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第四幕 愉比拿蛇
第二七話
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胴体が複雑に絡み合い、今にも啼々家の屋敷から外へと溢れ出ようとしている。
それだけは何とか防ごうと、誠士郎は愉比拿蛇の体を包み込むようにして結界を張っていた。
だが愉比拿蛇の力は強く、抑え込むのも容易ではないようだ。
苦しそうに顔を歪める誠士郎の隣で、泰時はただ祈る事しかできずにいた。
愉比拿蛇との力の差がありすぎて、泰時の結界では誠士郎の支援すらできない。
もちろん最初は結界を張ろうとしたが、すべて弾かれてしまった。
あらゆる攻撃も一切効かず、ただ中へ飛び込んで行ったという冬達の無事を祈る事しか出来ない自分に腹が立つ。
「泰時!」
「あ、父上!」
結依達の報告を受けた充実が虎次郎を伴って駆け寄ってきた。
「これは一体どういう…」
「何か来ます!」
充実の言葉を誠士郎が遮る。
見るとやや高い位置から胴の隙間を押し広げるかのように水が噴き出した。
おそらく宿祢の妖術だろうと察し、誠士郎は結界を解く。
愉比拿蛇の体が膨れ上がったが、それよりも早く宿祢が飛び出した。
大きく翼を広げ滑空する。
その手はしっかりと冬を掴んでいた。
その後に幽霊のお姉さんと迦楼羅丸が続いた。
誠士郎達の元に急いで向かうと、まだ地面と差があるにも拘らず、冬が飛び降りた。
そしてそのまま誠士郎の元に駆け寄り土下座する。
「ごめんなさい!」
ぼろぼろと涙を流しながら額を地面にこすり付けるようにして謝る冬に、誠士郎は慌てて膝をついた。
「ど、どうしたのです?顔を上げて…」
「わたしっ!わたしっ!」
しゃくりあげながら冬は叫ぶ。
「弥生ちゃんを助けられなかった!」
「え?」
冬の顔を上げさせようと伸ばしかけた手が止まる。
動きを止めた誠士郎の近くに宿祢が膝をついた。
「体だけでも誠士郎殿の元に帰りたい、と」
哀しげな宿祢の視線を追い、誠士郎は迦楼羅丸へと視線を向ける。
その手には痛々しい姿の弥生が抱きかかえられていた。
言葉を失った彼等の耳に、謝り続ける冬の声だけが届く。
「そう…ですか…」
「弥生ちゃん…わたしを…わたし達を助ける為に…。ごめんなさい、ごめんなさい…」
「謝らないでください。この結果は、弥生がちゃんと自分の役目を果たしたという事なのですから」
「でも、でも…。わたしは、姫神じゃないし…。まだ、見習いだし…。弥生ちゃんに、助けてもらうような立場じゃ…」
「弥生ちゃん、なんですね」
「え?」
その言葉がどういう意味なのか分からずに、冬は顔を上げた。
目は真っ赤に腫れ、大量の涙で頬が濡れている。
女の子にとっては恥ずかしい鼻水だって盛大に垂れている。
ぐしゃぐしゃの顔を誠士郎は優しく拭った。
「弥生ちゃん、と呼ぶという事は、あの子の友人になってくれたという事ですよね?」
誠士郎の問いに冬は頷く。
それを見て嬉しそうに誠士郎は微笑んだ。
「冬さんだけでも無事で良かった」
「そんな!全然よくなんて…」
「もうご自分を責めないでください。いつまでも冬さんが落ち込んでいては、弥生が浮かばれませんよ」
「でも…でも…」
「弥生は冬さんに泣いてもらいたくて助けたんじゃない。笑ってほしいから助けたんだ。だからどうか、笑ってください。弥生の為を思うなら、貴女は元気一杯でいなくちゃいけない。そうでしょう?」
その言葉に冬はハッとした。
自分がいつまでも泣いていては、弥生の気持ちを無駄にしてしまう。
泣いていても何も変わらないし、解決もしない。
「はい。もう、泣きません。弥生ちゃんの為にも、泣きません!」
ごしごしと袖で顔を拭いた冬は、誠士郎に頷く。
そんな冬に微笑むと、誠士郎は充実へと視線を向ける。
「里を守る結界に姫巫女達を向かわせました。私達は一旦、秋桜館へ向かいましょう。何とか対策を立てないと」
「そうだな。今はまず、避難が優先だ。冬、まだ動けるかね?」
「はい、大丈夫です」
愉比拿蛇が少しずつ啼々家の敷地外へと出てきた。
ゆっくりしている時間はない。
「迦楼羅丸様、申し訳ありませんが、秋桜館まで弥生をお願いします。残念ですが、私の体力では抱えて走る事はできませんから」
「わかった。責任を持って連れて行こう」
「ありがとうございます」
大きく頷いた冬を立たせ、誠士郎は迦楼羅丸に頼む。
腕の中の弥生に一度視線を落とし、迦楼羅丸は頷いた。
里から脱出する為に一同は走り出す。
冬は少し進むと一度立ち止まり、振り返った。
「弥生ちゃん、わたし負けないから」
それだけは何とか防ごうと、誠士郎は愉比拿蛇の体を包み込むようにして結界を張っていた。
だが愉比拿蛇の力は強く、抑え込むのも容易ではないようだ。
苦しそうに顔を歪める誠士郎の隣で、泰時はただ祈る事しかできずにいた。
愉比拿蛇との力の差がありすぎて、泰時の結界では誠士郎の支援すらできない。
もちろん最初は結界を張ろうとしたが、すべて弾かれてしまった。
あらゆる攻撃も一切効かず、ただ中へ飛び込んで行ったという冬達の無事を祈る事しか出来ない自分に腹が立つ。
「泰時!」
「あ、父上!」
結依達の報告を受けた充実が虎次郎を伴って駆け寄ってきた。
「これは一体どういう…」
「何か来ます!」
充実の言葉を誠士郎が遮る。
見るとやや高い位置から胴の隙間を押し広げるかのように水が噴き出した。
おそらく宿祢の妖術だろうと察し、誠士郎は結界を解く。
愉比拿蛇の体が膨れ上がったが、それよりも早く宿祢が飛び出した。
大きく翼を広げ滑空する。
その手はしっかりと冬を掴んでいた。
その後に幽霊のお姉さんと迦楼羅丸が続いた。
誠士郎達の元に急いで向かうと、まだ地面と差があるにも拘らず、冬が飛び降りた。
そしてそのまま誠士郎の元に駆け寄り土下座する。
「ごめんなさい!」
ぼろぼろと涙を流しながら額を地面にこすり付けるようにして謝る冬に、誠士郎は慌てて膝をついた。
「ど、どうしたのです?顔を上げて…」
「わたしっ!わたしっ!」
しゃくりあげながら冬は叫ぶ。
「弥生ちゃんを助けられなかった!」
「え?」
冬の顔を上げさせようと伸ばしかけた手が止まる。
動きを止めた誠士郎の近くに宿祢が膝をついた。
「体だけでも誠士郎殿の元に帰りたい、と」
哀しげな宿祢の視線を追い、誠士郎は迦楼羅丸へと視線を向ける。
その手には痛々しい姿の弥生が抱きかかえられていた。
言葉を失った彼等の耳に、謝り続ける冬の声だけが届く。
「そう…ですか…」
「弥生ちゃん…わたしを…わたし達を助ける為に…。ごめんなさい、ごめんなさい…」
「謝らないでください。この結果は、弥生がちゃんと自分の役目を果たしたという事なのですから」
「でも、でも…。わたしは、姫神じゃないし…。まだ、見習いだし…。弥生ちゃんに、助けてもらうような立場じゃ…」
「弥生ちゃん、なんですね」
「え?」
その言葉がどういう意味なのか分からずに、冬は顔を上げた。
目は真っ赤に腫れ、大量の涙で頬が濡れている。
女の子にとっては恥ずかしい鼻水だって盛大に垂れている。
ぐしゃぐしゃの顔を誠士郎は優しく拭った。
「弥生ちゃん、と呼ぶという事は、あの子の友人になってくれたという事ですよね?」
誠士郎の問いに冬は頷く。
それを見て嬉しそうに誠士郎は微笑んだ。
「冬さんだけでも無事で良かった」
「そんな!全然よくなんて…」
「もうご自分を責めないでください。いつまでも冬さんが落ち込んでいては、弥生が浮かばれませんよ」
「でも…でも…」
「弥生は冬さんに泣いてもらいたくて助けたんじゃない。笑ってほしいから助けたんだ。だからどうか、笑ってください。弥生の為を思うなら、貴女は元気一杯でいなくちゃいけない。そうでしょう?」
その言葉に冬はハッとした。
自分がいつまでも泣いていては、弥生の気持ちを無駄にしてしまう。
泣いていても何も変わらないし、解決もしない。
「はい。もう、泣きません。弥生ちゃんの為にも、泣きません!」
ごしごしと袖で顔を拭いた冬は、誠士郎に頷く。
そんな冬に微笑むと、誠士郎は充実へと視線を向ける。
「里を守る結界に姫巫女達を向かわせました。私達は一旦、秋桜館へ向かいましょう。何とか対策を立てないと」
「そうだな。今はまず、避難が優先だ。冬、まだ動けるかね?」
「はい、大丈夫です」
愉比拿蛇が少しずつ啼々家の敷地外へと出てきた。
ゆっくりしている時間はない。
「迦楼羅丸様、申し訳ありませんが、秋桜館まで弥生をお願いします。残念ですが、私の体力では抱えて走る事はできませんから」
「わかった。責任を持って連れて行こう」
「ありがとうございます」
大きく頷いた冬を立たせ、誠士郎は迦楼羅丸に頼む。
腕の中の弥生に一度視線を落とし、迦楼羅丸は頷いた。
里から脱出する為に一同は走り出す。
冬は少し進むと一度立ち止まり、振り返った。
「弥生ちゃん、わたし負けないから」
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