四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第四幕 愉比拿蛇

第一話

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なんだかよくわからないけれど泰時様は怒ってるし、姥妙にはその…お、お姫様がされるような、その、あの…て、手に、キ、キス…されちゃうしで、わたしはもうどうしたらいいのかわからない。
だから引っ張られるままになんとか下山してようやく秋桜館まで戻ってきた。
建物が見えてきても泰時様は歩みを緩める事はない。
掴まれている腕が痛いんだけど…なんか、抗議の声は無視されてるし…。
なんで怒ってるのかなぁ。
もう全然わからないよ。

秋桜館の正面に回った時、入り口に誰か立っているのが見えた。
「遅かったな」
「迦楼羅丸様!」
「迦楼羅丸、お前今までどこに行っていたんだ」
そうだろうなぁとは思っていたけれど、案の定、泰時様は迦楼羅丸様に食って掛かった。
けれども迦楼羅丸様は涼しい顔で受け流す。
「いつまでも甘やかしてやるほど俺は甘くない。無事に霊具は使えるようになったのだからいいだろう」
「そういう問題じゃない」
「ならばどういう問題だ?」
「それは…」
「はいはい、お二人ともそこまでにしてください」
そんな二人の間に、迦楼羅丸様の陰に隠れていて見えなかった第三の人物が割って入る。
その姿を見た瞬間、わたしは彼女に飛びついていた。
ぎゅうぅぅ、と力強く抱きしめて、もう溢れて零れてどうしようもない涙を拭いもせずに泣きついた。
顔を見た瞬間に安心して、今まで心に溜りに溜まっていた不安とか恐怖とかそういった感情が溢れ出して止まらない。
そんなわたしを、やっぱりいつも通り優しく受け止めて頭を撫でてくれた。
「うわぁぁぁぁん、秋ちゃぁぁぁぁん。怖かったよぉぉぉぉ」
「事情は迦楼羅丸様から聞いたよ。よく頑張ったね、冬」
なんでここにいるのかはわからないけれど、それでもいてくれてよかった。
心がどんどん軽くなって、ポカポカしてくる。
秋ちゃんの匂いが、温もりが、わたしを包んでくれる。
やっぱり秋ちゃんは落ち着くなぁ。
だぁい好き。
「落ち着いた?」
「うん、もう大丈夫」
ゆっくり離れて見上げれば、顔を優しくハンカチで拭いてくれた。
「それじゃあ、皆の手当てをしないとね」
「あ!そうだった!誠士郎様!」
大変、秋ちゃんに泣きついている場合じゃなかった。
わたしを庇って誠士郎様が怪我してるのに。
早く手当をしなくちゃいけなかったのに。
慌てて振り返れば口元に手を当てて上品に誠士郎様が笑っていた。
「お気になさらず」
「そ、そういう訳にはいかないです。わたしを庇って怪我をされたのですから」
「女性を守るのは男の務めですから」
「女性…ですか?」
「ええ。冬さんはもう、大人の女性ですよ」
「そ、そんな事言われたの初めてです」
優しいその微笑に、顔が熱くなる。
いつも女の子とかそんな感じの子ども扱いだし、秋ちゃんと比べたらまだまだ子どもだし…。
なんだろう、ドキドキしてきちゃった。
わたしったら照れてる場合じゃないのに。
でも……女性かぁ。
誠士郎様みたいな素敵な殿方にそんな風に言われると、なんか嬉しいなぁ。
「…おい、誠士郎。うちの冬を口説くな」
「別に口説いているつもりはないのですが…」
「そ、そうですよ泰時様!せ、誠士郎様がそんな事するはずないじゃないですか!」
く、口説くだなんてそんな…。
わたしは慌てて両手をぶんぶんと振って違うとアピールする。
そんな風に言われたら余計にドキドキしちゃうじゃない。
もう、泰時様ったら…。
「それじゃあ冬は泰時様の手当てをしてあげて」
「うん」
「べ、別にボクは大した怪我じゃ…」
なんだかわからなけれど、今度は泰時様が慌てはじめた。
そしてなぜかわたしから距離をとる。
「何言ってるんですか。泰時様の方が酷い怪我なんですよ」
「ボ、ボクよりも宿祢の方が酷いだろうが」
「心配無用でござる。拙者、人間よりも治癒力が高いゆえ」
にこにこと笑いながら宿祢が言う。
泰時様の言う通りで、本当は宿祢の方が酷い怪我を負っている。
でも迦楼羅丸様に簡単な治癒術を教わったとかでこのくらいなら一人で治せるみたい。
ただ、その妖術はモノノケにしか使えないみたいなの。
モノノケが使う妖術を人間に使うのはあまりよくないみたい。
少量なら妖力が人間に入り込んでも悪影響はないらしいけど、それが一定量を超えちゃうと変質しちゃうんだって。
魔物化現象トランス・フォームのような自我を失って暴れだすとかいう危険性はないらしいけど、副作用みたいな悪影響は多少なりともあるんだとか。
わたしと宿祢のように契約関係にある場合は副作用も小さいみたい。
だけど、そんなリスクは緊急事態じゃない限り犯せないよね。
更科様は「寝てれば治るさ」とかいってどこかに行ってしまった。
そういう訳で優先して手当てをしなければならないのは泰時様なんだけど…。
なんで嫌がるのかな?
早く消毒しないと化膿しちゃうかもしれないのに。
「宿祢!泰時様を取り押さえて強制連行だよ!」
「承知したでござる」
「だ、だからボクは大丈夫だと…うわっ」
なんだかよくわからないけれど逃げようとする泰時様を宿祢と二人で捕まえようとする。
けどその前に秋ちゃんが簡単に泰時様を捕まえてしまった。
わたし達の死角に入るなんて、さすが秋ちゃん。かっこいい!
そのまま泰時様の耳元で何か言うと、頑なに拒否していた泰時様が大人しくなった。
「さあ、中に入りましょう」
秋ちゃんに促されてわたし達は秋桜館の客間へと向かう。
わたしは途中で別れて救急箱を取りに行ってから向かったけどね。

