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第四幕 愉比拿蛇
第十四話
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石柱結界を作動させてすぐに里の上空を黒い雲が覆い始めた。
別に雨雲という訳ではないと思うの。
だって雲があるのはいすゞの里上空だけなんだもん。
わたし達がいる場所からは里や秋桜館が見える。
しんと静まり返り、時折吹く風か頬を撫でた。
霊嘩山の頂上は開けていて、そこに石柱が一本立っているだけだった。
制御用の宝珠をはめ込み、霊力を注ぐと石柱は光だし、光線が放たれた。
他の山へと向かって行った光線はまた別の山へと向かう。
おそらくは別の石柱に当たり進路を変えたんだろうって迦楼羅丸様が言っていた。
光線はわたし達の石柱へと戻り、大きな六芒星を描いた。
六芒星はゆっくりと地面に降下する。
すると里を半円形のドームのように何かが包み込んだ。
透明みたいなんだけど、蜃気楼のように時折揺らいでいる。
あれが結界って事みたい。
あの結界がある限り、儀式は安全に進められるんだよね。
わたし達は儀式が終わるまでここで待機。
結界が破られたら注魂の儀式が失敗するかもしれないから、この結界を守るのがわたしの役目なんだけど…。
うう…、ただ黙って見ているだけなんて…。
わたしにも何かできないかなぁ?
黒い雲は儀式が始まったという事なんだろうけど、暗雲立ち込めるなんて、なんだか縁起が悪い。
お姉さんと迦楼羅丸様は険しい顔つきでじっと里を見ている。
霊嘩山はこのあたりで一番高いせいか、無音が耳に少し痛いくらい。
石柱にはめた宝珠の光が少し弱まった。
これはまた霊力を注ぎこめっていう合図らしい。
定期的に霊力を注ぎこみつつ、わたしは待機というなの傍観しかできない。
折角霊具を使えるようになったのに、なんだか悔しい。
わたしだって役に立ちたいよ…。
しばらくすると、なんだか様子がおかしくなった。
渦を巻いていた黒雲が雷を帯び始めたみたい。
時々ちかちかと光っては音が聞こえる。
お姉さんと迦楼羅丸様の表情がますます厳しくなった。
宿祢がバサリと翼を広げる。
「拙者、嫌な予感がするでござる」
「や、やめてよ、縁起でもない…」
「妖気が膨れ上がっているでござる。こんなに強い力、今まで感じた事はござらぬ」
無言のお姉さんと迦楼羅丸様が宿祢の感を肯定しているようで、なんだかドキドキしてくる。
大丈夫だよね?
秋ちゃん、結依ちゃん、誠士郎さん、みんな…。
ぎゅっと両手を握りわたしは神様に祈る。
でもそんなわたしの願いは通じなかったみたい。
一際大きな稲光が里へと落ちた。
遅れて轟音が響く。
身体の芯から震えるような音。
結界に阻まれて里には落ちなかったみたいだけれど、里では何かが起きたみたいだった。
「来た」
迦楼羅丸様が呟き、お姉さんが息をのんだ。
「なに?なにがきたの?」
「覗いてみろ」
わたしが問えば、迦楼羅丸様は妖術で双眼鏡のようなものを出してくれた。
人間はモノノケよりも視力が低いというのをわかっていたみたいで、何とも準備万端だわ。
わたしは双眼鏡を受け取り覗く。
すると里に白いなにかよくわからない物が浮かんでいた。
しかも一つや二つじゃなく、数えきれないくらいに大量。
「なにあれ?」
良いものじゃない事くらいはわかるけど、一体何なのかがわからない。
戸惑うわたしと宿祢に迦楼羅丸様が説明してくれた。
「魂魄だ。霊魂ともいう。この状況で出てきたという事は…」
「悪霊もしくは愉比拿蛇の手の者、ということでござるな」
「そうだ」
「あの悪霊達、みんなを襲ってる…」
顔まではわからないけれど、悪霊達は手当たり次第に近くの人に襲い掛かっているみたい。
霊具と思われる武器で応戦している人達もいるけれど、全然間に合わない。
「大変!助けに行かなくちゃ!」
「うむ、このままでは大参事でござる」
『待ちなさい』「待て」
慌てて下山しようとしたわたし達をお姉さんと迦楼羅丸様が声をそろえて止める。
二人とも悔しそうな顔で拳を強く握りしめていた。
『助太刀に行く事には賛同できないわ』
「お前達が言っても無駄死にするだけだ」
「そんなの、わからないよ」
「そうでござる。ここで指を咥くわえて見ていろと申されるか」
「愉比拿蛇は、数がいれば勝てるという相手じゃない。今の里に対抗できる霊力を持った奴などいないに等しい」
『それに冬、貴女にはここで結界を維持するという役目があるわ。結界さえ無事ならば霊体は里から出ることなどできないのよ』
「じゃあこのままみんなが襲われるのを黙って見ていろって言うの!?里には秋ちゃんや結依ちゃんがいるんだよ!誠士郎さんや弥生さんだって…。みんなが怪我するかもしれないのを、黙って見ていなくちゃいけないの!?」
『それは…』
「……」
わたしの問いに、二人とも答えてくれない。
二人がわたしの事を心配して言ってくれてるって事ぐらい、本当はわかってるの。
本当は二人だって行きたいんだと思う。
でも駆けつけたところで愉比拿蛇には勝てない、それがわかっているからこそ、わたしを止めてくれているんだよね。
別に雨雲という訳ではないと思うの。
だって雲があるのはいすゞの里上空だけなんだもん。
わたし達がいる場所からは里や秋桜館が見える。
しんと静まり返り、時折吹く風か頬を撫でた。
霊嘩山の頂上は開けていて、そこに石柱が一本立っているだけだった。
制御用の宝珠をはめ込み、霊力を注ぐと石柱は光だし、光線が放たれた。
他の山へと向かって行った光線はまた別の山へと向かう。
おそらくは別の石柱に当たり進路を変えたんだろうって迦楼羅丸様が言っていた。
光線はわたし達の石柱へと戻り、大きな六芒星を描いた。
六芒星はゆっくりと地面に降下する。
すると里を半円形のドームのように何かが包み込んだ。
透明みたいなんだけど、蜃気楼のように時折揺らいでいる。
あれが結界って事みたい。
あの結界がある限り、儀式は安全に進められるんだよね。
わたし達は儀式が終わるまでここで待機。
結界が破られたら注魂の儀式が失敗するかもしれないから、この結界を守るのがわたしの役目なんだけど…。
うう…、ただ黙って見ているだけなんて…。
わたしにも何かできないかなぁ?
