四季の姫巫女2

襟川竜

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第二幕 埜剛と埜壬

第二話

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 秋ちゃんに頼まれた荷物を届ける為に、まずは『村友茶屋』へ。場所がわからないので聞きながら歩くこと約十分。甘い匂いの漂う一軒の甘味屋へとたどり着いた。
「スリに甘味屋、反物屋に炭屋。篠崎は本当に何でもあるでござるな」
「スリはいらないけどね。…お邪魔しまぁす」
「いらっしゃいませー」
 のれんをくぐって中に入ると、前掛けを付けた青年がお盆を片手に声をかけてくれた。お盆にはお団子が乗っているから、きっと店員さんね。
「二名様ですか?空いている席に…」
「いえ、わたし達はお客さんじゃないんです。俊介さんという方にお会いしたいのですが…」
「じゃあ、そこに座って待っていてもらえます?今ちょいと忙しくて」
「はい、わかりました」
 宿祢と一緒に奥の席に座っていると、さっきの店員さんがお茶とお団子を持ってきてくれた。
「もう少しかかりそうだから、これでも食べて待っててね」
「え?でも…」
「いいから、いいから」
 そういうとすぐに仕事に戻ってしまった。
 みたらし団子に粒あんの乗った草団子に三色団子。わたしと宿祢に一本ずつ。せっかくいただいたので食べることにする。初めて食べるお団子に、宿祢はまた目を輝かせ始めた。
 お店はかなり繁盛しているみたいで、篠崎についたのはお昼過ぎだというのにまだ引く気配はない。甘味屋さんだし、もしかしたら今が一番忙しい時間帯なのかもしれない。その証拠に、また一人お客さんが…。
「あ、さっきのお侍さん」
「ん?ああ、先程の娘か」
 店内は満席で、人と待ち合わせをしているらしいお侍さんは、お相手さんがまだ来ていないのもあってわたし達と相席をしてくれた。 
ちゃんとお礼を言いたかったんだよね。
「先程はどうもありがとうございました」
「気にするな、勝手にやっただけだ」
「でも、そのおかげで無一文にならないですみましたから」
「ふ…。そうか」
「わたし、七草冬っていいます」
「拙者は宿祢と申す。先程は本当に助かりもうした」
それがし埜壬やじんという」
「埜壬殿は、甘い物が好きなのでござるか?」
「いや。兄者あにじゃと待ち合わせているのだが、ここは都合がいいのだ」
「え?でもここ、ちょっと町外れですけど…」
「ここはヒトもモノノケも、同じように食事ができる。兄者の容姿は目立つのでな、都合がいいのだ」
「そうなんですか…」
 そう言われれば、店内にはどこか他の人と見た目が違う人もいるみたい。肌の色が他の人より黒かったり、やけに背が高かったり低かったり。異国の人なんだとばかり思ってたわ。
「それにしても…遅いな。どこで油を売っているのやら」
「時間にルーズなんですか?」
「ヒトの常識とは違う行動をするのでな。某も未だに慣れぬ」
「だが、兄弟仲がいいようで羨ましいでござるよ」
「宿祢は兄弟いるの?」
「腹違いの弟がいるとは聞いておるよ」
「一緒には過ごしていないのか?」
「うむ。拙者は妾の子でござるからな」
「む、それは申し訳ないことを聞いた」
「なに、構いはせぬよ。おかげで、こうして冬殿や埜壬殿と出会えたのでな」
「宿祢…」
「それに、団子という美味なものも食せるからなっ」
「…団子のくだりがなければいい話でまとまったのにな」
「宿祢ぇ…」
「ん?拙者、可笑しなことでも申したでござるか?」
 きょとんとした顔の宿祢に、わたしと埜壬さんはやれやれとため息をついた。
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