四季の姫巫女2

襟川竜

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第二幕 埜剛と埜壬

第十五話

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「感動の再会もいいが、早いところ話を進めようぜ」
「それもそうだな」
 だるそうに言うモノノケに埜剛が同意する。「よろしくな、宿祢」と軽く宿祢の頭に手を置き、埜剛は一歩前へと出た。
「わざわざ戦いやすそうな場所にご招待ありがとうよ」
「別に」
「んで?どういう趣向だ?」
「俺は人間に興味ないが、こいつらは食べたいらしい。で、こいつら曰く『楽しい狩りを邪魔した奴らに報復してほしい』んだとか」
「それで大人しく言う事を聞いたのか?お前さんはそういう柄じゃなさそうだが…」
「当たり前だ。居たくて一緒にいる訳じゃない。こっちにも事情ってものがあるんだよ」
「大変だなぁ」
「それでだ、今から捕まえた人間共を解放する」
「ぶき!?な、なにを言ってるぶひ!?」
「お前らはちょっと黙ってろ」
 驚くトンカツをモノノケは「うるせぇ」と黙らせた。そしてだるそうに嫌々続ける。
「俺は人間共には手を出さない。こいつらにとっては狩りの続きだ。お前等は守り抜いて町まで逃がせばいい。町に入った人間には手を出さない」
「なるほどなぁ。けど、お前さんはもちろん邪魔してくるんだろう?」
「ああ。お前達をぶった斬るのが俺の役目だからな。ちょうど四対四だ、文句はないだろう」
「ふむ。作戦会議は?」
「一分やる」
「わかった」
 そういうと埜剛はわたし達の方へと向き直った。
「ルールはわかったな?」
「町の人達を無事に町まで送り届ければいいんですね」
「しかし、化け物共を何とかしない限り難しいな。守るべき人数が多すぎる」
 確かにそうかもしれない。埜壬さんの言う通りで、今の状態だと少なくとも一人で三、四人は守らないといけないかも。わたしにはそんなの無理。今のわたしじゃ、せいぜい一人しか守りぬけそうにない。町の人達を守りながらトンカツ達と戦わなきゃいけないなんて…。
 埜剛の言う通りなら、猪モノノケはトンカツ達よりも強いみたいだし。すごく落ち着き払っているもんね、絶対強いよ。
「埜剛殿は埜壬殿よりも強い、そう考えて間違いないでござるか?」
「単純な腕力や体力、持久力ならな。あとは経験か」
「ふむ、ならば問題はござらぬな」
「何かいい作戦でもあるの?」
「うむ。町の人々の護衛、拙者が一人で引き受ける」
「ええ!?それって、すごーく大変なんじゃ…」
「なに、冬殿達が彼奴等を抑えてさえくれれば問題はござらぬよ。それに、拙者ならば人々を町に送り届けた後、すぐに戻ってこられる」
 そうか、ここは空を覆う木々がない開けた場所。町からここまではそう離れてないし、宿祢ならひとっ飛びだわ。羽を消しているからすっかり忘れていたけれど、宿祢は見た目が天狗の中身鬼だったわ。
「三人で抑えるというのには賛成だが、戻ってくる時間はないのではないか?護衛は冬にやらせて某達で抑えたほうが…」
「宿祢ならすぐに戻ってこられます。それはわたしが保証します」
「わかった。嬢ちゃんを信じよう」
「兄者…」
「冬殿、拙者がいなくても大丈夫でござるか?」
「大丈夫!…じゃないかもしれないけど大丈夫!町の人達を助けたいって言いだしたのはわたしだもの。それに、宿祢に頼ってばっかりなんて嫌だよ。わたしだってやる時はちゃんとやるんだからね」
「では任せたでござるよ、冬殿」
「うん!」
 わたしが頷いたのが見えたのか、モノノケがだるそうに声をかけてきた。
「一分経ったぞ」
「そうか?」
「ああ。一分十七秒くらいだ」
「随分と正確な体内時計だなぁ」
 顎に手をやりながら言う埜剛に、猪モノノケは背中の大太刀を引き抜きながら言った。
 わたし達が作戦会議をしている間に、木の隙間に詰め込まれていたらしい人達が目隠しはされたままだけれども、わたし達とモノノケ達の間に並ばされていた。
「宿祢の案で行くぞ。俺は猪頭を押さえる。壬と嬢ちゃんで豚頭を押さえてくれ。宿祢、頼んだぞ」
「わかったわ」「了解でござる」「わかった」
「双方準備いいな?よーい…どん!」
 その一言に捕らわれていた人々を目指してわたし達と豚男達が走り出した。
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