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三章 なごみ編
三章2 ある事件
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妖花は自室で椅子に座り鞄からノートを取り出した。
今日貸してもらった新道の書いてきた妖怪の調べを見ようと思ったからだ。
妖花に趣味はない。勉強しかすることがない。家に帰宅してもやることがなさすぎていつも時間を持て余している。携帯ゲームも3日続くか続かないか程度で入れるだけ入れてあとは放置、と言ったことが多数ある。
だからこそ妖花は度々何か没頭できるものを探している。今回は妖怪のこと。
あの一件以降何かと妖怪のことが気にかかる。新道は真面目ということを知っていたので詳しいことを知りたくなったのだ。
妖花はノートを開くとその文字数に驚く。
「すごい…」
ノートにはびっしりと妖怪のことが事細かく書かれていた。解説から絵まで書かれている。わかりやすい…
これだけのことをやり遂げる彼女を素晴らしいと感じる。
「ん?これ、前の天狗のことみたい」
それは影女と出会ったあの日の前日。ゴールデンウィークの前日。部活で皆を怖がらせた天狗の話。
確かあの時は少女が天狗に殺されてしまうという話を亜美先輩はしていた。
でもここにはそれとは別のことが書かれている。
日にち?それに場所が明記されている。それに名前が書いてある。吾妻柊子。誰だろう、おそらく天狗に殺されてしまった少女の名前だろうか。なぜこんなことが書かれている?
確かあの話は作り話と言っていた気がするけど。
するとインターホンが鳴り響く音が聞こえてくる。その音に驚いてノートを閉じた。
「妖花ー。同じ学校の人が来ているみたいなんだけど」
下から声が聞こえてその声に反応する。
「分かったー」
誰だろう。なんとなく察しはついている。多分あの人だ。
階段を降りて玄関の扉を開くとそこにはやはり新道亜美が立っていた。新道は扉が開いて私の顔を見るや否や笑顔を返してくれる。
「こんばんわ先輩。どうかしましたか?」
「ごめんね、ノート返してもらいたくて。ちょっと書いてたことに間違いとかあってそれを訂正するためにね」
ノートの訂正か。なら別にいいか、でもあのことは聞いた方がいいのだろうか。
あの、天狗の話のこと。
聞いてみよう、もし仮に亜美先輩が天狗と関係しているのであれば危険な状況なのかもしれない。要らぬ心配かもしれないが仕方がない。
「あ、亜美先輩。あの、天狗を調べてあるのを見たんですけど」
そう言うと新道は黙った。
「あの、そのページで名前とか日付とか書いてて何かなって思って。あの話作り話って言ってたきがしたので」
新道は一瞬曇った表情を見せたがすぐに笑顔に戻り答える。
「妖花ちゃん。あのノートに書いてあるの実は私の自作の小説の話のネタなの。だからね、あの天狗の話っていうのは私が作った話なのよ」
自信満々な顔でそう言う新道を見て妖花は納得した。
だから早く返してもらいたかったのか。そりゃ自作の小説、それも完成していないような小説を他人に見せればそうもなる。
「そうでしたか。それはすみません」
そう言いながら妖花は自室に向かい、ノートを取るとすぐに玄関前にいた新道に手渡した。
「ありがとう、妖花ちゃん」
「いえ、また学校で」
「うん、またね」
新道を見送り、妖花は自室へと戻った。
なぜかもやもやする。小説のネタとは言っていたが本当なのだろうか。本当か嘘かは分からないがなんとなく引っかかる。
「少し、調べてみよう」
妖花は携帯を手に取るとそこからインターネットで検索をかける。
天狗 事件
検索結果…特に何もなし。だいたいは都市伝説やら昔の本のこと、天狗ではないかと思われた事件などが上がっただけでそれらしい記事は見つからなかった。
「うーん。確かあの人の名前…」
妖花は唾をゴクリと飲み込みながら文字を入れていく。
吾妻柊子 天狗 事件
検索結果…
すると何件か事件の詳細が出てきた。
「これだ!」
そこには天狗などのことは書いておらず吾妻柊子という女性が行方不明になっていると言うことだけが書かれていた。
