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17.完璧すぎる演技
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すっかりクラリスとリデルシアとのお茶会が、憩いの時間となったアイリスだが……それでも相殺する事が出来ない程のストレス要因が、現状のアイリスを蝕んでいた。
そのストレス要因というのが、例のアレクシスの問題行動だ。
ここ最近のアレクシスの悪ノリの仕方は、かなり酷い……。
夜会でのアイリスに対する過剰なスキンシップはもちろん、普段の日でもやれ夜会の打ち合わせだ、やれ建国記念日の式典の説明だと理由をつけ、暇さえあればアイリスの部屋を訪れては、そのまま入り浸っている。
一見、今までと変わりない日常の様に思えるが……アイリスにとっては、そうではなかった。
その過剰なまでの面白がっているアレクシスの絡み方に苛立ちではない別の感情が生まれてしまい、アイリスの心をかき乱すのだ。その感情は、自身がけしてアレクシスから抱かれ事がないはずの感情なのだが、何故か本当に抱かれているのではと懸念してしまう程の錯覚に陥らされる……。
そんな自分の流されやすい自身の心の弱さにもアイリスは自己嫌悪になってしまう。
それだけここ最近のアレクシスの行動は、それがアイリスの心を大きく揺さぶってくるのだ。
そんなアイリスは、巫女会合から二週間経った今はアレクシスと五回程夜会に参加した。
しかし、そのどの夜会でもアレクシスは、完璧とも言える程の『婚約者を溺愛している王太子』を演じ切っていたのだ。まずアレクシスは、夜会会場に着くと馬車から降りるアイリスをエスコートをする際、頻繁に顔を覗き込んでくる。更に会場入りすると必要以上に自分の方へとアイリスを引き寄せたりもする。お互いに社交交流する為に離れる際は、必ず頬に口付けされ、また再び行動を共にする際は手を取られて、その手の甲にまた口付けされる。
ダンス中は額がくっ付く程、顔を近づけられ、稀に首筋に顔を埋められ髪にまで口付けされる。
どれもこれも不仲説を払拭する為、周りにあえて見せつける様にアレクシスがやっている行為なのだが……これらをアレクシスが、かなり本気で演じて行っている為、そのクオリティーが高すぎるのだ。
そんな二人の様子は、会場内の令嬢からは憧れの眼差しで見られ、逆に婚約者と一緒に参加しているカップル達からは、まるで愛情表現のお手本の様に見られ、年配の参加者からは、微笑ましい表情を向けられる。
その間のアイリスは、気恥ずかしさと不快感で爆発しそうな怒りを抑え、幸福でたまらないという表情を必死に張り付け、アレクシスの隣に佇んでいた。
そんなアレクシスは、帰りの馬車に乗る時も溺愛行動に手を抜かない。
アイリスを馬車に乗せる際は、まるで宝石でも扱うように優しい眼差しで手を取り、乗り込んだ後はやけに近い距離感で横並びに座ってくる。その為、城に着くまでは、その距離感で乗車し続けなければならない……。
そして今もそんな流れで過ごした夜会参加六回目の帰り道だ。
ウンザリするような視線をアイリスに向けられているアレクシスは、本日もアイリスとは近い距離で馬車に乗り込み、必要以上に顔を覗き込んでくる。
そんな策士な婚約者からの接し方をしばらくの間、耐え忍んでいたアイリスだが、馬車が進むにつれて我慢の限界がやって来てしまい、ついにアイリスが抗議の声を上げた。
「ねぇ……帰りの馬車でも、ここまで徹底した溺愛演技をする必要がある?」
「あるよ? だって僕らは帰りの馬車に乗り込む時でさえ、皆の注目の的だ。それが乗り込んだ途端に急に他人行儀になってしまったら不審がられるじゃないか……」
「だからって……。そもそも! 最近あなたのその演技上の過剰な愛情表現は、やり過ぎな気がするのだけれどっ!」
「僕はやるからには、何事も徹底してやる主義なんだ。あれ? もしかしてアイリスには、僕が君に好意を抱いてそうだと勘違いさせてしまったかな?」
「そんな事、あるわけないでしょっ!!」
