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第参幕 霊具
第十七話
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しばらく走り、木々が多く、けれども視界のいい場所で止まる。
走ってきた方向から見てただの雪の塊に見えるようにとあられが雪を積み上げて壁を作った。
姥妙から身を隠しつつ、何とか勝つための作戦を立てなくちゃ。
「霰…」
「アタシ絶対に嫌だからね」
まだ何も言っていないけれど、ささめさんの言いたい事はわたしにもわかる。
「ささめさん、皆で力を合わせれば大丈夫ですよ」
「そうでござる。安心なされよ」
姥妙は強いと思う。
でも蛇の姿になっている時は確かに体は大きいけれど、その分小回りが利かないし、足元に死角も出来る。
そのあたりをつけば、きっと勝機はあるはずだよね。
「……」
ささめさんは肩を押さえて黙り込んでしまった。
もしかして、傷口がひらいちゃったのかな?
早く安全な場所に連れて行ってちゃんとした手当てをしないと。
「アンタさ、もうちょっと強力な炎出せないの?」
「今の拙者にはあれが限界火力でござる」
「あんなのじゃ、あの蛇男に効かないわよ」
「接近して打ち込む、というのはどうでござろうか?」
「うーん…」
腕を組んで考え込むあられに対し、宿祢は周囲に素早く視線を投げ、常に警戒に当たる。
あられの雪で視界を遮り、わたしが囮になってその隙に宿祢が接近して炎を纏った錫杖を打ち込むのがベストだと思うんだけど…。
ただ、わたしに囮が務まるのかが謎だよね。
姥妙はわたしじゃなくてささめさんを狙っている訳だし。
かといって怪我をしているささめさんを囮になんてできないよ。
うーん、何かいい作戦はないかなぁ。
「冬さん、でしたね。巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「気にしないでください。わたしが自分から巻き込まれたんですから」
「ありがとうございます。どうか、霰を守ってあげてください」
「もちろんです。ささめさんの事だって姥妙から守りますから」
わたしがそう断言すれば、ささめさんは肩をぎゅっと掴み、とても真剣な眼差しで返した。
「いいえ、姥妙からではなく、私から守ってほしいのです」
「え?ささめさん、から?」
「はい。霰は私のたった一人の家族です。あの子にもしもの事があったらと思うと…。だから、どうか私から霰を守ってください」
「ちょ、ちょっと待ってください。それって一体どういう…」
「うぐっ」
ささめさんの言っている意味が分からなくて慌てて聞き返そうとした時、ささめさんが苦しそうな声を出した。
顔を歪め、肩を強く掴む。
よほど肩が痛いのか、掴む手は白くなり、体を丸くするかのように曲げはじめた。
「兄様!?」
「細殿、痛むのでござるか?」
「ささめさん、しっかりしてください」
慌ててあられがささめさんの体に手を添えた。
でもどうしていいのかわからずに、ただ見ている事しかできない。
「あ…が…」
ささめさんの口から洩れるのは呻き声のようなものだけ。
ぼこり、と服の上からでもわかるように肩がおかしな形になっている。
