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第四章「最終決戦」
第23話「最終決戦」
しおりを挟む「うぉら!」
「あっ!」
ギャングの攻撃に圧倒され、体勢を崩すエリー。腹を剣で殴られる。
「ぐふっ」
「エリー!」
ユタが叫ぶ。エリーは倒れたまま立てなくなる。絶体絶命だ。ギャングは更に攻撃を続ける。
「これで終わr…ぐへっ!」
ギャングが剣を振りかざした直後、別のギャングが空中から落ちてきた。そのまま下敷きになって倒れる。どうやらユタがギャングを投げ飛ばしたようだ。
「お前ら…僕の同僚に…手を出すなぁ!!!」
ダッ
ユタは凄まじい形相でギャング達に襲いかかる。軽く数人のギャングを殴り飛ばす。
「くそっ、なかなかやるな…」
ユタは剣やナイフなどの武器を持っていない。ギャングから奪った鉄製バンテージを装備しているのみで、ほぼ肉弾で戦っている。それで剣やナイフで攻めてくるギャングを5,6人同時に相手しているのだ。袖から見える肉付きのいい腕には、まだ血が固まっていない切り傷が何本も刻まれている。
「ユタさん…」
ユタは命からがらエリーを守ってくれている。エリーは剣を杖にして立ち上がる。
「負けて…たまるか!」
エリーは剣を構えて駆け出す。全て守るのだ。仲間も、この国も。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
陽真達は最上階へと続く階段を目指していた。ガメロを探すためだ。ギャング集団の親玉であるガメロを倒すことができれば、幹部やしたっぱ達も戦意を失って降参するかもしれない。この戦いを終わらせるにはそれしかない。
「…!」
ガメロは足音を感じとる。足音のする方向を確認し、立ち上がってその場へ向かう。どうやら最初に城に潜入した時からずっと屋上に続く階段の手前の廊下で留まっていたようだ。
「いた!」
陽真達とガメロが対面する。
「お前がギャングの親玉か…」
「すぐに俺に追い付くかと思ったが、随分と遅かったな」
ガメロは剣の柄に手をかける。
「さて…後ろにいる女王様を差し出してもらおうか」
陽真は背中のマントと広い肩幅で女王の金髪と青白いドレス姿を隠している。しかし、既にガメロに女王の存在が気づかれていた。陽真の額に冷や汗がつたう。
「…」
ダッ
陽真は唐突に女王の手を引いて駆け出す。そのまま屋上へと続く階段を駆け上がる。
「バカめ…その先に逃げ場は無い!」
ガメロは二人の後を追った。哀香達はガメロが陽真達に気をとられている隙に階段を降りる。
「あの二人、うまくやってるかしらね…」
長い廊下を走りながら花音が呟く。正門前で繰り広げられている戦場へと再び戻っているのだ。
「きっと大丈夫よ。何が相手だろうと、最後に勝つのは愛なんだから!」
哀香が走りながら答える。
“アーサー…凛奈…頑張って!”
茶色の長髪カツラを被り、凛奈の私服で変装したアンジェラは二人の健闘を祈る。
二人は城の最上階に行き着いた。元の世界で言うヘリポートのような開けた場所。ただ、地面がブロックで敷き詰められている。陽真は立ち止まって振り返る。女王の着ているドレスがひらりと翻る。青白い清楚なドレス、アンジェラがいつも着ているものだ。
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫か?凛奈…」
「うん、大丈夫」
陽真が手を引いていたのはアンジェラではなく凛奈だった。凛奈とアンジェラは衣装を交換して入れ替わったのだ。敵の注意を引き付け、アンジェラが狙われる危険性を無くすために。アンジェラの方は凛奈と髪色が似ているため、髪色で自分が王女だと気づかれないように茶色の長髪カツラを被ったというわけだ。そして凛奈はアンジェラの青白いドレスを身にまとっている。背丈もほぼ同じであるため、凛奈の体にぴったりフィットした。
「もう逃げ場が無いようだな、女王様よぉ…」
ガメロはまだアンジェラの顔を知らない。予想通り、今のガメロは完全に凛奈のことをアンジェラだと信じ切っている。ひとまず敵の注意を引く作戦は成功と言えよう。ガメロは再び剣の柄を握る。
「こいつに手を出すな!俺が相手になる!」
スチャッ
陽真は凛奈を背中に隠し、素早く剣を引き抜いて構える。
「お前が女王の専属の騎士か。噂は聞いている。腕は確かのようだな」
ガメロは剣の柄を握ったまま、陽真に近づく。
「潰し甲斐があるといいな」
「戦いをやめろ!今すぐ城から撤退するんだ!」
「悪いがその頼みは聞けないな。俺はギャングのリーダー、そしてもうすぐこの国のリーダーになる者だ。降参して逃げ帰るわけにはいかないんだよ」
「テメェなんかにこの国を治められてたまるか!」
陽真はガメロにひたすら吐き捨てる。
「フンッ、その無駄口も二度と開けぬようにしてやる」
ブォンッ!!!
