Trick or trick

ありま

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前編

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「ハッピーハロウィン! というわけで。
 旦那様トリックおあートリートメント!」


 わたしは旦那様のいる、書斎の扉を思い切りよく開けると、こう叫びました。
 そしていつものように、旦那様は仕事机に座りながら、顔だけこちらを見ます。その表情は不機嫌にわたしをニラミつける……それさえなければ意外とカッコイイ気がします……旦那様に負けじと両手を差し出します。

「何だ、その手は?」
「何だ。ってハロウィンですよ?
 ふふ、子供はお菓子をくれなきゃイタズラするぞ、の日なのです!」
「お前……それを言うなら。
 いや、いい。
 で、何で。俺が、お前に、くれてやらねばならんのだ」

 眉間のシワを更に深くして、そしてわざとらしく大きくため息を付く旦那様。
 この子供めが、うんざりだ……と言いたいのでしょう。

 でもわたしは紛れも無く子供なので、そういわれても問題ないのです。
 ええ、旦那様に子供扱いされるのはちょっぴり悔しいですが、問題ないのです。

「ハロウィンは子供がこの呪文を大人に言えばお菓子を無条件にもらえる日なんですよ! 実際に皆さんくれました!」

 そう言って、わたしはポケットいっぱいにいただいたお菓子を旦那様に見せびらかします。

 見せびらかすだけで旦那様にはあげませんよ!
 わたしが貰った、大事で大好きなお菓子たちです!

「お前は普段からいつも、屋敷の皆に菓子を貰ってるだろう」

 ――あいつらお前を甘やかし過ぎる。

 と、誰ともなく旦那様は呟きます。
 独り言多いですよ。
 もしや旦那様、お友達少なそうですから、壁に話しかけたりしてるんでしょうか?

「……ともかく。俺はお前にやる菓子などない」
「そんな旦那様。オトナげないです。子供みたいな意地悪しないでくださいよ。というか、旦那様の方が子供です」
「いや。事実を言っているだけだ」

 そう言うと旦那様は視線をわたしから外して、一瞬、ある方向を見つめます。その先をたどると、棚です。

 ここですか、旦那様のお菓子の隠し先は! 

 わたしはすかさずガサ入れすると、そこにはなんと……どうみても晩酌用のスルメイカやら……のおつまみしかないのです。

 旦那様親父クサイです。

 と言ったら最後、怒られるのは分かっていたので、賢いわたしは言いません。代わりに抗議でもでも駄々っ子ですっ!

「甘いお菓子じゃなきゃイヤです!」
「ほらな、だからいっただろう。お前にやる菓子などないと」
「お菓子がないなら、イタズラしますよ!」
「……ふん。まあいい。
 ならばやってみろ。甘んじて菓子がなかった罰を受けてやる」
「え」
「さあ」

 そう言って旦那様は顔は更に不機嫌に怖く、しかし体は手を広げてバチコイな受け入れ体制をとってくれました。

 ……大変です。

 正直、お菓子がもらえる事が当たり前だと思っていたので、イタズラなんて考えてもみませんでした。イタズラするぞなんて、口先だけの様式美というやつなのです。
 この前、旦那様の書斎のゴミからは賞味期限切れのお菓子を発見しましたから。旦那様はこんな怖い顔をして隠れ甘党。ストックは腐らせるほど持っているとばかり思ってました。
 賞味期限の切れたお菓子といえど、とても美味しそうで。
 ゴミ箱に無造作につっこんでいなければ、わたしうっかり食べてしまうところでした。なのに今日もってないなんて、なんてバッドタイミング。

「今持っていなければ、後で納めてくれてもいいのですよ、旦那様?
 厨房のベンは後でシフォンケーキを届けてくれるって……」
「…………」

 旦那様の無言の圧力が、目が怖いです。
 ここは気を取り直して。
 大事な時に持ってない旦那様が悪いので、わたしはイタズラをしなければなりません。こんな思いやりのない旦那様に、イタズラやりすぎると大変な事になりそうなので、わたしはよく考えます。
 そう、ここは慎重に考えなければ、旦那様に逆恨みされるのです。

 ……うーん。

 旦那様に笑って許してもらえそうな嫌がらせ……もとい、イタズラ。
 旦那様の笑顔なんて想像するのは無理ですが。
 と、考えてわたしは閃きました!

「ここはオーソドックスに、くすぐりの刑なのです!」
「まぁ、いいだろう」

 イタズラをされる方が偉そうなのは、なぜなんでしょう?

 答え。
 それは旦那様だから仕方ないのです。





「さあ、やってみろ」
「では、旦那様失礼します!
 こちょこちょこちょこちょ……」

 くすぐりイタズラ、スタートです!
 気分を盛り上げるために、口でも言います。
 旦那様は椅子に座ったまま、手を組んでいます。余裕です、余裕のポーズです。椅子に座ってるために、後ろからは無理なので、前から旦那様をくすぐります。……やりにくいので立って欲しい。

 まず手始めは脇腹です。
 しかし、わたしがこんなに頑張っているのにも関わらず、旦那様の顔色は全く変わりません。むしろはりきって旦那様の弱いところを探している、わたしの方が疲れてきました。だんだん息が……苦しく、手も痛いです。


 ……数分後。


「こ、今回はこのへんで、勘弁してあげるのです!」

 ――降参です。
 というかお菓子がないのなら、こんなところに長居するものではありません。わたしは旦那様に挨拶をして部屋から出ていこうとすると、旦那様に呼び止められました。


「dolcetto o scherzetto」

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