AFTER ZERO:Crisis Ⅲ ~残される境界~

AZ Creation

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第28章:残す判断、最後の一手(アルト)

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――管理を壊さない。
――でも、救いは壊される。
なら、“壊さないまま壊す”しかない。

トンネルの奥は暗い。
けれど、暗さは安心だった。

監視が届かない暗さ。
ログが薄くなる暗さ。
世界の“目”が届かない暗さ。

BORDER REMAINSはそこで息を整えた。

セイルが端末を閉じる。

「追跡、完全に切れた」
「ここは……観測が弱い」

ノクスが小さく笑う。

「弱いんじゃない」
「“届かない”」

ミナトは壁にもたれながら、少年に水を渡した。

「名前は」

少年は震えながら言った。

「……ルカ」

アルトはその名を確認するように、静かに頷いた。

「ルカ」
「覚えておけ」
「お前は消えてない」

ルカは目を潤ませて頷く。

「……うん」

シオンは座り込んだまま、まだ息が浅かった。

顔色が悪い。

けれど、目だけは死んでいない。

燃え残りの火みたいな目だ。

彼女は自分の手を見つめている。

さっき、回収光をほどいた手。

救ってしまった手。

救うことで、世界を歪めた手。

「……私」
「何をしたの……」

問いというより、確認だった。

“私はまだ私か”。

アルトは短く答えた。

「救った」

シオンが笑った。

「それが一番怖い」
「救ったのに、震えてる」

彼女は泣いているのに、泣き方が分からない。

その壊れ方が、痛かった。

セイルが低い声で言った。

「アルト」
「回収班、さっき“参照”して止まったよね」

アルトは頷いた。

「残す判断ログ」
「俺が残したものだ」

ノクスが笑う。

「便利だな、内部権限」

アルトは笑わない。

便利だ。
便利だから地獄だ。

内部権限は人を救う。
そして人を切る。

その両方を、彼は知っている。

アルトは端末を開き、通信を立ち上げる。

内部回線。
GENESIS中枢への直結。

危険な回線だ。

繋げば位置が割れる。
繋げば記録される。

でも繋げないと、止められない。

彼は一度だけ息を吸って、言った。

「……やる」

ミナトが眉をひそめる。

「何をだよ」

アルトは答える。

「最後の一手」
「壊さずに、止める」

セイルが目を細めた。

「止められるの?」

アルトは静かに言う。

「止める」
「止めなきゃ、ここで終わる」

通信が繋がる。

無機質な音。
軽いノイズ。

画面に表示されたのは、GENESISの内部表示。

そこに、彼が一番見たくなかった文字が浮かぶ。

HOPE FIT INDEX:運用開始

希望適合値。

第25章で語られた最悪の数値化。

希望が数値にされる。

救済が“採点”される。

未来が“採点”される。

アルトの背中が冷たくなる。

「……始まったのか」

ノクスが笑う。

「最悪のタイミングだな」

次に出たのは、回収優先度の一覧。

S-PRIORITY/TARGET:BORDER REMAINS
個体シオン:優先回収
個体アルト:優先拘束
DOC-0:拡散済み/封鎖対象

そして、最後に。

Δ:内部記録あり/未公表

アルトは歯を食いしばる。

Δがもう内部では確定している。

公表されないだけだ。

公表されれば世界が崩れる。

でも隠せば、内部で武器化される。

詰んでいる。

どちらでも詰む。

だから――第三の手が必要だ。

アルトは呼び出しをかける。

相手は一人。

GNC-CONTROL-002|区域監査官・ヴェルナー

アルトが最も嫌いな種類の正しさ。

例外を嫌う男。

例外は崩壊の始まりだと、本気で思っている男。

しかし今、彼しかいない。

画面が揺れ、音声が繋がった。

「……アルトか」

ヴェルナーの声は冷たい。

「まだ生きていたとはな」

アルトは淡々と言う。

「生きている」
「そして、止めに来た」

ヴェルナーが笑う。

「止める?」
「お前が?管理を?」

アルトは答えた。

「管理は止めない」
「回収だけを止める」

沈黙が一拍。

ヴェルナーの声が低くなる。

「……回収は救済だ」

アルトは言う。

「救済じゃない」
「拘束だ」

ヴェルナーは淡々と言った。

「拘束は救済の前段階だ」