肩に棘とげでも生えているかのように、丸みを帯びた部分が尖とがっている。
「なに?なんのなの?なによ、これぇ」
それを見てあられの声が震えた。
雪ん子によくある現象、という訳ではないみたい。
ということはこれ、姥妙の攻撃によるものなのかも。
わたし達が見ている事しかできない間にも、ささめさんの腕はどんどん変形していく。
肩から突き出た棘のようなものは服を突き破ってその姿を見せた。
それは氷の塊で、右肩だけでなく右腕全体が氷でできた腕へと変貌を遂げようとしていた。
硬く冷たい腕は元の腕の五倍以上ありそうなくらいに太くて大きい。
ささめさんの身長よりも長くなろうとしている腕を、わたしは呆然と見つめる事しかできなかった。
「冬…さん」
「は、はい!」
「霰を…どうか…まも…て…」
ささめさんは立ち上がり、わたし達からゆっくりと距離を取り始めた。
その行動にハッとなったあられが慌てて駆け寄ろうとする。
「それ以上近づくな!」
怒鳴り声と共にわたし達とささめさんの間で雪が爆発した。
舞い上がる雪の隙間から人の姿をした姥妙の後ろ姿が見える。
さっきの声は姥妙だったみたい。
「ば…みょ…」
「悪ぃ、遅くなった」
ささめさんにそう返した姥妙は、両腕に氷を纏わせ始める。
それは腕と一体化した巨大なツララのよう。
未だに変貌の止まらないささめさんを見据え、姥妙は腰を落とす。
もしかして、突っ込むつもりじゃ…。
「お嬢ちゃん!霰ちゃん連れてさっさと避難を…」
姥妙が言い終わるよりも早く、あられが姥妙の前に立ちはだかった。
両手を広げ、ささめさんを守る壁になる。
「兄様には指一本触れさせないんだから!」
「馬鹿っ!そいつはもう細じゃ…」
「うぐぁぁぁああああああああ!!!」
何が起きているのかわからず、それでもささめさんを守る為に立ち上がったあられに、姥妙は焦ったように叫ぶ。
だがその声は突然叫びだしたささめさんによってかき消されてしまった。
それは叫び声というよりも、獣の咆哮に近い。
「兄…」
なにかが、わたしの横を勢いよく通り過ぎて行った。
「え?」
背後で聞こえる木が倒れる音に慌てて振り返る。
折れた木の合間からあられの着物が見えた。
もう一度振り返る。
ささめさんの前にいたはずのあられがいなくなっていた。
「細…」
「GUGAAAAAAAA」
姥妙の問いかけにも、ささめさんは咆哮を返すだけ。
まさか、これって…。
頭の中に過よぎった最悪の答えを、幽霊のお姉さんが声に出して肯定してくれた。
『魔物化現象…』
走ってきた方向から見てただの雪の塊に見えるようにとあられが雪を積み上げて壁を作った。
姥妙から身を隠しつつ、何とか勝つための作戦を立てなくちゃ。
「霰…」
「アタシ絶対に嫌だからね」
まだ何も言っていないけれど、ささめさんの言いたい事はわたしにもわかる。
「ささめさん、皆で力を合わせれば大丈夫ですよ」
「そうでござる。安心なされよ」
姥妙は強いと思う。
でも蛇の姿になっている時は確かに体は大きいけれど、その分小回りが利かないし、足元に死角も出来る。
そのあたりをつけば、きっと勝機はあるはずだよね。
「……」
ささめさんは肩を押さえて黙り込んでしまった。
もしかして、傷口がひらいちゃったのかな?