ガメロは勢いよく剣を引き抜いた。引き抜いただけで突風が発生し、陽真の前髪を揺らした。
「凛奈、下がってろ」
「うん」
陽真は小声で凛奈に後退するよう促した。
「行くぞぉ!!!」
「来い!!!」
ダッ
ガメロは陽真目掛けて駆け出した。陽真は剣を一ノ字にして振り下りてくる攻撃を防ぐ。キーンと鈍い金属音が晴れた空に響き渡る。それが勝負の始まりの鐘の音となった。
「蹴りをつけようか…この国の運命をな」
「くっ…」
城の入り口付近ではエリーとユタ、ケイト、ロイド、ヨハネスらが苦闘していた そこへ哀香達が合流する。
「うわぁ~、派手に大乱闘してるわね」
戦況を見渡す哀香。花音は剣を構えた。
「アンジェラ、もうあなたも戦えるわよね?」
哀香はアンジェラの小さな肩に手を乗せる。
「えぇ、もう逃げるのはやめるわ」
口で言っていることとは裏腹に、その肩はまだ震えていた。今すぐにも逃げ出したくてたまらないように見える。
「別に、アンタは逃げてなんかいないわ」
「え?」
アンジェラは哀香の顔を見る。今までより一番真剣な顔をしていた。哀香はリュックから包丁を取り出す。
「ただ、運命に抗っていただけよ!」
ダッ
哀香は勢いよく駆け出した。すぐさま剣と包丁がぶつかり合う金属音と、ギャングの断末魔が合わさって聞こえる。
「いっちょ暴れてきますか」
花音も剣を握りしめて戦場に飛び込んだ。
「私だって!」
アンジェラも花音達の後を追った。ついに女王自ら戦場に足を踏み入れた。
「オラオラ~!とっとと失せなさいこのロリコン共~!」
哀香は包丁を振り回しながらギャング達を蹴散らしていく。花音も見事な剣さばきで敵を倒していく。倒れたギャングの剣を拾い、アンジェラが構える。
「私の力を見せてやる!」
アンジェラは近くにいたギャングに斬りかかる。ギャングは剣で押し倒され、すぐに負ける。次から次へとギャングを斬り倒していくアンジェラに、哀香達は度肝抜かれた。彼女の剣術の腕前は本物だ。
「なんだ、アンジェラもなかなかやるじゃない!」
横目でアンジェラの活躍を見るエリー。そのまま剣を一振りして相手の剣を弾き飛ばす。勇ましい女戦士達が戦場を美しく駆け抜けていった。
「やっぱり、女の子って不思議だねぇ」
ユタはギャングを投げ飛ばしながら戦う乙女達を微笑ましく眺めていた。
ガキンッ ガキンッ
ガメロと陽真はまさに“神”レベルの斬り合いを繰り広げていた。剣と剣がぶつかり合う度に軽い暴風が発生し、凛奈の長髪を揺らした。陽真はガメロの攻撃を一つ一つ受け止める。
「どうした?さっきから守ってばかりだぞ、攻めてこないのか?さっきまでの余裕はどうした?」
ガキンッ ガキンッ
陽真は自分が攻撃を受けないようにするのはもちろん、凛奈も狙われないよう細心の注意を払っているため、防御で精一杯のようだった。息を切らす陽真。
「…」
戦う陽真の姿を見てやるせなくなる凛奈。そもそもなぜギャング達は今になって城に攻め、アンジェラの命を狙うのか。
「こんなことして何になるの!?」
「凛奈?」
後方に下がっていた凛奈がガメロに向かって叫ぶ。ガメロは凛奈を睨み付ける。
「あぁ?」
「戦争なんかして何が面白いの!?ただ人を苦しめて困らせてるだけじゃない!」