「本当にそんなことがあったんだ」
それは随分と前の話で私が生まれる何十年も前。
被害者は吾妻柊子16歳。家から買い物をするために出かけたところ行方不明になったらしい。彼女を見たと言う証言はあったが手がかりは全くなかった。しかし、向かっていたスーパーから200メートル離れていたところに血痕と買い物をしたであろう鞄とレジ袋が見つかったらしい。血痕はものすごい量だったらしい。あたり一面が血の海になるほどに。後々、その血が吾妻柊子さんの血と判明、鞄の方に保険証が入っていたことからなんらかの事件に巻き込まれたと言うことがわかった。それから警察が探したもののそれ以外に手がかりはなく事件は打ち切り。いまだに不可解な事件として記録に残っているらしい。
「いや、これが本当ならおかしい」
妖花は思う。自作の小説を書くと言っていた新道だがたまたま同じ人物が行方不明になるなんてあるのだろうか。それに場所がその事件現場と一致している。それこそおかしい。
でも、それだけではなんともいない。たまたまその事件を知っていた亜美先輩がその事件をモデルとして小説を書いていたならどうとでもいえる。
「どうなんだろう」
妖花はそれが気になって仕方がない。彼女は一体何を思ってこの事件を取り入れようと思ったのか。何かが引っかかる。なんだ…この感じ。
「あまり気にしても仕方がないけど…明日は学校休みだから聞けそうにないし」
そうとなれば直接家に行って聞く?いや、それはできない。まず家を知らないからだ。
「なんだろう。私が話を切り出した時先輩一瞬バレたって顔をしたような気もしなくもないけど…」
おそらく私が疑いすぎているだけだろう。本当は関係がなく、たまたまそうだっただけかもしれない。
創作に何を言っても仕方がないのは分かっているが彼女のことが気にかかる。
「聞くっていうのもあれだから少し尾行でもしてみようかな」
そんなことを軽く考えつつ、妖怪が関わっているのではないかと考える。天狗…。本当にいるなら見てみたいと言う気持ちもあるが危険だ。
「とりあえず今日は寝よう」
妖花は布団に入り、目を閉じる。
「おやすみ…」
妖花は眠りについた。
そして数時間が経ち、時計の目覚ましが鳴る音が聞こえてくる。
「ん…?」
起きてみると時刻は5時半だった。
「とりあえず走り込みでも行こうかな」
前の出来事から少しでも運動能力を高めようと思っていた妖花は毎日ランニングや筋トレなどを行なっていた。
今日は天気予報が外れ雨ではなく晴れだった。
そのため妖花は運動をしようと思っていた。
服を脱ぎ動きやすい服装に着替える。その後ウエストポーチを身につけて鏡の前で格好を見て、寝癖を整える。
「行ってきます」
用意が終わり、動きやすい服装に着替えた妖花は静かに二階から一階へと移動し、両親が起きないように玄関の扉を閉めてランニングを開始した。
坂を降りながらすれ違う車に注意しつつ走る。
朝早くということもありほとんど人はいない。毎日見かける同じようにランニングをしているお兄さんやウォーキングをするお爺さんと挨拶を交わしながら走る。
「坂って意外ときついのよね」
坂を下った先を曲り、そのまま信号を待つ。
青に変わったのを見てまた走り出す。
今日はいつもとは違う方向に走っている。
いつもなら車の通らないような道を行き来し、ランニングできるような道を通るのだが今日は違う。
向かっている場所はあそこ。吾妻柊子さんが行方不明となった現場。自分が住んでいる地域から近い場所ということが分かり驚いた。
亜美先輩のこともありとりあえず行ってみようと思ったわけだ。
「今は楽しく走ろうかな」
なんだかんだで慣れてきたランニングが今では楽しく思う。走っていると涼しい風が吹き抜け、心地よく感じからだ。あまり運動というものを本気で楽しいと思ったことはなかったがランニングを始めてからは色々なスポーツが楽しく感じる。勉強ばかりしている生徒と思われがちな私のギャップに驚いている人もいて少し笑ってしまうこともあった。
数十分ほど経過したものの未だに体力は有り余っている。
「だいぶ体力とかついてきた気はするんだけど」