「良かった~。変な勘違いさせてしまったら申し訳ないからね。でもまぁ、君ならその心配はないだろうから、そこは安心しているのだけれど」
そう言って毎度お馴染みの腹立たしい程の微笑みを浮かべるアレクシス。
その表情が再びアイリスの神経を逆撫でた。
「だったら、もう人目はないのだから隣じゃなくて向かい側に座りなさいよ!」
「え~? 動いてる馬車内を移動するのは危険だから嫌なんだけれど……」
「だったら私が移動するわっ!」
苛立ったアイリスが移動の為に立ち上がった瞬間、タイミングよく馬車が大きく揺れてしまい、アイリスはそのままアレクシスの方へと倒れ込んでしまう。
「ほらぁ~。だから危ないって言ったのに~」
「うるさいわねっ! たまたま揺れただけでしょ! いいから放してよ!」
「受け止めてあげたのにその言い草はないと思うのだけれど……」
「別に私は頼んでないわ!」
「はいはい。ほら、放してあげるから気を付けて移動してね?」
そう言ってアイリスが移動しきるまで片手で手を支えるアレクシス。
無事に向かいの席に移動したアイリスは、席に着くなり盛大なため息をつく。
「私、しばらく夜会には参加したくないのだけれど……」
「あれ? アイリス、もう降参するのかい?」
「何でそうなるのよっ!」
「だって参加したくないって……それ、戦線離脱って事だろう?」
「そもそも二週間で夜会に六回も参加って、ノルマの回数が多過ぎなのよ!」
「だって一カ月間という限られた期間なのだから、それくらいのペースで参加しないと満足な結果は得られないじゃないか……」
「このままだと建国記念日の式典前に私が疲弊してしまうのだれど? その場合、あなたが望んでいる結果が肝心な時に出ないと思うのだけれど!?」
恨みがましそうにアイリスが抗議し続けながら、アレクシスを睨みつける。
「確かにそれは困るね……。ならば来週は夜会の参加回数を少し減らそう」
「減らすだけで無くしてはくれないのね……」
「アイリス、僕がそんな甘い男に見えるかい?」
「言ってみただけよ……」
この抗議で夜会への参加義務は撤回出来なかったが、それでも参加が減ったので心の負担は大分軽減されるはずだと、そう思っていたアイリスだったが……。
しかし翌週から、アレクシスは更に頻度を上げてアイリスの部屋に顔を出しにくる。
それも酷い時には一日に何度もアイリスの部屋を訪ねてくるのだ……。
例えば……挨拶をしに来たと言っては朝一番にアイリスの部屋に顔を出し、昼になると昼食を一緒に取る為に訪れ、15時にはお茶をと言っては訪れた挙句、そのまま夕方近くまで居座ってしまう事が多いのだ。
その間、次の夜会の準備についてや、建国記念日の話などもするのだが……。
アレクシスのそれらの行動は、明らかにアイリスのところにくつろぎに来ているだけにしか見えない態度なのだ。
そもそも王太子ともなると、そこまで暇ではない。現状アレクシスは仕事もそれなりにあるはずなのだが、何故か昼過ぎには徹底して終わらせくるようで、アイリスの部屋にかなりの頻度でやって来る。
そんなアレクシスは巫女会合以前までは、用がある時以外はアイリスの部屋に訪れてくる頻度は少ない方だった。しかし現状はかなりの頻度でアイリスのもとに姿を現わしてくる。そしてそんな状態になってしまったのは、明らかにあの巫女会合が切っ掛けである……。
この状況にアイリスは、巫女会合で雨乞いの儀を披露してしまった事をやや後悔していた……。恐らくそれを切っ掛けにアレクシスは、もっとアイリスに対して踏み込んでもいいと判断し、今まで以上に無理難題を言って来そうな気配をまとっているのだ。
そんなアレクシスをアイリスは、かなり警戒した。
しかし、その事に全く気付かないのか、あるいは気づいていないふりをしているだけなのか……。
アレクシスは、のほほんとした表情をしながら何度もアイリスの部屋を訪れては、無駄に長く居座り続けるのだ。
ここ最近、そんな状況を強いられていたアイリスの怒りは、本日のお茶会でまたしても爆発する。
「何なのよっ! あの男は! もういい加減にして欲しいのだけれど!」
