双子の弟が可愛すぎる件について

るんぱっぱ

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午前の稽古が終わり、昼食をすませ、授業が行われる部屋に向かった。
眼鏡をかけ茶色の長い髪をピッタリ結んだ綺麗な女性の前に立つ。


「サヨ先生、申し訳ないのですが、本日の授業は休ませてもらってもよろしいですか?」


僕の言葉を聞いてサヨ先生が、眉間に眉を寄せる。


「…理由をきいても?」


「…私用です」


「体調不良とかではなく、私用ですか…?」


「はい」


射抜くような視線を向けていたサヨ先生は、1つ溜息を吐くと「分かりました」と用意していた教科書やプリントを直していく。


「すみません。ありがとうございます」


「その代わり、今日の課題は倍出します。提出期限は変えないので、しっかり行ってください」


ドンと机に乗せられたプリントを受け取って部屋を出た。そのまま走って稽古場へ向かう。



『同期が以前飲みの席で、祈様のことを出来損ないだとなじっておりました』


もっと、もっと早く走れ!


『祈様も8歳にしてはレベルが高く優秀なのですが、望様に比べると…やはり劣っている部分がございます。祈様を担当しているそいつはそれが気に食わないのか、飲みの席で祈様を馬鹿にする発言をしておりました。そして、望様と比べ自尊心を削っていくと、より稽古が弾むんだと』


『望様はこんなに弱くはありませんよ』
『もう倒れるのですか?望様であればすぐ立ち上がって向かってくるはずです』
『双子なのにどうしてそんなに違うんですか?』
『そう言って追い詰めていくと、あの綺麗な顔を歪めて泣き始めるんだよ。それが可愛くて仕方なくてさ。いつ、ギブアップするか壊れるか楽しみなんだよな』


そう言っているのを、聞いたことがあります。そう言って、ヨルは鷲のような瞳を申し訳なさそうに垂れさせた。



『あいつは身分が高く誰も止めることが………いえ、これは言い訳です。祈様のことを聞かれるまで黙っていて申し訳ありませんでした』



ヨルはそう言って頭を下げたけど、あの頃の僕は聞かなことにして祈が壊れていくのを黙ってみていただろう。それより、早く壊れて消えてしまえばいいと思っていたかもしれない。

ヨルが俺に言わなかったのも当たり前だ。俺に言っても、俺は動かないんだから。



額から汗が流れる。握っていたプリントはグシャグシャになっていた。
本気で走ったのはこれがはじめてだ。こんなことならもっと早く走れるように努力したのに。



―ハッハッ


稽古場に近づくと、ガキンガキンと汚い剣の音が鳴っている。


「うわぁぁぁぁぁ!」


泣き叫んでいる祈の声が耳に入って、心臓が潰されるように痛んだ。


「祈様、駄目です。全然駄目です。どうして祈様はそんなに弱いのですか?兄の望様はあんなに優秀なのに」


祈が泣きながら剣を振り上げるのを金髪の男は嘲笑いながら受け止めていた。


祈が限界を迎えて膝をつくと金髪の男は「あなたに休憩する時間なんてありませよ」と腕を掴んで立ち上がらせる。


フラフラになっている祈。「弱い」「駄目」「努力不足」あらゆる言葉を祈にぶつけている男。


―殺す



僕は走っていたスピードを緩めず傍に合った木刀を握りしめる。



「望様は優秀で、祈様は出来損ない。皆そう言っていますよ」


「う、いやぁ、いやだぁ」


「そうですよね。だから僕が祈様を強くして差し上げます。これは秘密の特訓です。誰にもいってはいけませんよ?誰かに言えば、ずっとあなたは劣等生です」



「わぁぁぁあぁああああぁ」



稽古場に祈の声が響く。

金髪は気持ち悪い笑みを浮かべて祈に夢中になっているから僕に気づいていない。



祈を泣かせやがって。クソが、こいつ。絶対殺す。僕が、殺してやる。


握った木刀を振り上げて、金髪男の顔面に打ち付けた。


「ぐはっ」


「おい、お前、僕の祈に何してんの」



「…った、へ、は?なんで、どうして望様がここに…」


「あぁ、うるせ。もういいや、理由とかどうでもいい。その汚い声を祈に聞かせんな」


「は、なに…ッグワ」


「おい、喋るなって言っただろ?」


木刀を再度男の顔面にたたきつける。


祈が僕のことを見てくるけど、ちょっと待ってね、こいつを殺したらすぐに抱きしめて慰めて、額を床につけて謝るから。



金髪の男は、仮にも大人だ本気を出されたら負けてしまう。確実に殺さないと。


男が顔面を打たれて悶えている間に両足を砕く。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」



あぁ、喋るなって言ったのに、汚い声出しやがって。声、潰しておくか。



「……っっっっっ」



あぁ、喉潰しても顔がうるさいな。あとで、顔も潰しておこう。先にこっちから……。



「ぁぁ……ッッ」



バタバタと俺の足元で金髪の男が暴れている。両腕も砕いたんだ、動くたび痛みはますのに馬鹿な奴だな。



足も腕も声も潰した。もう後は、こいつを殺すだけだ…。顔面に向かって大きく振りかぶる。



だけど、木刀は振りかぶったままそこから動かない。



「…間に…あった…」



後ろを振り向くと鷲色の瞳をした赤い短髪の男が僕を見下ろしていた。


「ヨル…」



「まさかと思って来てみれば、何をやっているんですか!!」


「…こいつを殺すだけだよ」


「…殺してはいけません。あなたが手を染める必要なんてないんです」


「いや、こいつは殺す。祈を傷つけた」


―パン


音が聞こえると同時に頬が熱を持つ。…痛い。今、叩かれたの?


「しっかりしてください」


ヨルは後ろから僕の頬を包んで無理矢理動かす。


「あなたが今、やるべきことは他にあるでしょう」


移動させられたの視線の先では、祈が耳を塞いで蹲っていた。震える体と聞こえてくる嗚咽の声。


「…いのり…」



祈の肩の手を伸ばすと、その手は祈によって叩き落とされてしまう。


「触るな!!!!!!」


そこでやっと、僕がやってしまった罪を自覚する。


「ご、ごめんね。祈。怖い所見せちゃってごめん」


金髪の男を殺す罪じゃない。祈の前で殺そうとしてしまった罪だ。自分の手が真っ赤に染まっている。返り血で服も染まっている。


冷静になった頭で、祈りに嫌われるかもしれないと恐怖した。


こんな血だらけの手で僕は祈に触ろうとしたの?


「……ヨル、あとお願い」


ヨルに告げると「かしこまりました」と言って、対応してくれた。他の使用人もやってきて辺りは騒然となる。


「祈、本当にごめんね」


僕は未だに蹲って泣いている祈にそう告げて、一人で屋敷に戻っていった。



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