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第四章 ムーリト・リンレール
その3 本領発揮?これが『王』の力!
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相当疲れてきてはいると思う。ずいぶんと長い時間戦っているような気はしているが、実際はそうでもないだろう。こういう場合の体感時間は長いものだ。だんだんと怪我も増えてきたし、さっきだって受け身に少し失敗して脇腹を打った。我慢できない程の痛みじゃないから、きっとまだ大丈夫だ。魔王と戦った時に比べれば、これくらいなんともないさ。
ただ、少しだけ呼吸を整える時間が欲しいかな。
疲れのたまる俺と違って、カエル人間達は入れ代わり立ち代わりというやつだ。片っ端から吹っ飛ばしてはいるけれど、全然減ったように見えない。
いつの間にかアルカディアさんとの距離は開き、俺からはカエル人間達に阻まれてその姿を確認できない。もともと捉えるのがやっとというスピードで王様と戦っていたけれども。
ただ、戦う音がだんだんと遠のいているから、俺と距離が開いたのだという事だけはわかる。
「ゲゴォ」
「よっと」
水かきの付いた手から繰り出されるパンチ…というか、はたく攻撃。それをかわして反撃しようにも、四方八方から似たような攻撃がやってくる。はたき攻撃をかわしきれば、今度は舌攻撃。それも何とか頑張ってかわせばまたはたく攻撃。キリがない。
致命傷にならないようにと頑張ってはいたが、足がもつれ、少しだけ反応が鈍った。
「ゲェ!」
その一瞬の隙を見逃してはくれなかったらしく、一匹が口を大きく開けて突進してきた。その口の奥にきらりと、水みたいな何かが見えた気がした。
やばい、こいつら溶解液も出せたんだった。
どくんと心臓が跳ね、一瞬で汗が噴き出す。
この距離でかわせるか?いや、無理だ。ならここは防ぐしかない。
顔にかかったらもうどうする事も出来ない。腕を犠牲にする覚悟で、俺は顔を庇うように腕を出した。
「アクアソリューション、熱湯バージョン!」
ゴォォォォ!
「ゲガァ」「グゲェ」「ゲロォ」
響いた声の直後に大量の水…というか、お湯が俺を取り囲んでいたカエル人間達を流していく。渦を巻いた水柱に巻き込まれ、カエル人間達がぐるぐる回っていた。
「あっつ!」
熱湯バージョンというだけのことはある。飛び散ったお湯が少しだけ腕にかかった。マジで熱湯だ。ふー、ふー、と息を吹きかけて腕を冷ましてみるが、きっと効果はない。やけどになったらどうしよう。
「あ、かかっちゃった?」
「少しだけ。でも助かったよ」
ごめんね、なんてぺろりと舌を出して謝るシャーナに俺は気にしないでと答える。その後ろには今にも泣きだしそうなムーリトがいた。
「召還、成功した?」
「う、うん…なんとか…」
「そっか」
俺が尋ねると、ムーリトはこくりと頷いた。やったぞ!という表情ではなく、やっぱりどこか不安げだ。
「これで、その…もう陣から……あの、出てくることはなくて…」
「つまり、後はここにいるカエル人間達を倒せば終わりって事だね」
「う、うん」
「さっさと片付けて帰りましょう。私、もう洞窟は飽き飽きだわ」
「同感」
シャーナの術で流されていったカエル人間達は壁際に押し流され、山積みになっていた。茹ってしまったのか、ぐったりとしている。緑色だった皮膚が、茹でだこのように鮮やかな赤へと変化していた。
「さぁて、煮つけにでもしてやろうか…」
ふっふっふ~と指の骨を鳴らす動作をした俺に、カエル人間達がゲコゲコと足掻いた。どうやら手足が絡まって上手く抜け出せなくなっているらしい。
「…煮付け?」
「こ、こわいよぉ」
シャーナが眉根を寄せ、ムーリトはそんなシャーナの後ろに隠れた。女統族では普通にカエルで出汁とかとっていたけどなぁ。確か黄爛国でもカエルは食べたはずだ。一般的にはカエルを食べる習慣はないらしいけれど、鶏肉みたいにぷりぷりしていて美味しいんだけどな。もったいない。
「美味しいよ、カエル」
「…女統族って変わっているのね」
「で、でも確か…黄爛国も、四本足は机以外みんな食べる…とか…」
「ああ、そっち系なのね」
「うぅ~」
ムーリトはますますシャーナの後ろに隠れた。シャーナはといえば、どこか一歩引いている。いつもは図太い神経しているくせに、なんでこういうのは引くんだよ。
「よし決めたっ。薬膳系雑炊にしてやるっ」
「ゲコォ…」
ビシィっと指を突き付ければ、カエル人間達は目をうるうるさせた。泣き出しそうな声が『後生な~』なんて言っているように聞こえる。ちょっと悪ノリが過ぎただろうか。
なんてことをしていたら、どこからともなく「しゅわしゅわ…」という音が聞こえた。なんというか、炭酸飲料のあのしゅわしゅわという音に似ているかもしれない。
どこから聞こえるのかとあたりを見回せば、聞こえていたのはカエル人間の山からだった。一番下敷きになっていたカエル人間が、少しずつ泡になっているのだ。
「ええ!?なに?どういう事?」
「たぶん…倒せたって事だと…」
「え?魔物って、倒したら砂というか、塵になるんじゃ…」
「水棲の魔物だからじゃないかしら。魔物にもいろんな種類がいるし、必ずしも砂になるとは限らないのかも」
「なるほど」
下になっているカエル人間から徐々に泡になっていき、やがて全部のカエル人間が完全な泡になってしまった。洞窟の壁際に山となっていた泡も少しずつ気泡がはじけ、後にはほんの少しの水たまりが残っただけ。
「なんか、上のやつはまだ戦えそうだったけど…」
「長い事こちら側にいたせいで、もう限界だったのかもしれないわね」
「あの熱湯が効いたのかも。よし、アルカディアさんの援護に行こう!」
「ええ」「う、うん」
思わぬ形でカエル人間を倒す方法が見つかり、俺達はこの勢いのままアルカディアさんの援護へと向かった。
アルカディアさんはどこまで王様を引きつけに行ったのだろうか?
