猫又の恩返し~猫屋敷の料理番~

三園 七詩

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親猫

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「にゃー」

すると二匹は角を曲がらずに充の方へと戻ってくる。

「あっ?何やってんだ!」

充は二匹に近づくと足元をスリスリとされる。

そしてまた角へと向かうと充の方を向いた。

まるで着いてこいと言ってるように見えた。

「なんだよ…」

充が進むと同じだけ仔猫も前に歩く。

充は仕方なく猫達について行くことにした。

猫達は道の端をゆっくりと進む、いや正確には仔猫の速度で頑張って歩いていた。

充はゆっくりと頑張って歩く二匹の後を追うと土手にたどり着いた。

仔猫は土手を降りると草の茂る中を進む。

一応道っぽいものはあるようで草をかき分け進むと小さな石が置いてある場所にたどり着いた。

充から見れば小さな石だが仔猫達からすると大きい…二匹はその石の前に座った。

「ここが家か?」

「「にゃ…」」

二匹が同時に力なく鳴く。

充は周りを見渡す。

ここは家と言うよりはお墓のように見えた…

「まさか…これがお前達の親か?」

仔猫はその石にスリスリと顔を擦り付ける。

その様子は親に甘えているように見えた。

「お前達も親がいないのか…」

充も小さい時に親が死んだ。

親戚の家をたらい回しにされて自分の居場所がなく、18歳になった時に家を出ていったのだ。

その時持たされた両親の遺産だと渡されたのは百万円でアパートを借りたり最低限の家具や家電を買ったらあっという間に底をついた。

どうにかバイトをして暮らしていたがとても家賃を払っていける状態ではなく住み込みのバイトを探していたところいい条件を見つけた。

その面接に向かうところでこの二匹と出会ったのだ。

「俺も親がいないんだ…お前らと一緒だな」

二匹は充のそばに来ると慰めるように足に擦り寄る。

「ニャアー!」

すると墓の向こう側から野太い猫の鳴き声が聞こえた。

見ると少し年寄りな茶色いトラ猫がこちらをじっと見つめていた。

今のはあの猫の何声か?

「ニャアー」

もう一度今度はちゃんとその猫が鳴いた。

「「ニャァ…」」

答えるように二匹が力なく鳴く。

「お前らの親か?なんだちゃんといるんじゃん」

充は安心するような少し寂しいような気持ちで二匹の背中をそっと撫でる。

「ほら、心配してるんじゃないのか?行けよ」

お尻を軽く叩いて二匹を前に押し出す。

「ニャ…」

二匹は何度も振り返りその猫の方に歩いていった。

「よかったな…」

充は三匹が一緒に歩き出すのを確認するとくるっと振り返り来た道を引き返した。

そのまま家に戻るとバタンと倒れ込む。

いつもの部屋なのになんか静かに感じる。

たった一日だけなのに…

いや、もう忘れよう。

もう二度と会うことも無い。

充は布団を頭から被って目を閉じた。

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