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5.地の精霊王
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翌日、約束通りイクレイオスが地の精霊王の神殿へ案内してくれる事になった。
「昔、『開かずの間』と言っていた部屋の事を覚えているか?」
「はい。幼少期に遊び場としていた古めかしい立派な扉の事ですよね? でも何故かとても手入れが行き届いていた扉だったような……」
「あそこが精霊王の神殿に繋がる地下の入り口だ」
幼少期から城内が遊び場だったエリアテール達だが、その中でも絶対に開かない扉があり、それが当時幼かった二人の興味を引ていた。その扉が通称『開かずの間』だ。当時はまだイクレイオスも扉を開ける事が出来なかったので、扉の先が気になった幼い二人は何とかして開けられないかと挑んでいた時期がある。
しかし数日後、「扉の中に入ったが、あそこには面白いモノは無かった」とイクレイオスが不機嫌そうな顔で言ってきた。それ以降、開かずの間の興味は二人から消え、遊び場から除外された。
そして今日までエリアテールもその扉の事は、すっかり忘れていた。
だが今回はその『開かずの間』が地の精霊王と会う為に関係しているらしい。
二人で幼少期に巨大だと感じた扉の前までやって来ると、何故か今のエリアテールでは扉が小さく感じられた。
その違和感に戸惑っていると、隣のイクレイオスが扉の印部分に手をかざし、印部分を光らせる。それと同時にガチャンと大きな音を立てた扉が一瞬で解錠される。
「まぁ! 本来はこうやって開ける扉でしたのね……」
「あの頃の私では開ける事は出来なかったがな」
そう言ってイクレイオスは扉の片側を手で押さえ、エリアテールに中へ入るよう促す。
「そういえば……あの時、何故イクレイオス様は開かずの間の中に入れたにも関わらず、不機嫌そうなお顔をされていたのですか?」
「あの日、私は地の精霊王から祝福を受けた」
「では、とても素敵な事があったのではありませんか!」
「何が素敵な事だ……。私は祝福を受けた後、この国の国王とは何たるかという地の精霊王の無駄な説法を、一時間以上も延々と聞かされたのだぞ?」
「あれ程、無駄な事はない!」と当時を思い出しては、また不機嫌そうな顔をする。
そうなるとイクレイオスは、地の精霊王からは加護だけでなく、祝福も授かったという事になる。その事を「羨ましい」と感じたエリアテールの心を読んだのか、呆れ気味な表情のイクレイオスが一言補足してきた。
「言っておくが……立太の儀を行った次期コーリングスターの王位継承者であれば、地の精霊王の祝福は必ず得る事が出来るだけだからな」
「え?」
「この国の王となる人間は祝福を受ける代償として、全身全霊でこの国の為に尽くす事を強制的に約束させられる。水の精霊王に気に入られた母上が祝福を受けた状況とは訳が違う」
そんな会話をしながら長い下り坂の通路を5分ほど歩くと、広く開けた場所に出る。するとうっすらと白く光る神殿が姿を現した。その光景にエリアテールが圧倒されていると「早くしろ」と、神殿の入り口の方からイクレイオスが声を掛けてくる。
慌てて靴音がキレイに響く神殿の中を進んで行くと、玉座の前に華奢で優しそうな美しい女性が立っていた。その美し過ぎる女性の姿に見入ってしまったエリアテールをよそに、イクレイオスが膝を折って最上級の礼をする。
「地の精霊王様、本日は突然の面会に応じてくださいまして誠に感謝致します」
イクレイオスのその行動で我に返ったエリアテールも慌てて最上級の礼をした。
すると地の精霊王と呼ばれた女性がイクレイオスを見て、ふわりと笑みを浮かべる。
「あの小童が随分と立派になったものだな。人の時の流れは何と早い事か……」
するとイクレイオスが片眉を上げながら、ムスりとした表情をする。