早く安全な場所に連れて行ってちゃんとした手当てをしないと。
「アンタさ、もうちょっと強力な炎出せないの?」
「今の拙者にはあれが限界火力でござる」
「あんなのじゃ、あの蛇男に効かないわよ」
「接近して打ち込む、というのはどうでござろうか?」
「うーん…」
腕を組んで考え込むあられに対し、宿祢は周囲に素早く視線を投げ、常に警戒に当たる。
あられの雪で視界を遮り、わたしが囮になってその隙に宿祢が接近して炎を纏った錫杖を打ち込むのがベストだと思うんだけど…。
ただ、わたしに囮が務まるのかが謎だよね。
姥妙はわたしじゃなくてささめさんを狙っている訳だし。
かといって怪我をしているささめさんを囮になんてできないよ。
うーん、何かいい作戦はないかなぁ。
「冬さん、でしたね。巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「気にしないでください。わたしが自分から巻き込まれたんですから」
「ありがとうございます。どうか、霰を守ってあげてください」
「もちろんです。ささめさんの事だって姥妙から守りますから」
わたしがそう断言すれば、ささめさんは肩をぎゅっと掴み、とても真剣な眼差しで返した。
「いいえ、姥妙からではなく、私から守ってほしいのです」
「え?ささめさん、から?」
「はい。霰は私のたった一人の家族です。あの子にもしもの事があったらと思うと…。だから、どうか私から霰を守ってください」
「ちょ、ちょっと待ってください。それって一体どういう…」
「うぐっ」
ささめさんの言っている意味が分からなくて慌てて聞き返そうとした時、ささめさんが苦しそうな声を出した。
顔を歪め、肩を強く掴む。
よほど肩が痛いのか、掴む手は白くなり、体を丸くするかのように曲げはじめた。
「兄様!?」
「細殿、痛むのでござるか?」
「ささめさん、しっかりしてください」
慌ててあられがささめさんの体に手を添えた。
でもどうしていいのかわからずに、ただ見ている事しかできない。
「あ…が…」
ささめさんの口から洩れるのは呻き声のようなものだけ。
ぼこり、と服の上からでもわかるように肩がおかしな形になっている。
肩に棘とげでも生えているかのように、丸みを帯びた部分が尖とがっている。
「なに?なんのなの?なによ、これぇ」
それを見てあられの声が震えた。
雪ん子によくある現象、という訳ではないみたい。
ということはこれ、姥妙の攻撃によるものなのかも。
わたし達が見ている事しかできない間にも、ささめさんの腕はどんどん変形していく。
肩から突き出た棘のようなものは服を突き破ってその姿を見せた。
それは氷の塊で、右肩だけでなく右腕全体が氷でできた腕へと変貌を遂げようとしていた。
硬く冷たい腕は元の腕の五倍以上ありそうなくらいに太くて大きい。
ささめさんの身長よりも長くなろうとしている腕を、わたしは呆然と見つめる事しかできなかった。
「冬…さん」
「は、はい!」
「霰を…どうか…まも…て…」
ささめさんは立ち上がり、わたし達からゆっくりと距離を取り始めた。
その行動にハッとなったあられが慌てて駆け寄ろうとする。
「それ以上近づくな!」
怒鳴り声と共にわたし達とささめさんの間で雪が爆発した。
舞い上がる雪の隙間から人の姿をした姥妙の後ろ姿が見える。
さっきの声は姥妙だったみたい。
「ば…みょ…」
「悪ぃ、遅くなった」
ささめさんにそう返した姥妙は、両腕に氷を纏わせ始める。
それは腕と一体化した巨大なツララのよう。
未だに変貌の止まらないささめさんを見据え、姥妙は腰を落とす。
もしかして、突っ込むつもりじゃ…。
「お嬢ちゃん!霰ちゃん連れてさっさと避難を…」
姥妙が言い終わるよりも早く、あられが姥妙の前に立ちはだかった。
両手を広げ、ささめさんを守る壁になる。
「兄様には指一本触れさせないんだから!」
「馬鹿っ!そいつはもう細じゃ…」
「うぐぁぁぁああああああああ!!!」
何が起きているのかわからず、それでもささめさんを守る為に立ち上がったあられに、姥妙は焦ったように叫ぶ。
だがその声は突然叫びだしたささめさんによってかき消されてしまった。
それは叫び声というよりも、獣の咆哮に近い。
「兄…」
なにかが、わたしの横を勢いよく通り過ぎて行った。
「え?」
背後で聞こえる木が倒れる音に慌てて振り返る。
折れた木の合間からあられの着物が見えた。
もう一度振り返る。
ささめさんの前にいたはずのあられがいなくなっていた。
「細…」
「GUGAAAAAAAA」
姥妙の問いかけにも、ささめさんは咆哮を返すだけ。
まさか、これって…。
頭の中に過よぎった最悪の答えを、幽霊のお姉さんが声に出して肯定してくれた。
『魔物化現象…』
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