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拾い物

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とある町の食堂…夜も更けもう客は来ないかなとカノンは片付けを始めた。

カノンはおばあちゃんと二人でこの食堂を切り盛りしていた。

母と父は幼い頃に亡くしおばあちゃんに育ててもらった。小さい頃から食堂を手伝い16歳になった今は立派に…とは言えないがどうにか一人で店に立てるようになっていた。

「さて…もう明かりを消して店を閉じようかな…」

外に出て目印の看板のランタンをしまおうとすると…

ガタンッ!

店の裏で何かが倒れる音がした…

「な、なに…」

カノンは恐る恐る裏に回ってそっと顔を覗かせると…

「大変!」

そこにはフードを被った人が店の壁に倒れ込んでいた!

カノンは急いで駆けつけると

「冷たい…」

その人に触ると手を引っ込める。

「このままじゃ…」

カノンが悩むのは一瞬だった、すぐにその人の手を取って肩を組むとどうにかこうにか店へと運ぶ…

ドサッ!

あまりの重さに扉の中に入れるだけで精一杯だった…倒れていてわからなかったがかなり身長差がありそうだ…

「お、重い…」

はぁはぁと肩で息をすると、呼吸を整えて店の奥に向かう。

そこから毛布を何枚か持ってくると

「床で…すみません」

上から毛布をかけた。

「誰かしら…見ない顔ね…」

フードをめくって顔を見るがこの辺の町の人では無さそうだ。

「冒険者とかかしら…」

カノンの食堂には冒険者や旅人が寄ることもある、ほとんどが何度か見た事のある常連の人達だがこの人は見た事がなかった。

「んー歳も少し上ね…」

眉間に刻まれたシワが年齢を感じさせる。

「一人このままに出来ないし…今日はここで寝るか」

カノンは自分の布団と毛布も用意すると倒れた人から少し離れて眠った…



「もし…もし…お嬢さん…」

カノンは低い声に起こされた…

「んー…おばあちゃん何その声…」

カノンが目を開くと

「すみません…昨晩お世話になったようで…本当にありがとうございます」

「えっ?あっ!はい!」

そこには見慣れた祖母では無くてグレーの髪をきっちりと整えたおじさん…いやおじ様と呼ぶにふさわしい男の人がいた。

カノンは慌てて起きて正座をすると、その人もカノンに合わせて正座をする。

「改めてお礼を…ありがとうございます。あのままでは最悪の場合もありました。よろしければお名前を…」

おじ様が微笑むと

「カ、カノンと言います…この食堂の店主です」

「カノンさん、あなたは命の恩人です」

男性がそっとカノンの手を取って感謝するように握ると…

「えっと…すみません。私も名前を聞いてもよろしいですか?それと…なぜあんな所に?」

「はい。………あれ?私…名前なんでしょう…」

おじ様は眉を下げて困った様に笑った。
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