※ ※ ※
びゅるる、と口から放たれた溶解液をかわし、アルカディアはすぐさま矢を射る。だがその矢はあっさりと舌で捉えられ、そのままバクリと食べられてしまった。
『残りの矢は一本だ。我相手に、しかも闇に近いこの領域でよく頑張った』
「その言い方では、まるで私が負けるようではありませんか」
『光のお前がこの場所で我に勝てると思っていたのかね』
「もちろんです。人間界で活動する為の準備はちゃんとしていますからね」
『そうか。だが、それもいつまで保つか…なっ』
びゅるり、と王は溶解液を飛ばす。それを余裕でかわすアルカディアだが、もちろんそんな事は予想済みとでも言いたげに、王は間髪入れずに溶解液を飛ばし続ける。
「くっ」
残りの矢が一本でなければ回避ざまに矢を放つのだが、もう無駄使いはできない。ムーリトからもらった封石も、残りわずかだ。
『大人しく我の餌となり、超回復力を渡すがいい』
「だからそれ、古代種の話ですって」
『問答無用』
壁際に追い詰めたアルカディアへと溶解液を飛ばす。もはやジャンプしてかわす以外に道はない。そう誘導された事に軽く舌打ちし、アルカディアは思惑通りジャンプしてかわす事にした。
『かかったな』
ニヤリと嗤った王は舌を伸ばしてアルカディアの腕を捉えた。じゅっ、と肉の焼ける匂いが辺りに広がる。舌の粘液にも物を溶かす溶解液の作用があったのだろう。服が溶け、腕が直接粘液に触れた。焼けるような痛みが走る。だが、
「それはこちらのセリフです」
右腕に巻きついた舌を、あろう事か左手で掴み、勢いよく引っ張った。
『ゲェ!?』
予想外の反撃にあっさりとバランスを崩した王は、そのままアルカディアの射程圏内へと入る。最後の矢を放つのだろうと読み、王はバランスを崩しながらも溶解液を飛ばす準備をする。
「制限解除!」
ほんの一瞬だが、アルカディアの背に白い羽が生えた。勢いよく加速し、王の目前へと移動する。そして勢いよく顎を蹴り上げた。
「はっ」
『ゲガァ!』
勢いよく打ち上げられた王は顔面から洞窟の天井にぶつかり、そのまま顔がめり込んだ。蹴り上げられた衝撃でアルカディアの腕から舌が外れる。先程まで舌が巻き付いていた箇所からは湯気が上がり、溶かされた腕は目を背けたくなるような状態だった。
この一連の流れはすべて瞬き一つの間に行われ、アルカディアの背中からは羽など一切生えていない。幻でも見ていたかのようだ。
「はぁ…はぁ…」
腕が痛むのか、無意識のうちに庇うようにしていたアルカディアは、それでも王から視線を外さない。矢を口に咥え、左手で弓を支えていつでも放てるようにと身構える。
ぴくり、と王の体が微かに動いた。
次の瞬間、勢いよく顔を天井から抜いて地面に着地し、同時にアルカディアへと飛びかかる。
(早い!)
アルカディアでさえ捉えきれないスピードで目前に迫ると、王は口を開けた。喉の奥に見えるのは溶解液ではない。青い色をした光。どのような効果があるのかはわからないが、光線を放とうとしているのだけはわかった。
すぐさま喉に向けて矢を放つが、少しの動揺と口で咥えて放った事による無理な体制のせいで王にはダメージを与えられなかった。
『ゲゴォ!』
「…っ!」
至近距離で放たれた光線が、アルカディアを貫いた。
※ ※ ※
水の術はカエル人間達には効かない。
そのはずだったんだけど、どうやら熱湯は別らしい。
「アクアソリューション・熱湯バージョン!」
杖に取り付けた封石の影響で、シャーナの十八番は熱湯になっている。水の柱が渦を巻き、なんというか洗濯でもするかのようにカエル人間達を洗い流していく。熱湯により茹ったカエル人間達は表面のぬめりが取れ、俺の攻撃が簡単に当たるようになっていた。
「それ、いちいち『熱湯バージョン』って言わないといけないの?」
カエル人間達をバンバン吹っ飛ばしながら聞けば、ムーリトの箒に一緒に乗っていたシャーナはにっこりと笑って答えてくれた。
「深い意味はないわ」
「あ、そう…」
カエル人間達の攻撃はムーリトの防御術で阻まれて届かない。シャーナの熱湯で茹でて俺の攻撃でとどめを刺す。俺達三人はアルカディアさんがいるであろう洞窟の入り口方向へと順調に進んでいた。
もしかしたら王様もこの方法で倒せるかもしれない。そう思うと、自然と頬が緩んだ。
「ゆ、油断大敵…かも…」
ぼそりとムーリトが言う。その言葉に慌てて笑みを消した。
そうだ、油断していたらあっという間に隙を突かれてしまう。危ない、危ない。
俺は頬をバシバシと叩いて気合を入れ直す。王様を倒して洞窟を出るまでは油断できないよ。
そうこうしているうちに何かが壊れるような音が聞こえてきた。どうやら戦闘現場は近いらしい。俺は走る速度を、ムーリトは箒の速度を上げる。
動いている二つの影が見えてきた。相変わらず早い。けど、両者とも疲れてきているのか、最初の頃よりもスピードが落ちている気がする。
「アルカ…」
俺が声をかけようとした正にそのタイミングだった。
『ゲゴォ!』
「…っ!」
王様が大きく開いた口から青い光線が放たれ、アルカディアさんの腹部を貫いた。
衝撃で体が大きく後ろに飛ぶ。
空中を舞うその体から、一瞬遅れて血が噴き出した。
ドサリと体が地面に叩きつけられ、溢れ出した血が赤い敷物のように染み出していく。服も勢いよく血を吸い始めた。
俺達は予想外の光景に息をのみ、いつの間にか足を止めていた。体が地面に叩きつけられ血が溢れだしたのを見て、ようやく我に返る。
「アルカディアさん!!」
慌てて走り出したせいか転びそうになったけれど、何とか傍までたどり着けた。
「しっかりしてください、アルカディアさん!」
「あ…う…っ…」
声をかけても反応がない。
微かに喘いでいるものの、これは俺に応えたとは言えない。無意識のうちに声…というか、音が漏れただけだろう。
「どいて、ソルト君!ムーリト!」
「う、うん!」
慌ててシャーナとムーリトがアルカディアさんに治癒術をかけ始める。傷口は遠くで見た物よりももっとずっと大きい。
「と、とにかく止血しないと…」
「聞こえますか、アルカディアさん!」
二人が必死に傷口へと手を翳す。俺もここで声をかけ続けていたいけれど、そうもいかない。
背後で、王様の気配が動く。
『ゲゴォ…』
「…二人とも、アルカディアさんをお願い」
立ち上がり振り向けば、王様がゆらゆらと揺れていた。まっすぐ立っていられないのは、地面に転がっている切れた舌のせいだろうか。
『よもや、闇に近いこの領域で、我にここまでのダメージを負わせるとは…』
ぎょろりとその目が瀕死のアルカディアさんを捉える。その視線から隠すように、俺は立ちはだかった。
「これ以上、お前の好きにはさせない!」
『……』
ゆらゆらと揺れながら俺を見る王様から、どんどん怒気が……いや、殺気が溢れてくる。
『貴様等…我をあまり舐めてくれるな!………ゲゴォォォォォォ!!!』
両手を大きく広げた王様は地面すら揺らすような大声で鳴いた。すると、遠くからズシン、ズシンと音が聞こえてきた。
なんだ?この音…。何かがこっちに、向かってくる?
巨大な生物が歩くようなその音は、入り口の方から聞こえてきた。入り口には確か、巨大なウシガエルが……まさか!
