ほっといて下さい 従魔とチートライフ楽しみたい!

三園 七詩

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7巻

7-2

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 ◆


「お、お兄さん! やっぱり何処か怪我したの!?」

 突然ポロッと泣き出したお兄さんにびっくりする。

「あっいや……なんでもない。怪我もしていないから大丈夫だ」
「本当に?」

 まだ少し掠れたような声で答えるので心配して顔を覗き込んだ。

「ああ、俺はムサシだ。改めてよろしく、ミヅキだったな」
「コジローとムサシ!」

 お兄さんは笑顔を見せてくれたが、それよりも日本的な名前に反応してしまう。

「なんていい名前! ムサシさんて、もしかしてコジローさんの兄弟なの?」
「コジローは弟だ、ミヅキはコジローの知り合いなのか?」
「コジローさんは私の冒険者講習の先生なの。それからずっとお世話になってて私の大切な人だよ」
「そうかコジローは凄いな。外でもしっかりとやっていたんだな」

 懐かしそうに笑っている。

「そ、れ、で! ムサシさん、味噌みそ醤油しょうゆなんだけどどこかな!」
「なんだってそんなに味噌みそ醤油しょうゆに興奮するんだよ。あれは、しょっ辛くてなかなか売れないんだぞ」
「何言ってんの……あんなに美味しいものを……」

 売れないと聞いて愕然とする。
 私が探し求めていた食材は、この世界では人気がないってこと!?

「それは食べ方を知らないからだよ。あれはそのまま食べるもんじゃないの」
「そうなのか? 本には作り方のことは書いてあったが、食べ方までは書いてなかったからなぁ」
「本ってなに? それに、味噌みそ醤油しょうゆはムサシさんが作ったの? 一人で? 里の人達はどうしたの?」

 コジローさんは里があると言っていたが、ここはムサシさん一人で暮らしているように見えた。

「俺は里を出ていてな。この洞窟どうくつに住みはじめた時、昔の里の人が書いた書物を見つけたんだ。それでこの味噌みそ醤油しょうゆを作った」
「その書物、私も見ていいですか?」

 味噌みそ醤油しょうゆの事が書いてある本なんて気になりすぎる。真剣な顔を向けてムサシさんを見つめた。

「まぁいいか、ちょっと待ってろ」

 そう言って小屋に入ると一冊の本を持ってきてくれる。

「読めない字が少しあるけど、作り方の所はちゃんと読めるはずだぞ」

 受け取ってパラッと最初のページをめくった。

『最初に……いつかこの本が味噌みそ醤油しょうゆを知る者の役に立つ事を願ってここに残す。鈴木雄一郎すずきゆういちろう

 これって、日本語だ!

「ムサシさん! この鈴木雄一郎さんって誰?」
「えっ、ミヅキはこの文字が読めるのか? スズキユウイチロウとは隠れ里を作った初代の名前だ。だが、それがここに書いてあるのか?」

 ムサシさんには日本語の部分は読めないようだった。

「うん。これは私が昔……いや、前にいた所の文字なの。多分雄一郎さんも同じ所の出生なんだと思う」

 雄一郎さんも転生したのかな? それとも転移?
 本の感じからかなり年月が経っているように見えた。

「雄一郎さんはもういないんだよね」
「そうだな、もう随分前の事になるから」

 やっぱり、今の時代には私以外の転生者はいないのかな?
 ペラペラとめくっていくが、後のページはこちらの文字で書いてあるようだ。

「これすごい! 味噌みそ醤油しょうゆの作り方がわかりやすく書いてある。でも、ここまで一人で作るのは大変だったよね」
「まぁ苦労したみたいだな。ほぼ一生をかけて作ったみたいだ。だが、出来たはいいがこの味だろ? 完成はしなかったのかもな」
「それは食べ方が間違ってるの! 私が美味しい食べ方を教えてあげる! どうしよう~、何を作ろう! ムサシさん、何食べたい?」
「えっ? ミヅキが作るのか?」
「作りたい、駄目ですか?」
「いや……まぁいいか」
「それで何が好き?」
「俺か? 俺は肉かな。でも、まともに料理なんてしないし、好きなものなんてわからないな」

