四季の姫巫女(完結)

襟川竜

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第四幕 愉比拿蛇

第二四話

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「な、ななななな…」
邪気を感じ慌てて駆けつけた虎丸は、啼々家の敷地に蠢く巨大な蛇の胴体を見て足を止めた。
ぱくぱくと口を動かし震える指で示す。
その横で足を止めた結依は、門から勢いよく飛び出してきた二人を見て慌てて駆け寄った。
血相を変え命からがら逃げ出してきたのは姫守の美園と月子である。
「ちょっと、どうしたのよ!?」
尋ねるものの、二人とも「助けて…」「ひぃぃ」などと震えるばかりで話にならない。
大蛇は門を越えたり破壊したりはできないようで、啼々家の敷地内で蠢いていた。
隙間から微かに向こう側を見る事が出来るが、その隙間もいつまで保つかわからない。
「虎!早く来て!」
「は、はいぃっ!」
結依の叫び声でようやく我に返った虎丸は転びそうになりながら駆け寄ってきた。
まずは怯えきっている二人を安全な場所に移動させようとした時だった。
転がり込むように大蛇の隙間からことりが脱出してきた。
着物の袖が胴体に挟まれたが、破れる事もお構いなしに力任せに引き抜く。
「ことり様!?」
「だ、大丈夫でやすか!?」
「はあ…はあ…」
二人の問いに答える事なく、大きく肩を上下に揺らしている。
呼吸を整えようとしているようだが、うまくいかないようだ。
「こ、これは一体どういう事でやすか!?まさか愉比拿蛇が復活を…」
目にいっぱいの涙を溜め、虎丸はことりに尋ねる。
だがことりには答える余裕がないようだった。
「質問は後よ。まずはここから離れて充実様達に報告よ」
「そ、そうでやすね…」
「結依ちゃん!」
場所を移動しようとしたところで邪気を感じた冬達が駆けつけた。
啼々家の敷地を埋め尽くしている大蛇を見て迦楼羅丸と幽霊のお姉さんが息をのんだ。
何が起こったのか理解できなくても、この場に留まるのは危険だという事はわかった。
「冬!」
「うん!宿祢っ」
「御意に」
恐怖で動けずにいる三人に手を貸し、なんとか立たせてこの場から移動を開始する。
そこで冬が気づいた。
「あの…弥生さんは?」
見回してもどこにも弥生の姿がない。
姫守としてことりを守る為に常に傍にいるはずなのに、この場に居ないなんておかしい。
「わからないわ。逃げるのに必死だったから…」
力なく首を振りながら美園が言う。
月子は何度も頷くだけだ。
おそらくはあまりの恐怖で声が出なくなったのだろう。
顔色を変えたことりが、震える手で振り返る事なく後ろを指差した。
「わ、私の…後ろに…」
「…え?」
その一言に、三人以外の全員が視線を向けた。
大蛇の胴体が絡み合い、巨大な半円状の塊を形成している。
ことり達が脱出してきた場所も今は塞がれてしまい、出入り口と呼べる場所は見当たらない。
蠢く胴体は少しずつ大きくなっている。
「まさか…まだ、中に!?」
「そ、そんな…」
結依と虎丸が息を飲む。
冬はぎゅっと拳を握りしめ、迦楼羅丸に問う。
「愉比拿蛇は復活したの?」
「いや、まだ完全には目覚めていない」
『封印はまだ効いているわ。その証拠に、敷地内からは出られないようね』
「わかった。結依ちゃんと虎丸様はことり様達を安全な場所に避難させて。それから充実様への報告もお願い」
「冬はどうするのよ?」
「わたしは…」
冬は視線を宿祢へと向ける。
意図を理解したのか、宿祢は大きく頷いた。
「わたし達は弥生さんを助けに行く」
「え!?」
「あ、危ないでやすよ!」
「大丈夫、ちょっと行ってくるね」
「あっ…冬!」
「冬さん!」
結依と虎丸の制止も聞かず、冬は宿祢を伴い愉比拿蛇へと駆け寄った。
その姿を見て迦楼羅丸と幽霊のお姉さんは自分の頬を両手で叩き自身を鼓舞すると、意を決し後を追った。
宿祢と迦楼羅丸が放った妖術が胴体の動きを変え、微かに入り口が出来た。
四人は滑り込むようにして中へと消えて行く。
どうする事も出来ずに見送っていた二人の元に、誠士郎と泰時が駆けつけた。
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