凛奈は思いを叫ぶ。城に入った時に見えた傷つけられた騎士達の苦しむ顔が頭に浮かぶ。
「戦争…?いや違うな」
ガンッ
ガメロは思い切り剣を地面に突き立てる。
「これはクーデターだ。俺達は俺達なりの正義を持って欲望を貫き通し、傲慢なる権力者を滅ぼして真の平和を立てる。一方的に苦しめてると思ってもらっちゃ大間違いだ!」
ガメロの言葉には誠意があった。彼の口からは、彼とその他ギャング達の正真正銘の本音が放たれていた。ギャングは長年王族の能力の存在を知らなかった。まさか今まで自分達が記憶を奪われて支配されていたとは思わなかっただろう。衝撃の事実を知らされ、心の底から怒りを表したのがこの戦いだ。
「反感を持つ国民の記憶を無理やり消して、思い通りに操る国。果たしてそれは平和な国と呼べるのか?」
「そ、それは…」
核心を突かれた。この国の弱点をダイレクトに狙われ、凛奈は何も言い返せなかった。陽真の口からも言葉は続かなかった。
「この国は呪われたんだよ、アデスにな。神なんていなけば…こんなことにはならなかったんだ!」
ガメロも思いを叫ぶ。ガメロの叫び声が陽真と凛奈の鼓膜を揺らす。
「…でも、かみさまがいなかったらあなた達だって今ここにいない」
凛奈は必死に言葉を絞り出した。なんとかガメロの気持ちを抑えられる言葉を。
「この世界はそのアデスってかみさまが作ったんでしょ?あなた達人間も…。かみさまは私達を助けてくれるけど、たまには悪影響も与える。良くも悪くも、私達の世界はかみさまに支えられてるのよ。かみさまが私達に与えた苦しみは恨んでもいいけど…私達に与えてくれた恵みは…絶対に否定しちゃだめだよ!」
ガメロは凛奈を静かに見つめる。
「…何が言いたい」
「今こうして生きていることに感謝するのよ!こうして生きていられるのはかみさまのおかげよ!かみさまが創ってくれたんだもの、この世界を…あなた達を…」
ガメロは剣の柄を握る。
「…わかった、感謝してやるよ。とりあえず神を恨むことはやめてやる」
「うん」
「ただし…」
ザッ
ガメロは地面に突き刺した剣を引き抜いた。そして叫んだ。
「お前のことは恨み続けてやる!俺達から何度も記憶を奪いやがって!絶対に許さねぇ!!!」
ガメロは恐ろしい形相で凛奈を睨み付ける。凛奈は恐怖を感じる。
「この小娘がぁぁぁぁぁ!!!」
剣を掲げて凛奈へと駆け出すガメロ。
ガッ!!!
陽真は彼の攻撃を受け止める。ぶつかり合った剣と剣からは、今までになく強い暴風が発生し、凛奈はその衝撃にバランスを崩して倒れる。
「お前達の全てを否定してやる!」
「ぐぬぬ…」
再び陽真とガメロの激しい斬り合いが始まった。
アルバートは腰に携えた剣に触れる。大きくなったら剣術を教えると幼いアンジェラと約束したが、彼女の戦う姿を眺め、心に何かが引っ掛かる。
「…」
大きくなるに連れて彼女の周りは物騒な世界になる。剣を持つようになると、彼女の周りはより一層危険になるだろう。剣を持つことは強さの証、強い者はいつ何時狙われるかわからない。
「アンジェラ…」
「ああっ!」
アンジェラはギャングの攻撃に押されて倒れる。アルバートはもうじっとしていられなくなる。彼女が自分で越えられない困難は、親である私が手を貸してやるべきだ。
“私は…クラナドスナイツの騎士団長だ!”