「救うには、確保が必要だ」

アルトは目を閉じた。

この会話は、地獄の再生だ。

正しさが正しさのまま、人を殺す。

アルトは切り札を切る。

「DOC-0を見たか」

ヴェルナーの声が少しだけ遅れる。

「見た」
「虚偽混入率が高い」

アルトは即答する。

「虚偽じゃない」
「評価不能領域が“採算化”されている」

ヴェルナーが言う。

「採算化は必要だ」
「救済には資源が要る」

アルトは静かに言った。

「救済のために救済が殺される」
「それを合理と呼ぶなら――」
「お前はもう、人間を管理していない」
「未来を処分しているだけだ」

その言葉が刺さった。

ヴェルナーが沈黙する。

だが彼は折れない。

折れない正しさは、最も強い敵だ。

ヴェルナーが言う。

「アルト」
「お前は何を望む」

アルトは答える。

「残す」
「定義しない領域を残す」

ヴェルナーが笑う。

「定義しない領域など、管理には不要だ」

アルトは言った。

「不要だから残す」
「不要なものが残ることでしか、世界は呼吸できない」

ヴェルナーが吐く。

「詩だな」
「お前はいつからそんな話し方をするようになった」

アルトは少しだけ目を細めた。

「……ユウの影響だ」

その名を出すとき、アルトの声が僅かに柔らかくなる。

ヴェルナーは低く言った。

「その男の話はするな」
「管理外の亡霊だ」

アルトは返す。

「亡霊じゃない」
「俺たちが残した“穴”だ」

アルトは最後の言葉を投げる。

「回収を止めろ」
「今止めなければ、Δは武器になる」

ヴェルナーが微かに息を呑む。

「……Δを知っているのか」

アルトは言う。

「知っている」
「そして、まだ誰も発動していない」

ヴェルナーの声が冷たくなる。

「なら尚更回収すべきだ」
「発動前に確保し、制御する」

アルトは静かに言った。

「制御できない」
「制御しようとした瞬間、それは暴走する」

ヴェルナーが返す。

「証拠は」

アルトは答えた。

「証拠はない」
「……だから、残すしかない」

その瞬間、ヴェルナーの声が低くなる。

「アルト」
「お前は、信仰に落ちたな」

アルトは否定しなかった。

合理を信じた男が、合理の限界を知った。

それは信仰に見える。

でも違う。

これは“恐怖”だ。

恐怖は人を現実に戻す。

通信が途切れる寸前、ヴェルナーが言った。

「お前の位置情報は取得した」
「回収は止まらない」

アルトは一拍遅れて答えた。

「……分かっている」

画面が暗転する。

セイルが叫ぶ。

「アルト!!位置バレた!!」

ミナトが舌打ちする。

「クソ!!」

ノクスが笑う。

「面白くなってきた」

アルトは端末を閉じた。

そして静かに言った。

「……次は」
「こちらが先に手を打つ」

その目は揺れていない。

彼は今、決めた。

壊さない。
でも止める。

残す判断の、最後の形を作る。

――管理を壊さない。
――でも、救いを壊させない。
そのためには、管理の“心臓”を一度だけ止める。

「位置がバレた」

セイルの声がトンネルの壁に跳ねた。

ミナトが即座に言う。

「移動だ」
「今すぐ!」

ノクスが笑う。

「急げ急げ」
「正しさが来るぞ」

ルカが怯えてシオンの袖を掴む。

シオンはまだ少し揺れている。
存在が薄い。
声が遅れる。

それでも彼女はルカの手を握り返した。

「……大丈夫」
「離さない」

その言葉だけは、強い。

アルトは端末を握ったまま動かなかった。

セイルが叫ぶ。

「アルト!」
「今は走るタイミングだよ!」

アルトは静かに首を振る。

「走るだけじゃ終わらない」
「追跡は切れない」

ミナトが苛立つ。

「じゃあどうすんだよ!」

アルトは言った。

「ここで、“切る”」

ノクスが笑う。

「切る?」
「何を」

アルトは端末の画面を見せる。

HOPE FIT INDEX:運用開始
S-PRIORITY:BORDER REMAINS
Δ:未公表/内部記録あり

「希望適合値が走り始めた」
「回収が正義になる」
「このまま逃げれば、いずれ世界ごと閉じる」

セイルが息を飲む。

「……二層世界が」
「“接続”じゃなくて“切断”になる」

アルトは頷いた。

「第2作の結末が、利用される」
「俺の“残す判断”が、回収の根拠になる」

シオンが小さく呟く。

「……私の善意も」

アルトは答える。

「そうだ」

だから、止める。

壊さない。
でも止める。

そのために必要なものは――