 ムサシさんが複雑そうに答える。

「わかった。ここで作っていいですか? それともあの洞窟どうくつのお家に行きます?」
「ここは貯蔵庫がわりだから、家に行こう」

 私は味噌みそ醤油しょうゆを少し貰うと先程通った家へと戻ってきた。

「このお家も素敵ですね」

 お邪魔しますと言って家に入る。

「はっ、何処がだ? どこにでもあるような家だろ?」
「そうだね、でもそこがいいよ」

 私は懐かしい田舎いなかの風景を感じていた。

「よし、早速作るよ! ムサシさんは待っててくださいね」
「お前、本当に作れるのか?」

 台に乗って台所に立つ私を心配そうに見つめてくる。そんなのは慣れっこなので気にする事なく肉を取り出す。

「そうだなぁ、まずは定番のおかずの肉じゃが……いや、角煮かくにがいいかな? ムサシさんは玉ねぎは大丈夫?」
「問題ないが?」
「やっぱりこっちの人達は平気なんだね。コジローさんも大丈夫だったよ」

 笑いかけると、ムサシさんは不機嫌そうに顔を逸らした。

「あとは何にするかな……」

 肉の塊を拳大に切ると鍋にぶち込む。そこに水を入れて火をかけたあとは、クズ野菜を入れて茹でていく。
 しばらく経ったら肉を取って一度水を捨て、もう一度鍋に肉を戻した。

「あー酒があればなぁ。お米が安定したらそれも挑戦してみるかな」

 ブツブツと喋っているとムサシさんが後ろから声をかけてきた。

「酒ならこれはどうだ?」

 ムサシさんが透明の液体を持っている。

「これ?」
「これもスズキの本に書いてあったんだ」
「キャー!」

 私は興奮してムサシさんに抱きついた!

「凄い、嬉しい! ありがとうムサシさん!」

 ムサシさんは急に抱きつかれたことに驚いたのか、慌てて引き剥がそうとしてくる。

「わかったから! 落ち着け!」
「落ち着けないよ! なに、ここは宝の山なの!」

 ずっと探し求めていた食材が次々と登場して、興奮がおさまらない!
 ムサシさんが持ってきた酒を受け取ると頬ずりしてしまう。
 ムサシさんに白い目で見られたので気持ちを落ち着けて匂いを嗅いでみる。

「あっ、日本酒っぽくないね。これは焼酎しょうちゅうとかなのかな? でも、これで料理酒の代わりになるな」

 私はニヤリと笑うと次々と料理を作り上げていった。


 ◆


 その頃シルバは、ミヅキが一人はぐれていることも知らずにコジローと里に向かっていた。

【まだつかないのか?】

 森の中を走り少し経つと、ミヅキから離れているのでイライラとしてきた。

【すみません。他の者が入れないようになっていて複雑な道なんです】

 コジローが済まなそうに謝るのでしょうがなく後をついて行くが、先程から嫌な予感がしていた。
 ミヅキが大人しくしているだろうか。
 いや、シンクもコハクもいるし大丈夫だろう。
 プルシアはよくわかっていないようだったのが不安だが。
 とりあえず今は、里に着かないとどうにもならない。ミヅキがここに来たいと言ってるのだから、どうにか里に連れて行ってやりたい。
 その為にはコジローの後を大人しくついて行くしかないのか……
 歯がゆい思いをしながら、俺は大人しく後を追うことしか出来ないでいた。




   二 コジローの里


【シルバさん、着きましたよ!】

 コジローは、そう声をかけるとなんの特徴もない木の間をすり抜けていった。
 俺もコジローに続いて木の間を通ると、急に視界が開けた。
 そこはコジローと同じような格好をした人間達が住んでいる小さな里だった。
 突然現れたコジローと俺の姿に里の者達は警戒したようだが、一人の少女が声をかけてきた。