アンジェラの戦う姿に後押しされ、アルバートは剣を引き抜いて戦場へと駆け出した。
ガキンッ ガキンッ
陽真とガメロの激しい戦闘は長く続いた。各々が自分の信念を貫いて剣をぶつけ合っている。凛奈は固唾を飲み、遠くから戦いの行方を見守る。ガメロは横目で凛奈の位置を確認した。
「流石だな。やっぱり女王直属の護衛の騎士は実力が伊達じゃない」
ガメロはあれだけの斬り合いがあったにも関わらず、まだまだ体力が残っているように見えた。戦況は陽真が押されている。
「当たり前だ。お前なんかに負ける俺じゃねぇ」
陽真は汗を拭って剣を構え直す。凛奈はアンジェラの影武者だ。殺される訳にはいかず、何が何でも守り切らなければならない。しかし、今やガメロの攻撃を防ぐのに頭がいっぱいで、凛奈の姿を見る余裕がない。
「元々お前とは戦うつもりじゃなかったんだけどな、意外と楽しめたぜ」
「何?」
ガメロは不適な笑みを浮かべる。凛奈は嫌な予感を感じる。こんな命を賭けた危険な状況の中で呑気過ぎる。まるでゲーム感覚だ。
「お前らはここまでだ…」
「!?」
ダッ
ガメロは突如走り出した。剣を向けた先にいるのは凛奈だった。
「あぁ…」
凛奈は情けない声を上げる。ギャングが自分を女王と勘違いし、殺そうと迫っているというのに、体が硬直してしまっている。厄介な癖が出てしまった。底知れぬ恐怖を感じると、凛奈の足は動かなくなるのだ。
“女王さえ消えてしまえば俺達の勝ちだ!”
そう、元々女王の命を奪うことがギャングの目的だ。ガメロは凛奈を本気で斬り殺そうとしていた。陽真は息を切らしていたために反応が少し遅れた。すぐさま駆け出してガメロの後を追う。恐怖で動けなくなっている凛奈が遠目で見える。ガメロは大きく剣を振りかざす。
やはり自分は足手まといなのか。自分がここにいることで陽真が余裕をもって戦えない。自分だけでなく、凛奈の心配までしなければならない。自分はいつまでたっても守られてばかりだ。自分がいることで陽真に迷惑がかかっている。今まで何度も思ってきた。
「死ねぇぇぇぇぇ!!!」
ガメロの叫び声。凛奈は死を覚悟して目を閉じる。
ガキィィィィィン!!!
