながら、私は哀香ちゃんと蓮君の後ろをとぼとぼと着いていく。あぁ…かみさま、どうか…どうか…。





シュー

「?」

後ろから音がした。何か霧状のものが沸き立つ音だ。私は後ろを振り返った。

「!?」

思わず目を疑った。先程まで真っ暗で草木以外何もなかった森が、辺り一面深い霧に覆われていた。いつの間に発生したのか。霧は瞬く間に草木を飲み込んでいき、私達までも包み込もうとする。

「凛奈、早く帰…え?何よこれ!?」
「き…霧?」

哀香ちゃんと蓮君も得体の知れない霧の存在に気がついた。二人が気づく頃には、霧は完全に私達の四方八方を囲んで森全体を覆い尽くしてしまっていた。黒の世界から白の世界へと早変わりした森。私達は恐怖におののいた。

「なんで急に霧が…」
「き…霧くらいどうってことないわ。出口の方角はわかってるもの」

哀香ちゃんはまとわりつく恐怖を振り払うように腕を大きく振って歩き出した。私と蓮君も着いていく。私達はひたすら真っ直ぐ歩いた。周りの霧は懐中電灯を点けながら歩く道までも不安にさせてくる。





…おかしい。さっきから10分くらい歩き続けている。そろそろどこかのハイキングコースに出てくる頃のはずなのに、辺りはまだ森の景色だ。歩けば歩くほど、木々がどこまでも続いているように感じた。まさか迷ってしまったのか。

「ねぇ、もしかして迷ったんじゃ…」

蓮君が勇気を出して事実を確認した。哀香ちゃんは少し間を置いて答える。

「そ、そんなわけないでしょ…」

哀香ちゃんの額からは冷や汗が垂れている。どうやら本当に迷ってしまったらしい。どうしよう…行方不明者を捜しに行って自分達が迷子になるなんてシャレにならない。私は恐る恐る聞いてみる。

「…迷ったよね?」
「ままままま…迷ってなんかないってば!あ、ほらあそこ!出口じゃない?」

哀香ちゃんが辺りを見渡してとある場所を指差した。そこは霧が晴れていて、森の木々も少ない場所のようだ。遠くから目を凝らすと、奥に草原らしきものが見える。よかった、とりあえず森からは出られそうだ。

「行きましょ!」
「うん…」
「あぁ…」

私達はその場所まで走った。地面の雑草や落ち葉を踏み散らして出口を目指す。とにかく不気味な空気から抜け出したかった。

「出た~!」

やっと霧から抜け出し、開けた草原に出た。私達は膝をついて息を切らす。ここからは街が見えた。このまま下りれば街まで帰れそうだ。さすがに晩ご飯抜きで捜索を続けるのはしんどい。お腹が空いた。帰って晩ご飯を食べよう。あ、でも親には友達の家に遊びに行くと言ってある。もしかすると、お母さんは私は友達の家で食べてくるだろうと考え、自分の分は用意してないかもしれない。もしそうだとしたら、わざわざ用意させるのは申し訳ないなぁ…。毎晩遅くまで捜索しているから、この頃心配かけてばかりいるし…

「ねぇ…凛奈。なんかおかしくない?」
「え?」

哀香ちゃんが急に話しかけてきた。哀香ちゃんはゆっくりと街の方を指差す。

「あんなところにお城みたいな建物なんてあったっけ?」

お城?私は哀香ちゃんが指差す方向に顔を向ける。メガネをカチカチ揺らしながらその姿を捉えようとする。黄色い光が散らばる街、その奥には小さな森がある。私としてはこの森が一番気になる。あんなところに森なんてあったかな?街と隣り合わせの森なんて…。

そして私はその森の奥を眺める。そこには洋風の銀色のお城が夜の暗闇の中にたたずんでいた。哀香ちゃんが言っているのはあのお城のことらしい。暗くて最初は見えなかった。正直哀香ちゃんが言わなければ、その存在に気がつかなかったかもしれない。でも確かに、あんな立派なお城なんて私達の街には無かったはず。

「城の手前にもなんか小さな森みたいなものない?」
「うん…もしかして七海町の入り口とは反対の方に出ちゃったとか?」
「まさか、出口の方角はこっちで当ってるはずよ」

見たことがない風景に、私達は困惑する。一体どうすれば…。

「とにかく山を下りてみましょうよ!あの街に行けば何かわかるわ」

哀香ちゃんは草原を駆け出した。私と蓮君はその後を着いていく。哀香ちゃんの行動力に心の中で感謝する。



うーん…何やら嫌な予感がするのは気のせいかな?