始めた頃はすぐに疲れていた妖花だったが毎日欠かさず日課として続けてきた成果なのか今ではだいぶ体力がついてきた実感はある。
それに早寝早起きを心がけ、規則正しい生活をしていたので最近は肌艶もよく健康体だ。
「確かこの辺だった気がするけど」
走り始めて数十分。
目的地周辺に来ていた。
息を整えつつ、辺りを見渡す。
「えっと…どこだったかな」
携帯を取り出して地図で場所の確認をしてみる。
「あそこを曲がったらいいのね」
妖花は携帯をウエストポーチにしまい目的地に向かった。息を吐きながらその道の角を右に曲がり、目的地に到着した。
「何もないか、それはそうか」
なんせ何十年も前の事件だ。
まだ何かあると考えるのは変だった。
妖花はウエストポーチから飲み物を取り出して一口含む。とりあえず少し休憩しようと思い、その事件現場だった道を歩く。
「特に何もないか」
そう思っているとあるものに目を奪われた。
「これ、花よね」
そこには電柱に花が置かれてあった。綺麗な花。おそらく吾妻柊子さんのために置かれた花だろう。妖花は電柱の前に立った。
そしてその花の前で手を合わせた。
とりあえずその花を見たことでここで本当に事件があったということを実感した。
だからこそ思ってしまう。
「亜美先輩にはやめてもらおうかな。本当に亡くなっている方を小説のネタにっていうのはちょっと違う気がするから」
妖花は思う。本当にあった事件だからこそ他の方にも伝え、二度とこんなことが起こらないようにというのは確かに良いことだと思う。しかし、小説に使うのは吾妻さんの両親がそれを見てどう思うのかを考えてほしいと思ってしまう。
「亜美先輩のことだから吾妻さんのご両親に許可はとっているとは思うけど」
妖花は電柱に向かって、花に向かって一礼した後その場を後にしようとした。
しようとしたがある人と目があった。
「亜美先輩…?」
そこには新道亜美が立っていた。綺麗な白色のワンピースをきた彼女はこちらに駆け寄る。
「妖花ちゃん。奇遇だね、こんなところで」
「はい、奇遇ですね。亜美先輩」
新道は特に変わった様子はない。
「それでどうしてこんなところに?」
そう聞かれて妖花は咄嗟に応える。
「私、少し前からランニング始めたんですよ、それでたまたまここを通って」
「そうなんだ。すごいね、ランニングなんて」
そう言いながら妖花に笑顔で話す。そんな新道に妖花も笑顔で対応する。
「そんなことないですよ。少し色々あって運動しようかなって思ってて」
「そう、それはいいことだね。続けていくといいと思う!」
「はい、頑張ります。それではまた学校で」
そう言って足早にそこから立ち去ろうとすると意外にもあちらから話を出された。
「ねぇ、妖花ちゃん。ここになぜ花が置かれてるか知ってる?」
そう聞かれて妖花はどきっとする。
「いえ、詳しくは知らないですけどおそらくどなたかが亡くなったのかなと」
「うん、妖花ちゃんの言った通り。ここで人が亡くなってるの。私たちより年上の16歳の女の子がね」
新道は話を続ける。
「それでね。昨日ノート返してもらったでしょ?そこに書いてあったのがこの子のことなんだ」
それを聞いて妖花は隠すのはやめて新道に自分の思いを伝える。
「すみません、亜美先輩」
「え?どうかしたの?」
急に謝られてどうしたのか分からず新道はあたふたしている。
「私、昨日それを見て調べたんです、吾妻柊子さんの事件」
そう言うと新道は分かったような口ぶりで答えた。
「そっか。やっぱりそうだよね。昨日の今日でここで会うなんて不自然だもんね」
「あの、別に私がどうこう言えるわけではないんですけど…」
「どうしたの?」
妖花は言っていいものか言わないほうがいいのか迷う。しかし自分の意見を伝えるのは良いことだと妖花は思う。だからこそ意を決して伝える。
「亡くなった方を小説のネタにって言うのはどうかと思うんです!その方の両親が許したとしてもなんというか違う気がするんです!」
妖花は大きな声で新道に告げた。するとその声に驚いて新道はあたふたしている。
「あ、あ、えっとね。妖花ちゃん」
新道は何かを隠しているのか口がごにょごにょしている。
「えっとね…その、えっとね」
「なんでしょう」
妖花が聞くと新道は声を震えながら答える。