そう叫び、手元のミルフィーユをフォークでザクザクと刺し続けるアイリス。
その光景をまたしても青い顔をしたクラリスが、アワアワしながら止めに入っていた。
するとリデルシアが、二人の様子を見ながら呆れた表情を浮かべる。
「アイリス……。その怒り方、ケーキとクラリスが可哀想だから、やめて欲しいのだけれど……」
白い目をしながらリデルシアが呟くが、アイリスの怒りはおさまらない。
そんな本日は、恒例にもなったストレス発散の為の『婚約者に恵まれない同盟』なお茶会が開かれていた。
「だって! あの私に対する接し方は明らかに嫌がらせじゃない! あの男の性格が尋常でない程ねじ曲がっているのは知ってはいたけれど、ここまで徹底して嫌がらしてくるなんて信じられないのだけれど!? そもそも暇でもないはずなのに何であの男は、こんなくだらない事に貴重な時間を割く事が出来る訳っ!?」
「アレク様は仕事に関しては有能だからね……。そうなると空き時間もすぐに作れてしまうのだろうね……」
「だからって! だからってぇぇぇー!」
「ア、アイリス様! このままではミルフィーユが無残な姿に!」
クラリスの悲痛な訴えも虚しく、アイリスのミルフィーユはすでに粉々だ……。
「完全に玩具にされているね……。アイリス」
「言わないでよ! 自分が一番それを感じているのだから!」
「ああ……サクサクのミルフィーユがぁ……」
更にミルフィーユへの八つ当たりを加速させるアイリス。
その光景をケーキ大好きなクラリスが、悲しい表情で見つめ涙目になっている。
「それにしても……同じ歌巫女でもこうも扱いが違うとはね……」
その言葉にアイリスが動きを止めた。
同時にクラリスの動きも止まり、何故か青ざめる。
「同じ歌巫女って……それ、エリアテール様の事よね? どういう事?」
リデルシアから出た予想外の言葉にアイリスが目を見開いたまま聞き返す。
そんなアイリスの様子に気付かずに自分の毛先に目を向け、手で弄ぶリデルシアがある事をポロリとこぼす。
「いやね、アレク様が幼少期の頃、一番仲が良かったのが風巫女のエリアテール様だったから」
その言葉を聞いたクラリスが、今日一番の真っ青な顔色を披露した。
そのストレス要因というのが、例のアレクシスの問題行動だ。
ここ最近のアレクシスの悪ノリの仕方は、かなり酷い……。
夜会でのアイリスに対する過剰なスキンシップはもちろん、普段の日でもやれ夜会の打ち合わせだ、やれ建国記念日の式典の説明だと理由をつけ、暇さえあればアイリスの部屋を訪れては、そのまま入り浸っている。
一見、今までと変わりない日常の様に思えるが……アイリスにとっては、そうではなかった。
その過剰なまでの面白がっているアレクシスの絡み方に苛立ちではない別の感情が生まれてしまい、アイリスの心をかき乱すのだ。その感情は、自身がけしてアレクシスから抱かれ事がないはずの感情なのだが、何故か本当に抱かれているのではと懸念してしまう程の錯覚に陥らされる……。
そんな自分の流されやすい自身の心の弱さにもアイリスは自己嫌悪になってしまう。
それだけここ最近のアレクシスの行動は、それがアイリスの心を大きく揺さぶってくるのだ。
そんなアイリスは、巫女会合から二週間経った今はアレクシスと五回程夜会に参加した。
しかし、そのどの夜会でもアレクシスは、完璧とも言える程の『婚約者を溺愛している王太子』を演じ切っていたのだ。まずアレクシスは、夜会会場に着くと馬車から降りるアイリスをエスコートをする際、頻繁に顔を覗き込んでくる。更に会場入りすると必要以上に自分の方へとアイリスを引き寄せたりもする。お互いに社交交流する為に離れる際は、必ず頬に口付けされ、また再び行動を共にする際は手を取られて、その手の甲にまた口付けされる。
ダンス中は額がくっ付く程、顔を近づけられ、稀に首筋に顔を埋められ髪にまで口付けされる。
どれもこれも不仲説を払拭する為、周りにあえて見せつける様にアレクシスがやっている行為なのだが……これらをアレクシスが、かなり本気で演じて行っている為、そのクオリティーが高すぎるのだ。
