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第壱幕 神託
第七話
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厳粛な雰囲気が場を支配している。
呼吸するのさえ苦しいと感じるほど、わたしは緊張していた。
今日は神託の日。
どういう訳か、わたしと秋ちゃんは充実様に連れられて儀式の様子を見る事になった。
関係者以外参加はおろか見る事すら許されないのに。
充実様が連れて入るとしたら、絶対に紅椿さんだと思っていたのに。
今朝になって突然呼び出された時は、わたしは一体どんな粗相をしたのかと思っちゃった。
結依ちゃんには悪いと思ったけれど、生で神託を見られるなんて、すごく光栄で。
でも、なんか混乱しちゃって、どうしたらいいのかよくわからない。
部屋の隅で正座をし、わたしと秋ちゃんはじっと様子を見守り続けている。
『冬、そんなに緊張してどうするのよ』
「だ、だってぇ」
幽霊のお姉さんがやれやれと肩を竦める。
いくら秋ちゃんが一緒でも、やっぱり不安で仕方なくて、幽霊のお姉さんにも付いて来てもらった。
わたしにしか見えないし、いいかなって。
迦楼羅丸様に捧げる祈りが終わり、いよいよ神託の儀式が始まる。
本来ならば充実様が神託の水晶を台の上に置くらしいんだけど、今回は秋ちゃんがその役目をする事になった。
わたしは本当に見ているだけで、どうして呼ばれたのか、よくわからない。
顔くらいはありそうな大きな水晶玉。
あれに手を翳して霊力を込め、大きく反応した人が姫巫女になれるんだって。
選ばれた人は、更に力を磨くための修行をするのだとか。
神託って、簡単に言えば『里を支える姫巫女に相応しい候補者を見つけ出す儀式』でもあるみたい。
里を支える一番偉い姫巫女を『姫神』といい、姫神を支える腹心といえる数名を『姫守』、さらにその下を『見習い』というのだとか。
初めて神託を受ける人は、選ばれれば晴れて見習いになれる。
神託を受けられるのは女性だけ。
彼女達は『姫巫女候補』と呼ばれ、まだ姫巫女じゃない。
そして、式神を連れていないと参加できないから、いくら霊力が強くても参加できない人もいる。
今回啼々家から参加する牡丹様と鈴蘭様は式神を連れていらっしゃるので問題ない。
二人とも、選ばれますように。
神託は始めに、これから10年間姫神となる人物を姫巫女達の中から選ぶ『壱の儀』から始まる。
姫神となる為に10年間厳しい修行をしてきた姫守達の中から、たった一人だけ選ばれる。
壱の儀が終われば、次は姫守を選ぶ『弐の儀』、そして姫巫女候補から見習いを選ぶための『参の儀』と続く。
今日から姫神となったのは啼々弤ことり様。
凛とした佇まいが、不安を掻き消してくれる。
選ばれなかった姫巫女達は悔しそうな顔をしていたけれど、どこか納得しているみたい。
参加していないのに、神託が進むにつれてわたしの胸はどんどん高鳴っていった。
どこか神秘的にも思える厳かで神聖な儀式に、その空気に、きっと飲み込まれているんだわ。
壱の儀、弐の儀と順調に進み、いよいよ参の儀。
姫巫女候補達が順番に水晶に手を翳していき、新しい見習い姫巫女を誕生させる。
今年は何人の見習いが誕生するのだろう。
みんなが固唾を飲んで見守った。
ここからが、不思議だった。
今まで注がれた霊力に反応して光り輝いていた水晶が、一切反応しなくなったの。
いくら姫巫女候補で、式神を連れていたとしても、一定量の霊力がなければ水晶は反応しないって秋ちゃんが言っていた。
それくらいはわたしだってなんとなくだけどわかる。
けれど、一切反応しないなんて、そんな事あるのかな?
