嫌い!キライ?のその後は

ありま

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後編

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 な、なんでっ常磐くんもいるの!!


 シネコンで、席に着く前に飲み物を買いに売店に行ったら、そこで常磐くんにばったりでくわした。驚きのあまり固まっていると、常磐くんが何か言う前に、常磐くんの背後から声が聞こえる。

「あれ、ひーの友達?」

 ……しかも、彼女連れ?

 後ろから出てきたのは、可愛い女の子。
 たしか常磐くんの名前は比呂人ひろひと……だからひーくん?
 自分にはこんなに可愛い彼女がいるのに、人の恋路を邪魔してたのかと思うとますます、ひどい。

「絢、先行ってて」
 そう言って、もってる飲み物を、彼女さんに渡す常磐くん。

「誤解してるようだけど……別に俺の彼女じゃないから」

 私に言い訳されても、別に言いふらしたりはしないのに。
 と、思っても黙っていたら、彼女さんが言った。

「そうそう私、榮の彼女だから誤解しないでね!」

 私は固まった。

「あ、榮って言っても知らない?」
「絢……」
「ゴメンゴメン、おじゃま虫は退散しまーっす!」



 突然の失恋。
 それがこんなあっさりとした形で来るなんて思っても見なかった。

 私はそうなんですかと、笑顔で返して。
 映画始まるので席戻りますね……と、丁寧に言えていただろうか?

 でも私は、自分の席に行かないで、人波とは反対側の出口に歩く。

 外は、秋とはいえかなり暑い。
 シネコンの中が、キンキンに冷えていたのでその落差がすごい。うだるような暑さで、ますますボーっとする。
 現実感がなかった。

 でも。


「……なんで、ついて来るの?」

 私は後ろを振り向くと、常磐くんに言った。
 ギスギスした声だって分かってるけど、今は余裕がない。

「映画始まっちゃうよ? チケット勿体ないよ? もしかしてそれでも、私を虐めに来たの?!」
「まぁ映画なんて。アイツ等の付き合いだったし……」

 確かに。
 常磐くんのイメージとは掛け離れた映画。

 その言葉で、あの場所に築島くんもいたんだとわかる。
 もしかして、この映画を見たかったのは築島君じゃなくって、絢さんだったのかもしれない。

 私、本当に……一人で舞い上がっちゃってバカだ。


「あーアイツ等と、小学生からの付き合いだから」
「……」
「……絢は、一人女子大で」
「……」

「泣くなよ、俺が泣かしてるみたいだろ」

 ここが人通りの多い道だってわかってる。チラチラと通り過ぎる人たちの視線を感じるけど、私の涙はとまらない。はたから見ると、どう見ても常磐くんが泣かしてるようにしか見えない状態だった。

 常磐くんはハンカチをさしだす。

 私はそれを受け取らずに、自分のバッグからハンカチを出した。拒否された常磐くんは、特に気にした様子も見せずに、ハンカチをしまう。

「知ってて、私の邪魔してたんだ」
「まぁ、それもあるけど」

 それもあるけど……って常磐くん根っからのいじめっこ!?
 私がますます不機嫌な顔をすると。

「別の男にアタックする女を、邪魔するなんて理由ひとつしかないだろ」
「私が嫌いだから?」
「違う」

 あれ?
 常磐くんは、私の事嫌いだったんじゃ?
 嫌いだからと言う理由がないなら、なんで邪魔するの?

「えーとじゃあやっぱり常磐くんは築島くんのこと……?」

 もしかして、知里ちゃんが冗談めかして言ってたその理由が……本当だったとか?

 よく分からないという表情をうかべて言う私に、常磐くんは呆れた顔してる。

「なんで俺がここまで言ってて、分からないかな」

 じゃあどういう理由が? と頭の中でぐるぐるしてる。
 まったく思い当たらない。

「邪魔するのは、好きだからにきまってるだろ」
「人の恋をジャマするのが好きなの?」
「いや、あんたが」

 私は驚きのあまりに涙が止まった。
 普通なら一番思い当たりそうでいて、今までの私たちの関係では、それは一番無しな理由。

「あれ? もしやこの効果を狙って……た、しゃっくりじゃないんだから!」
「聞かなかったフリしようとしてるのか?」
「ち、違うよ。だって私の事嫌いなんでしょ? 初めの頃、常磐くん他の男子に話してたじゃない」
「確かに、初めはあんたの事嫌いだったな。それは認める」

 それ認めちゃうんだ……。
 前に聞いたことは、ただの誤解じゃ無かったんだ。

 ……でも、だったらなんで?

 ますます分けがわからない顔を、私はしていたと思う。
 それぐらい常磐くんからの告白は、うれしいというよりびっくりだ。

 キライだと思われてたとずっと思ってたから。

「初めはさ、なんかあんた、いい人ぶってんのかと思ってて。築島狙いだっていうのもすぐわかったし」
 そんなにわかりやすかった? と驚いた顔をするだけで、常磐くんには私の心配がお見通しで「築島は知らないと思うよ」と、フォローが入る。

「でも、アンタは覚えてるか知らないけど。凄く楽しそうに音楽聴いてて、苦手な俺にも笑顔で半分こ。って……しかも変な聞き間違いするし」

 それは覚えてる。
 常磐くんは、すごくイジワルな顔で思い出し笑い。

「あーこの子、本当に人に幸せ分けるのが自然なんだって思った」
「そ、そんなに深く考えてないよ!」
「それに、意外と強いって言うか。あと、あーアンタからかいやすいからね。いちいち大袈裟なのがいい」

 そんないつもどおりの常磐くん。
 でも、内容は告白。

「私は、常磐くんの事、好きじゃない」

 常磐くんの今までのイジワルの理由が分かったけど。
 そう返事するしか出来ない。

「嫌いでもないって事だろ?」

 少し前までは嫌いだった。
 でも「好きだからいじめてた」という、とんでもない理由をきいちゃうと。嫌いというか……ものすごく苦手って気持ちだけが残って。
 「好きじゃない」と答えるしかない。

「え、で、でもこれ以上、常磐くんのこと好きになるのはちょっと無理……」
「大丈夫、俺も初めは苦手なタイプで、こうなっちゃったんだったから」

 ……だから、覚悟しててね。

 そう極悪な台詞を極上での笑顔で言われたら、心臓が飛び跳ねるくらい驚くのは当たり前で。
 これは常磐くんにときめいてるんじゃない。


 ときめいてるんじゃ、ないんだから……。


 私は、胸の動悸にそう、言い訳した。



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