四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第四幕 愉比拿蛇

第十三話

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「ど、どうなってるでやすか!?あれは一体なんなんでやす!?」
「うるさい!少し黙れ!」
「で、でも…。ひっ、こっちに来た!」
突如現れた大量の霊魂に、里中パニックに陥っていた。
かくいう泰時と虎丸もそうだ。
ただ事じゃない事だけはわかったが、どうすればいいのかがわからない。
泰時がなんとか冷静でいられたのは、隣にいる虎丸がパニックを起こしていたからかもしれない。
涙を浮かべておろおろとする虎丸を見て、自分がしっかりしなければと思ったのだ。
啼々家の裏手から噴き出した霊魂は、散り散りになり里中に散らばっていく。
すぐさま霊具を作り出し、向かってきた霊魂を叩き斬る。
霊具には霊魂を浄化する力があるが、湯水のごとく湧き出る霊魂を浄化する為には、泰時一人では不可能だ。
虎丸にも手伝ってもらいたいところだが、喚くだけで何もできそうにない。
一度落ち着かせる必要があるだろう。
「泰時、虎丸、ちょうどいい所で会ったな」
「新左エ門」
「緊急事態なのは見ればわかるだろう?みんなを秋桜館まで避難させるぞ」
「秋桜館に?」
「冬ちゃんの張った結界が役に立っているってことだ。霊魂達は里から出られない。秋桜館なら安全だ」
「え?え?どういうことでやすか?」
「説明は後でって事だ。いいから行くぞ」
「わ、わかりやした」
霊魂を銃撃しつつ新左エ門が道を開く。
泰時と虎丸はその後に続いて走り出した。

啼々家の正門では紅椿が使用人達を外へと逃がしているところだった。
迫りくる霊魂達は木虎と八彦が撃退している。
「木虎、八彦、護衛には俺達が付く。お前等は他の場所を頼む」
「了解っす」
「新さん、無理しないでくださいね」
新左エ門の一言で木虎が里の東側に、八彦が西側に駈け出していく。
俺達というのが新左エ門と泰時、虎丸であるという事は説明されなくてもわかる。
紅椿を先頭に使用人達が早歩きで里の出口を目指す。
「おい、他のやつらはどうするんだ?」
泰時達が護衛についているのは啼々家の使用人だけ。
他の家の使用人達は見当たらない。
泰時が疑問に思うのも無理はなかった。
「一気に避難誘導なんてできんさ。まずは啼々家からって事よ」
迫りくる霊魂に銃弾を撃ち込むも、数が減ったようには感じない。
泰時も霊具刀で応戦し、ようやくパニック状態から抜け出せた虎丸も短刀で霊魂を浄化していく。
「皆さん、急いで。もうすぐ出口ですよ」
そう叫んだ紅椿の背後に霊魂の大群が迫った。
「紅椿、後ろだ!」
「え?…きゃあ」
泰時の声に後ろを振り向いた時にはもう遅かった。
回避などできない距離にまで霊魂が迫る。
「紅椿さん!」
だが寸前のところで結依が紅椿を押し倒す。
「はっ」
泰時が刀を振るい霊魂を散らした。
だが霊魂達はすぐに態勢を立て直し、泰時に襲い掛かる。
中には近くに転がっていた桶を操り襲う霊魂もあった。
「調子にのるんじゃないわよ!」
泰時めがけて投げられた桶を見て、結依はとっさに近くにあった角材を手にする。
そのまま桶めがけて勢いよく角材を振り下ろした。
「ひゅー。やるねぇ」
結依の行動に新左エ門が口笛を吹いた。
霊魂を泰時が払い、物を動かしての攻撃を結依が角材を振り回して阻止する。
「紅椿!今の内に早く!」
「わ、わかりました」
泰時の言葉に一行は再び出口へと走り出した。
結界の外へは本当に霊魂達は追ってこられず、紅椿達は安堵の表情を浮かべる。
霊魂達は諦めきれないのか、すぐそばでうろうろとしていた。
「泰時、虎丸。お前等はこのまま護衛して秋桜館へ行け、いいな」
それだけ言い残して新左エ門はさっさと引き返していった。
「さあ皆さん、秋桜館へ行きましょう」
「「「はい」」」
紅椿の言葉に使用人達が頷き、歩き出す。
だが、結依だけは歩き出せずにいた。
「結依?」
「ごめんなさい、紅椿さん。私、やっぱり戻ります」
「ま、待ちなさい、結依!」
制止する紅椿の声を振り切り、結依は里へと走り出す。
その後を慌てて泰時と虎丸が追う。
入り口から三メートルほど進んだところで泰時が結依の腕を掴んだ。
「待て、結依!」
「戻るなんて…一体何考えてるんでやすか」
「だって、まだ避難できていない人達がたくさんいるのよ。私達だけ先に避難なんて…」
「だからと言って、お前に何ができる?」
「声掛けくらいできるわ」
「霊魂に襲われたらどうするんだ」
「紅椿さんに習った護身術があるわよ」
その言葉に泰時が大きくため息をついた。
「霊魂に物理攻撃は効かない。お前が行っても邪魔なだけだ」
「そ、そうでやす。危ないですぜぃ。ここは姫巫女達に任せて…」
「逃げる途中でパニックを起こしている姫巫女が何人いたと思ってんのよ。任せるなんて無理よ!」
「そ、それは…」
その言葉に虎丸は言葉を返せずに泰時へと視線を向けた。
じっと見つめる泰時を見つめ返す結依の瞳には、強い意志が宿っていた。
説得は無理だと感じた泰時はひとつため息をつく。
「わかった。ただし僕も同行する」
「え?」
「使用人を守るのは主人の役目だ。それに、お前に何かあったら冬が泣くからな」
「泰時…」
「『様』が抜けてるぞ」
「緊急事態に気にしないでよ、小さいわね」
「ふん。…虎丸、お前は紅椿達の護衛につけ」
「ええ!?あっしだけ仲間外れでやすか!?酷いでやす!」
「なに?あんたも来るの?震えてたじゃない」
「ふ、震えてなんて…。武者震いでやんす」
「まあいいけどな。どうせ紅椿には先に行けと指示してきたし」
「じゃあ決まりね。私達は今からチームよ。私が逃げ遅れがないか確認するから、二人は護衛についてよね」
「わかりやした」
「ついでに姫巫女達も回収するぞ。秋桜館への護衛くらい引き受けてもらえんと邪魔なだけだ」
「あんた酷い事言うわね。ま、あのパニック状態じゃ役に立ちそうもないけど」
「お前も十分に酷いな」
結依と泰時はお互いに不敵に笑うと、不安そうな顔をしている虎丸を伴って里の中を駈け出した。
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