対する地の精霊王は、母の様な慈愛に満ちた表情をイクレイオスに向けている。その様子から、この地の精霊王は国と一緒にイクレイオスも見守ってきたのだろう。エリアテールがそんな事を考えていると、精霊王は艶のあるこげ茶の長い髪をサラリとなびかせ、今度はエリアテールの方に目を向けてきた。
「そなたがあの澄んだ歌声の持ち主である現風巫女か?」
そう言ってエリアテールの元に近づき、ふわりと微笑む。
「会いたかったぞ」
透けるような白い肌の見た事もない美しい姿の精霊王にそう微笑まれ、エリアテールは緊張で真っ赤になる。
「も、勿体なきお言葉、誠にありがとうございます」
「して今日は、そなたより聞きたい事があると聞いておるのだが?」
「は、はい。実は、その、精霊の方々より頂ける加護についてなのですが……」
「長くなりそうだな……。王太子よ!」
「はい」
「そなたは席を外せ」
「はい?」
「質問があるのはこの風巫女だろう。そなたはいらん。席を外せ」
「で、ですか……」
「くどい! 我はこの風巫女と話がしたいのだ! いいから外せ!」
「かしこまりました……」
精霊王からその様に言われてしまったイクレイオスは、一度神殿の外へと出て行こうとする。
だが去り際のイクレイオスの顔には青筋が立っており、思わずエリアテールは息を飲んだ。これはこの後の機嫌を直させるのが大変だと思い、去っていくイクレイオスを冷や汗をかきながら見送った。
だが、そんなエリアテールの右頬に急に何かが優しく触れてきた。
驚きながらその手の主を確認しようと振り返ると、うっとりする様な表情の地の精霊王が、優しくエリアテールの頬を撫でてくる。
「せ、精霊王様っ!?」
「そなたは本当に素晴らしい魂を持っておるな……」
「た、魂ですか?」
「ここまで澄んだ魂を持っている者は久方ぶりだ。だからこそ、我の力を授けられぬ事がなんと口惜しい事か……」
「授け……られない?」
エリアテールの右頬を撫でながら、心底残念そうに呟く精霊王の言葉にエリアテールが固まる。
その件に関して詳しい話を聞くと、どうやら精霊の加護というのは、その精霊の属性に対する耐性値が授けたい人間にある程度ないと与えられないらしい。エリアテールの場合、地属性の耐性値がほぼ皆無に等しいそうだ。
「我の力は風とは逆属性だからかもしれぬな……」
「では他の属性耐性値も?」
「そこまでは分からぬ。我が分かるのは地の力の耐性のみだ。ただ……全ての属性耐性を全く持たぬ人間というのは、我は今まで出会った事がない。そもそも今まで姿を現わしていた精霊達が、全く姿を見せぬというのもおかしな話だ……」
そう言って地の精霊王は考え込んでしまった。
「あの、精霊王様の配下でいらっしゃる地の精霊の方々は……」
「あやつらは、そなたらで言う所の言葉を話せぬ動物のような存在だからな。我にも何を考えておるのか分からぬ。まぁ、上位の精霊であれば会話は出来るが……。以前そなたの周りにいたのは、中級と下級精霊なのであろう?」
「はい」
「流石に言葉を語れぬ者より、話を聞く事は我にも出来ぬ」
「そう……ですか……」
そのまま、しゅんとしてしまったエリアテール。
「そのような顔をするでない! 我の方でも何故その様な現象が起こっているのか、調べておこう」
「精霊王様……ありがとうございます!」
「よいよい。気にするな」
そう言って地の精霊王は、チラリと神殿の出口を見てクスリと笑った。
「そろそろそなたを返さぬと、あの小童がヘソを曲げてしまうからな……。戻ってやれ」
「色々ご助言頂き、本当にありがとうございました」
「風巫女よ、今後もそなたの美しい歌声を聴く事を楽しみしておるぞ」
「はい! それでは失礼致します」
エリアテールは再び最上級の礼をとり、地の精霊王の元を去る。
結局、精霊達が姿を見せてくれなくなったかは分からなかったが……。少なくとも地の精霊達に関しては、嫌われていた訳ではないという事が分かった。ただ、残りの属性の精霊達に関しては、まだ不安が残る。
「話はもう済んだのか?」
エリアテールが神殿を出ると完全に気配を消していたイクレイオスが、いつもより低い声で話しかけて来た。そして相当機嫌が悪そうだ……。
「イ、イクレイオス様! は、はい……」
「……精霊王は何と言っていた?」
不機嫌な様子のイクレイオスに若干怯えながら、先ほどの地の精霊王との話を説明する。
「属性耐性か……。確かにお前は風巫女なのだから、逆の地属性は低そうだな」
「では風の耐性なら――」
「どうだろうな……。風の精霊王は大の人間嫌なので、仮にお前に風属性耐性があったとしても加護は難しいかもしれないぞ?」
「そ、そんなぁ……」
「そもそも全属性の精霊達が、お前の前に姿を現さないのだろう? 属性耐性値とは、また別の問題があるのではないか?」
「別の問題……ですか……」
イクレイオスの方は、その話で気が散ったのか機嫌の悪さがやや和らいだ様子だが、逆にエリアテールの方はガクリと肩を落としながら落胆する。
「だから初めから気にするなと言っただろうが……。分からん事を考えても時間の無駄だ! それよりも今は目の前の事に集中しろ!」
「目の前の事?」
「来月から本格的に挙式に向けての準備を開始する。今までお前の社交関係への参加は全て免除してきたが、これからはしっかりと取り組んでもらう! その手始めが婚約披露宴だ。披露宴でのお前の役割指示や進行説明は、全てファルモに任せてあるので問題ないとは思うが……。当日ヘマだけはするなよ?」
「は、はいぃ……」
そうエリアテールを叱咤したイクレイオスだが……正直、精霊王の話を聞いて、イクレイオス自身も今の状況に疑問を抱き始めていた。エリアテールの属性耐性が低い事が原因の可能性は、実は初期段階で予測はしていたからだ。そして実際に地の精霊王からは、その所為で加護や祝福を与えられないとの返答だった。
よって地の精霊達がエリアテールの前に現れないのは、理解出来る。だが、それならば何故、他の精霊達は姿を現さない?
そう考え込みながらスタスタと歩くイクレイオスの後ろを、落胆しながら重い足取りのエリアテールが後に続く。
そんな感じでいつの間にか無言になってしまった二人は、神殿のある地下通路を進み地上へと向った。
だが翌日、イクレイオスはこの問題で頭を抱える事となる。
「昔、『開かずの間』と言っていた部屋の事を覚えているか?」
「はい。幼少期に遊び場としていた古めかしい立派な扉の事ですよね? でも何故かとても手入れが行き届いていた扉だったような……」
「あそこが精霊王の神殿に繋がる地下の入り口だ」
幼少期から城内が遊び場だったエリアテール達だが、その中でも絶対に開かない扉があり、それが当時幼かった二人の興味を引ていた。その扉が通称『開かずの間』だ。当時はまだイクレイオスも扉を開ける事が出来なかったので、扉の先が気になった幼い二人は何とかして開けられないかと挑んでいた時期がある。
しかし数日後、「扉の中に入ったが、あそこには面白いモノは無かった」とイクレイオスが不機嫌そうな顔で言ってきた。それ以降、開かずの間の興味は二人から消え、遊び場から除外された。
そして今日までエリアテールもその扉の事は、すっかり忘れていた。
だが今回はその『開かずの間』が地の精霊王と会う為に関係しているらしい。
二人で幼少期に巨大だと感じた扉の前までやって来ると、何故か今のエリアテールでは扉が小さく感じられた。
その違和感に戸惑っていると、隣のイクレイオスが扉の印部分に手をかざし、印部分を光らせる。それと同時にガチャンと大きな音を立てた扉が一瞬で解錠される。
「まぁ! 本来はこうやって開ける扉でしたのね……」
「あの頃の私では開ける事は出来なかったがな」
そう言ってイクレイオスは扉の片側を手で押さえ、エリアテールに中へ入るよう促す。
「そういえば……あの時、何故イクレイオス様は開かずの間の中に入れたにも関わらず、不機嫌そうなお顔をされていたのですか?」
「あの日、私は地の精霊王から祝福を受けた」
「では、とても素敵な事があったのではありませんか!」