「実はその、全部嘘なの!」
全部嘘なの…
全部嘘なの…
それを聞いて妖花は耳を疑うしかなかった。
今日貸してもらった新道の書いてきた妖怪の調べを見ようと思ったからだ。
妖花に趣味はない。勉強しかすることがない。家に帰宅してもやることがなさすぎていつも時間を持て余している。携帯ゲームも3日続くか続かないか程度で入れるだけ入れてあとは放置、と言ったことが多数ある。
だからこそ妖花は度々何か没頭できるものを探している。今回は妖怪のこと。
あの一件以降何かと妖怪のことが気にかかる。新道は真面目ということを知っていたので詳しいことを知りたくなったのだ。
妖花はノートを開くとその文字数に驚く。
「すごい…」
ノートにはびっしりと妖怪のことが事細かく書かれていた。解説から絵まで書かれている。わかりやすい…
これだけのことをやり遂げる彼女を素晴らしいと感じる。
「ん?これ、前の天狗のことみたい」
それは影女と出会ったあの日の前日。ゴールデンウィークの前日。部活で皆を怖がらせた天狗の話。
確かあの時は少女が天狗に殺されてしまうという話を亜美先輩はしていた。
でもここにはそれとは別のことが書かれている。
日にち?それに場所が明記されている。それに名前が書いてある。吾妻柊子。誰だろう、おそらく天狗に殺されてしまった少女の名前だろうか。なぜこんなことが書かれている?
確かあの話は作り話と言っていた気がするけど。
するとインターホンが鳴り響く音が聞こえてくる。その音に驚いてノートを閉じた。
「妖花ー。同じ学校の人が来ているみたいなんだけど」
下から声が聞こえてその声に反応する。
「分かったー」
誰だろう。なんとなく察しはついている。多分あの人だ。
階段を降りて玄関の扉を開くとそこにはやはり新道亜美が立っていた。新道は扉が開いて私の顔を見るや否や笑顔を返してくれる。
「こんばんわ先輩。どうかしましたか?」
「ごめんね、ノート返してもらいたくて。ちょっと書いてたことに間違いとかあってそれを訂正するためにね」
ノートの訂正か。なら別にいいか、でもあのことは聞いた方がいいのだろうか。
あの、天狗の話のこと。
聞いてみよう、もし仮に亜美先輩が天狗と関係しているのであれば危険な状況なのかもしれない。要らぬ心配かもしれないが仕方がない。
「あ、亜美先輩。あの、天狗を調べてあるのを見たんですけど」
そう言うと新道は黙った。
「あの、そのページで名前とか日付とか書いてて何かなって思って。あの話作り話って言ってたきがしたので」
新道は一瞬曇った表情を見せたがすぐに笑顔に戻り答える。
「妖花ちゃん。あのノートに書いてあるの実は私の自作の小説の話のネタなの。だからね、あの天狗の話っていうのは私が作った話なのよ」
自信満々な顔でそう言う新道を見て妖花は納得した。
だから早く返してもらいたかったのか。そりゃ自作の小説、それも完成していないような小説を他人に見せればそうもなる。
「そうでしたか。それはすみません」
そう言いながら妖花は自室に向かい、ノートを取るとすぐに玄関前にいた新道に手渡した。
「ありがとう、妖花ちゃん」
「いえ、また学校で」
「うん、またね」
新道を見送り、妖花は自室へと戻った。
なぜかもやもやする。小説のネタとは言っていたが本当なのだろうか。本当か嘘かは分からないがなんとなく引っかかる。
「少し、調べてみよう」
妖花は携帯を手に取るとそこからインターネットで検索をかける。
天狗 事件
検索結果…特に何もなし。だいたいは都市伝説やら昔の本のこと、天狗ではないかと思われた事件などが上がっただけでそれらしい記事は見つからなかった。
「うーん。確かあの人の名前…」
妖花は唾をゴクリと飲み込みながら文字を入れていく。
吾妻柊子 天狗 事件
検索結果…
すると何件か事件の詳細が出てきた。
「これだ!」
そこには天狗などのことは書いておらず吾妻柊子という女性が行方不明になっていると言うことだけが書かれていた。
「本当にそんなことがあったんだ」
それは随分と前の話で私が生まれる何十年も前。