剣同士がぶつかり合う音が鼓膜を揺らす。凛奈はゆっくり目を開いた。
「あっ…」
陽真が横から腕を伸ばし、剣でガメロの攻撃をギリギリ防いでいた。先にガメロが走り出したはずなのに追い付いていた。
「陽真君…」
感謝より先に驚きがゴールテープを切った。目の前の光景が信じられなくなる凛奈。陽真はガメロの剣を押さえながら静かに呟く。
「凛奈、お前いつも守られてばかりって言ってたよな。どうせ今も思ってんだろ?いい加減そんなこともう考えるな」
全てお見通しだった。陽真は前髪で見えなかった顔を凛奈に向ける。
「守るのは、俺の役目だろ?」
とびっきりの笑顔だった。つられて凛奈も笑顔になる。そうだ、これが浅野陽真だ。彼はしっかりと約束を守っている。
「陽真君!」
「なに!?」
ガメロも驚愕した。先程まで息を切らしていた陽真が、体力が元に戻ったかのように早く動いた。
「どうしてあんなに早く…」
「陸上部のエースナメんな!」
陽真はゆっくりと剣でガメロを後ろへと押し進める。最後の力を振り絞って思い切り押す。ガメロは知らなかった。守りたいもののために出す力に限界などないことを。
「うぉらっ!」
「うっ!」
ガメロと陽真は再び斬り合いを繰り広げる。しかし、先程までの戦闘とは違う。陽真がガメロの攻撃を防ぎつつ、積極的に敵の隙を狙いにかかっている。
「くそっ!」
今度はガメロが押される一方だ。凛奈はポケットからマジックナイフを取り出す。そして思い切り叫ぶ。
「陽真君!頑張って~!」
ガキンッ ガキンッ
凛奈の応援で陽真の動きがより機敏になった。陸上を始めた時からそうだ。凛奈の応援があるだけで、どれだけ疲れていたとしても限界を越えて走ることができた。陽真はガメロの剣の動きを俊敏に読み取って防ぎ、攻める隙を見つけては剣を振り下ろした。
「!」
陽真は見切った。すかさず剣を一文字に振った。ガメロの腕に当たり、握られていた剣が飛ばされた。ガメロは体勢を崩す。絶好のチャンスだが、なぜか陽真は自分の剣を手放す。陽真の剣もカランと音を立てて地面に落ちる。
「陽真君!」
陽真の意図を瞬時に理解した凛奈は、陽真目掛けてマジックナイフを投げた。陽真は後ろを振り向かずに左手で受け取る。受け取りながら、右手で体勢を崩したガメロの胸を思い切り押す。
ガメロは背中を打ち付けて地面に倒れる。その上に馬乗りになり、素早くマジックナイフを右手に持ち変えて大きく振りかざす。
「うぉぉぉぉぉ~!!!」
大きく叫びながら陽真はマジックナイフをガメロの胸に思い切り叩きつける。
バギッ!!!
固い物が砕ける音がした。
「ぐはぁっ!」
陽真は残っている力をすべて解放してガメロの胸元の鎧を叩き割った。あばら骨にも少々ヒビが入っただろう。ガメロはとてつもない痛みに悶絶し、それ以上起き上がることができなくなった。思い出のナイフがガメロの心を貫いた。
「…」
陽真は勝利を確信して立ち上がる。
「これが…愛の力だ」
マジックナイフを突きつけてガメロに吐き捨てる陽真。
「くそっ…こんな…おもちゃなんかに…」
マジックナイフの刃を柄に押し込む様を見てガメロが呟く。
「おもちゃか…。確かにお前らからはそう見えるだろうな」
確かにマジックナイフはパーティー用のおもちゃでしかない。しかし、今の陽真と凛奈にとっては大切な思い出がつまっている絆の証だ。陽真は自分の剣ではなく、凛奈との思い出の品であるこのマジックナイフで決着をつけた。どれだけ大きな脅威を目の前にしたとしても、最後に勝つのは愛であることを証明するために。
「くっ、どうして…そこまで…」
ガメロは胸を押さえ、痛みに耐えながら陽真に問う。陽真は落ち着いた口調で答える。
「なんつーか、お前らにはもっと女王と仲良くしてもらいてぇんだよ」
「何?」
「確かに俺も記憶を奪うのはちょっとどうかと思うが、だからと言って殺すってのもやり過ぎだと思うぞ」
「…」
ガメロは目を見開いて陽真を見る。堂々と正論を言われてしまった。
「お互いずっと嫌い合うよりかはさ、仲良くしようぜ、誠意を持ってな。女王だけじゃない、これからは国に住む者全員で国を作り上げていこう」
