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第二幕 埜剛と埜壬
第二五話
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それからどれくらい待ったのか分からない。ただひたすらにチャンスを待つのがわたしと埜壬さんの役目。じっと見続けているうちに、わたしにも少しずつ動きが追えるようになってきた。
トンカツだけを集中して見ていれば、一定のパターンのようなものがみえてくる。小回りが利かないからか、大ぶりな攻撃が多い。どれが隙なのかはまだよく判断できないけれど、何度か宿祢が懐に飛び込み至近距離で水泡を爆発させていた。それだけではあまりダメージは受けてないみたいだけれど、少しよろめいたところに埜剛と峨岳さんが同時か少しずらしたタイミングで攻撃を仕掛けていた。
最初の方はすぐに反応してよけたり防いだりしていたトンカツだったけれど、次第にどちらかの攻撃は当たるようになっていた。相当体力を削れてきた証拠だよね。
もちろん宿祢達も疲れてきてはいるみたいだったけれど、だんだんと三人の連携がきれいに繋がるようになってきている。見ているだけのわたしにわかるってことは、本人達も自覚しているんじゃないかな。
「そろそろ構えていてもいいかもしれないな。霊力が続かないなら、ギリギリまで待つが」
「いえ、大丈夫です」
深呼吸をし、霊力を集中させる。光の弓を作り出し、続けて矢も形作る。霊具を安定させるために、もう一度深呼吸する。
三人を相手にするので手一杯なのか、トンカツはわたし達の方をほぼ見ていないようだった。
お願い、冬の宝珠。未熟な私に力を貸して欲しいの。自分の欲の為に町の人を襲い、仲間を手にかけたトンカツを倒すために。
少しずつ、わたしの周りに雪の結晶が現れ始め、霊具を少しずつ凍り始めた。トンカツを倒すためには、今のわたしの全力を注ぎこまない限り絶対に無理。もう歩けないってくらいに、全身全霊で打ち倒す。
氷の矢で射抜いた相手は氷漬けになって動けなくなるとか、そういう器用なことができればいいのだろうけれど、あいにくそんな芸当はわたしにはできない。
だから、倒す事を迷っちゃいけない。たとえ悪者でも命を奪うってことは、その命を背負うって事だと思う。わたしにちゃんと背負えるかはわからないけど、その使命からは逃げたくない。トンカツだって自分の死に責任を持たないわたしに殺されたくないだろうし。これしか方法がないのなら、迷うのは逆に失礼だと思うから。
反省も後悔も懺悔も、全部後でやればいい。今は、この一撃に集中しなくちゃ。
凍り付いた矢を引き絞る。
「まだだ、もう少し…」
返事をするのももったいない。
宿祢がこちらを見た気がした。
埜剛と峨岳さんが、わたしの姿が見えないようにワザと動いたのが分かった。
「冬空に咲け…」
わたしを冷たい風が包む。霊具が更に凍り付いた気がした。
世界から音が消えた。
なんだろう、よくわからないけれど、すごくよく見える。
「氷華…」
埜剛越しに、トンカツがよろめくのが見えた。
「流星弓!」
埜壬さんの合図と同時に放った矢は、雪の結晶を引き連れて飛ぶ。どこか遠くにしゃん、という錫杖の音が聞こえた。
ギリギリまでトンカツの視界を遮っていた二人が、同時に左右に避けた。
「ぶぎ!?…ぶぎゃああああああ!」
トンカツの悲鳴と閃光、そして氷が砕けるような音がする。
全霊力と宝珠の力を乗せた矢は、射貫くどころかトンカツの上半身を吹き飛ばしていた。
残ったのは腰から下の下半身。ゆっくりと後ろへと倒れていく。
その後すぐに何かが上から落ちてきた。わたしからは見えなかったけれど、おそらくはトンカツの頭じゃないかな。
トンカツだけを集中して見ていれば、一定のパターンのようなものがみえてくる。小回りが利かないからか、大ぶりな攻撃が多い。どれが隙なのかはまだよく判断できないけれど、何度か宿祢が懐に飛び込み至近距離で水泡を爆発させていた。それだけではあまりダメージは受けてないみたいだけれど、少しよろめいたところに埜剛と峨岳さんが同時か少しずらしたタイミングで攻撃を仕掛けていた。
最初の方はすぐに反応してよけたり防いだりしていたトンカツだったけれど、次第にどちらかの攻撃は当たるようになっていた。相当体力を削れてきた証拠だよね。
もちろん宿祢達も疲れてきてはいるみたいだったけれど、だんだんと三人の連携がきれいに繋がるようになってきている。見ているだけのわたしにわかるってことは、本人達も自覚しているんじゃないかな。
「そろそろ構えていてもいいかもしれないな。霊力が続かないなら、ギリギリまで待つが」
「いえ、大丈夫です」
深呼吸をし、霊力を集中させる。光の弓を作り出し、続けて矢も形作る。霊具を安定させるために、もう一度深呼吸する。
三人を相手にするので手一杯なのか、トンカツはわたし達の方をほぼ見ていないようだった。
お願い、冬の宝珠。未熟な私に力を貸して欲しいの。自分の欲の為に町の人を襲い、仲間を手にかけたトンカツを倒すために。
少しずつ、わたしの周りに雪の結晶が現れ始め、霊具を少しずつ凍り始めた。トンカツを倒すためには、今のわたしの全力を注ぎこまない限り絶対に無理。もう歩けないってくらいに、全身全霊で打ち倒す。
氷の矢で射抜いた相手は氷漬けになって動けなくなるとか、そういう器用なことができればいいのだろうけれど、あいにくそんな芸当はわたしにはできない。
だから、倒す事を迷っちゃいけない。たとえ悪者でも命を奪うってことは、その命を背負うって事だと思う。わたしにちゃんと背負えるかはわからないけど、その使命からは逃げたくない。トンカツだって自分の死に責任を持たないわたしに殺されたくないだろうし。これしか方法がないのなら、迷うのは逆に失礼だと思うから。
反省も後悔も懺悔も、全部後でやればいい。今は、この一撃に集中しなくちゃ。
凍り付いた矢を引き絞る。
「まだだ、もう少し…」
返事をするのももったいない。
宿祢がこちらを見た気がした。
埜剛と峨岳さんが、わたしの姿が見えないようにワザと動いたのが分かった。
「冬空に咲け…」
わたしを冷たい風が包む。霊具が更に凍り付いた気がした。
世界から音が消えた。
なんだろう、よくわからないけれど、すごくよく見える。
「氷華…」
埜剛越しに、トンカツがよろめくのが見えた。
「流星弓!」
埜壬さんの合図と同時に放った矢は、雪の結晶を引き連れて飛ぶ。どこか遠くにしゃん、という錫杖の音が聞こえた。
ギリギリまでトンカツの視界を遮っていた二人が、同時に左右に避けた。
「ぶぎ!?…ぶぎゃああああああ!」
トンカツの悲鳴と閃光、そして氷が砕けるような音がする。
全霊力と宝珠の力を乗せた矢は、射貫くどころかトンカツの上半身を吹き飛ばしていた。
残ったのは腰から下の下半身。ゆっくりと後ろへと倒れていく。
その後すぐに何かが上から落ちてきた。わたしからは見えなかったけれど、おそらくはトンカツの頭じゃないかな。
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