候補者は27人。
なのに誰にも水晶は反応しなかった。
場がざわめく。
みんな動揺して、神託の最中だというのを忘れてしまっているかのようだった。
「いったい、どういう事だ?」
「誰一人反応しないなんてことは…」
「こんな事、初めてだ」
「まさか、この水晶は偽物では?」
「そんなバカな…」
「先ほど、10分間の休憩をとったが、その時に入れ替えられたのでは?」
「しかし、誰も水晶には近づいていなかったぞ?」
「では一体、なぜ…」
ざわざわと騒ぎ出すご当主様達に、充実様も少々困惑気味だった。
秋ちゃんはすごく冷静に…というよりは、少し冷たい感じの目でその様子を静かに見守っている。
「一人くらい、反応してもいいよね?」
『そんなに簡単じゃないって事じゃないかしら』
「そうなのかな」
『神託、と呼ばれているのだもの。きっとそうなのよ』
「でも、ご当主様達、すごくびっくりしているみたいだよ。充実様だって困惑しているみたいだし」
『私が生きていた頃には神託なんてなかったから、何とも言えないわ』
不安や混乱といった空気に場が飲み込まれていく。
初めて見た神託でこんな事が起きるなんて夢にも思わなかった。
わたしまで不安になってきた。
どうして秋ちゃんも幽霊のお姉さんもそんなに冷静なのかなぁ。
「今回は資格者がいなかった、それだけの事ではないのか?」
泰時様の一言で、場がしんと静まり返った。
「泰時?」
「突然の発言、すみません父上」
「かまわん、続けろ」
「ありがとうございます」
充実様はほんの少し眉根を寄せたけど、そのまま話すようにと泰時様を促す。
小さく頭を下げて、泰時様はご当主様達に向き直る。
「『資格者がいない』とは、どういう意味かな、泰時殿?」
「そのままの意味だ。今回は候補者の中に、見習いになるべき資格を持った者は誰一人としていなかった」
「その中に、妹の牡丹殿と鈴蘭殿がいる事をお忘れでは?」
「忘れてなどいない。二人の霊力はまだ弱い。選ばれなくて当然だ」
その一言に、みんなが牡丹様と鈴蘭様へ視線を向けた。
「お兄様のおっしゃる通りです。牡丹達にはまだ、お父様やお兄様のように強い霊力はありませんわ。当然の結果です。ねえ、鈴蘭」
「はい。わたくしもお姉様と同意見です」
悔しがるどころか凛として結果を受け止めるお二人はとても素敵で、鈴蘭様はわたしと同い年だという事を忘れそうになってしまった。
「私も、泰時殿の意見に同意します」
手を軽く上げて発言したのは、今年啼々鏡家の当主になったばかりの『啼々鏡誠士郎』様。
「私は当主となったばかりですし、今回が初めての参加です。そんな若輩者が口を挟むのはおこがましいとは思いますが、結果は真摯に受け止めるべきではないでしょうか」
「しかし…このような事、400年間一度もなかった事で…」
「そうだな」
「うむ」
「前例がないからといって、水晶が偽物だと思うのはおかしい話だ」
渋るご当主様達に対して、泰時様はやれやれと肩を竦めた。
「ではひとつ、確かめてみようじゃないか」
「確かめる?」
「そうだ。その水晶が偽物なのかどうか、確かめてみればいい」
にやりと、まるでいたずら小僧のような笑みを泰時様は浮かべる。
そしてなぜか、わたしを見た。
「ここにいる冬には、誰にも見えない幽霊が見える。そうだな」
「え?あ、はい」
「誰にも見えない、幽霊?」
その一言に場が少しざわめいた。
「お前がいつもいう幽霊のお姉さんは、今もいるのか?」
「はい、ここに」
お姉さんがいる場所を手で示せば、みんながお姉さんへと視線を向ける。
「何も感じないぞ?」
「私もだ」
「ワシもじゃ」
「私も」
やっぱりみんなが訝しんだ。
どうしてお姉さんはわたしにしか見えないし、わからないのだろう?
「本当にそこに幽霊がいるの?」
「はい」
わたしに質問したのは、先ほど姫守になった啼々鏡弥生様。
啼々鏡家は啼々一族の中でも特に霊力が強くて、霊体との交信に優れている。
簡単に言うと、幽霊を察知しやすい一族って事かな。
式神も幽霊がほとんどだし。
「お兄様、わかる?」
「いえ、私には全然。弥生は?」
「あたしもわからないわ」
弥生様は誠士郎様の妹で、二人は顔を見合わせて確かめ合う。
啼々鏡の方々でも幽霊のお姉さんは見えないのね。
本当に、どうしてわたしだけ?
