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7章

334.空回り

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「申し訳ございません!」

クラーク先生がベイカーとセバスに土下座をして頭を地面に叩きつける。

「医師として…いえその前に人として道に外れた行為をしたと思っております…しかしどうかエヴァさんの力をいま一度貸して下さい」

「クラーク先生…私は力を貸すのは構わなかったんだよ、それよりもあの子は大丈夫なのかい?それによっては私は許さないよ…」

エヴァさんがセバスを見ると

「エヴァさんが連れて行かれてからしばらくしてミヅキさんが行方不明なんです…シルバさんが言うにはこの国の方が関わっているはずだと…」

エヴァは驚きクラーク達を睨む!

「どういう事だ?私はミヅキに手を出さない代わりにここに来て手を貸していたんだ…お前らは約束を違えたのか…」

エヴァが怒りを顕にすると

「い、いえ我々は子供には手を出していません!それは確かです」

クラウスが言うとクラークが顔色を変える…その様子に

「クラーク?何か知ってるのか?」

クラウスがクラークの様子に声をかけると

「実は先程その子供が医務室に運ばれて来まして…何故ここにいるのかとクラウス隊長を探している所だったのです」

「お前!」

レミオロンがクラークにつかみかかる。

「いえ!私も何故あの子がこの国にいるのか知りませんでした…驚いてる時にここに呼ばれたのです」

「じゃあミヅキは今医務室にいるんだな!」

ベイカーがクラークに聞くと

「はい、熱が出たらしくラウロ…教会の医師が私の所に連れて来ました」

「教会…やっぱりあの売ってたパンはミヅキだったんだな…」

「今すぐ案内しろ!」

エヴァが怒鳴ると

「医務室に連れて行って下さって!」

ベイカーとセバスに迫られ、一行は医務室へと急いで向かった。


クラークが扉を開けるとベイカーとセバスが医務室に飛び込む

「「ミヅキ!(さん)」」

名前を叫んで部屋に並ぶベッドを見るが誰も居ない…

「何処だ!」

布団を剥ぎ取るが誰も寝てなどいなかった。ベイカーはクラークを睨むと

「奥のベッドに寝かせて…いた…はずなのに…」

空になったベッドを唖然と見つめている。

「お前!熱を出した子を一人置いて出たのか!」

「い、いえ…兵士がちょうど休んでいたので…見てるように頼んでいたのですが…」

兵士が寝ていたベッドを見るがやはり誰もいる気配がなかった。

「その兵士はどこですか?」

セバスの顔にも笑いが消える…

「クラーク!どういう事なんだ!誰がいたんだ」

レミオロン王が聞くと

「ジャンとリゲルが魔獣に襲われて…怪我を負ったので治療を…しばらく休んでいるように言いました…すぐに動けるような状態ではなかったので」

「その兵士は何処に行ったんだ!そいつらがミヅキを連れてったのか!」

ベイカーが怒りと焦りから布団を投げつけると

「それともラウロが来たのか…」

クラークが他の可能性を考えていると

「そのラウロって奴は何処にいる…」

キレ気味のベイカーが目の前に来た。

「連れがいるからと迎えに行き…」

出ていったと言おうとするとちょうど扉が開き

「はぁ…どうしよう…」

ラウロが頭を抱えながら部屋に入ってきた。

「ラウロ!」

クラークが呼びかけると

「うわっ!な、なんですか…なんで医務室にこんな大人数で…」

ラウロが訳が分からず見ない顔を見渡すと…

「えっ…レミオロン王?」

自国の王の姿を見つける。

「ラウロ、ここに連れてきた子供は、お前がもう連れて帰ったのか?」

「ミヅキちゃんの事ですか?いえ僕は今戻って来た所ですけど…ミヅキちゃんに何かあったんですか?」

ラウロが心配そうに聞く。

「おい!お前ミヅキとはどういう関係だ?」

ベイカーがラウロに突っかかっていく。

「えっ…あなた誰ですか?」

ラウロが怪訝な顔をすると…

「彼らはウエスト国の客人だ、聞かれたことに答えるんだ」

レミオロンがラウロに答えるように促した…王の命令にラウロが素直に答える。

「は、はい…失礼致しました。ミヅキちゃん…あの子は路地裏で倒れている所を保護致しました。連れの従魔が知らせに来て…その後薬を投与して教会の修道院にて休ませていました」