俺の予想は、残念なことに的中。通路の奥からやってきたのは、入り口を破壊して俺達を洞窟内に閉じ込めた、あの巨大ガエルだった。
こんな狭いところで、しかも瀕死のアルカディアさんがいるのに、王様と巨大ガエルを同時に相手になんてできないよ。一体、どうしたら?
けれどもこれは杞憂に終わった。巨大ガエルは何を考えているのか、やってくるや否や舌を伸ばし王様をぺろりと飲み込んでしまったのだ。
「え!?」
なにかの罠かと身構えるが、巨大ガエルはくちをもごもごと動かしたままで俺達を見ようともしない。喉が大きく動き、王様を飲み込んでしまったのがわかる。
一体、どういう事だ?なんで王様を飲み込んだりなんて…。どう見ても王様の方が巨大ガエルより強そうだったのに。
あれこれと考えていると、突如巨大ガエルが苦しみだした。お腹を押さえ低く唸る。そしていきなり背中から倒れこむと、手足をじたばたと動かし始めた。もがき苦しんでいる、そう表現するのがぴったりだ。
「な、なんだ?」
嫌な予感がして俺はシャーナ達の傍へと戻る。もちろん治療中の二人に攻撃が当たらないように壁役は果たしたままだけど。
巨大ガエルのお腹がみるみる膨れはじめ、
「ゲェ!」
パァン、という大きな音と共に巨大ガエルのお腹が内側から破裂した。むくり、と影が一つ立ち上がる。王様だ。胃液なのか知らないが、先程よりも体中がぬめぬめと光っている。巨大ガエルはというと、その体が徐々に泡になっていく。
よくわからないけれど、先程までと雰囲気が変わった事は肌でビンビンに感じられた。明らかに強くなっている。
もしかしてもしかするとだけど、あの巨大ガエルから力を吸収してパワーアップした…とか?
…この考え、合っている気がする。
『そこのお前』
「お、俺?」
『そうだ。お前から同士達の匂いがする。ずいぶんと殺ってくれたようだな』
「こっちも命懸けだからね」
『そうだな。命懸けの戦いは、楽しめる』
「俺は楽しいとは思わない」
『そうか、残念だ』
薄く開いた口から舌がだらりと垂れた。無くなっていたはずの舌が、どうやら再生したらしい。アルカディアさんと戦って多少なりと怪我をしていたはずだけれど、それらも全部なくなっている。
パワーアップした上に完全回復ってところだろうか。冗談キツイな。
『喜べ。今から我が全力で相手をしてやろう』
「……」
どこか目がイっちゃっている王様は隙だらけに見える。でもきっと、今まで以上に早くなっているはずだ。俺はいつ打ち込まれても反応できるようにと身構える。
「…あまり…喜べませんね…」
『ほう』
「アルカディアさん!?」
後ろから聞こえてきたか細いながらもしっかりした声に慌てて振り返れば、アルカディアさんが上体を起こそうとしていた。
「ま、まだ駄目です」
「そうですわ。ようやく血が止まったばかりで…」
「だい、じょうぶ…。すぐに治ります…から…」
どう見ても大丈夫に見えないけれど、アルカディアさんは制止する二人を制し、立ち上がった。腹部に空いた穴からは見えてはいけない大事なものが見えている。右腕も筋肉繊維どころか骨だって見えているのに…。
『さすがだな』
「今のはさすがに効きました」
立ち上がったアルカディアさんを見て王様が感心する。そんな王様にアルカディアさんは笑顔で答えた。
「駄目ですよ寝てないと!脂汗までかいているじゃないですか!」
「ソルトさん一人に戦わせるわけにはいきませんから」
「何を言ってるんですか!あと、笑っている場合でもないです!」
「傷ならすぐに塞がりますから」
「嘘言わないでください!内臓見えてるんですよ!」
俺の言葉に合わせてムーリトが頷く。満身創痍で大丈夫なんて言われても説得力がないし信じられない。何が「すぐに治ります」だよ、そんな事あるわけないじゃないか。
『大人しく寝ていたらどうだ。焦らなくてもすぐに殺してやる』
「彼等を殺させるわけにはいきませんから」
にこりと笑ったアルカディアさんは弓を構える。でも矢なんてどこにもない。一体何をするつもりなのかと思っていたら、きらきらと白い光が集まり一本の光の矢を形成した。
「こうなった以上、手段は選んでいられないですよね」
『なるほど、まだ楽しめそうで何よりだ』
ゲコゲコと王様は喉で笑う。
アルカディアさんも王様も、どうやら戦うつもりらしい。寝ていろと言っても拒否するのなら、今は協力して王様を倒すしかなさそうだ。片が付いたら、アルカディアさんを意地でも寝かせて大人しく治療されてもらおう。
「しょうがない!シャーナ、ムーリト、やるよ!」
「わかったわ」
「で、でも…」
構えた俺の隣にシャーナが来る。ムーリトはアルカディアさんが気になって仕方がないらしい。俺達とアルカディアさんを交互に見る。
「言う事聞かない患者は後回しだ。先に王様を片付けてその後アルカディアさんを押さえつけて治療、オッケー?」
「う、うん」
俺の言葉に頷いてムーリトは箒に跨った。そのままふわりと宙に浮く。
『返り討ちにしてくれるわっ』
大きく開かれた口から溶解液が飛ばされる。
「はっ」
アルカディアさんが光の矢を放ち相殺した。
「アクアソリューション・熱湯バージョン」
五本の水柱が王様めがけて突っ込む。それらをすべてかわす王様に俺は氣を集中させた拳を叩き込んだ。だが、余裕の表情で受け止められる。
王様の反撃よりも先にやってきたのは光の矢。眼球めがけて打ち込まれた矢を回避する為に、王様は顔を少し逸らす。
「はあっ」
矢と少しタイミングをずらす形で俺は脇腹に蹴りを一発。大したダメージは与えられないが、バランスを崩させることには成功した。
「熱湯・水嶺斬」
俺の拳を受け止めている腕めがけてシャーナが水の刃を振るう。熱湯という事は、あの刃はあっつあつの熱湯なのだろう。
さすがに腕を斬られる訳にはいかないからか、王様はあっさりと俺を解放した。そのまま大きく飛び距離を取る。飛び跳ねている最中も攻撃を忘れないらしく、俺達に向かって口から青い光線を発射した。
「シールド」
ナイスタイミングでムーリトが防御術を使う。相当強い威力の光線も、ムーリトの防御術には敵わないようだ。
「はっ」
どこにそんな気力があるのか、アルカディアさんは次々と光の矢を放つ。かわし続けていた王様だが、そのうちの一本が左肩に突き刺さった。
バァン!