そんな二人の様子は、会場内の令嬢からは憧れの眼差しで見られ、逆に婚約者と一緒に参加しているカップル達からは、まるで愛情表現のお手本の様に見られ、年配の参加者からは、微笑ましい表情を向けられる。
その間のアイリスは、気恥ずかしさと不快感で爆発しそうな怒りを抑え、幸福でたまらないという表情を必死に張り付け、アレクシスの隣に佇んでいた。
そんなアレクシスは、帰りの馬車に乗る時も溺愛行動に手を抜かない。
アイリスを馬車に乗せる際は、まるで宝石でも扱うように優しい眼差しで手を取り、乗り込んだ後はやけに近い距離感で横並びに座ってくる。その為、城に着くまでは、その距離感で乗車し続けなければならない……。
そして今もそんな流れで過ごした夜会参加六回目の帰り道だ。
ウンザリするような視線をアイリスに向けられているアレクシスは、本日もアイリスとは近い距離で馬車に乗り込み、必要以上に顔を覗き込んでくる。
そんな策士な婚約者からの接し方をしばらくの間、耐え忍んでいたアイリスだが、馬車が進むにつれて我慢の限界がやって来てしまい、ついにアイリスが抗議の声を上げた。
「ねぇ……帰りの馬車でも、ここまで徹底した溺愛演技をする必要がある?」
「あるよ? だって僕らは帰りの馬車に乗り込む時でさえ、皆の注目の的だ。それが乗り込んだ途端に急に他人行儀になってしまったら不審がられるじゃないか……」
「だからって……。そもそも! 最近あなたのその演技上の過剰な愛情表現は、やり過ぎな気がするのだけれどっ!」
「僕はやるからには、何事も徹底してやる主義なんだ。あれ? もしかしてアイリスには、僕が君に好意を抱いてそうだと勘違いさせてしまったかな?」
「そんな事、あるわけないでしょっ!!」
「良かった~。変な勘違いさせてしまったら申し訳ないからね。でもまぁ、君ならその心配はないだろうから、そこは安心しているのだけれど」
そう言って毎度お馴染みの腹立たしい程の微笑みを浮かべるアレクシス。
その表情が再びアイリスの神経を逆撫でた。
「だったら、もう人目はないのだから隣じゃなくて向かい側に座りなさいよ!」
「え~? 動いてる馬車内を移動するのは危険だから嫌なんだけれど……」
「だったら私が移動するわっ!」
苛立ったアイリスが移動の為に立ち上がった瞬間、タイミングよく馬車が大きく揺れてしまい、アイリスはそのままアレクシスの方へと倒れ込んでしまう。
「ほらぁ~。だから危ないって言ったのに~」
「うるさいわねっ! たまたま揺れただけでしょ! いいから放してよ!」
「受け止めてあげたのにその言い草はないと思うのだけれど……」
「別に私は頼んでないわ!」
「はいはい。ほら、放してあげるから気を付けて移動してね?」
そう言ってアイリスが移動しきるまで片手で手を支えるアレクシス。
無事に向かいの席に移動したアイリスは、席に着くなり盛大なため息をつく。
「私、しばらく夜会には参加したくないのだけれど……」
「あれ? アイリス、もう降参するのかい?」
「何でそうなるのよっ!」
「だって参加したくないって……それ、戦線離脱って事だろう?」
「そもそも二週間で夜会に六回も参加って、ノルマの回数が多過ぎなのよ!」
「だって一カ月間という限られた期間なのだから、それくらいのペースで参加しないと満足な結果は得られないじゃないか……」
「このままだと建国記念日の式典前に私が疲弊してしまうのだれど? その場合、あなたが望んでいる結果が肝心な時に出ないと思うのだけれど!?」
恨みがましそうにアイリスが抗議し続けながら、アレクシスを睨みつける。
「確かにそれは困るね……。ならば来週は夜会の参加回数を少し減らそう」
「減らすだけで無くしてはくれないのね……」
「アイリス、僕がそんな甘い男に見えるかい?」
「言ってみただけよ……」
この抗議で夜会への参加義務は撤回出来なかったが、それでも参加が減ったので心の負担は大分軽減されるはずだと、そう思っていたアイリスだったが……。
しかし翌週から、アレクシスは更に頻度を上げてアイリスの部屋に顔を出しにくる。