凛奈も陽真の言葉に聞き入った。いじめに遭っていた幼い自分を助けてくれた時のフレーズが出てきたからだ。凛奈は本当に記憶を取り戻したのだと確信した。陽真はガメロにも笑顔を見せる。
「それも…悪くねぇだろ?」
「…あぁ」
ガメロも口元を緩ませて不器用な笑みを浮かべる。今までの笑顔とは確実に何かが違う。
「すまなかったな、色々…」
ガメロはそのまま眠るように目を閉じた。死んではいない。軽く気を失っただけだ。陽真はギャングのリーダーと和解できたことと、何とか凛奈を守り抜いた安心感のあまり脱力する。陽真の勝利は確実となった。
「陽真君!」
凛奈は笑顔で陽真に駆け寄る。
「やったね!」
「あぁ、凛奈が応援してくれたお陰だ。ありがとな」
「こっちこそありがとう。さっきの陽真君、すっごくカッコよかったよ!」
凛奈のとびっきりの笑顔。陽真はきゅんとなって頬を染める。陽真にとってはたまらなく可愛い。改めて凛奈のドレス姿を眺める。戦闘中はゆっくり眺める余裕などもちろんなかったが、今は好きなだけ拝むことができる。
「…///」
素晴らしい。まるで本物の女王のように美しい。美しさと可愛らしさを両方兼ね揃えているとは完璧過ぎる。
「サ、サンキュー…///」
凛奈は陽真の顔がリンゴのように赤く染まっているのに気づき、心配そうに顔を覗き込む。すると陽真は顔を背け、黙って凛奈の頭を撫でる。陽真が何のつもりかは凛奈はわからなかったが、久しぶりに撫でられる感触が心地よくて再び笑顔になった。
「えへへ…///」
ますます可愛くなる凛奈の笑顔に、陽真は顔を合わせられなくなった。
正門付近での戦闘も同時に決着がついていた。フェルニーは地面に倒れ、アンジェラに剣先を突きつけられる。突如現れた女戦士に圧倒され、ギャング達は次々と倒されていった。
「お前は一体…何者だ?」
「私はアンジェラ・クラナドス…フォーディルナイトを統べる女王よ!」
アンジェラは茶髪のカツラを取り、大空へと投げ飛ばした。倒れたギャング達は彼女に恐れおののく。彼女が狙っていた女王だと気づいたが、もはや戦う体力は残っていなかった。
「アンジェラ…」
アルバートは剣を収めながらアンジェラの勇ましい姿を眺める。カローナも隣で微笑ましく見つめる。自分達の娘がいつの間にかあんなに強く、たくましく育っていた。子どもというのはいつ、どこで成長するものかわからないものだ。
「くっそ…」
残りの手下のギャング達も哀香達の活躍によって一掃された。もう歯向かう者はいなくなった。
「いやぁ、終わった終わった」
「彼女達には感謝しないとな」
ロイドとヨハネスは互いの活躍を讃え合い、拳と拳を付き合わせた。
「ありがとう、ケイト…」
「ユタこそ、後で消毒しなくちゃね」
ケイトはユタの傷だらけの肩を支える。この二人も王族側の勝利に大きく貢献したと言えよう。
「イエーイ!」
哀香とエリーは高らかにハイタッチする。
「やったわね!優衣!」
「え?あ、うん」
「あ、ごめん。つい…」
もはやエリーが優衣であることに何の疑いも持たなくなっていた哀香。まだエリーは…優衣は自分が「優衣」と呼ばれることに慣れていなかった。それが本当の自分の名前であるとわかっていても。しかし…
「ううん、いいの。私、哀香の妹なのよね。やったわね、お姉さん♪」
失われたと思っていた姉妹愛は、また形を成そうとしていた。優衣は哀香に微笑む。記憶は無いが、優衣は自分が哀香の妹であることを認めていた。哀香の頭に幼い頃にじゃれあった思い出が甦る。
「『お姉さん』じゃなくて、『お姉ちゃん』でしょ!」
哀香は優衣の髪の毛をいじくる。二人は子どものようにじゃれ合う。哀香は再びかつての生活を取り戻すことができると確信した。そこにアンジェラと花音も加わり、全員で万歳した。優しい人達に囲まれるアンジェラを、アルバートとカローナはいつまでも微笑ましく眺めた。
フォーディルナイト滅亡の危機を抱えた大決戦は、約5時間という予想よりも早い決着を迎えた。陽真達は見事国の危機を救い、戦いは静かに幕を閉じたのだった。
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