四季の姫巫女2

襟川竜

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第二幕 埜剛と埜壬

第六話

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「埜壬さん、どこまで行っちゃったんだろうね」
 俊介さんの話はそんなに長くはなかった。式神契約のメリットとデメリットを、わたしでもわかるように簡単に教えてくれただけ。
 人間にとってのメリットは、自分の身を守ってくれる護衛ができる事。契約の石というものを所持していれば、離れたところにいても瞬時に自分のところに式神を呼び出せる事。契約の石を通じて、ほんの少しだけでも式神の力を使うことができる事。
 モノノケにとってのメリットは、常に契約者から自分に霊力が注がれ続ける事。つまり、いつでも準備万端状態でいられるって事だよ。
 式神契約っていうのは、モノノケのような特別な力を持たない人間が、モノノケと戦ったり、人間の力だけじゃどうする事も出来ない事をできるようにする為に編み出した術なんだって。
 それでデメリットっていうのはね。たくさんのモノノケと契約してしまうと、それだけたくさんの霊力を常に式神に注ぎ続けるわけだから、下手をしたら命の危険があるんだって。
 霊力は人間にとって命みたいなものらしいの。生命エネルギーって俊介さんは言ってたわ。
 あとは、一方的に契約解除はできないらしいの。悪いモノノケと契約しちゃったら最後、霊力を吸いつくされちゃうんだって。
 式神がたくさんいればどんな事が起きても大丈夫だけど、ちゃんと考えて契約しなくちゃいけないみたい。だから大抵の人は一人か二人、多くても三人しか式神を持たないみたい。この世界、結構奥が深いのかもしれないわ。
 ちなみに、契約の石と呼ばれるものは、別に石じゃなくてもいいらしいの。お守りとか、アクセサリーとか。一般的には身に着けやすいからって指輪にする人が多いんだって。
 つまり『契約の石』というのは契約の証の総称、みたいなものらしいよ。

「向こうから微かに埜壬殿の気配がするでござるが…。むぅぅ。こう木々が多くては上空から探すのは難しいでござるな」
「地道に歩くしかないね」
 霊嘩山の時と違って霧もなく、変な気配もしない。ちゃんと歩道もあるし、歩きやすいんだけど…。
 そのせいか、全然埜壬さんの姿が見えない。
 わたしにはまだ気配とかわからないし、山道を歩き慣れている訳じゃないからなぁ。ちゃんと追いつけるかなぁ。
「宿祢は一応、人間だと思われているわけだし…。空から探すのは、どのみちやめたほうがいいかもね。びっくりさせちゃうもん」
「埜壬殿ならばそれほど驚きはしないと思われるが…。まあ、そうでござるな」
「捕まっているかもしれない人達も探さなきゃいけないけど…。うーん、どの辺りに…」
「静かに」
 辺りを見回しながら歩いていると、宿祢が立ち止まった。わたしにはわからないけれど、何か気配を感じ取ったのかもしれない。
「敵…なの?」
「まだわからぬ。だが、こちらを気にかけているようでござるな」
「捕まった人達かな?」
「……どうやら、敵のようでござる」
 いつでも霊具は出せるように準備をしつつ、わたしは宿祢と背中合わせになる。相手の気配を探り終えたらしい宿祢の言葉と、茂みががさがさと揺れるのはほぼ同時だった。
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