ニセ公女と皇帝陛下の三男坊

真黒豆

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警護編

ナタリーさん

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 道中何事もなくニュルンベルクの到着。エルザさん達とはここでお別れ。おじい様とうまくいくと良いね。

 荷主のニュルンベルクでの買い付けも滞りなく済んで、予定より一週間位早く、クリスマスの2週間前にケルンに戻って来た。帰りも何も無し。誘拐団ももう冬ごもりの時期なんだろうか?荷主は早めに戻れて喜んでた。

 ケルンの城門まで無事到着して、報酬の残金を受け取れば仕事は完了。ニュルンベルクで中古で購入した追加の防寒具が案外高くて結局警護の仕事はトントンだった。まあ防寒具はケルンに居ても必要だけどね。

口入屋さんにも認められて今後も警護の仕事を続けられそう。もっとも冬の間は隊商の警護の仕事は無いけどね。

 宿で預けてた衣装に着替えた。預け賃を月払いから年払いに変えて、来年の分まで一括して支払い。来年は稼がなきゃ。

 家の前まで戻って来たけど、ここが自分の家だって実感無い。実際に住んでたのは2週間程で秋の大半は旅の空だったし。どっちかというとナタリーさんの家じゃないかな?

 ドアを開けて中に入るとナタリーさんが床を掃いていた。

『ただいま戻りました』

 ナタリーさん、何故泣く。

『お帰りなさいませ、アネット様。御無事で』

 ナタリーさんは私が無事帰ってきて凄く喜んでたけど、私としては納得いかない。あんた、私の監視役でしょ。仕事の成否なら兎も角監視対象の安否なんて責任範囲外じゃん。そりゃ目を離した隙に私がいなくなればランベルトに無茶無茶怒られるだろうけどさ。

 それでも、帰ってくるよそりゃ。たとえここが私を捉える鳥籠だとしても直ぐに捨てるのは惜しい。私だって楽したい。危険仕事か無職か、なんかほんと極端なんだよね。安全で刺激的な仕事って無いものかな?

 ナタリーさんが留守の間に冬の準備をしておいてくれて助かった。私が渡してた分じゃ足りなかったので、ヤンさんに借りたと言ってたけど、本当はどうだか。勿論精算して、こういう時の為に使う予備のお金として5グルデン渡して置いた。

 帳簿をチェックしようとしたんだけど、私は実は帝国語の読み書きが出来ない。王国語は義父おやじさんに習ったけど。冬の間の暇な時間にナタリーさんに帝国語の読み書きを習うつもり。

 ケルンのクリスマスのミサは荘厳だった。都会でクリスマスを過ごすのは初めて。

 そして一年分の家賃収入で私の懐は暖かくなった。と言っても一部の店子は一括払いするだけの金がなかったので、分割払いにした。ヤンさんの給金その他を引いて残ったのが54グルデン。

 食事を含めナタリーさんに払う分と予備費を引いて差し引き25グルデンか。思ったより少ないね。やっぱり警護の仕事を続けなきゃ。

 春になって最初の仕事は結構近くて往復1週間だった。

『また明日から1週間留守にします。今回は直ぐ戻って来ますから』

『あの。去年の事といい、アネット様は何をしてるのですか?』

『あなたには関係ありません』

『そんな。私の事をもっと信頼していただいても良いでは有りませんか?』

 監視役を信頼しろと言われてもねえ。

『信用して家を預けてますよ』

 いざとなったら家ごと放棄するつもりだけどね。

『アメリ様はご信頼になっていたと言うのに、何故私は信頼していただけないのですか?』

 アメリさんの事を知っててもおかしくないけど、それを私に言って大丈夫?

『アメリさんはマリー様の忠臣ですから』

『アネット様は色々誤解されてると思います。アメリ様は決してアネット様をマリー様の代わりにしていたわけではないと思います』

 何故あなたがそんな事を言うの?

『アメリさんの事をどうして知っているの?』

『私を選んだのはアメリ様ですから』

 えっ?

『どういう事でしょうか?』

『ランベルト様が挙げられた候補の中からアネット様のお世話をするのに一番ふさわしいとしてアメリ様が私を選ばれたのです』

『何故アメリさんがランベルトに協力しているのです?そもそもあなたは私の監視をするためにランベルトが寄越したのではないのですか?』

『そんな事はありません。アメリ様はアネット様が家事などが全くお出来にならないので、誰かがお世話をしなくてはいけないと言われて、それでランベルト様が小間使いをつけようと言われたのです。多数の応募者の中からアメリ様が私を選ばれたのです』

『意味が分かりません』

『カール様がアネット様に説明差し上げたと言っておられましたが、全然信用されていなかったのですね。ランベルト様がお可哀そうです』

 そんな事言われても一番肝心な時に裏切る人は信用できないよ。

 まあ、ナタリーさんが監視役でないと言うのは信じても良いかな。そんな事よりアメリさんはどうなったの?無事なのは確か見たいだけど。

『アメリさんはどうなったの?無事?』

『アメリ様は帝国とアンジュ公爵家との和睦が決定した時、アンジュ公爵家にお帰りになりました』

 よかった。

『分かりました。これまでナタリーさんの事を誤解していた事は謝罪します。今後はアメリさんが選んだナタリーさんをアメリさんと同様に信頼しましょう。実はアウクスブルクから脱出した時、私は隊商の警護団に紛れていたのです。それ以来警護を仕事にしています。去年不在だったのは隊商の警護でニュルンベルクまで行ってきました』

『アンジュ公爵家のご令嬢で後継者のアネット様がそのような危険で下賎な仕事をされてはいけません。アネット様の財産と比べれば取るに足らないでしょうが、ここの家賃収入だけでも今の生活には十分すぎます』

 ほんとアメリさんみたい。あの頃、アメリさんは私を公爵令嬢にふさわしく振る舞えるよう指導してくれてたんだね。

『生活するのに十分な収入があるのははありがたい事ですが、人には生き甲斐という物が必要です。何もすることがないのは苦痛です。それにこれでも警護として人を救った事があるのですよ』

『アネット様は随行員のお命をお救いになったではありませんか?』

『彼らの命を危うくしたのもわたくしですよ』

『帝国を謀ったのはアンジュ公爵です。アネット様がマリー様として結婚出来ないのは当然ではありませんか』

『兎に角警護の仕事を止める気はありません。ナタリーさんには、私が不在の間、この家だけでなく家主の代理としてこの15軒に関わる全てを差配して下さい。ところでヤンさんがあなたの叔父だと言うのは本当ですか』

『申し訳ありません。その事だけはアネット様を謀りました』

『では問題ありませんね。ヤンさんにもナタリーさんが家主代理である事を伝えておきます』
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