「その少女の嘘ではないのかね?」
「そんな!わたし、嘘なんてついていません!」
「落ち着け、冬」
「あ、すみません、泰時様…」
思わず言い返してしまったわたしを手で制し、泰時様は続けた。
「啼々鏡でもわからない幽霊が見える冬に、神託をさせて確かめてみればいい。冬は嘘をつくような娘じゃないし、きっと反応するだろう」
「え?」
わたしに、神託を、させる?
「反応しなければ嘘という事になるが、おそらく反応するはずだ」
「その娘、式神は…」
「一介の女中が連れていると思うのか?」
「女中に神託をさせるなど…」
「そうだ、前代未聞だ」
「前代未聞の結果が出たのだ。もう一つくらい前代未聞があってもいいだろう」
ぎょっとして固まってしまったわたしを置いていけぼりにして話は進んでいく。
突然すぎる展開に、どうしたらいいのかわからない。
「よろしいですね、父上」
「ふぅむ…」
腕を組み、充実様は泰時様とわたしを交互に見る。
そして一度秋ちゃんに視線を向け、泰時様の案を了承した。
「いいだろう、やってみなさい」
「ありがとうございます。…おい、冬。神託をやってみろ」
「えええ!?あの、でも、突然そんな事言われましても…。わたし、修行なんてしていませんし、その…」
「これは命令だ」
「ううう…」
命令なんて言われたら、断れるわけないよぉ。
「どうしよう、秋ちゃん」
助けを求めて秋ちゃんを見る。
「折角だし、やってみたら?」
「そ、そんなぁ。だって、霊力を注ぐなんて、やり方とか全然わからないし…」
「心を落ち着けて水晶に手を翳してごらん」
「でもぉ」
『大丈夫よ、冬。私が教えてあげるから』
「お姉さんまで…」
「早くしろ、冬」
「さ、行っておいで」
むすっとした表情で泰時様が言う。
そっと秋ちゃんに背中を押されたら、もうやるしかない。
「ううう…」
全員の視線がわたしに集まって、もう緊張してきて、心臓がバクバクして…。
ああ、どうしよう。
どうしたらいいのかな。
もう全然、混乱して、えっと考えとかなんかもう、全然まとまらないよぉ。
はぅぅ、泣きたい。
呼吸するのさえ苦しいと感じるほど、わたしは緊張していた。
今日は神託の日。
どういう訳か、わたしと秋ちゃんは充実様に連れられて儀式の様子を見る事になった。
関係者以外参加はおろか見る事すら許されないのに。
充実様が連れて入るとしたら、絶対に紅椿さんだと思っていたのに。
今朝になって突然呼び出された時は、わたしは一体どんな粗相をしたのかと思っちゃった。
結依ちゃんには悪いと思ったけれど、生で神託を見られるなんて、すごく光栄で。
でも、なんか混乱しちゃって、どうしたらいいのかよくわからない。
部屋の隅で正座をし、わたしと秋ちゃんはじっと様子を見守り続けている。
『冬、そんなに緊張してどうするのよ』
「だ、だってぇ」
幽霊のお姉さんがやれやれと肩を竦める。
いくら秋ちゃんが一緒でも、やっぱり不安で仕方なくて、幽霊のお姉さんにも付いて来てもらった。
わたしにしか見えないし、いいかなって。
迦楼羅丸様に捧げる祈りが終わり、いよいよ神託の儀式が始まる。
本来ならば充実様が神託の水晶を台の上に置くらしいんだけど、今回は秋ちゃんがその役目をする事になった。
わたしは本当に見ているだけで、どうして呼ばれたのか、よくわからない。
顔くらいはありそうな大きな水晶玉。
あれに手を翳して霊力を込め、大きく反応した人が姫巫女になれるんだって。
選ばれた人は、更に力を磨くための修行をするのだとか。
神託って、簡単に言えば『里を支える姫巫女に相応しい候補者を見つけ出す儀式』でもあるみたい。
里を支える一番偉い姫巫女を『姫神』といい、姫神を支える腹心といえる数名を『姫守』、さらにその下を『見習い』というのだとか。
初めて神託を受ける人は、選ばれれば晴れて見習いになれる。
神託を受けられるのは女性だけ。
彼女達は『姫巫女候補』と呼ばれ、まだ姫巫女じゃない。
そして、式神を連れていないと参加できないから、いくら霊力が強くても参加できない人もいる。