「路地裏…その従魔とは?」

「そ、それが、城門を通る時に騒ぎをおこしまして…兵士に怪我を負わせてしまい今拘束されています」

「どんな従魔だ?」

「ケイパーフォックスかと…」

「コハクですね、その従魔の所まで案内して頂きたい。それとその兵士がミヅキさんを連れ去った可能性が高そうですね…」

「ジャンとリゲルをすぐに探し出せ!その子供の確保を最優先に二人をここに連れて来るんだ!」

レミオロンが指示を出すと…

「我々も動かせていただきます」

セバスが言うと

「構わないな?レミオロン」

ギルバートが聞くと

「はい…」

「よし!行け」

ギルバートが大人しくしていたアラン達に指示を出すと

「やっと動けるのか…よしミヅキを見つけるぞ」

ベイカー達は部屋を飛び出して行った…。

「あいつら…」

取り残されたクラウスとクラークは肩を落とす…

「悔やむのは後だ、今は子供を無事に彼らに返す事に尽力しろ」

レミオロンがクラウスに言うと

「はい!」

クラウスも兵士達の元に向かった。


「うーん…」

ミヅキが目を覚ますと、誰かに抱かれながら移動している…

(ベイカーさん…?)

にしては頼りない胸板にモゾモゾと動くと...

「起きたか?」

聞きなれない声が聞こえた...

「誰ェ…?」

ミヅキが顔を上げると、しわくちゃのおじさんがミヅキをだき抱えていた...

「お、おじさん誰...」

知らない人に抱えられミヅキの声が上ずると...おじさんの顔色が変わる…ミヅキは怖くなると…

「だ、誰かー!ベイカーさん!セバスさー...ムムッ」

大声を出すが口を塞がれてしまった。

「大きな声を出すな!」

キョロキョロと慌てて周りを確認すると誰も居ないことホッとしてミヅキを見る。

「君の仲間の所に連れて行ってやるから静かに…わかったか?」

ミヅキはコクコクと頷くが、手を離されることはなくどこかの部屋へと連れていかれる。

ノックをして部屋に入るが…

(誰も…いない?)

「どういう事だ!なんで誰もいない!」

男達もお目当ての人が居ないことに怒っているようだった。

「薬師は何処だ?」

ジャンとリゲルは部屋の中を探し回るが誰もいなかった…

「本当にこの部屋か?」

ジャンがリゲルに聞くと

「要人用の客室で薬を作っているって聞いたぞ…あっほら見ろ机には薬草があるじゃないか!」

机に散乱した道具と薬草の束を見ると、やりかけのままどこかに出かけたような形跡だった…。

「くそ…ここに来れば薬師と会わせて薬が完成すると思ったのに…」

ジャンが悔しそうにすると

「ムー!ムー!んぅー!」

ミヅキが暴れると

「うわっ!大人しくしてくれ」

リゲルはミヅキの体を力を入れて押さえつけた。

(痛っ!)

体が締まり痛みを覚えると

【........!】

ムーがミヅキの影から飛び出して来た!

ビュッ!

ムーはリゲルに向かって水を吐き出すと黒い煙を出した!

「こいつ…何処に隠れてたんだ!」

リゲルがミヅキを離してサッと飛び退くと

【ムー!】

ミヅキが黒い煙を吐くムーに抱きついた!

「や、やめろ!それは危険だぞ!」

リゲルが手を押さえてミヅキに叫んでいる…見ると黒い煙に触れた腕が爛れていた。

【ムー!それ闇魔法?そっか!私には効かないからだね】

ブルブル!

ムーは煙で視界を塞ぐと体を大きくしてミヅキを身体を抱えると部屋を飛び出して行った。

「あと少しだったのに…あの子を使えば薬が…」

リゲルが膝をつく…

「なんで…こうも、上手く行かないんだ…」

しばらくして煙が薄くなり視界が戻って来ると…

「お前がジャンとリゲルって奴か?」

騒ぎを聞きつけベイカーが駆けつけ、扉に手をかけ立っていた…。
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