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第参幕 霊具
第十六話
しおりを挟む人間界で生まれた命は、人間もモノノケも関係なく聖霊結合種の影響を受けている。
聖霊結合種というのは、精霊の時代の終わりに生まれた種族で、わたし達の祖先にあたるの。
精霊の時代が終わりを告げて間もなく、空から巨大な隕石が落下してきて、世界は滅亡の危機にさらされた。
当時人間の祈りや怖れといったものを糧としていた精霊達が人間達と人間界を守る為に人間と融合し、新たな力を持った種族が生まれたの。
それが聖霊結合種。
火の精霊と融合した、あるいは炎の力を受け継いだ人間は赤い髪と赤い目を、水の精霊ならば青い髪と青い目を、風の精霊ならば緑の髪と緑の目を、地の精霊ならば茶色の髪と茶色の目を、という感じで一目見ただけでわかるんだよ。
現在は色んな種族が混ざり合って髪と目が同じ色の人はほとんどいない。
けれども属性と呼ばれる基本の能力…というか相性みたいなものは目の色を見ればわかるの。
宿祢は空色、つまり青系統だから水属性。
あられやささめさんは青だけど、水というよりは氷みたい。
雪ん子だしね。
世界を構成する四大元素と呼ばれる地水火風に基本的には割り当てられるんだけど、そこから派生している属性とか絡んでくるから、学術的には結構細かい区分があるみたい。
基礎中の基礎として四大元素と相性について覚えておけばいいって、前に秋ちゃんが言ってた。
今回の場合、姥妙は氷の塊を出してくることから見ても氷属性なのは明らか。
宿祢は水属性だから水の術と相性がいいわけだけど…。
水なんて出したら冷気にやられてあっという間に凍っちゃう。
氷を溶かす為にはやっぱり火なんだけど、炎を自在に操ってくれる迦楼羅丸様は、今回手を貸してくれないみたいだし…。
うーん、どうしたらいいのかなぁ?
『やっぱり、宿祢の炎じゃ威力が足りないみたいね。氷は砕けても、おそらくは鱗が邪魔をしてダメージは与えられないわ』
「正確に防がれちゃってるのは、やっぱり勢いが足りないせい?」
『ええ。迦楼羅ほどとは言わないけれど、もう少しスピードを上げないと囮にもならないわ』
「そっか…」
宿祢が放つ火の玉は、姥妙が吐き出す氷のつぶてに相殺され、たどり着く事すらできない。
あられの雪竜巻が視界を遮るものの、尻尾のひと薙ぎであっという間に消されてしまう。
攻撃しているのはわたし達なのに、こっちが防戦一方になっている気がしてくる。
姥妙は氷の塊の形をツララのようにとがったものや、ボールのような球状のものに変える事ができてバリエーション豊かなのに対し、あられは雪を自在に操る事しかできないみたい。
吹雪のように激しく吹かせても、目くらましにはいいけれどダメージなんて与えられない。
さっき出した氷の塊は、何度も使えるものじゃないみたいだし。
まして宿祢は接近戦で本領発揮だがら、近づけないと意味がない。
姥妙が大蛇の姿になって大ぶりな攻撃しかしてこない今の内に何とか勝機を見出したいけど……。
やっぱり、作戦も何もないんじゃ勝てない。
連携プレーなんて出会ったばかりのわたし達には無理すぎる。
一度姥妙から離れて作戦を練らなくちゃ。
でもその為にはこの氷の壁を何とかしなくちゃいけないよね。
わたしの力じゃ砕くどころか傷一つつかなそうだし……そうだ!
「宿祢、錫杖に炎を纏わせる事ってできる?」
「これに、でござるか?」
「うん。このままじゃ絶対に勝てないし、一度逃げて作戦を立てよう」
「戦略的撤退という訳でござるな、承知」
ひらりと舞い降りてきた宿祢はわたしのお願いした通り錫杖に妖術をかける。
錫杖に炎がまるで蛇のように巻きついた。
「あられ!吹雪で視界を遮って!」
「まかせてっ」
わたしの考えを瞬時に理解してくれたらしく、あられが強烈な吹雪を引き起こす。
わたし達の前から完全に姥妙が消えた。
「はっ!」
バキィィィン
すぐさま宿祢が炎付き錫杖で氷壁を攻撃する。
わたしの考え通り氷壁は簡単に砕く事が出来た。
砕けなかったらどうしようかと思ったけど、何とかうまくいって良かった。
安堵する時間も惜しんですぐさま走り出す。
もちろん雪で足跡を消すのも忘れない。
あられが生み出した吹雪の追い風も受け、文字通り風のように駆けた。
わたしはやっぱり途中で宿祢に抱き上げられたけど。
雪の上を走る訓練もしなくちゃダメかなぁ。
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