被害者は吾妻柊子16歳。家から買い物をするために出かけたところ行方不明になったらしい。彼女を見たと言う証言はあったが手がかりは全くなかった。しかし、向かっていたスーパーから200メートル離れていたところに血痕と買い物をしたであろう鞄とレジ袋が見つかったらしい。血痕はものすごい量だったらしい。あたり一面が血の海になるほどに。後々、その血が吾妻柊子さんの血と判明、鞄の方に保険証が入っていたことからなんらかの事件に巻き込まれたと言うことがわかった。それから警察が探したもののそれ以外に手がかりはなく事件は打ち切り。いまだに不可解な事件として記録に残っているらしい。
「いや、これが本当ならおかしい」
妖花は思う。自作の小説を書くと言っていた新道だがたまたま同じ人物が行方不明になるなんてあるのだろうか。それに場所がその事件現場と一致している。それこそおかしい。
でも、それだけではなんともいない。たまたまその事件を知っていた亜美先輩がその事件をモデルとして小説を書いていたならどうとでもいえる。
「どうなんだろう」
妖花はそれが気になって仕方がない。彼女は一体何を思ってこの事件を取り入れようと思ったのか。何かが引っかかる。なんだ…この感じ。
「あまり気にしても仕方がないけど…明日は学校休みだから聞けそうにないし」
そうとなれば直接家に行って聞く?いや、それはできない。まず家を知らないからだ。
「なんだろう。私が話を切り出した時先輩一瞬バレたって顔をしたような気もしなくもないけど…」
おそらく私が疑いすぎているだけだろう。本当は関係がなく、たまたまそうだっただけかもしれない。
創作に何を言っても仕方がないのは分かっているが彼女のことが気にかかる。
「聞くっていうのもあれだから少し尾行でもしてみようかな」
そんなことを軽く考えつつ、妖怪が関わっているのではないかと考える。天狗…。本当にいるなら見てみたいと言う気持ちもあるが危険だ。
「とりあえず今日は寝よう」
妖花は布団に入り、目を閉じる。
「おやすみ…」
妖花は眠りについた。
そして数時間が経ち、時計の目覚ましが鳴る音が聞こえてくる。
「ん…?」
起きてみると時刻は5時半だった。
「とりあえず走り込みでも行こうかな」
前の出来事から少しでも運動能力を高めようと思っていた妖花は毎日ランニングや筋トレなどを行なっていた。
今日は天気予報が外れ雨ではなく晴れだった。
そのため妖花は運動をしようと思っていた。
服を脱ぎ動きやすい服装に着替える。その後ウエストポーチを身につけて鏡の前で格好を見て、寝癖を整える。
「行ってきます」
用意が終わり、動きやすい服装に着替えた妖花は静かに二階から一階へと移動し、両親が起きないように玄関の扉を閉めてランニングを開始した。
坂を降りながらすれ違う車に注意しつつ走る。
朝早くということもありほとんど人はいない。毎日見かける同じようにランニングをしているお兄さんやウォーキングをするお爺さんと挨拶を交わしながら走る。
「坂って意外ときついのよね」
坂を下った先を曲り、そのまま信号を待つ。
青に変わったのを見てまた走り出す。
今日はいつもとは違う方向に走っている。
いつもなら車の通らないような道を行き来し、ランニングできるような道を通るのだが今日は違う。
向かっている場所はあそこ。吾妻柊子さんが行方不明となった現場。自分が住んでいる地域から近い場所ということが分かり驚いた。
亜美先輩のこともありとりあえず行ってみようと思ったわけだ。
「今は楽しく走ろうかな」
なんだかんだで慣れてきたランニングが今では楽しく思う。走っていると涼しい風が吹き抜け、心地よく感じからだ。あまり運動というものを本気で楽しいと思ったことはなかったがランニングを始めてからは色々なスポーツが楽しく感じる。勉強ばかりしている生徒と思われがちな私のギャップに驚いている人もいて少し笑ってしまうこともあった。
数十分ほど経過したものの未だに体力は有り余っている。
「だいぶ体力とかついてきた気はするんだけど」
始めた頃はすぐに疲れていた妖花だったが毎日欠かさず日課として続けてきた成果なのか今ではだいぶ体力がついてきた実感はある。
それに早寝早起きを心がけ、規則正しい生活をしていたので最近は肌艶もよく健康体だ。
「確かこの辺だった気がするけど」
走り始めて数十分。
