騎士の王国(仮)

襟川竜

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陽だまりの仮初め(シャイア)

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「ええと、肋骨がここだから手の位置は…」
「人工呼吸は先に軌道を確保しないと」
「心臓マッサージっでこうで合ってる?」

 今日の授業は救命実習。聖騎士クラスの生徒達は2人1組で人形相手に先日の座学内容を実習中。
 僕のペアはオート君。座学の成績はいいのに、何故か実習になると途端にもたついてしまう。けれど、どうやら今回の救命実習は上手くいきそうだ。
「いち、にい、さん、しい、ご……ふー…ふー……いち、にい…」
「オート君、呼吸確認忘れてるよ」
「あ…」
 彼は元々騎士学校ではなく王立学校からの編入生。もしかしたら焦りがあるのかも知れない。
 フェリス団長に憧れて騎士を目指す人は、実はかなりいる。オート君もその1人だけど、編入してまで目指す子は中々いない。なんだかつい応援したくなっちゃう子だ。

 キンコンと鐘が鳴り、授業が終わる。「ありがとうございました」の号令と共に生徒達が考えるのは昼食の事。お弁当はどこで食べようかとか、今日の学食には焼きそばパンがあるとか、なんとも平和な会話だ。

 僕には、人には言えない使命がある。本当は、こんな風に平和に慣れてしまう訳にはいかないのに。
 なのに、なんでかな?少しだけ、もう少しだけ、ここで彼らと一緒に…。

「シャイアくん、聞いてる?」
「え?ああ、ごめん、ぼーっとしてた」
 気づけば僕の隣をオート君だけじゃなく、リタちゃんとウルちゃんまで歩いている。
「シャイアくん昨日休みだったからあれなんだけど、今日みんなでお弁当作ったんだ。安曇と世都さん拾って中庭で食べる予定なんだけど、シャイアくんも一緒に食べようよ」
「でも僕、お弁当ないよ?」
「大丈夫、みんなで食べれるように多めに作ったから!」
 ねー、と3人は笑い合った。
 ああ、なんてほんわかした会話なんだろうか。そうだな…うん、そうしよう。たまにはいいじゃないか、こんな何気ない日常も。団長も言っていたじゃないか。息抜きは必要だぜ、と。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
「やったぁ」

 3人で作ったというお弁当は、なるほど、すごい量だ。リタちゃんが担当したおかずが、さりげなく安曇君の好物が多いのもポイントが高い。ウルちゃん担当の一口おにぎりも、いろんな種類で見た目も華やか。オート君はデザート担当。実家がケーキ屋なだけあって可愛いミニデザートは流石の出来栄えだ。
「うっまそー!」
 どれにしようかなー、と迷う安曇君を「これとか美味しそう」と世都ちゃんがさりげなくリタちゃんのおかずへと誘導する。狙い通り、安曇君の一口目はリタちゃん作の安曇君の胃袋を鷲掴みにしちゃう卵焼きになった。うん、君はもうそのまま餌付けされていいと思う。
「このネコおにぎり可愛い」
「それはね、中身おかかなの」
「じゃあこの魚型はシャケだね!」
「ブッブー、たらこでした」

 何気ない日常、何度だって噛み締められる。何度だって愛おしく思える。
 ああ、僕のやってきたことは無駄ではなかったんだ。そう思える。

「シャイアくんにはこのハート型おにぎりだよ」
「え?これオート君じゃないの?」
「ちち違うよ!シャイア君をイメージしたの!」
 真っ赤になって否定するウルちゃんがくれたのは桜でんぶのハート型おにぎり。
「シャイアくん、いつも私たちの事お兄さんみたいに支えてくれるから。これはいつも心をあったかくしてくれるシャイアくんへの、ほっこりほかほかのお裾分けなの」
 そう言って笑うウルちゃんを挟んで世都ちゃんとオート君がシャケおにぎりを巡って攻防を繰り広げている。
 あまりにもチグハグな光景に、
「ぷっ…あはははは」
気がついたら、吹き出して笑っていた。


ー 終 ー
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