「何よ…これ…」

私達は再び目を疑った。街に下りてみると、建物が私達の知っているものと全然違う。まるで西部劇にでてくるのような木造建築ばかりだった。今にもカウボーイが中から出てきそうだ。外をうろつく人々も私達の知っている服装とはまるで違う。灰色のマントを全身に巻いている。寒いのかな?それにしても一体ここはどこなのだろう。チャイナタウンやジャパンタウンみたいなところなのかな?とにかく私達の知っている七海町ではないということだけがわかる。

「これってもしかして…」

哀香ちゃんが顎に指を当てて呟く。何かを考察する探偵の風格だ。何かの確信を得たみたい。

グウゥゥゥゥゥ
突然お腹が鳴る音がした。

「…蓮?」
「いや僕じゃないよ。だからと言ってお腹空いてないわけじゃないけど…」

哀香ちゃんと蓮君は静かに視線を私の方に向ける。

「…///」

私はお腹を押さえて頬を赤らめる。ごめん、今のは私。なかなかこういうのは恥ずかしくて言い出せない。

「…戻ろうか」

私達は来た道を戻って行った。とにかく早く何か口に入れたかった。



さっきまで私達がいた森まで戻ってきた。あの深い霧はいつの間にか消えている。再び闇の世界を映し出す森。私達は木々の間を潜り抜けて反対側の出口を目指す。きちんとプチクラ山のハイキングコースに出られる出口だ。

「…ダメだ、出口が見つからない。さっきの霧で完全に方向感覚を失われたらしい」
「嘘!?本当に迷ったってこと?どうすんのよ?」

さっき既に迷っていたのに、いい加減現実を認めた哀香ちゃんはこの上無いほど慌てていた。時刻はもう午後9時42分を指している。

「一旦さっきの街まで戻ろう。今日はもうどこかに泊めてもらうしかないよ。いつまでも森をさ迷ってたら危険だ」
「はぁ…仕方ないわね」

私達はとぼとぼと来た道を戻っていく。さっきのおかしな街までは、なぜか迷うことなくすんなりと戻ってこられた。まるで何かに導かれるかのように。

二度見ても慣れないおかしな街の家と人々。私達は明かりの少ない道の真ん中を歩く。お尋ね者のように足を動かす。歩けば歩くほど、家の明かりが一つ一つ消えていく。

コンコン
蓮君がまだ明かりのある家のドアをノックする。中からは中年の夫婦が出てきた。

「何だい?君達は…」
「すみません、一晩泊めていただけませんか?」

蓮君が凍えそうな声でお願いする。夫婦は困り顔で答える。

「悪いけど…うちには子どもがたくさんいるんだ。他を当たってくれるかい?」
「わかりました。すみません…」
「本当にごめんね」

夫婦は静かにドアを閉める。諦めて次のお宅を訪ねに行く。街の明かりはさっきよりも更に減っていた。

「悪いな、うちにはそんな余裕ない」
「君達、家出かい?」
「子どもだけってのはちょっとなぁ…」
「見慣れない格好ね。あなた達、旅の人?」
「ガキはとっとと家に帰れよ」

手当たり次第に訪問し、一つ一つ断られた。確かに、こんな怪しい子どもをいきなり家に泊めるというのは難しい話だ。そういえば服装のことを指摘されたけど、そんなに珍しいかな?こちらにとってはこの街の人達の方が変わってると思う。悪い意味ではないけど。

グウゥゥゥゥゥ グウゥゥゥゥゥ
またお腹が鳴った。今度は哀香ちゃんと蓮君だ。

「お腹空いた…」
「とりあえず、まずはご飯が食べられる場所を探そう」

私達は食事のできるお店を探した。とはいえ、時刻はもう午後10時を回っている。レストランどころか、住民の家まで明かりが点いていない。どこの建物も閉まっているのが目に見えた。辺りは真っ暗闇だ。それでも私達は明かりを求めてひたすら歩いた。三人で体を寄せ合って恐怖で凍える体を温めた。端から見れば孤児の集団だ。なんとも大変なことになったものだ。

「あっ、あそこ!」

蓮君が何かを見つけた。蓮君の指差す方を見ると、明かりの灯った建物が見える。屋根の上にある大きな看板には赤い文字で「Teles・Hans」という文字。テレス・ハンス…?そして、その文字の上に小さく「Bar」と記載されている。バーということは…居酒屋?