目的地周辺に来ていた。
息を整えつつ、辺りを見渡す。
「えっと…どこだったかな」
携帯を取り出して地図で場所の確認をしてみる。
「あそこを曲がったらいいのね」
妖花は携帯をウエストポーチにしまい目的地に向かった。息を吐きながらその道の角を右に曲がり、目的地に到着した。
「何もないか、それはそうか」
なんせ何十年も前の事件だ。
まだ何かあると考えるのは変だった。
妖花はウエストポーチから飲み物を取り出して一口含む。とりあえず少し休憩しようと思い、その事件現場だった道を歩く。
「特に何もないか」
そう思っているとあるものに目を奪われた。
「これ、花よね」
そこには電柱に花が置かれてあった。綺麗な花。おそらく吾妻柊子さんのために置かれた花だろう。妖花は電柱の前に立った。
そしてその花の前で手を合わせた。
とりあえずその花を見たことでここで本当に事件があったということを実感した。
だからこそ思ってしまう。
「亜美先輩にはやめてもらおうかな。本当に亡くなっている方を小説のネタにっていうのはちょっと違う気がするから」
妖花は思う。本当にあった事件だからこそ他の方にも伝え、二度とこんなことが起こらないようにというのは確かに良いことだと思う。しかし、小説に使うのは吾妻さんの両親がそれを見てどう思うのかを考えてほしいと思ってしまう。
「亜美先輩のことだから吾妻さんのご両親に許可はとっているとは思うけど」
妖花は電柱に向かって、花に向かって一礼した後その場を後にしようとした。
しようとしたがある人と目があった。
「亜美先輩…?」
そこには新道亜美が立っていた。綺麗な白色のワンピースをきた彼女はこちらに駆け寄る。
「妖花ちゃん。奇遇だね、こんなところで」
「はい、奇遇ですね。亜美先輩」
新道は特に変わった様子はない。
「それでどうしてこんなところに?」
そう聞かれて妖花は咄嗟に応える。
「私、少し前からランニング始めたんですよ、それでたまたまここを通って」
「そうなんだ。すごいね、ランニングなんて」
そう言いながら妖花に笑顔で話す。そんな新道に妖花も笑顔で対応する。
「そんなことないですよ。少し色々あって運動しようかなって思ってて」
「そう、それはいいことだね。続けていくといいと思う!」
「はい、頑張ります。それではまた学校で」
そう言って足早にそこから立ち去ろうとすると意外にもあちらから話を出された。
「ねぇ、妖花ちゃん。ここになぜ花が置かれてるか知ってる?」
そう聞かれて妖花はどきっとする。
「いえ、詳しくは知らないですけどおそらくどなたかが亡くなったのかなと」
「うん、妖花ちゃんの言った通り。ここで人が亡くなってるの。私たちより年上の16歳の女の子がね」
新道は話を続ける。
「それでね。昨日ノート返してもらったでしょ?そこに書いてあったのがこの子のことなんだ」
それを聞いて妖花は隠すのはやめて新道に自分の思いを伝える。
「すみません、亜美先輩」
「え?どうかしたの?」
急に謝られてどうしたのか分からず新道はあたふたしている。
「私、昨日それを見て調べたんです、吾妻柊子さんの事件」
そう言うと新道は分かったような口ぶりで答えた。
「そっか。やっぱりそうだよね。昨日の今日でここで会うなんて不自然だもんね」
「あの、別に私がどうこう言えるわけではないんですけど…」
「どうしたの?」
妖花は言っていいものか言わないほうがいいのか迷う。しかし自分の意見を伝えるのは良いことだと妖花は思う。だからこそ意を決して伝える。
「亡くなった方を小説のネタにって言うのはどうかと思うんです!その方の両親が許したとしてもなんというか違う気がするんです!」
妖花は大きな声で新道に告げた。するとその声に驚いて新道はあたふたしている。
「あ、あ、えっとね。妖花ちゃん」
新道は何かを隠しているのか口がごにょごにょしている。
「えっとね…その、えっとね」
「なんでしょう」
妖花が聞くと新道は声を震えながら答える。
「実はその、全部嘘なの!」
全部嘘なの…
全部嘘なの…
それを聞いて妖花は耳を疑うしかなかった。
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