四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第四幕 愉比拿蛇

第五話

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誰がどこのポジションで、どういう手順で、日時はいつで。
説明を受けて、なんとか緊張で頭が爆発しそうになるのを耐えられた。
そう思ったのに、最後の最後に誠士郎様と泰時様が、わたしが霊具を使えるようになり、四季の宝珠まで使えると報告した。
おかげでわたしには当主様達と姫巫女達の視線が一気に集中して、緊張の度合いが高くなってしまった。
せっかく覚えた内容を忘れてしまったんじゃないかなってくらいに緊張して、口が回らない程。
「おい、大丈夫か?」
会議が終わり、次々と部屋を出て行く人々をつい女中時代の癖で頭を床につけるようにして見送っていたわたしに、泰時様が声をかけた。
「まったく…。お前はもう女中じゃないんだぞ」
やれやれとため息をつく声が先程よりも近くで聞こえる。
顔を上げれば、わたしの傍でしゃがみこみ、呆れ顔でわたしを見ている泰時様がいた。
「さ、さすがに一朝一夕で抜けるものじゃありませんから」
「それもそうだな」
えへへ、と返せばまたひとつため息をつかれてしまった。
「冬さん、お疲れ様です」
「誠士郎様」
座ったままでは申し訳ないかと立ち上がろうとした。
けれどもどうやら緊張のし過ぎで体がいう事を聞かず、うまく立ち上がれない。
それを見た誠士郎様がわたしに合わせるように膝ひざを折ってくれた。
誠士郎様と目線が合い、心臓がドキドキし始める。
「せ、誠士郎様!?」
その誠士郎様を見てまだ部屋に残っていたことり様と月子様、美園様、弥生様が慌てた。
もちろんわたしだって慌てたけれど、誠士郎様がそのままでいいっていうから。
「色々な事がいっぺんに起きてお疲れでしょう。ゆっくり休んでくださいね」
「は、はい。お気づかいありがとうございます。誠士郎様には本当によくしていただいて…」
「…その『誠士郎様』というの、なんとかなりませんか?」
「え?」
いつも微笑んでいる誠士郎様が、少しだけ嫌そうな顔になる。
なにが不満なのかわからなくてわたしは聞き返した。
「『様』付け、やめてください」
「そ、そういう訳には参りません。誠士郎様は啼々鏡ななかがみ家の御当主様ですから」
「冬さんは姫巫女ですよ。当主と姫巫女は同等の権力を所持しています」
「わたしと誠士郎様では全然違います」
「…なら、私は『冬様』とお呼びする事にします」
「だ、だめですよ、そんなの」
「なら、誠士郎、もしくは『さん』付けで」
「……」
むすっとした表情の誠士郎様に、わたしは少しの間ためらう。
さん付けなんて恐れ多い事、わたしがしていいはずがない。
「…誠士郎、様」
「なんですか、冬様」
「うー…」
しばらく口をぱくぱくとしながら、わたしはようやく「誠士郎さん」と呼んだ。
その事に満足したのか、誠士郎さんは嬉しそうに笑った。
「お兄様、さすがにまずいんじゃ…」
「なぜ?」
「なぜって、それは」
「四季の宝珠を扱える時点で、冬さんの方が私達よりも格上になるはずだよ」
「わ、わたしは格上なんかじゃ…」
その言葉に慌ててわたしは手を振った。
姫神のことり様や姫守の月子様と美園様の前で、なんて大胆な事を!
慌てるわたしを無視して、誠士郎様は立ち上がった。
そしてわたしに手を差し伸べる。
「お手をどうぞ」
「あ、はい」
今断れば誠士郎さんに恥をかかせることになる。
わたしはその手を取って立ち上がった。
それにしても、誠士郎さん、かぁ。
なんだろう、恐れ多いはずなのに、なぜか嬉しい。
少し体温が低いけれど、誠士郎さんの手は温かい。
秋ちゃんと似ているけれども違う微笑は、どうしてこんなにドキドキするんだろう。
「…いつまで掴んでいるんだ」
むすっとした泰時様の声に、わたしは慌てて手を離した。
美園様がなにか口を開きかけていたが、入り口から聞こえてきた声がそれを邪魔する。
せいくん、久しぶり」
木虎きとらさん」
入り口から入ってきたのは、いかにも若旦那といった感じの男性。
彼も秋ちゃんや誠士郎さんのような優しい雰囲気を纏まとっている。
「随分と頑張ったみたいだね。よければ私も…おや?」
親しげに声をかけつつ誠士郎さんに歩み寄り、そこでわたしに視線を止めた。
じーっと見つめられて、その視線に耐えられなくなったわたしは会釈をする。
「もしかして、冬さん?」
「はい。七草冬と申します」
「そうかそうか。会えてよかったよ。私は啼々蔭ななかげ木虎。よろしく」
そういって木虎様は手を差し出す。
「えっと…」
「うん?握手だよ、握手。あ、もしかして遠慮しているのかな?気にしないで、君の方がすごいから」
そういうと木虎様はわたしの手を掴んで無理やり握手させる。