黒い雲は儀式が始まったという事なんだろうけど、暗雲立ち込めるなんて、なんだか縁起が悪い。
お姉さんと迦楼羅丸様は険しい顔つきでじっと里を見ている。
霊嘩山はこのあたりで一番高いせいか、無音が耳に少し痛いくらい。
石柱にはめた宝珠の光が少し弱まった。
これはまた霊力を注ぎこめっていう合図らしい。
定期的に霊力を注ぎこみつつ、わたしは待機というなの傍観しかできない。
折角霊具を使えるようになったのに、なんだか悔しい。
わたしだって役に立ちたいよ…。
しばらくすると、なんだか様子がおかしくなった。
渦を巻いていた黒雲が雷を帯び始めたみたい。
時々ちかちかと光っては音が聞こえる。
お姉さんと迦楼羅丸様の表情がますます厳しくなった。
宿祢がバサリと翼を広げる。
「拙者、嫌な予感がするでござる」
「や、やめてよ、縁起でもない…」
「妖気が膨れ上がっているでござる。こんなに強い力、今まで感じた事はござらぬ」
無言のお姉さんと迦楼羅丸様が宿祢の感を肯定しているようで、なんだかドキドキしてくる。
大丈夫だよね?
秋ちゃん、結依ちゃん、誠士郎さん、みんな…。
ぎゅっと両手を握りわたしは神様に祈る。
でもそんなわたしの願いは通じなかったみたい。
一際大きな稲光が里へと落ちた。
遅れて轟音が響く。
身体の芯から震えるような音。
結界に阻まれて里には落ちなかったみたいだけれど、里では何かが起きたみたいだった。
「来た」
迦楼羅丸様が呟き、お姉さんが息をのんだ。
「なに?なにがきたの?」
「覗いてみろ」
わたしが問えば、迦楼羅丸様は妖術で双眼鏡のようなものを出してくれた。
人間はモノノケよりも視力が低いというのをわかっていたみたいで、何とも準備万端だわ。
わたしは双眼鏡を受け取り覗く。
すると里に白いなにかよくわからない物が浮かんでいた。
しかも一つや二つじゃなく、数えきれないくらいに大量。
「なにあれ?」
良いものじゃない事くらいはわかるけど、一体何なのかがわからない。
戸惑うわたしと宿祢に迦楼羅丸様が説明してくれた。
「魂魄だ。霊魂ともいう。この状況で出てきたという事は…」
「悪霊もしくは愉比拿蛇の手の者、ということでござるな」
「そうだ」
「あの悪霊達、みんなを襲ってる…」
顔まではわからないけれど、悪霊達は手当たり次第に近くの人に襲い掛かっているみたい。
霊具と思われる武器で応戦している人達もいるけれど、全然間に合わない。
「大変!助けに行かなくちゃ!」
「うむ、このままでは大参事でござる」
『待ちなさい』「待て」
慌てて下山しようとしたわたし達をお姉さんと迦楼羅丸様が声をそろえて止める。
二人とも悔しそうな顔で拳を強く握りしめていた。
『助太刀に行く事には賛同できないわ』
「お前達が言っても無駄死にするだけだ」
「そんなの、わからないよ」
「そうでござる。ここで指を咥くわえて見ていろと申されるか」
「愉比拿蛇は、数がいれば勝てるという相手じゃない。今の里に対抗できる霊力を持った奴などいないに等しい」
『それに冬、貴女にはここで結界を維持するという役目があるわ。結界さえ無事ならば霊体は里から出ることなどできないのよ』
「じゃあこのままみんなが襲われるのを黙って見ていろって言うの!?里には秋ちゃんや結依ちゃんがいるんだよ!誠士郎さんや弥生さんだって…。みんなが怪我するかもしれないのを、黙って見ていなくちゃいけないの!?」
『それは…』
「……」
わたしの問いに、二人とも答えてくれない。
二人がわたしの事を心配して言ってくれてるって事ぐらい、本当はわかってるの。
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