今回啼々家から参加する牡丹様と鈴蘭様は式神を連れていらっしゃるので問題ない。
二人とも、選ばれますように。
神託は始めに、これから10年間姫神となる人物を姫巫女達の中から選ぶ『壱の儀』から始まる。
姫神となる為に10年間厳しい修行をしてきた姫守達の中から、たった一人だけ選ばれる。
壱の儀が終われば、次は姫守を選ぶ『弐の儀』、そして姫巫女候補から見習いを選ぶための『参の儀』と続く。
今日から姫神となったのは啼々弤ことり様。
凛とした佇まいが、不安を掻き消してくれる。
選ばれなかった姫巫女達は悔しそうな顔をしていたけれど、どこか納得しているみたい。
参加していないのに、神託が進むにつれてわたしの胸はどんどん高鳴っていった。
どこか神秘的にも思える厳かで神聖な儀式に、その空気に、きっと飲み込まれているんだわ。
壱の儀、弐の儀と順調に進み、いよいよ参の儀。
姫巫女候補達が順番に水晶に手を翳していき、新しい見習い姫巫女を誕生させる。
今年は何人の見習いが誕生するのだろう。
みんなが固唾を飲んで見守った。
ここからが、不思議だった。
今まで注がれた霊力に反応して光り輝いていた水晶が、一切反応しなくなったの。
いくら姫巫女候補で、式神を連れていたとしても、一定量の霊力がなければ水晶は反応しないって秋ちゃんが言っていた。
それくらいはわたしだってなんとなくだけどわかる。
けれど、一切反応しないなんて、そんな事あるのかな?
候補者は27人。
なのに誰にも水晶は反応しなかった。
場がざわめく。
みんな動揺して、神託の最中だというのを忘れてしまっているかのようだった。
「いったい、どういう事だ?」
「誰一人反応しないなんてことは…」
「こんな事、初めてだ」
「まさか、この水晶は偽物では?」
「そんなバカな…」
「先ほど、10分間の休憩をとったが、その時に入れ替えられたのでは?」
「しかし、誰も水晶には近づいていなかったぞ?」
「では一体、なぜ…」
ざわざわと騒ぎ出すご当主様達に、充実様も少々困惑気味だった。
秋ちゃんはすごく冷静に…というよりは、少し冷たい感じの目でその様子を静かに見守っている。
「一人くらい、反応してもいいよね?」
『そんなに簡単じゃないって事じゃないかしら』
「そうなのかな」
『神託、と呼ばれているのだもの。きっとそうなのよ』
「でも、ご当主様達、すごくびっくりしているみたいだよ。充実様だって困惑しているみたいだし」
『私が生きていた頃には神託なんてなかったから、何とも言えないわ』
不安や混乱といった空気に場が飲み込まれていく。
初めて見た神託でこんな事が起きるなんて夢にも思わなかった。
わたしまで不安になってきた。
どうして秋ちゃんも幽霊のお姉さんもそんなに冷静なのかなぁ。
「今回は資格者がいなかった、それだけの事ではないのか?」
泰時様の一言で、場がしんと静まり返った。
「泰時?」
「突然の発言、すみません父上」
「かまわん、続けろ」
「ありがとうございます」
充実様はほんの少し眉根を寄せたけど、そのまま話すようにと泰時様を促す。
小さく頭を下げて、泰時様はご当主様達に向き直る。
「『資格者がいない』とは、どういう意味かな、泰時殿?」
「そのままの意味だ。今回は候補者の中に、見習いになるべき資格を持った者は誰一人としていなかった」
「その中に、妹の牡丹殿と鈴蘭殿がいる事をお忘れでは?」
「忘れてなどいない。二人の霊力はまだ弱い。選ばれなくて当然だ」
その一言に、みんなが牡丹様と鈴蘭様へ視線を向けた。
「お兄様のおっしゃる通りです。牡丹達にはまだ、お父様やお兄様のように強い霊力はありませんわ。当然の結果です。ねえ、鈴蘭」
「はい。わたくしもお姉様と同意見です」
悔しがるどころか凛として結果を受け止めるお二人はとても素敵で、鈴蘭様はわたしと同い年だという事を忘れそうになってしまった。
「私も、泰時殿の意見に同意します」
手を軽く上げて発言したのは、今年啼々鏡家の当主になったばかりの『啼々鏡誠士郎』様。