“制度の中にある制度の穴”。

アルトは端末を操作し、別のログにアクセスする。

GENESISの深部にある古いプロトコル。

管理者ですら普段触れないもの。

セイルが目を見開く。

「それ……何?」

アルトは答えた。

「非常停止」
「正確には、“擬似停止”」

ミナトが眉をひそめる。

「止めたら終わりだろ」
「GENESISが止まったら世界が死ぬ」

アルトは否定する。

「止めない」
「止めるのは“回収系統”だけだ」

ノクスが笑った。

「そんな都合のいいボタンがあるのかよ」

アルトは静かに言う。

「ある」
「作られてる」
「管理者は、自分たちを止める手段を必ず持ってる」

正しさは自分を疑わない。
だから壊れる。

だが、管理は違う。

管理は自分を疑う。

だから止める手段を持っている。

それを今から使う。

だが、それには鍵がいる。

権限。
承認。
二重認証。

アルト一人では足りない。

彼は端末を見ながら言った。

「もう一人、必要だ」

セイルが即答する。

「内部の人間?」

アルトは頷く。

「しかも、“守る側の人間”」
「回収を止める理由を持つ人間」

ミナトが吐く。

「そんな都合いいやつがいるか?」

アルトは一拍置いて言った。

「……セラ」

その名が空気を変えた。

GENESISの再生主任。
合理の中で命を捨てない女。

「命を捨てない。何度でも立て直す」

彼女なら、回収を止める理由がある。

回収は命を切るからだ。

セイルが息を呑む。

「接触できるの?」

アルトは言った。

「接触する」
「今しかない」

ノクスが笑いながら肩をすくめた。

「で、セラに会いに行くのか」
「管理の心臓の真ん中へ」

ミナトが即答する。

「無理だろ」
「死ぬ」

アルトは静かに言う。

「死ぬ前提なら全部無理だ」

ミナトが黙る。

言い返せない。

この世界は、無理をやったやつだけが生き残る。

ユウのように。
アルトのように。
そして、シオンももう同じだ。

シオンが口を開いた。

「……私が行く」

全員が一瞬、止まった。

シオンは自分の胸に手を置く。

「私、境界監査官だった」
「まだ記録が残ってるなら、通れる」

セイルが首を振る。

「でも、優先回収対象だよ」
「真っ先に捕まる」

シオンは笑った。

「捕まればいい」
「それが“鍵”になるなら」

アルトが即座に言う。

「駄目だ」

シオンは見上げる。

「……なんで」

アルトは答えた。

「お前が消えたら、ルカも消える」
「Δも暴走する」

シオンの目が揺れる。

彼女は理解してしまう。

自分が“境界”になっている。

世界の裂け目に、足を掛けている。

落ちれば、全員が落ちる。

沈黙の中で、ルカが小さく言った。

「……僕が行く」

ミナトが怒鳴る。

「馬鹿!!」

ルカは震えながらも、言った。

「僕が消えそうなら」
「みんなが危ないなら」
「僕が……戻ればいい」

その言葉は、幼い正しさだった。

でも、痛いほど強い。

シオンが泣きそうな顔で首を振る。

「違う」
「君は戻らなくていい」

アルトが膝をつき、ルカの目線に合わせた。

「ルカ」
「戻るな」

「お前が戻ったら、世界は救われたことになる」
「そして、次は百人が戻される」

ルカの目が震える。

救われることが、次の殺しになる。

アルトはそれを知っている。

だから言った。

「お前が生き残ることが、勝ちだ」

そのとき、セイルの端末が小さく振動した。

「……来る」

セイルが顔色を変える。

「回収班、こっちの方角に再配置してる」

ノクスが笑う。

「時間切れだな」

アルトは立ち上がる。

「なら、分ける」

ミナトが即座に言う。

「分断は危険だ」

アルトは否定しない。

「危険だ」
「でもここに居れば全滅する」

アルトは作戦を一息で言った。

「セイル、俺と来い」
「GENESISに繋ぐ」

「ミナト、ノクス、シオン、ルカを連れて逃げろ」
「観測の薄いルートへ」

ミナトが舌打ちする。

「勝手に決めんな」

アルトは見た。

ミナトではなくシオンを。

「シオン」
「お前はルカを守れ」
「お前が“残る”側だ」

シオンは震えながら頷いた。

「……分かった」
「私は残る」

その言葉が重い。

残る。

定義しないで残る。

それがこの物語の核心だ。

ノクスがセイルの肩を叩く。

「死ぬなよ」
「死んだら、面白くねぇ」

セイルは震えた笑いを浮かべる。

「うん……死なない」
