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第四幕 愉比拿蛇
第十五話
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「ごめんなさい、本当はわかってるんだよ、二人がわたしの事心配して言ってくれてるって。でもね、わたしは里のみんなを守りたくて姫巫女になったの。今ここで動かなかったらわたし、胸を張って姫巫女になんてなれないよ」
『冬…。貴女の気持ちを大事にはしたいわ。でも相手が悪いのよ。もしも貴女の身に何かあったら、私は…』
「ありがとうお姉さん。でも大丈夫だよ。わたしは一人じゃないから」
「冬殿は拙者が必ず守るでござる。だから安心してやりたいようにやってくだされ」
「ありがとう宿祢」
『……』
「無理だ。紫ですら勝てなかった相手だぞ。お前に倒せる相手じゃない!」
「迦楼羅丸様…ううん、迦楼羅丸」
「な、なんだ?」
「わたしは、愉比拿蛇を倒しに行くんじゃない。みんなを助けに行くの」
「愉比拿蛇を倒さずに、どうやって助けるんだ」
「まずはみんなを安全な場所に連れて行く。それから里を襲っている悪霊を何とかする。愉比拿蛇はその後だよ。わたしだってバカじゃない。勝てない事くらいわかるよ。だから、まずはみんなを助けるの。大丈夫、危険な事はしないから」
「……本当に、しないか?」
「うん」
哀しそうな不安そうな、そんな迦楼羅丸の顔、初めて見た。
きっと紫様の事を思い出しているに違いない。
だからわたしは安心させたくて『様』を抜いた。
ほんの少しビクリとした後、迦楼羅丸は弱々しい、どこかすがる様な声で問い返す。
わたしだって今の里に飛び込むのは怖い。
愉比拿蛇の脅威を知っている迦楼羅丸はきっともっと怖いと思う。
だからこそ、わたしは精一杯の強がりで力強く頷いた。
宿祢が言ったじゃない、わたしには宿祢が付いているって。
「…わかった」
しばらくためらった後、迦楼羅丸は小さくそう言った。
『冬…』
「お姉さんにも約束するね。絶対に無茶はしないから」
『絶対に、無茶はしないで』
「もちろんだよ」
「しかし冬殿」
まとまってきた雰囲気の中、申し訳なさそうに宿祢が口を挟む。
気づいてはいけない事を気づいてしまったという顔に、なんだか嫌な予感がする。
「拙者達が離れたら、この結界を守る者がいなくなるのでは?」
「あ…」
そっか、定期的に霊力を注がなくちゃいけないんだった…。
うう、どうしよう。
『私がここに残って霊力を注ぐわ』
「え?でも、前に霊力を使い過ぎたら姿を維持しにくいって…」
『緊急事態だもの、仕方がないわ。それに、霊体の私は里に入れないし』
「お姉さん…」
「冬殿、通訳を」
「あ、うん。お姉さんがここに残って結界を維持してくれるって…」
「その必要はない」
わたしが宿祢と迦楼羅丸にお姉さんの言葉を伝えようとしていると、遮るように声が聞こえた。
そして突然わたし達の前で炎が噴き出す。
驚きすぎてわたしはその場に尻餅をついてしまった。
錫杖を構えて警戒した宿祢を迦楼羅丸が制止する。
炎と共に現れたのは一人の少年。
毛先に行くにつれて赤くなるオレンジの髪に、夕日のような瞳。
額には二本の角がある事から、彼は人間ではなくモノノケみたい。
「やっと会えたな、神鬼」
「やっぱり気づいていたのか」
「当然だ」
親しげ…という訳ではないけれど、迦楼羅丸の知り合いって事は敵じゃないんだよね?