上半身裸になった泰時様は、なぜかむくれていた。
消毒のアルコールをかけ、傷薬を塗りこむ。
あとは包帯を巻けば終わり。
別にアルコールがしみてむくれている訳じゃないみたいだけど…。
なんか、よくわからないなぁ。

啼々家次期当主というだけあって、泰時様の体は鍛え上げられていた。
細身ながらもしっかりと筋肉がついていてたくましい。
わたしと五つしか違わないけど、やっぱり五つ違うだけあって大人って感じがする。
「泰時殿、しっかりとした体つきで羨ましいでござる」
「宿祢はあんまり筋肉ないよね」
「拙者はほとんどの時間、身を隠していたでござるからな」
「も、もう服着てもいいだろ」
「はい、大丈夫です」
ぷいっとそっぽを向いて泰時様はさっさと服を着る。
誠士郎様の方は終わったのかと振り向けば、ちょうど服を着ている最中だった。
ちらりと見えた体は病弱というだけあって白い。
細身で、泰時様と比べるとあまり筋肉も付いていないみたい。
着物の前を直す誠士郎様と目が合って、わたしは慌てて逸らす。
…あれ?なんでわたし、逸らしてるの?
なんでドキドキしてるんだろう?
「あ、あの、誠士郎様」
「はい、なんでしょうか」
「その…か、庇っていただき、ありがとうございました」
「どういたしまして」
誠士郎様の微笑は秋ちゃんと同じで柔らかくて温かい。
優しいし、物腰も柔らかいし、秋ちゃんみたい。
秋ちゃんみたいなのに、なんでこんなにドキドキしちゃうんだろう。
今更ながら怖かったことを思い出してるのかなぁ?
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