激しい爆発音とともに腕が吹き飛ばされる。
『ゲェ…ガァァァ!』
殺気に溢れ血走った目がアルカディアさんを捉え、勢いよく舌が伸ばされた。
「でりゃぁぁぁ!」
その舌を蹴り飛ばし、俺は一気に距離を詰める。腕が吹き飛ばされた反動でバランスを崩していた王様の腹部に拳を思いっきり叩きつけた。柔らかい体に拳がめり込み、くの字に大きく曲がる。一瞬遅れて、体は壁まで勢いよく吹き飛び、そのままめり込んだ。
「アクアソリューション・熱湯バージョン」
駄目押しでシャーナが熱湯を叩きつける。
「ホーリィ・アロー」
とどめとばかりにアルカディアさんが光の矢を放つ。
さすがの王様もこれなら耐えられないだろう。
油断はしていないけれど、どこかで「いける」と喜んでいた。
『グゲガァァァァァ』
けれど、断末魔だと思われた声は、違った。
熱湯の向こう、光の矢を飲み込むように青い光線が俺達へと放たれる。
「シールド」
すかさずムーリトが防御術を使う。だが、
ドガァァァン…!
光線が防御壁に触れると同時に勢いよく爆発した。激しい風圧が俺達を襲う。
いや、襲ってきたのは風だけじゃなかった。爆発した光線は大量の泡へと変化し、俺達の体にまとわりつく。
「な、なんだこれ……動けない…っ!」
粘り気のある泡が体全体に吹き付けられ、だんだんと身動きが取れなくなる。
『ゲェ…』
衝撃は、すぐに来た。
凄く近くで王様の声が聞こえたと思った瞬間、俺の体は勢いよく壁へと叩きつけられていた。何が起こったのか、全然わからなかった。
「あ…くぅ…」
痛む体を何とか起こすと、泡の中に王様が立ち、周囲の壁には俺と同じように吹き飛ばされたのか、シャーナとムーリトが倒れていた。王様は舌をアルカディアさんの首に巻きつけ宙吊りにしている。舌が巻き付いた首からは湯気のようなものが立ち、肉の焼けるような匂いが俺のところにまで届いた。
「あ…が……あ…」
左手だけで何とか舌を外そうともがくアルカディアさんを見て、王様はニヤリと口元を歪がめる。そして傷口の塞がっていない腹部へと拳をねじ込んだ。
「がはぁ!」
「あ、アルカディアさん…!」
急いで駆け付けようにも粘る泡が邪魔をしてうまくたどり着けない。
くそう…。早くアルカディアさんを助けなくちゃいけないのに!
泡はどんどんと湧き出し、もう俺の腰くらいまである。目の前では何度も何度も腹部を殴られているアルカディアさんがいるというのに、急いで駆け付ける事も出来ない。折角止まった血も、王様が手を抜くたびに溢れている。体外に出てはいけない何かがこぼれ出てもいる。
「アルカディアさん!」
『ゲコォ…』
舌を大きく動かし、王様が俺に向かってアルカディアさんを投げつけてきた。
「うわっ」
何とか受け止めるが支えきれずに二人とも泡の海に倒れこむ。
「アクア…きゃあ!」
「シャーナ…ひゃぅ!」
シャーナとムーリトの悲鳴が聞こえる。くそ、身動きが取れない。
音と悲鳴でシャーナ達が攻撃を受けているのがわかる。仲間のピンチに何もできないなんて…。
「げほ…げほ…」
「アルカディアさん、生きてますか?」
「な、なんとか…」
顔色は悪いけれど、動けるという事はまだ大丈夫という事だろう。
「な、内臓が…」
「内臓が?」
「無いぞう……なんちゃって」
「……」
本気で心配している俺ににこりと笑って何を言い出すんだ、この人は。
でもまあ、冗談を言うくらいの元気はあるって事らしい。もの凄く寒いオヤジギャグだったけど。
「シャーナとムーリトを助けないと!」
「私が矢で道を作ります。一瞬しか保ちませんが、その間に」
「わかりました」
痛みに顔を歪めながらもアルカディアさんは光の矢を放つ。勢いよく飛ぶ矢が泡を吹き飛ばして風圧で道を作る。矢の後を追って俺は駆け抜ける。
「はぁぁぁ!」
勢いよく地を蹴り、王様の頭上から一気に飛び蹴りをお見舞いするが、残念ながら避けられてしまった。
「二人とも、大丈夫?」
「う、うん…」
「平気よ。アルカディアさんは?」
「冗談を言う元気はあるよ」
二人を庇うように立ち、構える。相変わらず隙だらけの構えをする王様は、余裕綽々といった感じだ。なんかくやしい。
「はっ」
地を蹴り、一気に距離を詰める。突いて蹴って殴ってと連続で攻撃を続けるが、王様は最小限の動きでかわしていく。泡がまとわりついている分、いつもよりもスピードが遅い。王様はぬめる体が泡を寄せ付けないといった感じだ。
「アクアウェイブ」
シャーナの声と同時に、ドドドと波が俺達を…いや、泡を洗い流していく。攻撃目的というよりは、泡を消し去るのが目的だろう。頭から大波をかぶり、全身丸洗いされた気分だ。濡れた髪をかき上げ、再び王様へと迫る。
『ゲボォ』
「くっ」
俺が近づくのを待って王様は口から泡を吐き出した。ギリギリでかわし、大きく後ろに飛んで距離を取る。べちゃりと地面に落ちた泡は、先程と同じもののようだ。
ニヤリと嗤う王様に手も足も出ないのが悔しい。
「やはり…光と水だけでは…」
荒い呼吸を繰り返すアルカディアさんに肩を貸しつつ、ムーリトは腹部に手を当てて治癒術をかける。
「アルカディアさん、封石は?」
「もうありません。そういうシャーナさんも…」
「品切れですわ」
杖を構えてふてぶてしく笑うシャーナだけれど、いつものような余裕は全くない。
こうなったら、魔王を倒した時のあの技しかない!……でも、どうやってあの技を出したのか、覚えてないんだよね。封魔としての俺の《言葉》らしいんだけど…。どういう意味なのか、なんて発音したのかも思い出せない。肝心な時に使えないんじゃ、何の意味もないよ。
「せめて、炎を当てられたら…」
ギリリとアルカディアさんが唇を噛む。
今の俺達は、王様を倒す最低限の条件さえクリアできていないんだ。
俺がもらった封石の指輪も、役目が終わったとばかりに壊れてしまった。
『別れの挨拶は済んだか?』
「くっそぉぉぉぉ!」
勢いよく地を蹴り、一気に距離を詰める。連続で拳を叩き込み、蹴って、殴って。
でも、そのすべてが当たらない。
『お前達はよく頑張った』
王様の体が水色に発光する。
次の瞬間、勢いよく体から水が溢れ出し、俺達を壁へと打ち付けた。
鉄砲水、河川の氾濫、津波…。例えるならば、そんな強烈な水圧。強すぎる水圧で体はいう事を聞かない。突然すぎて息を吸い込む間もなかった。
一瞬の出来事だったのだろうけど、すごく長く感じた。水から解放された体は、受け身を取る間もなく地面に落ちる。
『これ以上は時間の無駄だ。我は優しいからな、全員まとめて次で終わりにしてやろう』
今のでかなりの体力を消耗したみたいだ。足に力がはいらない。腕も動かない。何とか顔を動かして王様へと視線を向ける。
全身が、ゆっくりと発光していく。明滅を繰り返し、周囲の氣を取り込んでいるようだった。
どうしよう、これ、すごくヤバい。
でも、一体どうしたら…?
