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第壱幕 神託
第十四話
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「本日は迦楼羅丸様に一つ、お願いがございます」
「なんだ?」
ずずっとお茶をすすり、迦楼羅丸は秋を見た。
目覚めてからの迦楼羅丸は、ほぼ一日中客間から出ようとしない。
それどころか秋以外を寄せ付けようともしなかった。
曰く、『雑魚に興味はない』。
それでも迦楼羅丸は啼々家の守り神として祀られていた存在だ。
無下に扱う事も出来ず、充実は迦楼羅丸の要求通り秋に世話をさせていた。
「貴女様を目覚めさせた少女、覚えておいでですか?」
「あの白くて小さいのか?」
「はい。彼女は冬と申します。冬はこの後、姫巫女になります。もちろん『見習い』ですが」
「何故わかる」
「あの子の考えなら、手に取るように。そこで、お願いです」
「……」
「あの子が姫巫女となる決意をしたなら、あの子の傍にいて守ってあげてはもらえないでしょうか」
「この俺が?あの小娘を?」
「はい」
「守ってやる義理はない」
「そうでしょうか」
「どういう意味だ?」
眉をしかめる迦楼羅丸に対し、くすり、と秋は不敵な笑みを浮かべた。
「400年もの間、誰も貴方を目覚めさせる事ができなかったのに、冬だけはできた。何故だと思います?」
「知らん」
「『輪廻転生』というものはご存知ですか?」
「死んだ魂は廻り、生まれ変わるという思想だろう?それがどう……まさか!」
「冬が貴方を目覚めさせる事が出来たのは、啼々紫の生まれ変わりだから」
「本当か!?」
「という可能性がある、としか今は言えません」
「……」
「けれど、否定するだけの根拠はありませんよね」
「そうだな。あいつは、紫と同じように俺を『迦楼羅』と呼んだ。俺をそう呼ぶのは紫だけだった」
「残念ながら、冬には4歳より前の記憶がありません。冬は、気が付いた時には啼々家の使用人でした」
「失われた記憶に秘密がある、と?」
「さあ、どうでしょう。ですが、冬の傍にいれば何かわかるかもしれませんよ」
「確かに。…それにしても、お前はよほどあの小娘が大事なようだな」
「あの子は、僕の宝物ですから」
「俺が傍にいれば、確かに小娘の生存確率は高くなる。だが、それでは小娘は成長しないぞ」
「わかっています。ですが、僕に出来る事は限られていますし、『彼』の存在は秘密にしておきたい」
「……」
彼という単語を聞き、迦楼羅丸は障子の向こうに視線を投げた。
今もなお、こちらを探るような気配を感じる。
名も知らぬ、秋の親友とかいう神鬼。
どうして秋が秘密にしたがるのか、その理由は分からない。
興味もない。
「いいだろう。小娘の護衛、引き受けてやろう」
「ありがとうございます」
「ただし、式神契約はしない。俺の主は、紫だけだからな」
「十分です」
迦楼羅丸が最後に見た啼々紫は、愉比拿蛇との激しい戦いで傷だらけになった姿。
死の淵まで追いやられ、殺されそうになった自分を救おうと、必死に手を伸ばしていた。
気高く、気丈で、涙なんてほとんど見せた事のなかった紫が、自分を見て涙を流していた。
紫の笑顔が好きで、いつまでも笑っていてほしくて。
彼女の為なら命なんて惜しくはなかった。
だからこそ、愉比拿蛇との戦いで、彼女の盾となる道を選んだというのに…。
なのに、自分は封印されて400年もの間のうのうと眠り、命よりも大切な存在は殺されてしまった。
紫がいない今、自分には存在価値などないと思っていた迦楼羅丸にとって、冬が紫の生まれ変わりなのかもしれないという話は、運命を感じた。
『ねぇ迦楼羅。私達はきっと、すっごく強い絆で結ばれているわ』
不意に、紫の言葉が蘇る。
愉比拿蛇との決戦前夜、夕日の沈む小高い丘の上で、紫は迦楼羅丸に最高の笑顔を向けた。
その強く結ばれた絆が、こうして自分を現代に蘇らせたのだろうか?
冬が紫の生まれ変わりだとわかるまでの間、守ってやるのも悪くはない。
「なんだ?」
ずずっとお茶をすすり、迦楼羅丸は秋を見た。
目覚めてからの迦楼羅丸は、ほぼ一日中客間から出ようとしない。
それどころか秋以外を寄せ付けようともしなかった。
曰く、『雑魚に興味はない』。
それでも迦楼羅丸は啼々家の守り神として祀られていた存在だ。
無下に扱う事も出来ず、充実は迦楼羅丸の要求通り秋に世話をさせていた。
「貴女様を目覚めさせた少女、覚えておいでですか?」
「あの白くて小さいのか?」
「はい。彼女は冬と申します。冬はこの後、姫巫女になります。もちろん『見習い』ですが」
「何故わかる」
「あの子の考えなら、手に取るように。そこで、お願いです」
「……」
「あの子が姫巫女となる決意をしたなら、あの子の傍にいて守ってあげてはもらえないでしょうか」
「この俺が?あの小娘を?」
「はい」
「守ってやる義理はない」
「そうでしょうか」
「どういう意味だ?」
眉をしかめる迦楼羅丸に対し、くすり、と秋は不敵な笑みを浮かべた。
「400年もの間、誰も貴方を目覚めさせる事ができなかったのに、冬だけはできた。何故だと思います?」
「知らん」
「『輪廻転生』というものはご存知ですか?」
「死んだ魂は廻り、生まれ変わるという思想だろう?それがどう……まさか!」
「冬が貴方を目覚めさせる事が出来たのは、啼々紫の生まれ変わりだから」
「本当か!?」
「という可能性がある、としか今は言えません」
「……」
「けれど、否定するだけの根拠はありませんよね」
「そうだな。あいつは、紫と同じように俺を『迦楼羅』と呼んだ。俺をそう呼ぶのは紫だけだった」
「残念ながら、冬には4歳より前の記憶がありません。冬は、気が付いた時には啼々家の使用人でした」
「失われた記憶に秘密がある、と?」
「さあ、どうでしょう。ですが、冬の傍にいれば何かわかるかもしれませんよ」
「確かに。…それにしても、お前はよほどあの小娘が大事なようだな」
「あの子は、僕の宝物ですから」
「俺が傍にいれば、確かに小娘の生存確率は高くなる。だが、それでは小娘は成長しないぞ」
「わかっています。ですが、僕に出来る事は限られていますし、『彼』の存在は秘密にしておきたい」
「……」
彼という単語を聞き、迦楼羅丸は障子の向こうに視線を投げた。
今もなお、こちらを探るような気配を感じる。
名も知らぬ、秋の親友とかいう神鬼。
どうして秋が秘密にしたがるのか、その理由は分からない。
興味もない。
「いいだろう。小娘の護衛、引き受けてやろう」
「ありがとうございます」
「ただし、式神契約はしない。俺の主は、紫だけだからな」
「十分です」
迦楼羅丸が最後に見た啼々紫は、愉比拿蛇との激しい戦いで傷だらけになった姿。
死の淵まで追いやられ、殺されそうになった自分を救おうと、必死に手を伸ばしていた。
気高く、気丈で、涙なんてほとんど見せた事のなかった紫が、自分を見て涙を流していた。
紫の笑顔が好きで、いつまでも笑っていてほしくて。
彼女の為なら命なんて惜しくはなかった。
だからこそ、愉比拿蛇との戦いで、彼女の盾となる道を選んだというのに…。
なのに、自分は封印されて400年もの間のうのうと眠り、命よりも大切な存在は殺されてしまった。
紫がいない今、自分には存在価値などないと思っていた迦楼羅丸にとって、冬が紫の生まれ変わりなのかもしれないという話は、運命を感じた。
『ねぇ迦楼羅。私達はきっと、すっごく強い絆で結ばれているわ』
不意に、紫の言葉が蘇る。
愉比拿蛇との決戦前夜、夕日の沈む小高い丘の上で、紫は迦楼羅丸に最高の笑顔を向けた。
その強く結ばれた絆が、こうして自分を現代に蘇らせたのだろうか?
冬が紫の生まれ変わりだとわかるまでの間、守ってやるのも悪くはない。
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