「私は当主となったばかりですし、今回が初めての参加です。そんな若輩者が口を挟むのはおこがましいとは思いますが、結果は真摯に受け止めるべきではないでしょうか」
「しかし…このような事、400年間一度もなかった事で…」
「そうだな」
「うむ」
「前例がないからといって、水晶が偽物だと思うのはおかしい話だ」
渋るご当主様達に対して、泰時様はやれやれと肩を竦めた。
「ではひとつ、確かめてみようじゃないか」
「確かめる?」
「そうだ。その水晶が偽物なのかどうか、確かめてみればいい」
にやりと、まるでいたずら小僧のような笑みを泰時様は浮かべる。
そしてなぜか、わたしを見た。
「ここにいる冬には、誰にも見えない幽霊が見える。そうだな」
「え?あ、はい」
「誰にも見えない、幽霊?」
その一言に場が少しざわめいた。
「お前がいつもいう幽霊のお姉さんは、今もいるのか?」
「はい、ここに」
お姉さんがいる場所を手で示せば、みんながお姉さんへと視線を向ける。
「何も感じないぞ?」
「私もだ」
「ワシもじゃ」
「私も」
やっぱりみんなが訝しんだ。
どうしてお姉さんはわたしにしか見えないし、わからないのだろう?
「本当にそこに幽霊がいるの?」
「はい」
わたしに質問したのは、先ほど姫守になった啼々鏡弥生様。
啼々鏡家は啼々一族の中でも特に霊力が強くて、霊体との交信に優れている。
簡単に言うと、幽霊を察知しやすい一族って事かな。
式神も幽霊がほとんどだし。
「お兄様、わかる?」
「いえ、私には全然。弥生は?」
「あたしもわからないわ」
弥生様は誠士郎様の妹で、二人は顔を見合わせて確かめ合う。
啼々鏡の方々でも幽霊のお姉さんは見えないのね。
本当に、どうしてわたしだけ?
「その少女の嘘ではないのかね?」
「そんな!わたし、嘘なんてついていません!」
「落ち着け、冬」
「あ、すみません、泰時様…」
思わず言い返してしまったわたしを手で制し、泰時様は続けた。
「啼々鏡でもわからない幽霊が見える冬に、神託をさせて確かめてみればいい。冬は嘘をつくような娘じゃないし、きっと反応するだろう」
「え?」
わたしに、神託を、させる?
「反応しなければ嘘という事になるが、おそらく反応するはずだ」
「その娘、式神は…」
「一介の女中が連れていると思うのか?」
「女中に神託をさせるなど…」
「そうだ、前代未聞だ」
「前代未聞の結果が出たのだ。もう一つくらい前代未聞があってもいいだろう」
ぎょっとして固まってしまったわたしを置いていけぼりにして話は進んでいく。
突然すぎる展開に、どうしたらいいのかわからない。
「よろしいですね、父上」
「ふぅむ…」
腕を組み、充実様は泰時様とわたしを交互に見る。
そして一度秋ちゃんに視線を向け、泰時様の案を了承した。
「いいだろう、やってみなさい」
「ありがとうございます。…おい、冬。神託をやってみろ」
「えええ!?あの、でも、突然そんな事言われましても…。わたし、修行なんてしていませんし、その…」
「これは命令だ」
「ううう…」
命令なんて言われたら、断れるわけないよぉ。
「どうしよう、秋ちゃん」
助けを求めて秋ちゃんを見る。
「折角だし、やってみたら?」
「そ、そんなぁ。だって、霊力を注ぐなんて、やり方とか全然わからないし…」
「心を落ち着けて水晶に手を翳してごらん」
「でもぉ」
『大丈夫よ、冬。私が教えてあげるから』
「お姉さんまで…」
「早くしろ、冬」
「さ、行っておいで」
むすっとした表情で泰時様が言う。
そっと秋ちゃんに背中を押されたら、もうやるしかない。
「ううう…」
全員の視線がわたしに集まって、もう緊張してきて、心臓がバクバクして…。
ああ、どうしよう。
どうしたらいいのかな。
もう全然、混乱して、えっと考えとかなんかもう、全然まとまらないよぉ。
はぅぅ、泣きたい。
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