だめだ、なにも、何も思いつかない。
「来たるは輝き…」
その声は、
「焔の光…」
怯えも何もなく、
「燃えよ」
ただ純粋に、心の底から、
「炎獣!」
それだけは駄目だと解った。
ただ、少しだけ呼吸を整える時間が欲しいかな。
疲れのたまる俺と違って、カエル人間達は入れ代わり立ち代わりというやつだ。片っ端から吹っ飛ばしてはいるけれど、全然減ったように見えない。
いつの間にかアルカディアさんとの距離は開き、俺からはカエル人間達に阻まれてその姿を確認できない。もともと捉えるのがやっとというスピードで王様と戦っていたけれども。
ただ、戦う音がだんだんと遠のいているから、俺と距離が開いたのだという事だけはわかる。
「ゲゴォ」
「よっと」
水かきの付いた手から繰り出されるパンチ…というか、はたく攻撃。それをかわして反撃しようにも、四方八方から似たような攻撃がやってくる。はたき攻撃をかわしきれば、今度は舌攻撃。それも何とか頑張ってかわせばまたはたく攻撃。キリがない。
致命傷にならないようにと頑張ってはいたが、足がもつれ、少しだけ反応が鈍った。
「ゲェ!」
その一瞬の隙を見逃してはくれなかったらしく、一匹が口を大きく開けて突進してきた。その口の奥にきらりと、水みたいな何かが見えた気がした。
やばい、こいつら溶解液も出せたんだった。
どくんと心臓が跳ね、一瞬で汗が噴き出す。
この距離でかわせるか?いや、無理だ。ならここは防ぐしかない。
顔にかかったらもうどうする事も出来ない。腕を犠牲にする覚悟で、俺は顔を庇うように腕を出した。
「アクアソリューション、熱湯バージョン!」
ゴォォォォ!
「ゲガァ」「グゲェ」「ゲロォ」
響いた声の直後に大量の水…というか、お湯が俺を取り囲んでいたカエル人間達を流していく。渦を巻いた水柱に巻き込まれ、カエル人間達がぐるぐる回っていた。
「あっつ!」
熱湯バージョンというだけのことはある。飛び散ったお湯が少しだけ腕にかかった。マジで熱湯だ。ふー、ふー、と息を吹きかけて腕を冷ましてみるが、きっと効果はない。やけどになったらどうしよう。
「あ、かかっちゃった?」
「少しだけ。でも助かったよ」
ごめんね、なんてぺろりと舌を出して謝るシャーナに俺は気にしないでと答える。その後ろには今にも泣きだしそうなムーリトがいた。
「召還、成功した?」
「う、うん…なんとか…」
「そっか」
俺が尋ねると、ムーリトはこくりと頷いた。やったぞ!という表情ではなく、やっぱりどこか不安げだ。
「これで、その…もう陣から……あの、出てくることはなくて…」
「つまり、後はここにいるカエル人間達を倒せば終わりって事だね」
「う、うん」
「さっさと片付けて帰りましょう。私、もう洞窟は飽き飽きだわ」
「同感」
シャーナの術で流されていったカエル人間達は壁際に押し流され、山積みになっていた。茹ってしまったのか、ぐったりとしている。緑色だった皮膚が、茹でだこのように鮮やかな赤へと変化していた。
「さぁて、煮つけにでもしてやろうか…」
ふっふっふ~と指の骨を鳴らす動作をした俺に、カエル人間達がゲコゲコと足掻いた。どうやら手足が絡まって上手く抜け出せなくなっているらしい。
「…煮付け?」
「こ、こわいよぉ」
シャーナが眉根を寄せ、ムーリトはそんなシャーナの後ろに隠れた。女統族では普通にカエルで出汁とかとっていたけどなぁ。確か黄爛国でもカエルは食べたはずだ。一般的にはカエルを食べる習慣はないらしいけれど、鶏肉みたいにぷりぷりしていて美味しいんだけどな。もったいない。
「美味しいよ、カエル」
「…女統族って変わっているのね」
「で、でも確か…黄爛国も、四本足は机以外みんな食べる…とか…」
「ああ、そっち系なのね」
「うぅ~」
ムーリトはますますシャーナの後ろに隠れた。シャーナはといえば、どこか一歩引いている。いつもは図太い神経しているくせに、なんでこういうのは引くんだよ。
「よし決めたっ。薬膳系雑炊にしてやるっ」
「ゲコォ…」
ビシィっと指を突き付ければ、カエル人間達は目をうるうるさせた。泣き出しそうな声が『後生な~』なんて言っているように聞こえる。ちょっと悪ノリが過ぎただろうか。
なんてことをしていたら、どこからともなく「しゅわしゅわ…」という音が聞こえた。なんというか、炭酸飲料のあのしゅわしゅわという音に似ているかもしれない。
どこから聞こえるのかとあたりを見回せば、聞こえていたのはカエル人間の山からだった。一番下敷きになっていたカエル人間が、少しずつ泡になっているのだ。
「ええ!?なに?どういう事?」
「たぶん…倒せたって事だと…」
「え?魔物って、倒したら砂というか、塵になるんじゃ…」
「水棲の魔物だからじゃないかしら。魔物にもいろんな種類がいるし、必ずしも砂になるとは限らないのかも」
「なるほど」
下になっているカエル人間から徐々に泡になっていき、やがて全部のカエル人間が完全な泡になってしまった。洞窟の壁際に山となっていた泡も少しずつ気泡がはじけ、後にはほんの少しの水たまりが残っただけ。
「なんか、上のやつはまだ戦えそうだったけど…」
「長い事こちら側にいたせいで、もう限界だったのかもしれないわね」
「あの熱湯が効いたのかも。よし、アルカディアさんの援護に行こう!」
「ええ」「う、うん」
思わぬ形でカエル人間を倒す方法が見つかり、俺達はこの勢いのままアルカディアさんの援護へと向かった。
アルカディアさんはどこまで王様を引きつけに行ったのだろうか?
