【完結】家族になろうよ

三園 七詩

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「仕方ない、家族の願いだ、言う事を聞こう」

私は頷くと男を軽く蹴飛ばした。

「グッハッ!」

男は痛みに目を覚ますとガタガタと震えて恐怖で染まった顔で私を見つめる。

そうだ、この顔だ。

よく向けられた人間共の顔に懐かしさを覚えた。

「いいか、この子は私の家族になった…次に手を出したら…殺す…」

男のそばにいき耳元で囁くとコクコクと何度も頷く、見れば股間が濡れていた。

「では献上された食べ物はありがたく頂こう、ニアをここに連れてきてくれた事だけは感謝しよう」

男をその場に残し私は男の持ってきた食料をしまうとニアを連れて久しぶりの地上へと向かった。

階段を上がるとそこは何かの建物の中のようだった…ニアに案内されて外に出て自分が閉じ込められていた場所を振り返ると神を崇める神殿のような建物だった。

「魔族の私をこんなところに閉じ込めやがって…」

建物を見上げてこんな物を作った人間に殺意を覚える。

この契約が終わったら殺戮を繰り返してもいいかもしれない…でもその為にはまずはニアとの契約を終わらせなければ…

「じゃあまずはニア、家族らしく飯を食べるぞ、あの男が持ってきた食料がある。まずは一緒に食べればいいのだな?」

「は、はい…」

「その返事だが『はい』では変だろう。家族だからな特別に敬語は解いて良い」

「は…う、うん…」

ニアは言いにくそうに返事を返した。

「魔族様…さんはなんと呼べば…」

「私はアルセウスと言う」

「ア、アルセウウス…アルシェウ…ス」

「ふー…仕方ないアルで構わん。もしくは父か…」

「アル…さん」

ニアが戸惑いながら名前を呼んだ…

名前を呼ばれるのは久しぶりだ。

「さんも要らん。家族なんだろ?」

ニアは少しだけ嬉しそうに頷いた。

「まぁなんでもよい、ではニア食事だ。だがここで食べるのは気に食わんな…移動するぞ」

私はニアを抱き上げると翼を広げた。

「え?あ!」

ニアは驚きながら何処に捕まればいいのか迷っているようだった…

「好きに掴め、でないと空中で落ちるぞ。契約中にニアに死なれると困るからな」

しっかりと抱き上げるとおずおずと服をギュッと掴んだ。

「行くぞ」

私の声にニアは頷きギュッと目を閉じた。

「ふふ…」

思わずこんな事で怯えた様子を見せる事に笑ってしまった。

私は空に飛び立つと、下界の様子を見ながら人が居ない方を目指して飛んだ。

「あれが近くの町か…だいぶ人が増えたな…」

人間とはすぐにうじゃうじゃと増える、一人で何匹も産むくせにこうやって平気で子を捨てる。

動物や魔物でさえ親は子を守るものなのに…

そう思いニアを見つめた。

そうか、私はニアの親になったのだ。私はこの子を守らねばならんのか…この子が満足するまで…

なんと面倒な!

これは早いところ飯を食わせて一緒に寝て…あとなんだ?話せばいいのだな!

「おい、ニア目を開けろ。私はお前を落としたりしない…お前がいた町が見えるぞ」

私が話しかけるとニアがビクッと動いた。

そして恐る恐る目を開くと…

「わぁ…」

下を見下ろして目をまん丸に開いた。

「アルさん…すごい…本当に飛んでる」

「そりゃ魔族だからな、おっとあそこが人もいなそうで良さそうだ」

私は山の上に建つ一軒の小屋を見つけて降り立った。

様子を伺うが周りに人の気配はない…どうやら捨てられた小屋のようだ。

「よし、ここを私達の家としよう」

「私達の…家?」

「ああ、家族なら家が必要だろ」

「う、うん!」

ニアは家を見上げてまた少しだけ口角をあげた。
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