わたしは宿祢の手を借りてその場に立ち上がる。
「あの…」
「詳しい話は後だ。この場は俺が代わる。お前達四人は里へ急げ。この道を通れば五分とかからない」
そういうと少年は炎で輪作った。
人が一人くぐれる大きさの輪の向こうは、なんだかぐにゃぐにゃした景色が広がっている。
正直に言って飛び込むには勇気が要りそうだわ。
そんなわたしの考えというか心情が顔に出ていたみたいで、少年はやれやれという顔になった。
「確かに俺はお前の味方じゃない。秋の味方だからな」
「秋ちゃんの?」
「詳しい話は秋から聞け。行くのか?行かないのか?」
「行く!」
「…現金な奴」
少年が呆れたような顔をするけれど、秋ちゃんの味方って事は悪い人じゃないって事だよね。
だったらためらう必要なんて全然ないよ。
「里についたら秋を捜せ。そうすれば霊魂は片が付く」
「わかったわ。行こう、宿祢!」
「御意に!」
『あ、待ってちょうだい』
「…はぁ」
勢いよく飛び込んだわたしと宿祢の後をお姉さんと迦楼羅丸が付いてくる。
わたし達が飛び込むと入り口はさっさと閉ざされてしまった。
景色が歪んだ変な空間は、虹色に次々と変化していく。
泳ぐように、飛ぶようにわたし達は不思議空間を移動していく。
彼の言った通り出口らしき火の輪はすぐに表れた。
ためらいなく飛び込めば、そこは里の入り口だった。
何人かの姫巫女が霊具で悪霊を追い払いながら使用人を含めた戦えない人達をこちらへと誘導してくる。
見慣れているはずの里は雲のせいで夜のように暗く、漂っている無数の霊魂が不気味さに拍車をかけている。
壊れている建物もあるし、荷車なんて車輪があるから荷車だとわかるくらいに破壊されている。
秋ちゃん達は無事かな?
誰も怪我してないといいんだけど…。
手当たり次第に悪霊と戦ったって、きっと意味がない。
彼の言う通り秋ちゃんを捜そう。
「襲われている人達を助けながら秋ちゃんを捜しに行くよ!」
「「『了解』」」
わたしの言葉に三人が頷く。
避難誘導の邪魔にならないようにしながらわたし達は里の中を走り出した。
『冬…。貴女の気持ちを大事にはしたいわ。でも相手が悪いのよ。もしも貴女の身に何かあったら、私は…』
「ありがとうお姉さん。でも大丈夫だよ。わたしは一人じゃないから」
「冬殿は拙者が必ず守るでござる。だから安心してやりたいようにやってくだされ」
「ありがとう宿祢」
『……』
「無理だ。紫ですら勝てなかった相手だぞ。お前に倒せる相手じゃない!」
「迦楼羅丸様…ううん、迦楼羅丸」
「な、なんだ?」
「わたしは、愉比拿蛇を倒しに行くんじゃない。みんなを助けに行くの」
「愉比拿蛇を倒さずに、どうやって助けるんだ」
「まずはみんなを安全な場所に連れて行く。それから里を襲っている悪霊を何とかする。愉比拿蛇はその後だよ。わたしだってバカじゃない。勝てない事くらいわかるよ。だから、まずはみんなを助けるの。大丈夫、危険な事はしないから」
「……本当に、しないか?」
「うん」
哀しそうな不安そうな、そんな迦楼羅丸の顔、初めて見た。
きっと紫様の事を思い出しているに違いない。
だからわたしは安心させたくて『様』を抜いた。
ほんの少しビクリとした後、迦楼羅丸は弱々しい、どこかすがる様な声で問い返す。
わたしだって今の里に飛び込むのは怖い。
愉比拿蛇の脅威を知っている迦楼羅丸はきっともっと怖いと思う。
だからこそ、わたしは精一杯の強がりで力強く頷いた。
宿祢が言ったじゃない、わたしには宿祢が付いているって。
「…わかった」
しばらくためらった後、迦楼羅丸は小さくそう言った。
『冬…』
