四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第参幕 霊具

第二一話

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「聞いて、あられ」
「冬…」
「絶対に助けるとは言えない。任せてなんて胸を張って言えない。約束なんてできない。断言も出来ない。だけどわたし、やってみる。ささめさんを助けられる可能性があるなら、わたし、やる!」
「冬…!」
「誠士郎様、わたし、どうしたらいいですか?」
「まずは宝珠の力を感じ取ってください。宝珠が持つ力をゆっくりと霊具に乗せるのです」
「わたし、霊具なんて使えません」
「だったら、一緒に霊具も習得してしまいましょう」
「か、簡単に言いますけど…」
「更科さん、宿祢さん、時間を稼いでください。少しでも冬さんが集中できる環境が欲しいのです」
「了解でござる」
ばさりと大きく羽を羽ばたかせ宿祢が空に舞う。
「姥妙殿!聞いてくだされ…」
そのまま姥妙に叫んだ。
説明をして姥妙にも手伝ってもらうつもりみたい。
ささめさんを元に戻す為には確かに姥妙にも協力してもらう必要がある。
「それじゃ、ひとっ走り行ってくるかねぇ」
ワオーン、とひと鳴きし、犬の姿に戻った更科様がささめさんに飛びかかる。
「泰時君は私と冬さんの護衛をお願いします」
「護衛?」
「少しでも早く冬さんが宝珠を感じられるように私の霊力で誘導します。その為には、この結界を解かなければなりません」
「なるほどな。わかった」
こくりと頷き泰時様は背を向ける。
鞘から刀を抜き放ちわたし達の前方へと歩みを進める。
「いいか、この僕が時間を稼いでやるんだからな。失敗は許さないぞ」
「はい」
「霰さん。時間稼ぎとはいえ、お兄さんと戦う事はできますか?」
「…やるよ。アタシだけ何もしないなんて、そんなのやだ」
「ならば、お願いします」
「わかったわ。その代り…冬。お願いね」
「うん、一緒にささめさんを助けよう」
頷き合うと、あられは雪の上を駆け抜けていく。
「では、結界を解きます。冬さん、準備はいいですか?」
『私も誘導に協力するわ』
「ありがとう、お姉さん。誠士郎様、お願いします」
わたしの言葉に誠士郎様が頷く。
すぐにわたし達を包んでいた結界がなくなり、周辺に氷の塊が落下するようになる。
わたし達に当たらないようにと泰時様が一人で氷の塊を砕いていく。
普通の刀じゃそんな事は出来ないから、もしかしたらあの刀は泰時様の霊具なのかもしれない。
宿祢とあられが妖術でささめさんの注意を惹きつけ、大蛇の姥妙と大犬の更科様がささめさんの自由を奪っている。

「冬さん、手を」
「はい」
わたしは言われた通りに右手を誠士郎様の右手に乗せた。
同じように左手を幽霊のお姉さんの左手に乗せる。
誠士郎様の右手と幽霊のお姉さんの左手が帯の結び目に添えられた。
誠士郎様に言われるままゆっくりと目を閉じる。
両手から別々の温かい何かを感じる。
上手く説明できないけれど、これがきっと二人の霊力なんだと思う。
周りの音がすごく気になってしまうのは、まだちゃんと集中できていない証。
音が聞こえなくなるくらいに集中しなくちゃ。
この温かい二人の霊力だけを感じなくちゃ。

霊力が、流れてる。
どこに流れてるの?
行きつく先は背中の宝珠のはずなのに、わからない。
まだ感じられない。
流れを追いきれない。
もっと早く。
早くしないと、ささめさんが…!

『焦らなくても大丈夫。こっちよ、冬』

お姉さんが呼んでいる。

『みんなで力を合わせて細さんを助けるのよ。だから、焦りは禁物』

お姉さんの声に導かれるように、わたしは霊力を辿っていく。

『みんなを信じて』

うん、そうだよね。
宿祢が、あられが、姥妙が、更科様が、必ず時間を稼いでくれる。
泰時様が、必ず守ってくれる。
お姉さんと誠士郎様が、必ず導いてくれる。
わたしは、必ず宝珠を感じ取ってみせる!

『そうよ、その息よ。大丈夫、冬なら出来るわ。だって貴女は私を感じ取ってくれたじゃない』

そうだね。
お姉さん、わたしにしか見えないもんね。
声だって聞こえないし。
わたし、もしかしたら感じ取るのが上手いのかもしれないもんね。

『その調子よ。自信を持って。弱気な心では感じられるものも感じられないわ』

ありがとう、お姉さん。
わたしなら出来る。
きっと出来る。
お願い、四季の宝珠。
わたし、ささめさんを助けたいの。
少しでも力になりたいの。
わたしにしかできないのなら、わたし頑張るよ。
目の前にいる人を、手を伸ばせば届く距離にいる人を、わたしは助けたい。
人間もモノノケも関係なく、わたしは困っている人を助けたい。
その為に四季の宝珠、あなたの力が必要なの。
わたしに、どうか、応えて……!

お姉さんと誠士郎様の導きの先、なにかを、見つけた。
桜色の光は、あの水晶玉と同じ色。
中央で輝く白銀の光は、冷たそうな色なのにすごく温かい。
そう…。
その桜色の光が、邪魔をしていたんだね。
わたしなら大丈夫だよ、ちゃんと受け止められるから。
だからどうか、あなたの力をわたしに貸して。
わたしと同じ名の――。

「冬さん!」

誠士郎様の声が突然耳元で聞こえた。
温かい何かが体を覆う。
何か越しに衝撃が伝わり、背中がじんわりと冷たい。
びっくりして目を開けると、すぐ近くに誠士郎様の顔があってさらにびっくりした。
誠士郎様っていつも優しく微笑んでいるイメージだったのに、今は顔を歪めている。
「誠士郎…様?」
「誠士郎!大丈夫か!?」
視界の隅に、慌てて駆け寄ってきた泰時様が入る。
そしてわたしに覆いかぶさっていた誠士郎様に手を添えた。
泰時様、傷だらけだわ。
服にも血が滲んでる。
そうだよね、一人でわたし達を守ってくれていたんだもんね。
「だい、じょうぶ」
苦しそうな声を出しながらも誠士郎様は笑い返した。
わたし、もしかして誠士郎様に庇ってもらったの?
「冬さん、怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「しゃべるな誠士郎。今手当を…」
「いえ、それよりも続きを」
手当てをしようとする泰時様を手で制し、誠士郎様はわたしの手を取る。
「大丈夫です。宝珠、感じました。もう誘導してもらわなくても…」
『冬!後ろよ!』「危ない!」
お姉さんと誠士郎様の声が重なる。
誠士郎様はわたしを抱きしめてそのまま地面に倒れこむ。
「はっ!」
泰時様は刀で氷の塊を砕く。
けど、今までよりも大きな塊は砕ききれず、大粒の破片が泰時様とわたしを庇った誠士郎様の背中に降り注いだ。
「せ、誠士郎様!」
「大丈夫、です。泰時君は…」
「僕もまだ、立てる」
ふらつきながらも泰時様は刀を構えた。
『冬、貴女が今すべき事は何?二人を心配する事?』
お姉さんに言われなくてもわかってる。
わたしが今、するべき事は、宝珠の力を霊具に乗せる事!
霊具はまだわからないけれど、宝珠は見つけた。
確かに感じた。
わたしと同じ『冬』の名を持つ宝珠。
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