※ ※ ※
びゅるる、と口から放たれた溶解液をかわし、アルカディアはすぐさま矢を射る。だがその矢はあっさりと舌で捉えられ、そのままバクリと食べられてしまった。
『残りの矢は一本だ。我相手に、しかも闇に近いこの領域でよく頑張った』
「その言い方では、まるで私が負けるようではありませんか」
『光のお前がこの場所で我に勝てると思っていたのかね』
「もちろんです。人間界で活動する為の準備はちゃんとしていますからね」
『そうか。だが、それもいつまで保つか…なっ』
びゅるり、と王は溶解液を飛ばす。それを余裕でかわすアルカディアだが、もちろんそんな事は予想済みとでも言いたげに、王は間髪入れずに溶解液を飛ばし続ける。
「くっ」
残りの矢が一本でなければ回避ざまに矢を放つのだが、もう無駄使いはできない。ムーリトからもらった封石も、残りわずかだ。
『大人しく我の餌となり、超回復力を渡すがいい』
「だからそれ、古代種の話ですって」
『問答無用』
壁際に追い詰めたアルカディアへと溶解液を飛ばす。もはやジャンプしてかわす以外に道はない。そう誘導された事に軽く舌打ちし、アルカディアは思惑通りジャンプしてかわす事にした。
『かかったな』
ニヤリと嗤った王は舌を伸ばしてアルカディアの腕を捉えた。じゅっ、と肉の焼ける匂いが辺りに広がる。舌の粘液にも物を溶かす溶解液の作用があったのだろう。服が溶け、腕が直接粘液に触れた。焼けるような痛みが走る。だが、
「それはこちらのセリフです」
右腕に巻きついた舌を、あろう事か左手で掴み、勢いよく引っ張った。
『ゲェ!?』
予想外の反撃にあっさりとバランスを崩した王は、そのままアルカディアの射程圏内へと入る。最後の矢を放つのだろうと読み、王はバランスを崩しながらも溶解液を飛ばす準備をする。
「制限解除!」
ほんの一瞬だが、アルカディアの背に白い羽が生えた。勢いよく加速し、王の目前へと移動する。そして勢いよく顎を蹴り上げた。
「はっ」
『ゲガァ!』
勢いよく打ち上げられた王は顔面から洞窟の天井にぶつかり、そのまま顔がめり込んだ。蹴り上げられた衝撃でアルカディアの腕から舌が外れる。先程まで舌が巻き付いていた箇所からは湯気が上がり、溶かされた腕は目を背けたくなるような状態だった。
この一連の流れはすべて瞬き一つの間に行われ、アルカディアの背中からは羽など一切生えていない。幻でも見ていたかのようだ。
「はぁ…はぁ…」
腕が痛むのか、無意識のうちに庇うようにしていたアルカディアは、それでも王から視線を外さない。矢を口に咥え、左手で弓を支えていつでも放てるようにと身構える。
ぴくり、と王の体が微かに動いた。
次の瞬間、勢いよく顔を天井から抜いて地面に着地し、同時にアルカディアへと飛びかかる。
(早い!)
アルカディアでさえ捉えきれないスピードで目前に迫ると、王は口を開けた。喉の奥に見えるのは溶解液ではない。青い色をした光。どのような効果があるのかはわからないが、光線を放とうとしているのだけはわかった。
すぐさま喉に向けて矢を放つが、少しの動揺と口で咥えて放った事による無理な体制のせいで王にはダメージを与えられなかった。
『ゲゴォ!』
「…っ!」
至近距離で放たれた光線が、アルカディアを貫いた。
※ ※ ※
水の術はカエル人間達には効かない。
そのはずだったんだけど、どうやら熱湯は別らしい。
「アクアソリューション・熱湯バージョン!」
杖に取り付けた封石の影響で、シャーナの十八番は熱湯になっている。水の柱が渦を巻き、なんというか洗濯でもするかのようにカエル人間達を洗い流していく。熱湯により茹ったカエル人間達は表面のぬめりが取れ、俺の攻撃が簡単に当たるようになっていた。
「それ、いちいち『熱湯バージョン』って言わないといけないの?」
カエル人間達をバンバン吹っ飛ばしながら聞けば、ムーリトの箒に一緒に乗っていたシャーナはにっこりと笑って答えてくれた。
「深い意味はないわ」
「あ、そう…」
カエル人間達の攻撃はムーリトの防御術で阻まれて届かない。シャーナの熱湯で茹でて俺の攻撃でとどめを刺す。俺達三人はアルカディアさんがいるであろう洞窟の入り口方向へと順調に進んでいた。
もしかしたら王様もこの方法で倒せるかもしれない。そう思うと、自然と頬が緩んだ。
「ゆ、油断大敵…かも…」
ぼそりとムーリトが言う。その言葉に慌てて笑みを消した。
そうだ、油断していたらあっという間に隙を突かれてしまう。危ない、危ない。
俺は頬をバシバシと叩いて気合を入れ直す。王様を倒して洞窟を出るまでは油断できないよ。
そうこうしているうちに何かが壊れるような音が聞こえてきた。どうやら戦闘現場は近いらしい。俺は走る速度を、ムーリトは箒の速度を上げる。
動いている二つの影が見えてきた。相変わらず早い。けど、両者とも疲れてきているのか、最初の頃よりもスピードが落ちている気がする。
「アルカ…」
俺が声をかけようとした正にそのタイミングだった。
『ゲゴォ!』
「…っ!」
王様が大きく開いた口から青い光線が放たれ、アルカディアさんの腹部を貫いた。
衝撃で体が大きく後ろに飛ぶ。
空中を舞うその体から、一瞬遅れて血が噴き出した。
ドサリと体が地面に叩きつけられ、溢れ出した血が赤い敷物のように染み出していく。服も勢いよく血を吸い始めた。
俺達は予想外の光景に息をのみ、いつの間にか足を止めていた。体が地面に叩きつけられ血が溢れだしたのを見て、ようやく我に返る。
「アルカディアさん!!」
慌てて走り出したせいか転びそうになったけれど、何とか傍までたどり着けた。
「しっかりしてください、アルカディアさん!」
「あ…う…っ…」
声をかけても反応がない。
微かに喘いでいるものの、これは俺に応えたとは言えない。無意識のうちに声…というか、音が漏れただけだろう。
「どいて、ソルト君!ムーリト!」
「う、うん!」
慌ててシャーナとムーリトがアルカディアさんに治癒術をかけ始める。傷口は遠くで見た物よりももっとずっと大きい。
「と、とにかく止血しないと…」
「聞こえますか、アルカディアさん!」
二人が必死に傷口へと手を翳す。俺もここで声をかけ続けていたいけれど、そうもいかない。
背後で、王様の気配が動く。
『ゲゴォ…』
「…二人とも、アルカディアさんをお願い」
立ち上がり振り向けば、王様がゆらゆらと揺れていた。まっすぐ立っていられないのは、地面に転がっている切れた舌のせいだろうか。
『よもや、闇に近いこの領域で、我にここまでのダメージを負わせるとは…』
ぎょろりとその目が瀕死のアルカディアさんを捉える。その視線から隠すように、俺は立ちはだかった。
「これ以上、お前の好きにはさせない!」
『……』
ゆらゆらと揺れながら俺を見る王様から、どんどん怒気が……いや、殺気が溢れてくる。
『貴様等…我をあまり舐めてくれるな!………ゲゴォォォォォォ!!!』
両手を大きく広げた王様は地面すら揺らすような大声で鳴いた。すると、遠くからズシン、ズシンと音が聞こえてきた。
なんだ?この音…。何かがこっちに、向かってくる?
巨大な生物が歩くようなその音は、入り口の方から聞こえてきた。入り口には確か、巨大なウシガエルが……まさか!