「絶対、繋げる」

ミナトはアルトを睨んだ。

「お前、戻って来いよ」
「まだ終わってねぇ」

アルトは小さく息を吐いた。

「終わらせない」

その顔はもう、迷っていない。

正しさで救われた男が、
正しさを使って救いを守る。

その矛盾のまま、前に進む。

最後にアルトは、シオンに言った。

「……お前は崩れるな」

シオンは笑った。

「もう崩れてる」

アルトは言う。

「崩れていい」
「でも消えるな」

シオンの目が、ほんの少しだけ光った。

「……消えない」
「私、まだ救いたいから」

同じ言葉。
第27章の続きの言葉。

その言葉が、彼女を繋いでいる。

足音が迫る。

白い光がトンネルの入口を舐めた。

アルトは叫ぶ。

「行け!!」

BORDER REMAINSは二手に割れた。

逃げる側。
繋ぐ側。

残る側。
止める側。

そして、回収班の正しさが追いかける。

――残す判断は、優しさじゃない。
――戦うための“穴”だ。
そして今、アルトはその穴を、世界に固定しようとしている。

逃げる足音が遠ざかる。
代わりに、別の音が近づく。

規格化された足音。
装備の接触音。
通信のノイズ。

回収班。

光がトンネルに差し込む。

白い。
清潔で、正しくて、冷たい。

それは“救済の光”ではなく、
“確保の光”だった。

アルトとセイルは、側道の鉄扉を開けて滑り込んだ。

中は狭い。
古い整備用の通路。

壁に、錆びたGENESISのロゴ。
崩壊前の記録がまだ残っている。

セイルが息を切らして言う。

「……ここ、どこ?」

アルトは短く答えた。

「旧回線」
「管理が“忘れた”場所だ」

セイルが目を見開く。

「忘れた場所……?」

アルトは頷く。

「管理は、全部を見ない」
「見なくていい場所は切り捨てる」
「そこに“残る”」

それはユウの生き方に似ていた。

拾うのではなく、
残る。

残された場所に、未来が沈む。

奥に進むと、古い端末があった。

電源は落ちている。
けれど、内部電池がまだ生きている。

セイルが端末の端子に自分の機材を繋ぐ。

「……繋げる」
「旧式だけど、いける」

アルトは言った。

「ここから入る」
「回収系統を“擬似停止”させる」

セイルが唾を飲み込む。

「やったら……どうなる?」

アルトは答えた。

「回収命令が一瞬止まる」
「希望適合値の回収判断も遅れる」
「その隙に、DOC-0を“残す”」

セイルは震えた。

「残すって……拡散?」

アルトは頷く。

「消せない形にする」
「世界の底に沈める」

正面から主張しない。
革命を叫ばない。

ただ、残してしまう。

そのやり方だけが、
この世界では唯一、死なない。

背後で衝撃。

鉄扉が揺れた。

回収班が来た。

セイルが小さく叫ぶ。

「やばい!!」

アルトは落ち着いて言った。

「時間は作れる」

「え?」

アルトは端末を操作し、別回線へ接続する。

そして、短いコードを叩く。

画面に表示される。

UNLOGGED ACTION DETECTED
生成:評価不能領域

セイルが目を見開く。

「それ……わざと作ったの!?」

アルトは答える。

「追跡を誤差にする」
「誤差は、管理が嫌う」
「嫌うから慎重になる」

敵に“慎重さ”を強制する。

それがアルトの戦い方だ。

さらに衝撃。

扉が歪む。

回収班がもう近い。

セイルが叫ぶ。

「もう無理だよ!!」

アルトは静かに言った。

「セイル」
「お前は繋げ」
「俺は止める」

セイルが涙目で首を振る。

「嫌だ……!」
「アルトがいなくなったら……」

アルトは一瞬だけ、言葉を止めた。

“いなくなる”という言葉が、今は重すぎる。

シオンが消えかけた。
ルカも消えかけた。

いなくなるという現象が、もう現実になっている。

アルトはそれでも言った。

「俺は消えない」
「消えさせない」

その言葉は、自分への命令だった。

扉が吹き飛んだ。

白い光が通路に流れ込む。

回収班が現れる。

装備は整っている。
顔は覆われている。
声は統一されている。

「対象確認」
「優先拘束:個体アルト」
「優先回収:個体セイル(協力者)」

アルトは舌打ちする。

“セイル”も対象に入った。

つまり、彼女ももう「残す側」ではなく「捕まえる側」に分類された。

善意はすぐに制度に吸われる。

回収班の指揮官が言った。

「拘束は救済だ」
「抵抗は不要」

アルトは静かに返す。

「救済は、同意がないと暴力だ」

