5 / 5
スリ時々お人好し(プラコッテ)
しおりを挟む
「プーラーコォォォ!」
「プラコがんばれー!」
後ろから鬼のような形相で追いかけてくるレイアから全速力で逃げる私を、近所の子供達がおもしろそうに応援する。最早2日に一度くらいの恒例行事と成り果てた私とレイアの鬼ごっこ。今回こそ逃げ切るために、今日は準備万端なのであった。
どんな準備か知りたい?知りたいよね、よし、特別に教えちゃおうかな。
今回は国一番の情報屋からとっておきの情報を入手してあるのだよ。
右手から旗を持ったガイドを先頭に観光客の一団がやってくる。少しスピードを上げてすり抜ければ、ほら、一団に阻まれてレイアの姿はあっという間に消えてしまった。この時間にこの道を通る。情報通りだわ。
そして、今日のこの時間は騎士団の巡回ルートからも外れている。つまり、このままレイアを巻けば、ついに初めての勝利!さらば、空腹。こんにちは、美味しいご飯!
けど悲しいかな、お天道様はスリを見逃してはくれなかった。
勝利を確信し後方へ向けていた視線を前方へと戻した時には時すでに遅しというやつで…。
パチィィィィン
「はべしゅっ…!」
顔面に叩きつけた…というか、私が突っ込んで行ったわけだけれども。とにかく、後頭部を打ち付けないように助けてくれるのは彼なりの優しさなのだろうか。いや、顔面に白い凶器を当てがう時点で優しさなんてない気がしますよ、うん。
「ふごご…」
「なんだろ、なんか5日くらい前にもこのやりとり見た気がする」
「既視感とかいうやつだろ、俺も同じ事思った」
「つかグレン、なんで足で支えてんの?普通に腕掴んでやればいいじゃん」
「うんうん。頭とは言えよく足の甲で1人分の体重支えられるな」
「手よりこっちの方が早くてな」
うずくまる私をよそに3人の男性があくび混じりに話をしている。
「この時間は…巡回ルートじゃないって…」
「俺ら任務明けだし」
「流石に三徹は堪えるよな」
「な、なんという誤算…」
「プラコォォって、グレンさん、カイアさん、灼夜さん!」
「よう、レイアちゃん。お疲れ」
そうこうしているうちにレイアに追いつかれ、残念ながら財布は奪還されてしまった。さようなら、美味しいご飯。こんにちは、空腹。
「みなさん、ありがとうございます」
「非番とは言え騎士団に身を置いている以上、スリを見逃すわけにはいかないからな」
「しっかし、プラコちゃんはなんで毎回レイアちゃんの財布を狙うかね」
「子どもからなんて可哀想で取れないし、子連れも然り。観光客にはまたきてもらいたいから盗りたくもない。消去法でスリやすいレイアを狙っているわけなのです、はい」
「何かしらの信念を感じるぜ…」
とはいえ、一度も逃げきれていない以上、ターゲットをいい加減に変えるべきなのかもしれない。
別に真面目な話をしていたわけではないけれど、私のお腹が怪物の悲鳴のように鳴る。
「情報屋の支援に、スタミナ使いすぎた…」
いよいよ空腹で目が回ってきた。
「情報屋って…」
「カイア、お前…」
「なんかスマン、優秀な嫁で…」
そんな会話を聞きながら、私は意識を手放した。
鼻の奥をくすぐる美味しそうな匂いにがばりと体を起こせば、目の前には美味しそうな料理の数々。ああだめだ、涎が止まらない。
「急に起き上がったらだめですよ。一蓮さーん、プラコさん起きました」
「それは良かった」
「はへ?ウルちゃんに一蓮さんって事は…ここ、甘味屋?」
しかし、目の前には定食屋然とした料理の数々。
「カイアが運んできたんだよ。うちの近くで倒れたからなんか食わしてやってくれ、だとさ」
「プラコさん、また何日もろくに食べていなかったんですってね。ゆっくりでいいですから食べてくださいね」
「でもお金…」
「大丈夫、お兄ちゃんの奢りです。一般人を助けるのは騎士の仕事だからって言ってました」
借りを作るのは嫌、という人間は多いだろう。けど、現実は甘くない。これを逃せば次はいつ食べられるか…!うん、思いっきり甘えちゃおうかな。
「それじゃあ遠慮なく。いただきまーす」
この国はとても小さくて、長くいれば嫌でも知り合いが増えていく。私のようなスリは嫌われ者のはずなのに…。この国の住人はなんてお人好しで、なんてあたたかいんだろう。
「ん~~~!おいしーーーい!」
- 終 -
「プラコがんばれー!」
後ろから鬼のような形相で追いかけてくるレイアから全速力で逃げる私を、近所の子供達がおもしろそうに応援する。最早2日に一度くらいの恒例行事と成り果てた私とレイアの鬼ごっこ。今回こそ逃げ切るために、今日は準備万端なのであった。
どんな準備か知りたい?知りたいよね、よし、特別に教えちゃおうかな。
今回は国一番の情報屋からとっておきの情報を入手してあるのだよ。
右手から旗を持ったガイドを先頭に観光客の一団がやってくる。少しスピードを上げてすり抜ければ、ほら、一団に阻まれてレイアの姿はあっという間に消えてしまった。この時間にこの道を通る。情報通りだわ。
そして、今日のこの時間は騎士団の巡回ルートからも外れている。つまり、このままレイアを巻けば、ついに初めての勝利!さらば、空腹。こんにちは、美味しいご飯!