「コジロー兄ちゃん!」
「えっ? コジロー?」
「あっ! 本当にコジローじゃねぇか!」

 里の人達が警戒を解いて笑顔で近づいてくる。

「みんな、元気だったか?」

 コジローも懐かしそうに里のみんなの顔を見回している。

「コジロー、こちらの方は?」

 一人年老いた老人が杖をつきながらコジローの方へと向かってくる。

「長老! お元気でしたか?」

 コジローが長老の側に寄ろうとすると、杖で制止された。

「コジロー、先に後ろの方を紹介してくれ」

 長老の目は俺をじっと見つめていた。

「こ、こちらはフェンリルのシルバ様です」
「「「フ、フェンリル!」」」

 里の者達が驚いていると、長老が俺の前にひざまずく。

「フェンリル様、初めてお目にかかります。この里の長老をしております、ハンゾーと申します。この体があるうちに貴方様に会えた事、大変嬉しく思います」

 ハンゾーと名乗った長老が地面に膝をつき、俺に向かい頭を下げると、他の里の者も同じように地面にひざまずいて頭を下げた。

【やめろ。もうお前達は私の眷族けんぞくではないのだから】
「しかし! 我らは今までもフェンリル様を主人だと思っております。そうやって代々受け継いできたのです!」
【さすがコジローの里の者だな、真面目過ぎてつまらん】

 長老の熱意に嫌気がさしてきた。

【シルバさん】

 コジローが苦笑して俺の名を呼ぶと長老が怒り出した。

「コジロー! フェンリル様に対して名前で呼ぶとはなんたる無礼な! しかもさん付けでなく様と呼べ!」
【私が許した、問題あるか?】

 俺はジロっと長老を睨む。すると長老はサッと頭を下げて静かになった。

【それよりも早くミヅキをここに連れてきたい】
【そうですね!】

 コジローは長老にミヅキ達の事を説明した。

「こちらのシルバさんのご主人様がこの里に入りたいそうなんです。長老、許可していただけますか?」
「コジロー、何を言っておる。フェンリル様の従者じゅうしゃだろうが、フェンリル様のご主人などと言ったら失礼だぞ」

 長老はコジローが間違えたのだと勘違いしたようだ。

「いえ、間違っていません。こちらのシルバさんは、ある方の従魔になっているのです」
「フェンリル様を従魔に?」

 長老が目を見開き驚いている。
 すると「ドガーン!」と遠くで大きな音が響いた。

「何かが森に入ってきたようだ。皆、フェンリル様をお守りしろ!」

 里の者が武器を持つと一斉に森の中へと入っていった。

【シルバさん!】

 コジローも突然の襲撃に慌てているが俺はなんとなく音の原因がわかっていた。

【ミヅキは大人しくしてると思うか?】

 そういうとコジローはハッとして眉間みけんに皺を寄せて考え込む。

【と、とりあえずミヅキの元に向かいましょう!】

 コジローが駆け出そうとするとそれを長老が止めようする。

「コジロー! フェンリル様を何処へ連れていく!」
「森の外にフェンリル様の主人がいるのです! フェンリル様はその者の様子が気になるそうなので、迎えに行ってきます!」
「ほ、本当にフェンリル様を従魔にしたのか? その者は?」
「ええ、フェンリル様が大変大切に思われている方です。何かあれば大変な事になりますよ」

 そう言うと長老は察したようで慌てて指示を出した。

「わかった。里の者にも伝えよ! その方の特徴は!」
「黒髪黒目の幼い女の子です!」
「はっ女の子? そのような者がフェンリル様を従えさせたのか?」
「長老も会えばわかりますよ!」

 コジローは急いで先に行く俺の後を追い、森の外へとミヅキ達を迎えに行った。


 ◆


【なんだこの森は、入る事が出来ないぞ】

 プルシアはコハク達を追いかけようと森に入ろうとしたが、何度入っても森の外に出てしまっていた。
 苛立つプルシアが森に軽く咆哮ほうこうを放つ。
 しかし、「ドガーン!」と全然違う所から咆哮ほうこうが返ってきてしまい、森が削れた。
 しばらく足掻いていると森から人が数名姿を現した。

【ん? 先程乗せた奴に似ているな】

 それならミヅキの仲間かと思い近づこうとする。

「止まれ! これより先には行かせない!」

 森から出てきた人間はプルシアに武器を向けた。

【なんだ? 迎えではないのか。シルバは一体何をしてるんだ】

 危害を加える訳にもいかず、どうしたらいいものかとじっとしている。

「あれ? あのドラゴン向かってこないよ」
「ドラゴンなんて初めて見たが、意外と大人しいのか?」
「どうしますか? 何度も森に入ろうとしていたようですが」

 里の者達が様子をうかがっていると、ようやくコジローが姿を現した。

「よかった、プルシアさんに何事もなくて」

 コジローがプルシアを見て周りを確認するが、プルシア以外の仲間の姿が見えない。

「プルシアさん、ミヅキ達は?」
【ミヅキは森の中に入ってしまった。コハク達は追いかけて行ったが、私は何故か森に入れなくてな】
【やっぱり、大人しく待ってなかったか】

 シルバも周りの様子を確認して呆れ気味にため息をつく。

【なっ、なんでミヅキは森に!?】

 コジローはミヅキが森に入ったと聞き狼狽うろたえていた。

【霧に手を伸ばしたら吸い込まれるように入って行ったぞ。もしかして、霧に触らないと入れないのか?】

 シルバは、プルシアの言葉をコジローに伝えた。

【そうです。プルシアさんは大きすぎて霧に手が届かなかったようですね。それよりも、ミヅキは一体どこに?】
【ここまでシンク達やミヅキにも会わなかったぞ。しかもこの霧のせいで、全然気配が感じられやしない】
【上から燃やすか?】

 プルシアがサラッととんでもない事を言い出した。

【燃やすなら俺が切り裂く】

 シルバの言葉にコジローと里の者達がビクッと肩を揺らす。

【シルバさんプルシアさん、燃やしたり切り裂いたりするのはなしでお願いします。ほら! ミヅキに当たってしまったら、大変じゃないですか!】
【まぁそうか、しかしどうやって捜せばいい】
【ここはこの森に慣れている里の者に任せて下さい。きっとミヅキを見つけ出してみせます】

 コジローはプルシアに小さくなってもらうと、シルバと共に里で待っていて欲しいとお願いした。

【まぁ、確かに慣れている者の方がいいかもしれんが】

 プルシアは納得して身体を小さくする。

【コジロー、ミヅキに何かあったら、プルシアとこの森を沈めるからな!】

 シルバはコジローと里の者に喝を入れた。

【は、はい。みんな、黒髪黒目の幼い女の子を捜してくれ! フェンリル様の大切なお方だ。他の者達にも伝えて、必ず捜し出すんだ!】

 里の者はシルバの怒気から逃げるように急いで森に入っていった。


 ◆


 その頃、私はみんなが大騒ぎしているのにも気が付かないで料理に集中していた。

「出来たー! ムサシさん見て、これが醤油しょうゆ味噌みそを使った料理だよ」

 私は作った料理を広げてみせると解説した。

「まずは肉好きのムサシさんの為にオーク肉の角煮かくに。オーク肉を醤油しょうゆと酒と砂糖で煮てみました、醤油しょうゆは調味料として使うんだよ」

 先程から香ばしい匂いがたちこめて、鼻がヒクヒクしていたムサシさんは、チラッと角煮かくにを見る。

「食べてもいいのか?」
「もちろんだよ。ムサシさんの為に作ったんだから」
「他人の料理を食べるのはいつぶりだろうか」

 ムサシさんは呟くと、角煮かくにに手を伸ばして一口で口に入れる。
 でかい肉が口の中でホロホロとほぐれていくと、醤油しょうゆの甘辛い味が肉汁と共に口いっぱいに広がった。

「ムサシさん美味しそうに食べるね。私もいただきまーす!」

 私は小さく肉を切ると口に入れる。さすがにムサシさんほど大きな口は開けられなかった。

「あー醤油しょうゆだ、夢にまでみた醤油しょうゆ。絶対に大豆を持ち帰らないと……」

 チラッと美味しそうに食べるムサシさんを見つめた。

「次は味噌みその料理ね。本当は味噌みそ汁が作りたいんだけど出汁だしがないからね。それはまたいつかね、今回はナスとピーマンの味噌みそ炒め。これもご飯が進むんだよ」


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