「もうこの際居酒屋でもいいわ、行きましょ!」

哀香は居酒屋目掛けて駆け出した。

「あ、哀香!」
「哀香ちゃん待って!」

私と蓮君も後を追う。

バーン
哀香ちゃんは豪快にお店のドアを開ける。中は強面のギャングのような男の人で席が埋まっていた。ギャング達は一斉に私達に視線を向ける。さっきまで盛り上がっていたけど、私達の乱入で店内は急に静まり返った。あまりのギャング達の顔の恐ろしさに足がすくむ。子どもだけで来るべきところではないことは明らかだった。

「あ、えっと…その…こんばんは~」

哀香ちゃんはおどおどしながらもギャング達に手を振る。ギャング達は何も返さずにジト目でこちらを見つめ続ける。怖い…。

「いらっしゃいませ!空いてる席にお座りください!」

メイド服を着たウェイトレスらしき女の人が、大量の食器を抱えながら言う。見ればわかる通り、お店の中はたくさんのお客さん(もはやギャングしかいないけど)で溢れており、入ってくるお客さん一人一人にいちいち接客などしてられない様子だ。周りを見渡すと、何人かのウェイトレスさんが食器を抱えてホールとキッチンを何度も行き来していた。見るからに忙しい。

私達はギャングの座っている席の間を通り抜けながら、一番奥の席へと向かう。すれ違う度に感じるギャングの眼差しが怖い。逃げるように私達は席に座る。やっと落ち着ける時間が確保できた。

「はぁ…疲れた…」

蓮君は背負っていたリュックを座席の下に置いて体の力を抜く。空気の抜けた風船のように縮こまる。

「ねぇ、さっき思ったことなんだけども…」

哀香ちゃんがふと口を開く。

「何?」
「見たことない街に見たことない格好の人々…もしかしたら…」

哀香ちゃんが再び探偵の風格で状況を考察する。

「ここは私達のいた場所とは異なる世界…異世界かもしれないわよ」
「異世界!?」

私は声をあげて驚く。近くの席にいたギャングがこちらに振り向いたような気がした。すぐに私は口を押さえて知らないふりをする。無理があるけど。

「異世界?まさか、ラノベの読みすぎだよ。哀香ったら…オカルトの類は疑うくせに、そういうのは信じるんだから…」

蓮君がテーブルに手を乗せながら言う。異世界というのは…あれだよね?リゼロとかこのすばにあるような剣や魔法が出てくるファンタジーの世界だよね。そういう感じのラノベは陽真君から借りて読んだことがある。哀香ちゃんが言うにはこの世界がまさにそれだという。

「アンタだって読んでるくせに…。ていうか、そうじゃないと説明がつかないでしょう?」
「それはそうだけど…本当にそんなことが現実的にありえるのか?」
「信じない限り話は進まないでしょう?さっさと認めなさいよ」
「わかったよ!それで、なんでこんなことになったのか…」

二人が色々話している間に、私は改めて周りを見渡す。パスタやチャーハンをほおばるギャング達の腰に注目する。そこに携えているのは…小型のナイフだった。驚いた。あんな物騒なものを堂々と持ち歩いているというのに、他のお客さんやお店の人は何も注意しないのか。ということは、この世界でそのようなものを持ち歩くことは普遍的なことなのか。私はカルチャーショックを受けたような気分になる。いつの間にかここが異世界であるということを前提に物事を考え始めている。

「うーん…」

それにしても、陽真君を捜しに来たつもりが、まさかこんなことになってしまうとは。世界って不思議だな。異世界なんて本当にあるんだ。陽真君が聞いたらきっと驚くよ。でも、やっぱりそんなことあるわけないだろうって馬鹿にされるかな?いや、陽真君ならきっと信じてくれるかも。それすげぇじゃんと、オーバーなリアクションをしてくれるかもしれない。陽真君もファンタジーやオカルトチックな話題が好きだったから。

「…」

そういえば陽真君とはもう二週間も話をしていない。行方不明だから当然のことだけど。電話も繋がらず、可能性のある場所を捜しても見つからない。この現状がこのまま当たり前になってしまうのが怖い。私はテーブルの上にうつ伏せになった。

“陽真君に会いたいな…”

この頃いつも思うことが頭をよぎった。ギャング達の賑やかな声はいつの間にか復活し、私を現実へと引き戻してきた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...