「お姉さんにも約束するね。絶対に無茶はしないから」
『絶対に、無茶はしないで』
「もちろんだよ」
「しかし冬殿」
まとまってきた雰囲気の中、申し訳なさそうに宿祢が口を挟む。
気づいてはいけない事を気づいてしまったという顔に、なんだか嫌な予感がする。
「拙者達が離れたら、この結界を守る者がいなくなるのでは?」
「あ…」
そっか、定期的に霊力を注がなくちゃいけないんだった…。
うう、どうしよう。
『私がここに残って霊力を注ぐわ』
「え?でも、前に霊力を使い過ぎたら姿を維持しにくいって…」
『緊急事態だもの、仕方がないわ。それに、霊体の私は里に入れないし』
「お姉さん…」
「冬殿、通訳を」
「あ、うん。お姉さんがここに残って結界を維持してくれるって…」
「その必要はない」
わたしが宿祢と迦楼羅丸にお姉さんの言葉を伝えようとしていると、遮るように声が聞こえた。
そして突然わたし達の前で炎が噴き出す。
驚きすぎてわたしはその場に尻餅をついてしまった。
錫杖を構えて警戒した宿祢を迦楼羅丸が制止する。
炎と共に現れたのは一人の少年。
毛先に行くにつれて赤くなるオレンジの髪に、夕日のような瞳。
額には二本の角がある事から、彼は人間ではなくモノノケみたい。
「やっと会えたな、神鬼」
「やっぱり気づいていたのか」
「当然だ」
親しげ…という訳ではないけれど、迦楼羅丸の知り合いって事は敵じゃないんだよね?
わたしは宿祢の手を借りてその場に立ち上がる。
「あの…」
「詳しい話は後だ。この場は俺が代わる。お前達四人は里へ急げ。この道を通れば五分とかからない」
そういうと少年は炎で輪作った。
人が一人くぐれる大きさの輪の向こうは、なんだかぐにゃぐにゃした景色が広がっている。
正直に言って飛び込むには勇気が要りそうだわ。
そんなわたしの考えというか心情が顔に出ていたみたいで、少年はやれやれという顔になった。
「確かに俺はお前の味方じゃない。秋の味方だからな」
「秋ちゃんの?」
「詳しい話は秋から聞け。行くのか?行かないのか?」
「行く!」
「…現金な奴」
少年が呆れたような顔をするけれど、秋ちゃんの味方って事は悪い人じゃないって事だよね。
だったらためらう必要なんて全然ないよ。
「里についたら秋を捜せ。そうすれば霊魂は片が付く」
「わかったわ。行こう、宿祢!」
「御意に!」
『あ、待ってちょうだい』
「…はぁ」
勢いよく飛び込んだわたしと宿祢の後をお姉さんと迦楼羅丸が付いてくる。
わたし達が飛び込むと入り口はさっさと閉ざされてしまった。
景色が歪んだ変な空間は、虹色に次々と変化していく。
泳ぐように、飛ぶようにわたし達は不思議空間を移動していく。
彼の言った通り出口らしき火の輪はすぐに表れた。
ためらいなく飛び込めば、そこは里の入り口だった。
何人かの姫巫女が霊具で悪霊を追い払いながら使用人を含めた戦えない人達をこちらへと誘導してくる。
見慣れているはずの里は雲のせいで夜のように暗く、漂っている無数の霊魂が不気味さに拍車をかけている。
壊れている建物もあるし、荷車なんて車輪があるから荷車だとわかるくらいに破壊されている。
秋ちゃん達は無事かな?
誰も怪我してないといいんだけど…。
手当たり次第に悪霊と戦ったって、きっと意味がない。
彼の言う通り秋ちゃんを捜そう。
「襲われている人達を助けながら秋ちゃんを捜しに行くよ!」
「「『了解』」」
わたしの言葉に三人が頷く。
避難誘導の邪魔にならないようにしながらわたし達は里の中を走り出した。
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