俺の予想は、残念なことに的中。通路の奥からやってきたのは、入り口を破壊して俺達を洞窟内に閉じ込めた、あの巨大ガエルだった。
こんな狭いところで、しかも瀕死のアルカディアさんがいるのに、王様と巨大ガエルを同時に相手になんてできないよ。一体、どうしたら?
けれどもこれは杞憂に終わった。巨大ガエルは何を考えているのか、やってくるや否や舌を伸ばし王様をぺろりと飲み込んでしまったのだ。
「え!?」
なにかの罠かと身構えるが、巨大ガエルはくちをもごもごと動かしたままで俺達を見ようともしない。喉が大きく動き、王様を飲み込んでしまったのがわかる。
一体、どういう事だ?なんで王様を飲み込んだりなんて…。どう見ても王様の方が巨大ガエルより強そうだったのに。
あれこれと考えていると、突如巨大ガエルが苦しみだした。お腹を押さえ低く唸る。そしていきなり背中から倒れこむと、手足をじたばたと動かし始めた。もがき苦しんでいる、そう表現するのがぴったりだ。
「な、なんだ?」
嫌な予感がして俺はシャーナ達の傍へと戻る。もちろん治療中の二人に攻撃が当たらないように壁役は果たしたままだけど。
巨大ガエルのお腹がみるみる膨れはじめ、
「ゲェ!」
パァン、という大きな音と共に巨大ガエルのお腹が内側から破裂した。むくり、と影が一つ立ち上がる。王様だ。胃液なのか知らないが、先程よりも体中がぬめぬめと光っている。巨大ガエルはというと、その体が徐々に泡になっていく。
よくわからないけれど、先程までと雰囲気が変わった事は肌でビンビンに感じられた。明らかに強くなっている。
もしかしてもしかするとだけど、あの巨大ガエルから力を吸収してパワーアップした…とか?
…この考え、合っている気がする。
『そこのお前』
「お、俺?」
『そうだ。お前から同士達の匂いがする。ずいぶんと殺ってくれたようだな』
「こっちも命懸けだからね」
『そうだな。命懸けの戦いは、楽しめる』
「俺は楽しいとは思わない」
『そうか、残念だ』
薄く開いた口から舌がだらりと垂れた。無くなっていたはずの舌が、どうやら再生したらしい。アルカディアさんと戦って多少なりと怪我をしていたはずだけれど、それらも全部なくなっている。
パワーアップした上に完全回復ってところだろうか。冗談キツイな。
『喜べ。今から我が全力で相手をしてやろう』
「……」
どこか目がイっちゃっている王様は隙だらけに見える。でもきっと、今まで以上に早くなっているはずだ。俺はいつ打ち込まれても反応できるようにと身構える。
「…あまり…喜べませんね…」
『ほう』
「アルカディアさん!?」
後ろから聞こえてきたか細いながらもしっかりした声に慌てて振り返れば、アルカディアさんが上体を起こそうとしていた。
「ま、まだ駄目です」
「そうですわ。ようやく血が止まったばかりで…」
「だい、じょうぶ…。すぐに治ります…から…」
どう見ても大丈夫に見えないけれど、アルカディアさんは制止する二人を制し、立ち上がった。腹部に空いた穴からは見えてはいけない大事なものが見えている。右腕も筋肉繊維どころか骨だって見えているのに…。
『さすがだな』
「今のはさすがに効きました」
立ち上がったアルカディアさんを見て王様が感心する。そんな王様にアルカディアさんは笑顔で答えた。
「駄目ですよ寝てないと!脂汗までかいているじゃないですか!」
「ソルトさん一人に戦わせるわけにはいきませんから」
「何を言ってるんですか!あと、笑っている場合でもないです!」
「傷ならすぐに塞がりますから」
「嘘言わないでください!内臓見えてるんですよ!」
俺の言葉に合わせてムーリトが頷く。満身創痍で大丈夫なんて言われても説得力がないし信じられない。何が「すぐに治ります」だよ、そんな事あるわけないじゃないか。
『大人しく寝ていたらどうだ。焦らなくてもすぐに殺してやる』
「彼等を殺させるわけにはいきませんから」
にこりと笑ったアルカディアさんは弓を構える。でも矢なんてどこにもない。一体何をするつもりなのかと思っていたら、きらきらと白い光が集まり一本の光の矢を形成した。
「こうなった以上、手段は選んでいられないですよね」
『なるほど、まだ楽しめそうで何よりだ』
ゲコゲコと王様は喉で笑う。
アルカディアさんも王様も、どうやら戦うつもりらしい。寝ていろと言っても拒否するのなら、今は協力して王様を倒すしかなさそうだ。片が付いたら、アルカディアさんを意地でも寝かせて大人しく治療されてもらおう。
「しょうがない!シャーナ、ムーリト、やるよ!」
「わかったわ」
「で、でも…」
構えた俺の隣にシャーナが来る。ムーリトはアルカディアさんが気になって仕方がないらしい。俺達とアルカディアさんを交互に見る。
「言う事聞かない患者は後回しだ。先に王様を片付けてその後アルカディアさんを押さえつけて治療、オッケー?」
「う、うん」
俺の言葉に頷いてムーリトは箒に跨った。そのままふわりと宙に浮く。
『返り討ちにしてくれるわっ』
大きく開かれた口から溶解液が飛ばされる。
「はっ」
アルカディアさんが光の矢を放ち相殺した。
「アクアソリューション・熱湯バージョン」
五本の水柱が王様めがけて突っ込む。それらをすべてかわす王様に俺は氣を集中させた拳を叩き込んだ。だが、余裕の表情で受け止められる。
王様の反撃よりも先にやってきたのは光の矢。眼球めがけて打ち込まれた矢を回避する為に、王様は顔を少し逸らす。
「はあっ」
矢と少しタイミングをずらす形で俺は脇腹に蹴りを一発。大したダメージは与えられないが、バランスを崩させることには成功した。
「熱湯・水嶺斬」
俺の拳を受け止めている腕めがけてシャーナが水の刃を振るう。熱湯という事は、あの刃はあっつあつの熱湯なのだろう。
さすがに腕を斬られる訳にはいかないからか、王様はあっさりと俺を解放した。そのまま大きく飛び距離を取る。飛び跳ねている最中も攻撃を忘れないらしく、俺達に向かって口から青い光線を発射した。
「シールド」
ナイスタイミングでムーリトが防御術を使う。相当強い威力の光線も、ムーリトの防御術には敵わないようだ。
「はっ」
どこにそんな気力があるのか、アルカディアさんは次々と光の矢を放つ。かわし続けていた王様だが、そのうちの一本が左肩に突き刺さった。
バァン!