けど悲しいかな、お天道様はスリを見逃してはくれなかった。
勝利を確信し後方へ向けていた視線を前方へと戻した時には時すでに遅しというやつで…。
パチィィィィン
「はべしゅっ…!」
顔面に叩きつけた…というか、私が突っ込んで行ったわけだけれども。とにかく、後頭部を打ち付けないように助けてくれるのは彼なりの優しさなのだろうか。いや、顔面に白い凶器を当てがう時点で優しさなんてない気がしますよ、うん。
「ふごご…」
「なんだろ、なんか5日くらい前にもこのやりとり見た気がする」
「既視感とかいうやつだろ、俺も同じ事思った」
「つかグレン、なんで足で支えてんの?普通に腕掴んでやればいいじゃん」
「うんうん。頭とは言えよく足の甲で1人分の体重支えられるな」
「手よりこっちの方が早くてな」
うずくまる私をよそに3人の男性があくび混じりに話をしている。
「この時間は…巡回ルートじゃないって…」
「俺ら任務明けだし」
「流石に三徹は堪えるよな」
「な、なんという誤算…」
「プラコォォって、グレンさん、カイアさん、灼夜さん!」
「よう、レイアちゃん。お疲れ」
そうこうしているうちにレイアに追いつかれ、残念ながら財布は奪還されてしまった。さようなら、美味しいご飯。こんにちは、空腹。
「みなさん、ありがとうございます」
「非番とは言え騎士団に身を置いている以上、スリを見逃すわけにはいかないからな」
「しっかし、プラコちゃんはなんで毎回レイアちゃんの財布を狙うかね」
「子どもからなんて可哀想で取れないし、子連れも然り。観光客にはまたきてもらいたいから盗りたくもない。消去法でスリやすいレイアを狙っているわけなのです、はい」
「何かしらの信念を感じるぜ…」
とはいえ、一度も逃げきれていない以上、ターゲットをいい加減に変えるべきなのかもしれない。
別に真面目な話をしていたわけではないけれど、私のお腹が怪物の悲鳴のように鳴る。
「情報屋の支援に、スタミナ使いすぎた…」
いよいよ空腹で目が回ってきた。
「情報屋って…」
「カイア、お前…」
「なんかスマン、優秀な嫁で…」
そんな会話を聞きながら、私は意識を手放した。
鼻の奥をくすぐる美味しそうな匂いにがばりと体を起こせば、目の前には美味しそうな料理の数々。ああだめだ、涎が止まらない。
「急に起き上がったらだめですよ。一蓮さーん、プラコさん起きました」
「それは良かった」
「はへ?ウルちゃんに一蓮さんって事は…ここ、甘味屋?」
しかし、目の前には定食屋然とした料理の数々。
「カイアが運んできたんだよ。うちの近くで倒れたからなんか食わしてやってくれ、だとさ」
「プラコさん、また何日もろくに食べていなかったんですってね。ゆっくりでいいですから食べてくださいね」
「でもお金…」
「大丈夫、お兄ちゃんの奢りです。一般人を助けるのは騎士の仕事だからって言ってました」
借りを作るのは嫌、という人間は多いだろう。けど、現実は甘くない。これを逃せば次はいつ食べられるか…!うん、思いっきり甘えちゃおうかな。
「それじゃあ遠慮なく。いただきまーす」
この国はとても小さくて、長くいれば嫌でも知り合いが増えていく。私のようなスリは嫌われ者のはずなのに…。この国の住人はなんてお人好しで、なんてあたたかいんだろう。
「ん~~~!おいしーーーい!」
- 終 -
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる