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第壱幕 神託
第十三話
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「うーん…」
ぐるぐると鍋の中をかき混ぜながら唸る。
なかなか決心がつかない。
充実様に呼ばれたのは、わたしを正式に姫巫女として認めるという話だった。
ほぼ丸一日話し合って決まったらしい。
充実様は嫌ならば断わっても構わないと言ってくれたけれど、『姫巫女になりたくてもなれない者がいる中、お前が選ばれたという事だけは、忘れないでほしい』とも言われた。
そうだよね、結依ちゃんや牡丹様や鈴蘭様達がなりたくても、なれなかった。
なりたいと思ってもいなかったわたしが選ばれた。
断るのは簡単だけれど、断るという事はみんなの思いを無駄にするって事なんだよね。
わたしに、姫巫女なんてできるのかな?
なんの修行もした事なくて、霊力の注ぎ方もあの時幽霊のお姉さんに初めて教えてもらったんだし。
第一、姫巫女になって何ができるの?
他の姫巫女達の足を引っ張るだけに決まってる。
わたしがやったって、意味なんて…。
「それ以上沸騰させたら、吹きこぼれるぞ」
「え?…ああ!」
指摘され、慌てて火を消す。
あ、危なかったぁ。
もう少しで昼食がダメになるところだったよ。
いくら使用人用の粥とはいえ、今日の当番はわたしなんだから、しっかりなくちゃ。
「まったく…なにをやっているんだ」
「ごめんなさい……って、や、やや、泰時様!?」
台所の入り口に腕を組んでやれやれという顔をした泰時様が立っていた。
わたしは慌てて頭を下げる。
「そのままでいい」
「ですが…」
「…命令だ、顔を上げろ」
「…はい」
ふう、とため息をつかれてしまった。
「父上達はお前を姫巫女にするという結論を出したらしいな」
「はい」
「それで、お前はどうするんだ?」
「…どう、しましょう」
「自分の事だろう」
「そう…ですけれど…。その、あまりにも突然で…」
「まあ、そうだろうな」
「すみません…」
「なぜ謝る」
「だって…」
「神託を受けさせたのはボクだ。ボクの命令に従った結果、お前には才能があるとわかった。そして話し合いでお前を姫巫女にすると決まった。謝る要素がどこにあるというのだ」
「……」
「あとは、お前が引き受けるかどうかだ」
「……」
「姫巫女の修行は厳しいぞ。モノノケと戦う事だってあるだろう。危険な目にも合うだろう。姫巫女は、戦う術を持たぬ者に代わって、最前線に立つ存在だ。命懸けになる」
「……」
「だからボクは、お前には姫巫女になってほしくない」
「…え?」
いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げると、らしくない泰時様の顔があった。
そんな困ったような泣きそうな顔、初めて見た。
「そうですよね。なんの修行もした事ない素人姫巫女になんて、安心して命を預けられませんからね」
「そういう意味じゃないんだが…」
「え?じゃあ…」
「とにかく、今の暮らしが大事なら、姫巫女にはなるな」
「今の…暮らしが…」
姫巫女にならなければ、わたしは女中としてずっとここにいられるのかな?
秋ちゃんと一緒に、ずっと……。
秋…ちゃんと……一緒……。
それって、ずっと秋ちゃんに頼っちゃうって事だよね?
ずっと、秋ちゃんに助けてもらって、ずっと秋ちゃんに守ってもらって…。
それって、どうなんだろう?
いつもそうだ。
無意識に秋ちゃんに頼って、いつの間にか守ってもらっていて、そんなの……。
そんなの、ダメだ!
いつも秋ちゃんはわたしを支えてくれている。
わたしだって、秋ちゃんを支えてあげたい。
守ってあげたい。
ううん、違う。
守ってあげたいんじゃない。
守りたい。
いつも守ってもらっているんだもん。
今度は、今度からは、わたしが!
わたしが、秋ちゃんを、守るんだ!
このまま女中でいたら、きっとわたしは一生秋ちゃんに頼っちゃう。
でも姫巫女になったら、秋ちゃんを守れるかもしれない。
「泰時様、姫巫女になったら、秋ちゃんを、守ってあげられるようになりますか?」
「秋だけじゃない。この里を守る事だってできるさ」
「この、里も…」
「冬、よく考えろ。この選択は、お前の運命を変えるものだ。選んだら、後戻りはできないぞ」
「…はい」
「もう一度言う。お前には素質がある。姫巫女になれば、人々をモノノケや愉比拿蛇の魔の手から守る事が出来る」
「……」
「だが、姫巫女とは命懸けの存在だ。常に死と隣り合わせになる危険性もある。その事を踏まえて、しっかり考えろ」
「はい」
「お前が出した答えにボクは異議を唱えない。だが、これだけは覚えておいてくれ」
「……」
「ボクは、お前に、姫巫女になってほしくない」
それだけ言うと、わたしの返事も聞かずに泰時様は背を向けて行ってしまった。
どんな思いで言ったのかわからないけれど、話せてよかった。
今までは漠然と『女中のわたしがなったって意味がない』としか思っていなかかったけれど、泰時様と話した事で、じっくりと考える事が出来るようになった気がする。
一晩、考えてみよう。
充実様も返事は三日以内にくれればいいって言ってくれたし。
いい加減、自立しなくちゃって思っていたし。
いい機会かもしれない。
姫巫女になれば、嫌でも一人で頑張らなくちゃいけない。
秋ちゃんに頼らなくなれるかもしれない。
今まで守られた分、今度はわたしが秋ちゃんを守りたい。
でも、修行をした事のないわたしは、人一倍の修行が必要になる。
頑張れるのかな?
どうなのかな?