激しい爆発音とともに腕が吹き飛ばされる。
『ゲェ…ガァァァ!』
殺気に溢れ血走った目がアルカディアさんを捉え、勢いよく舌が伸ばされた。
「でりゃぁぁぁ!」
その舌を蹴り飛ばし、俺は一気に距離を詰める。腕が吹き飛ばされた反動でバランスを崩していた王様の腹部に拳を思いっきり叩きつけた。柔らかい体に拳がめり込み、くの字に大きく曲がる。一瞬遅れて、体は壁まで勢いよく吹き飛び、そのままめり込んだ。
「アクアソリューション・熱湯バージョン」
駄目押しでシャーナが熱湯を叩きつける。
「ホーリィ・アロー」
とどめとばかりにアルカディアさんが光の矢を放つ。
さすがの王様もこれなら耐えられないだろう。
油断はしていないけれど、どこかで「いける」と喜んでいた。
『グゲガァァァァァ』
けれど、断末魔だと思われた声は、違った。
熱湯の向こう、光の矢を飲み込むように青い光線が俺達へと放たれる。
「シールド」
すかさずムーリトが防御術を使う。だが、
ドガァァァン…!
光線が防御壁に触れると同時に勢いよく爆発した。激しい風圧が俺達を襲う。
いや、襲ってきたのは風だけじゃなかった。爆発した光線は大量の泡へと変化し、俺達の体にまとわりつく。
「な、なんだこれ……動けない…っ!」
粘り気のある泡が体全体に吹き付けられ、だんだんと身動きが取れなくなる。
『ゲェ…』
衝撃は、すぐに来た。
凄く近くで王様の声が聞こえたと思った瞬間、俺の体は勢いよく壁へと叩きつけられていた。何が起こったのか、全然わからなかった。
「あ…くぅ…」
痛む体を何とか起こすと、泡の中に王様が立ち、周囲の壁には俺と同じように吹き飛ばされたのか、シャーナとムーリトが倒れていた。王様は舌をアルカディアさんの首に巻きつけ宙吊りにしている。舌が巻き付いた首からは湯気のようなものが立ち、肉の焼けるような匂いが俺のところにまで届いた。
「あ…が……あ…」
左手だけで何とか舌を外そうともがくアルカディアさんを見て、王様はニヤリと口元を歪がめる。そして傷口の塞がっていない腹部へと拳をねじ込んだ。
「がはぁ!」
「あ、アルカディアさん…!」
急いで駆け付けようにも粘る泡が邪魔をしてうまくたどり着けない。
くそう…。早くアルカディアさんを助けなくちゃいけないのに!
泡はどんどんと湧き出し、もう俺の腰くらいまである。目の前では何度も何度も腹部を殴られているアルカディアさんがいるというのに、急いで駆け付ける事も出来ない。折角止まった血も、王様が手を抜くたびに溢れている。体外に出てはいけない何かがこぼれ出てもいる。
「アルカディアさん!」
『ゲコォ…』
舌を大きく動かし、王様が俺に向かってアルカディアさんを投げつけてきた。
「うわっ」
何とか受け止めるが支えきれずに二人とも泡の海に倒れこむ。
「アクア…きゃあ!」
「シャーナ…ひゃぅ!」
シャーナとムーリトの悲鳴が聞こえる。くそ、身動きが取れない。
音と悲鳴でシャーナ達が攻撃を受けているのがわかる。仲間のピンチに何もできないなんて…。
「げほ…げほ…」
「アルカディアさん、生きてますか?」
「な、なんとか…」
顔色は悪いけれど、動けるという事はまだ大丈夫という事だろう。
「な、内臓が…」
「内臓が?」
「無いぞう……なんちゃって」
「……」
本気で心配している俺ににこりと笑って何を言い出すんだ、この人は。
でもまあ、冗談を言うくらいの元気はあるって事らしい。もの凄く寒いオヤジギャグだったけど。
「シャーナとムーリトを助けないと!」
「私が矢で道を作ります。一瞬しか保ちませんが、その間に」
「わかりました」
痛みに顔を歪めながらもアルカディアさんは光の矢を放つ。勢いよく飛ぶ矢が泡を吹き飛ばして風圧で道を作る。矢の後を追って俺は駆け抜ける。
「はぁぁぁ!」
勢いよく地を蹴り、王様の頭上から一気に飛び蹴りをお見舞いするが、残念ながら避けられてしまった。
「二人とも、大丈夫?」
「う、うん…」
「平気よ。アルカディアさんは?」
「冗談を言う元気はあるよ」
二人を庇うように立ち、構える。相変わらず隙だらけの構えをする王様は、余裕綽々といった感じだ。なんかくやしい。
「はっ」
地を蹴り、一気に距離を詰める。突いて蹴って殴ってと連続で攻撃を続けるが、王様は最小限の動きでかわしていく。泡がまとわりついている分、いつもよりもスピードが遅い。王様はぬめる体が泡を寄せ付けないといった感じだ。
「アクアウェイブ」
シャーナの声と同時に、ドドドと波が俺達を…いや、泡を洗い流していく。攻撃目的というよりは、泡を消し去るのが目的だろう。頭から大波をかぶり、全身丸洗いされた気分だ。濡れた髪をかき上げ、再び王様へと迫る。
『ゲボォ』
「くっ」
俺が近づくのを待って王様は口から泡を吐き出した。ギリギリでかわし、大きく後ろに飛んで距離を取る。べちゃりと地面に落ちた泡は、先程と同じもののようだ。
ニヤリと嗤う王様に手も足も出ないのが悔しい。
「やはり…光と水だけでは…」
荒い呼吸を繰り返すアルカディアさんに肩を貸しつつ、ムーリトは腹部に手を当てて治癒術をかける。
「アルカディアさん、封石は?」
「もうありません。そういうシャーナさんも…」
「品切れですわ」
杖を構えてふてぶてしく笑うシャーナだけれど、いつものような余裕は全くない。
こうなったら、魔王を倒した時のあの技しかない!……でも、どうやってあの技を出したのか、覚えてないんだよね。封魔としての俺の《言葉》らしいんだけど…。どういう意味なのか、なんて発音したのかも思い出せない。肝心な時に使えないんじゃ、何の意味もないよ。
「せめて、炎を当てられたら…」
ギリリとアルカディアさんが唇を噛む。
今の俺達は、王様を倒す最低限の条件さえクリアできていないんだ。
俺がもらった封石の指輪も、役目が終わったとばかりに壊れてしまった。
『別れの挨拶は済んだか?』
「くっそぉぉぉぉ!」
勢いよく地を蹴り、一気に距離を詰める。連続で拳を叩き込み、蹴って、殴って。
でも、そのすべてが当たらない。
『お前達はよく頑張った』
王様の体が水色に発光する。
次の瞬間、勢いよく体から水が溢れ出し、俺達を壁へと打ち付けた。
鉄砲水、河川の氾濫、津波…。例えるならば、そんな強烈な水圧。強すぎる水圧で体はいう事を聞かない。突然すぎて息を吸い込む間もなかった。
一瞬の出来事だったのだろうけど、すごく長く感じた。水から解放された体は、受け身を取る間もなく地面に落ちる。
『これ以上は時間の無駄だ。我は優しいからな、全員まとめて次で終わりにしてやろう』
今のでかなりの体力を消耗したみたいだ。足に力がはいらない。腕も動かない。何とか顔を動かして王様へと視線を向ける。
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