啼々蔭木虎。
彼は啼々蔭家次期当主で、たしか二四歳。
啼々蔭家は霊力も強く、その名の通り、啼々家の影として動く。
啼々家同様にモノノケ全般との契約能力に優れているのだと、秋ちゃんが教えてくれた。
式神使いというよりは忍者として啼々家に仕えているんだとか。
それ故ゆえ、身体能力が一族の中でもずば抜けて高いんだって。

「兄貴ぃ~。置いて行くなんてひどいでやんすよぉ」
そんな声と共に青年…というよりは少年っぽい青年が飛び込んできて木虎様をぽかぽかと叩いた。
「えー、だってとらちゃん、なかなか起きないんだもん」
「だからってあっしを置いていかんでも…」
そこまで言って青年はぴたりと動きを止める。
じっとわたしを見た後、さっと木虎様の背に隠れてしまった。
人見知りの激しい子どもがよくやる動作にそっくりだわ。
「こらこら、隠れていないでちゃんと挨拶しなさい」
「……」
木虎様に促うながされても出てこない。
その様子を見て泰時様がわざと大きなため息をついた。
「まったく…何をやっているんだ。お前が大人しいなんて明日は雨だな」
「う、うるさいぞ、泰時」
「虎」
「うう…」
泰時様の言葉に反応して少しだけ顔をのぞかせた。
その背を木虎様が押し、前へと出す。
観念したのか、青年はわたしの前に出てくるともじもじと指を動かした。
「はじめまして、七草冬と申します」
「あ、はい、あの、その…。あ、あっしは、その…な、啼々蔭虎丸とらまるといいやす」
「虎丸様、ですね」
「さ、様なんて滅相もない…!あっしの事は呼び捨てで十分でございやす」
顔を真っ赤にして虎丸様はぶんぶんと手を振った。
その慌てようがすごくて、さっきまでのわたしはこんな感じだったのかな?なんて思ってしまう。
でもさすがにこんなに真っ赤な顔はおかしい。
もしかして熱でもあるんじゃないかな。
「あの、どこか具合でも悪いんじゃないですか?」
「いいいいえ!そんな事はございやせん!いたって普通で健康で…その、あの…」
大丈夫だというけれど、呂律も回らなくなってきているみたいだし、やっぱり熱があるのかも。
虎丸様は口をぱくぱくとさせた後、「し、失礼しやす!」といって部屋を走り去ってしまった。
大丈夫なのかな?
「あ、あいつぅぅぅ…!」
そしてなぜかわからないけれども泰時様が怒っている。
拳を握りしめてぶるぶるとふるわせ、虎丸様が出て行った方向を鬼の形相で睨みつけている。
泰時様って突然怒り出すからわからない。
「あらら。ごめんね、冬ちゃん」
「いえ…。虎丸様、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だよ、一八歳はギリギリ思春期だしね」
「はぁ」
「それじゃあ私はこれで失礼するよ。誠くん、ちょっと」
「はい。では冬さん、失礼します。何かあれば遠慮なく申してくださいね」
「はい、ありがとうございます」
ひらひらと手を振って出て行く木虎様に続いて誠士郎さんも出て行く。
「冬、絶対に失敗は許されないのですから、今まで以上に気合を入れて修行を行うように」
「はい、わかりました」
そういってことり様が出て行く。
その後を月子様と美園様がついて行った。
「あたしの事も『さん』付けでいいわよ。お兄様が『さん』であたしが『様』って言うのもおかしな話だし」
「でも…」
「霊具をちゃんと使えるようになったあなたをちょっとだけ認めてあげた証って事なら、文句はない?」
「弥生様…。はい、わかりました。弥生さん」
わたしがそういえば、弥生さんは少しだけ嬉しそうに笑って出て行った。
「ボク達も行くぞ。いつまでもここに居たって意味がないしな」
「あ、はい」
泰時様に促され、わたし達は大広間を後にした。
とりあえず宿祢達と合流しよう。
ちゃんと覚えているうちにわたし達の仕事内容を伝えておかないと。
現地の下見とかもしておきたいし、何よりも緊張を解くためにも秋ちゃんに会いたいよ。
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