四季の姫巫女(完結)

襟川竜

文字の大きさ
67 / 103
第四幕 愉比拿蛇

第六話

しおりを挟む
「鯉ってのは、優雅というよりもマイペースに泳ぐもんだねぇ」
啼々家の裏庭で池の鯉をじーっと見つめたまま彼は言う。
遊び人のような出で立ちをした彼の名は啼々郡ななこおり新左エ門しんざえもん
啼々郡家の次男で、美園の兄である。
彼は啼々一族でありながらまったく霊力がなく、啼々郡家の中では疎まれていた。
現当主の父と、次期当主の兄、そして妹の美園とも仲が悪く、彼がいすゞの里に居る事はほとんどない。
風貌からもわかるとおり、新左エ門は阿薙火国内をふらふらとしていた。
放蕩息子というやつである。
ではなぜ彼がここに居るのかというと…。
「やっほー新さん」
「おー木虎。久しぶりだねぇ」
「お久しぶりです、新さん」
「誠士郎、でかくなったなぁ」
しゃがみこんで鯉を眺めていた新左エ門に木虎が手を振りながら声をかけた。
声をかけられた新左エ門は「よっこらしょ」と言って立ち上がる。
「あははは。新さんお爺さんみたい」
「こら木虎、そこはせめて『おじさん』といえ」
「同じじゃん、それ」
「ん?それもそうか…」
そんなやり取りを見て誠士郎がくすくすと笑う。
そこへ屋敷から青年が走り寄ってきた。
頭に手拭いを巻き、袖もまくり上げたいかにも使用人ですという出で立ちの青年は三人に声をかけるよりも早く足元の小石につまづいて盛大に転んだ。
「でた、ドジッ子」
「あはははは」
「二人とも笑わないで。八彦、大丈夫?」
「だ、大丈夫っす…」
腹を抱えるようにして笑う二人を咎め、誠士郎は八彦の傍へとしゃがみこみ、起き上った八彦の顔に付着した土を払う。
盛大に転んだ割りには無傷の八彦は立ち上がって服の土を払うと、まだ笑っている二人を睨みつけた。
「木虎、笑っていないで要件をさっさと話すっす。自分はこれでも忙しいんすよ」
「あー、お腹痛い。こんなに笑ったのいつ以来かなぁ」
「木虎っ」
「待ってよ八彦。まだご主人が来てないじゃないか」
「なになに?今回は秋ちゃんも参戦しちゃうの?」
「誠くんがそう仕向けたからね。ご主人も、ちょうどいいストレス発散になるんじゃない?」
「秋ちゃん、秋祇モードになるかねぇ」
「そう簡単にはならないよ」
「秋さん!」「ご主人!」
にやにやと笑いながら言った新左エ門に、やれやれとため息を吐きながら秋が言う。
そんな秋を見て八彦と木虎が目を輝かせて同時に呼んだ。
「ご主人、お久しぶりでごぜぇやす!」
目を輝かせた木虎に尻尾が生えていたら、きっとものすごく振られていた事だろう。
虎という名でありがなら、木虎は忠犬を思わせられる。
そんな木虎をみて八彦はむすりと顔を歪ませた。
「木虎、秋さんが迷惑そうっすよ。ちょっとは遠慮するっす」
「八彦はいっつもご主人と一緒に居られるんでやすから、たまにはあっしに譲るでやんすよ」
「そんな変な口調の奴が傍に居たら、秋さんが迷惑っす」
「八彦に言われたくねぇでやすよ。口調は今、直してる最中でやんす」
「全然直ってないじゃないっすか」
「変な口調の八彦に言われたくねぇでやす」
バチバチと火花を散らし始めた二人を無視し、秋は新左エ門に向き直る。
「お久しぶりです、新さん。元気そうでよかった」
「秋ちゃんもね。どう?不便してない?」
「大丈夫、もう慣れたから」
「そうか」
にこりと笑って新左エ門はよしよしと秋の頭を撫でた。
そして手を大きく二回叩く。
「全員揃ったところで、裏会議始めようか」
その言葉に、瞬時に場の空気が変わる。
最初に口を開いたのは誠士郎だった。
先程の会議に唯一参加していた誠士郎が、ざっと注魂の儀式の流れを説明する。
その説明に補足として秋が先程幽霊のお姉さんから聞いてきた愉比拿蛇の情報を伝える。
「なるほど…。話を聞く限りじゃ、予想通りというかなんというか、確実に儀式は失敗するな」
「啼々蔭はもちろん裏から警護に回りやすが、あっしはこっちに参加した方が確実に被害を防げそうでやすね」
「確かに木虎が手を貸してくれれば、一人分の負担が減るっすしね。俊介しゅんすけがいない分、大きな戦力っす」
「その事なんだけど…」
そこで誠士郎は一度口を噤つぐむ。
ちらりと秋を見てから意を決したように口を開いた。
「七伏にも手を貸してもらおうと思っているんだ」
「「「!?」」」
その言葉に、新左エ門、木虎、八彦は弾かれたように誠士郎を見た。
驚く三人をよそに、秋はふむ、と考える。
「俊さんの穴埋めには少し頼りないけど、いい考えだね」
「ま、待って下さいっす!あいつは秋さんに…」
「そうでやすよ!七伏のやつぁ、ご主人に…」
「僕は別に気にしてないんだけど」
「気にしてくだせぇ!」
「そうっすよ!秋さんは女の子なんだから!」
「…秋ちゃん、無理したりはしてないよね?」
「全然。むしろ誠士郎が言い出さなければ僕が提案していたくらいだ」
「秋さん…」「ご主人…」
複雑そうな表情を浮かべる三人をよそに、秋は手にしていた袋からごつごつとしたカラクリを取り出す。
「これ、俊さんに頼んで用意してもらったんだけど…」
「拳銃だねぇ。物理攻撃は効かないんじゃないの?」
「弾に霊力を込めてある。混戦や長期戦の可能性もあるし、念の為にと思って。弾数に限りがあるから使いどころが難しいかと思ったんだけど、七伏を使えればかなり有利になる」
「うーん…。確かに八彦一人よりはいいだろうけど…」
「けど、あのバカ兄がいう事を聞くとは思えないっす」
「僕は協力してくれるって信じてるけどなぁ」
「ご主人、なんで信じられるんでやすか?」
「そうだね…『悪友』だからかな」
「ふふ、秋ちゃんも言うねぇ」
「ただ一つ、問題があります」
「「「「問題?」」」」
まとまりかけてきた意見に、誠士郎は眉をしかめつつ水を差した。
全員が口をそろえて問う。
「まだ、充実様に七伏の解放許可をいただいていないんです」
その言葉に、確かに一番の問題だと全員が顔をしかめた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...