わたしに、できるのかな?
ぐるぐると鍋の中をかき混ぜながら唸る。
なかなか決心がつかない。
充実様に呼ばれたのは、わたしを正式に姫巫女として認めるという話だった。
ほぼ丸一日話し合って決まったらしい。
充実様は嫌ならば断わっても構わないと言ってくれたけれど、『姫巫女になりたくてもなれない者がいる中、お前が選ばれたという事だけは、忘れないでほしい』とも言われた。
そうだよね、結依ちゃんや牡丹様や鈴蘭様達がなりたくても、なれなかった。
なりたいと思ってもいなかったわたしが選ばれた。
断るのは簡単だけれど、断るという事はみんなの思いを無駄にするって事なんだよね。
わたしに、姫巫女なんてできるのかな?
なんの修行もした事なくて、霊力の注ぎ方もあの時幽霊のお姉さんに初めて教えてもらったんだし。
第一、姫巫女になって何ができるの?
他の姫巫女達の足を引っ張るだけに決まってる。
わたしがやったって、意味なんて…。
「それ以上沸騰させたら、吹きこぼれるぞ」
「え?…ああ!」
指摘され、慌てて火を消す。
あ、危なかったぁ。
もう少しで昼食がダメになるところだったよ。
いくら使用人用の粥とはいえ、今日の当番はわたしなんだから、しっかりなくちゃ。
「まったく…なにをやっているんだ」
「ごめんなさい……って、や、やや、泰時様!?」
台所の入り口に腕を組んでやれやれという顔をした泰時様が立っていた。
わたしは慌てて頭を下げる。
「そのままでいい」
「ですが…」
「…命令だ、顔を上げろ」
「…はい」
ふう、とため息をつかれてしまった。
「父上達はお前を姫巫女にするという結論を出したらしいな」
「はい」
「それで、お前はどうするんだ?」
「…どう、しましょう」
「自分の事だろう」
「そう…ですけれど…。その、あまりにも突然で…」
「まあ、そうだろうな」
「すみません…」
「なぜ謝る」
「だって…」
「神託を受けさせたのはボクだ。ボクの命令に従った結果、お前には才能があるとわかった。そして話し合いでお前を姫巫女にすると決まった。謝る要素がどこにあるというのだ」
「……」
「あとは、お前が引き受けるかどうかだ」
「……」
「姫巫女の修行は厳しいぞ。モノノケと戦う事だってあるだろう。危険な目にも合うだろう。姫巫女は、戦う術を持たぬ者に代わって、最前線に立つ存在だ。命懸けになる」
「……」
「だからボクは、お前には姫巫女になってほしくない」
「…え?」
いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げると、らしくない泰時様の顔があった。
そんな困ったような泣きそうな顔、初めて見た。
「そうですよね。なんの修行もした事ない素人姫巫女になんて、安心して命を預けられませんからね」
「そういう意味じゃないんだが…」
「え?じゃあ…」
「とにかく、今の暮らしが大事なら、姫巫女にはなるな」
「今の…暮らしが…」
姫巫女にならなければ、わたしは女中としてずっとここにいられるのかな?
秋ちゃんと一緒に、ずっと……。
秋…ちゃんと……一緒……。
それって、ずっと秋ちゃんに頼っちゃうって事だよね?
ずっと、秋ちゃんに助けてもらって、ずっと秋ちゃんに守ってもらって…。
それって、どうなんだろう?
いつもそうだ。
無意識に秋ちゃんに頼って、いつの間にか守ってもらっていて、そんなの……。
そんなの、ダメだ!
いつも秋ちゃんはわたしを支えてくれている。
わたしだって、秋ちゃんを支えてあげたい。
守ってあげたい。
ううん、違う。
守ってあげたいんじゃない。
守りたい。
いつも守ってもらっているんだもん。
今度は、今度からは、わたしが!
わたしが、秋ちゃんを、守るんだ!
このまま女中でいたら、きっとわたしは一生秋ちゃんに頼っちゃう。
でも姫巫女になったら、秋ちゃんを守れるかもしれない。
「泰時様、姫巫女になったら、秋ちゃんを、守ってあげられるようになりますか?」
「秋だけじゃない。この里を守る事だってできるさ」
「この、里も…」
「冬、よく考えろ。この選択は、お前の運命を変えるものだ。選んだら、後戻りはできないぞ」
「…はい」
「もう一度言う。お前には素質がある。姫巫女になれば、人々をモノノケや愉比拿蛇の魔の手から守る事が出来る」
「……」
「だが、姫巫女とは命懸けの存在だ。常に死と隣り合わせになる危険性もある。その事を踏まえて、しっかり考えろ」
「はい」
「お前が出した答えにボクは異議を唱えない。だが、これだけは覚えておいてくれ」
「……」
「ボクは、お前に、姫巫女になってほしくない」
それだけ言うと、わたしの返事も聞かずに泰時様は背を向けて行ってしまった。
どんな思いで言ったのかわからないけれど、話せてよかった。
今までは漠然と『女中のわたしがなったって意味がない』としか思っていなかかったけれど、泰時様と話した事で、じっくりと考える事が出来るようになった気がする。
一晩、考えてみよう。
充実様も返事は三日以内にくれればいいって言ってくれたし。
いい加減、自立しなくちゃって思っていたし。
いい機会かもしれない。
姫巫女になれば、嫌でも一人で頑張らなくちゃいけない。
秋ちゃんに頼らなくなれるかもしれない。
今まで守られた分、今度はわたしが秋ちゃんを守りたい。
でも、修行をした事のないわたしは、人一倍の修行が必要になる。
頑張れるのかな?
どうなのかな?
わたしに、できるのかな?
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