それも酷い時には一日に何度もアイリスの部屋を訪ねてくるのだ……。
例えば……挨拶をしに来たと言っては朝一番にアイリスの部屋に顔を出し、昼になると昼食を一緒に取る為に訪れ、15時にはお茶をと言っては訪れた挙句、そのまま夕方近くまで居座ってしまう事が多いのだ。
その間、次の夜会の準備についてや、建国記念日の話などもするのだが……。
アレクシスのそれらの行動は、明らかにアイリスのところにくつろぎに来ているだけにしか見えない態度なのだ。
そもそも王太子ともなると、そこまで暇ではない。現状アレクシスは仕事もそれなりにあるはずなのだが、何故か昼過ぎには徹底して終わらせくるようで、アイリスの部屋にかなりの頻度でやって来る。
そんなアレクシスは巫女会合以前までは、用がある時以外はアイリスの部屋に訪れてくる頻度は少ない方だった。しかし現状はかなりの頻度でアイリスのもとに姿を現わしてくる。そしてそんな状態になってしまったのは、明らかにあの巫女会合が切っ掛けである……。
この状況にアイリスは、巫女会合で雨乞いの儀を披露してしまった事をやや後悔していた……。恐らくそれを切っ掛けにアレクシスは、もっとアイリスに対して踏み込んでもいいと判断し、今まで以上に無理難題を言って来そうな気配をまとっているのだ。
そんなアレクシスをアイリスは、かなり警戒した。
しかし、その事に全く気付かないのか、あるいは気づいていないふりをしているだけなのか……。
アレクシスは、のほほんとした表情をしながら何度もアイリスの部屋を訪れては、無駄に長く居座り続けるのだ。
ここ最近、そんな状況を強いられていたアイリスの怒りは、本日のお茶会でまたしても爆発する。
「何なのよっ! あの男は! もういい加減にして欲しいのだけれど!」
そう叫び、手元のミルフィーユをフォークでザクザクと刺し続けるアイリス。
その光景をまたしても青い顔をしたクラリスが、アワアワしながら止めに入っていた。
するとリデルシアが、二人の様子を見ながら呆れた表情を浮かべる。
「アイリス……。その怒り方、ケーキとクラリスが可哀想だから、やめて欲しいのだけれど……」
白い目をしながらリデルシアが呟くが、アイリスの怒りはおさまらない。
そんな本日は、恒例にもなったストレス発散の為の『婚約者に恵まれない同盟』なお茶会が開かれていた。
「だって! あの私に対する接し方は明らかに嫌がらせじゃない! あの男の性格が尋常でない程ねじ曲がっているのは知ってはいたけれど、ここまで徹底して嫌がらしてくるなんて信じられないのだけれど!? そもそも暇でもないはずなのに何であの男は、こんなくだらない事に貴重な時間を割く事が出来る訳っ!?」
「アレク様は仕事に関しては有能だからね……。そうなると空き時間もすぐに作れてしまうのだろうね……」
「だからって! だからってぇぇぇー!」
「ア、アイリス様! このままではミルフィーユが無残な姿に!」
クラリスの悲痛な訴えも虚しく、アイリスのミルフィーユはすでに粉々だ……。
「完全に玩具にされているね……。アイリス」
「言わないでよ! 自分が一番それを感じているのだから!」
「ああ……サクサクのミルフィーユがぁ……」
更にミルフィーユへの八つ当たりを加速させるアイリス。
その光景をケーキ大好きなクラリスが、悲しい表情で見つめ涙目になっている。
「それにしても……同じ歌巫女でもこうも扱いが違うとはね……」
その言葉にアイリスが動きを止めた。
同時にクラリスの動きも止まり、何故か青ざめる。
「同じ歌巫女って……それ、エリアテール様の事よね? どういう事?」
リデルシアから出た予想外の言葉にアイリスが目を見開いたまま聞き返す。
そんなアイリスの様子に気付かずに自分の毛先に目を向け、手で弄ぶリデルシアがある事をポロリとこぼす。
「いやね、アレク様が幼少期の頃、一番仲が良かったのが風巫女のエリアテール様だったから」
その言葉を聞いたクラリスが、今日一番の真っ青な顔色を披露した。
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