四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第四幕 愉比拿蛇

第二話

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「ところで、なぜ泰時殿と誠士郎殿があのような場所に居たのでござるか?」
「は!そういわれれば!というか、なんで秋ちゃんもここにいるの?」
「私は冬さんに用事がありまして。泰時君は『散歩のついで』だそうです」
「僕はお二人をお迎えに」
そういうと秋ちゃんはすっと立ち上がって部屋を出て行った。
お台所の場所を聞かれたから、たぶんお茶を淹れに行ったんだと思う。
わたしは誠士郎様に促されてソファに座る。
泰時様は誠士郎様の隣に移動した。
西洋風の造りになっている客間は、ちょっと落ち着かない。
いつも座布団に正座だったから、椅子にはまだ座り慣れないのよね。
わたしの右斜め後ろに宿祢が立ち、どうせ見えないからと幽霊のお姉さんが左隣に座った。
迦楼羅丸様は腕を組んで壁に寄りかかっている。

「冬さん、封印の勾玉に霊力を注ぐ『注魂ちゅうこんの儀式』はご存知ですか?」
「はい、たしか『愉比拿蛇ゆひなじゃを封印している勾玉に姫巫女達が霊力を注いで封印を強化する儀式』ですよね」
「よく御存じですね」
「結依ちゃ…女中仲間に教えてもらったんです。彼女、姫巫女に憧れていたので」
「そうでしたか」
「それで、その儀式がどうされたのですか?」
「予定よりも早く、二週間後に行われる事になりまして」
「そうなんですか…。それじゃあ、ことり様達お忙しくなるんですね」
「冬さんにも参加していただきますよ」
「はい、わかりま……はい?」
ごく自然な流れで言われて普通に返事しそうになったけど、今のは爆弾発言というやつだと思うの。
あまりにもびっくりしすぎて間抜けな声で聞き返しちゃったよ。
「え?それって、どういう…?」
「だから、お前も儀式に参加するんだ」
「え?……ええええええええ!?」
「なんだかよくわからぬが、凄い事なのでござるか?」
「すすす凄いなんてものじゃないよ!ままま…まだ見習いのわたしが参加できるものじゃないんだから!」
「ということは、冬殿が認められたという事でござるな」
「なんで宿祢はそう解釈するの!」
「違うのでござるか?」
「違いませんよ」
「ま、待ってください誠士郎様!」
わたしだけ状況が飲み込めずに混乱状態。
一度落ち着くべきなんだろうけれど、どうやって落ち着いたらいいのよ。
驚きすぎてなんだか目が回ってきちゃったよ。
『冬、落ち着いて。ちゃんと話を聞かないと』
「そそそそんな事言われても…」
完全にパニック状態でどうしたらいいのかわからない。
そこにタイミングよくお茶を淹れた秋ちゃんが戻ってきた。
「あああ秋ちゃん、どうしたらいいのかなっ」
「お茶でも飲んでみたら?」
「う、うん」
ぬるめに淹れてくれたみたいで、わたしはお茶を一気に飲み干した。
ぷはぁ、と息をつく。
はしたないとは思ったけど、おかげで少し落ち着いた。
使用人として控えようとしていた秋ちゃんを無理やり右隣に座らせて、わたしは誠士郎様に向き直る。
だって、秋ちゃんが傍にいてくれると心強いんだもん。
「封印の勾玉に霊力を注ぐのはしきたり通りに現在の姫神啼々弤ことり様にお願いします。彼女のサポート役に姫守の啼々郡美園様と啼々樰月子様、そして弥生が付きます。その時に外部からの邪魔が入らぬように里に結界を張るのですが、その結界の核となる石柱を守る役目が必要なのです」
「早い話が、その石柱を守る役目にお前が選ばれたという事だ」
「な、なるほど……え?」
「『え?』じゃない。何度も同じ事を言わせるつもりか」
「そ、そういうつもりは…。あの、でもなんでわたしが?わたしはたった今霊具を覚えた身で、しかも見習いですよ?そんな大事な役目なら、もっと相応しい人達がいるはずです」
「私も今年初めて参加しますので勝手はわかりませんが、どうやら封印が相当弱まっているようです。それでいつもよりも儀式を早く執り行う事にしたのですが…。姫巫女達は阿薙火国内を仕事で飛び回っていまして、二週間後の儀式に間に合わなそうなのです。それで、今いる人員で何とかしなければなりません」
「でも、わたしよりも優れた方達はまだいますよね」
「先程も言いましたが、封印が弱まっていて何が起きるのかわかりません。もしも封印のほころびから愉比拿蛇の手の者が溢れ出た場合、応戦する為の戦力が必要になります」
「つまり、優秀な姫巫女達は極力勾玉の近くに配備したいって事ですね」
「そういう事です。もちろん石柱も大事ですので、こちらにも何かあった時に対処できる戦力が必要になります」
「わたしにそんな戦力は…」
「安心しろ、父上達はお前を戦力とは見ていない」
「え?なら、どうしてですか?」
「私が推薦したんですよ。皆様反発されましたが、勾玉から一番遠い場所に設置されている石柱なら任せてもいいそうです」
「す、推薦!?」
「はい」
にっこりと笑う誠士郎様からは悪意など一切感じない。
やれやれという表情を浮かべた泰時様からして、誠士郎様はわたしなら本当にできると思って推薦したみたい。
期待を裏切るようで悪いけれど、わたしには絶対無理だって断言できるわ。
「一番遠い場所ならばあまり危険もないでしょうし、冬さんには迦楼羅丸様も付いていますから、きっと大丈夫ですよ。霊具もちゃんと身につけてくださいましたしね」
確かに迦楼羅丸様がいれば大丈夫だろうけど…。
ちらりと迦楼羅丸様に視線を向ければ、彼は腕を組んだまま黙ってこちらを見ていた。
凄く苛立っているみたいで、怒気がわたしにもわかってしまう。
それもそうだよね。
だって、愉比拿蛇は迦楼羅丸様のパートナー『啼々紫』様を殺した相手だもの。
迦楼羅丸様だって愉比拿蛇に岩に封じ込められちゃったわけだし。
『愉比拿蛇には、関わらないでほしい』
「お姉さん?」
『でも、そういう訳にはいかないのよね』
「え?お姉さん、どこ行くの?」
わたしの声が聞こえていないのか、膝の上で手を握りしめたかと思うと、お姉さんは急に立ち上がって壁をすり抜けてどこかに行ってしまった。
なんか、思いつめたような顔してたけど、どうしちゃったのかな?
「お姉さん殿がどうかなされたのでござるか?」
「よくわからない。どこかに行っちゃった」
「冬、今は話の続きを聞こう」
「うん、そうだね」
お姉さんの事は気になるけれど、今はまず話を聞くのが先だよね。
わたしの公式姫巫女初仕事になるわけだし。
秋ちゃんに促され、わたしは再度誠士郎様に向き直った。
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