指揮官が一瞬だけ沈黙した。

それは“想定外の返答”だった。

管理は正しさを想定している。
言葉の矛盾は想定していない。

アルトは続ける。

「救済するなら、救われる側の“拒否権”を残せ」
「それがないなら、ただの回収だ」

回収班が動く。

彼らに議論はない。

アルトが前に出る。

回収班の一人が拘束具を投げる。

アルトは避ける。
避けた瞬間、床が震えた。

金属が――歪む。

セイルが目を見開く。

「……え?」

アルトも気づいた。

足元の鉄板が、奇妙に波打っている。

熱で曲がったのではない。
力で曲がったのでもない。

“世界の方が”歪んだ。

そして次の瞬間。

監視カメラのレンズが、黒いノイズを吐いた。

一瞬だけ、映像が途切れる。

回収班の動きが止まる。

「ログ異常」
「存在しないフレーム検出」

アルトは息を呑む。

これが――

Δの前兆。

まだ発動していない。
でも世界が、反応している。

回収班が再起動するように動き出す。

「拘束継続」

アルトは叫ぶ。

「セイル!!今だ!!」

セイルは泣きながら端末を叩く。

「起動……!」
「お願い、繋がって!!」

画面が赤く点滅する。

EMERGENCY PARTIAL HALT:AUTH REQUIRED
SECOND SIGNATURE REQUIRED

二重承認。

やはり、もう一人が必要だ。

セイルが絶望した声を出す。

「無理だよ……!」
「セラがいない!!」

その瞬間、端末が勝手に動いた。

勝手に。

誰も触っていないのに。

画面に、承認ログが流れる。

REGENESIS DIRECTOR:SERA
SECOND SIGNATURE:ACCEPTED

セイルが固まる。

「……え?」

アルトも固まった。

「……セラ?」

どこから繋いだ?

どうやって?

セラはここにいない。

なのに、承認が入った。

それは――

“残す判断”が届いた証拠だった。

誰かが内部で、今も止めようとしている。

回収班の端末が一斉に停止する。

通信が乱れる。

光が揺れる。

そして、画面に表示される。

RECOVERY SYSTEM:TEMPORARY HALT(90sec)

90秒。

短い。
でも十分だ。

アルトは叫ぶ。

「DOC-0を流せ!!」

セイルが涙を拭く暇もなくキーを叩く。

「拡散……開始!」

データが走る。

世界の底に沈むように、静かに拡がる。

そして、管理はそれをすぐには消せない。

“消した”という記録が残るからだ。

残す。
定義しないまま、残る。

回収班が動かないまま、アルトは一歩後ろへ下がった。

息が荒い。
視界が揺れる。

でも倒れない。

セイルが叫ぶ。

「アルト!!行こう!!今なら逃げられる!!」

アルトは頷いた。

「行く」

二人は走る。

旧通路の奥へ。

出口は一つ。

暗闇の向こうに、わずかな外気の匂い。

出口の前で、アルトは立ち止まった。

そしてセイルに言った。

「……お前は先に行け」

セイルが叫ぶ。

「は!?無理!!」

アルトは淡々と言う。

「回収は90秒で再起動する」
「俺は囮になる」

セイルは涙を流す。

「そんなの……」
「仲間じゃないの!?BORDER REMAINSじゃないの!?」

アルトは小さく笑った。

「だからだ」
「残すために、誰かが残る」

その言葉は、ユウの影だった。

誰かが拾う。
誰かが残す。

未来はその繰り返しでしか続かない。

その時、背後で回収班の端末が再起動する音がした。

光が戻る。

足音が戻る。

正しさが戻る。

アルトは一歩前に出た。

そして、最後に言った。

「セイル」
「シオンに伝えろ」

「俺は壊さない」
「でも、止めた」

セイルは泣きながら頷き、走った。

アルトは振り返る。

回収班が再び動き出す。

指揮官が言う。

「拘束を再開する」
「個体アルト、確保」

アルトは静かに呟いた。

「来い」
「正しさ」

金属がまた、僅かに歪む。

空気が揺れる。

監視ログが、黒いノイズを吐く。

世界が、発火寸前の音を立てた。
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断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

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