「何が素敵な事だ……。私は祝福を受けた後、この国の国王とは何たるかという地の精霊王の無駄な説法を、一時間以上も延々と聞かされたのだぞ?」
「あれ程、無駄な事はない!」と当時を思い出しては、また不機嫌そうな顔をする。
そうなるとイクレイオスは、地の精霊王からは加護だけでなく、祝福も授かったという事になる。その事を「羨ましい」と感じたエリアテールの心を読んだのか、呆れ気味な表情のイクレイオスが一言補足してきた。
「言っておくが……立太の儀を行った次期コーリングスターの王位継承者であれば、地の精霊王の祝福は必ず得る事が出来るだけだからな」
「え?」
「この国の王となる人間は祝福を受ける代償として、全身全霊でこの国の為に尽くす事を強制的に約束させられる。水の精霊王に気に入られた母上が祝福を受けた状況とは訳が違う」
そんな会話をしながら長い下り坂の通路を5分ほど歩くと、広く開けた場所に出る。するとうっすらと白く光る神殿が姿を現した。その光景にエリアテールが圧倒されていると「早くしろ」と、神殿の入り口の方からイクレイオスが声を掛けてくる。
慌てて靴音がキレイに響く神殿の中を進んで行くと、玉座の前に華奢で優しそうな美しい女性が立っていた。その美し過ぎる女性の姿に見入ってしまったエリアテールをよそに、イクレイオスが膝を折って最上級の礼をする。
「地の精霊王様、本日は突然の面会に応じてくださいまして誠に感謝致します」
イクレイオスのその行動で我に返ったエリアテールも慌てて最上級の礼をした。
すると地の精霊王と呼ばれた女性がイクレイオスを見て、ふわりと笑みを浮かべる。
「あの小童が随分と立派になったものだな。人の時の流れは何と早い事か……」
するとイクレイオスが片眉を上げながら、ムスりとした表情をする。
対する地の精霊王は、母の様な慈愛に満ちた表情をイクレイオスに向けている。その様子から、この地の精霊王は国と一緒にイクレイオスも見守ってきたのだろう。エリアテールがそんな事を考えていると、精霊王は艶のあるこげ茶の長い髪をサラリとなびかせ、今度はエリアテールの方に目を向けてきた。
「そなたがあの澄んだ歌声の持ち主である現風巫女か?」
そう言ってエリアテールの元に近づき、ふわりと微笑む。
「会いたかったぞ」
透けるような白い肌の見た事もない美しい姿の精霊王にそう微笑まれ、エリアテールは緊張で真っ赤になる。
「も、勿体なきお言葉、誠にありがとうございます」
「して今日は、そなたより聞きたい事があると聞いておるのだが?」
「は、はい。実は、その、精霊の方々より頂ける加護についてなのですが……」
「長くなりそうだな……。王太子よ!」
「はい」
「そなたは席を外せ」
「はい?」
「質問があるのはこの風巫女だろう。そなたはいらん。席を外せ」
「で、ですか……」
「くどい! 我はこの風巫女と話がしたいのだ! いいから外せ!」
「かしこまりました……」
精霊王からその様に言われてしまったイクレイオスは、一度神殿の外へと出て行こうとする。
だが去り際のイクレイオスの顔には青筋が立っており、思わずエリアテールは息を飲んだ。これはこの後の機嫌を直させるのが大変だと思い、去っていくイクレイオスを冷や汗をかきながら見送った。
だが、そんなエリアテールの右頬に急に何かが優しく触れてきた。
驚きながらその手の主を確認しようと振り返ると、うっとりする様な表情の地の精霊王が、優しくエリアテールの頬を撫でてくる。
「せ、精霊王様っ!?」
「そなたは本当に素晴らしい魂を持っておるな……」
「た、魂ですか?」
「ここまで澄んだ魂を持っている者は久方ぶりだ。だからこそ、我の力を授けられぬ事がなんと口惜しい事か……」
「授け……られない?」
エリアテールの右頬を撫でながら、心底残念そうに呟く精霊王の言葉にエリアテールが固まる。
その件に関して詳しい話を聞くと、どうやら精霊の加護というのは、その精霊の属性に対する耐性値が授けたい人間にある程度ないと与えられないらしい。エリアテールの場合、地属性の耐性値がほぼ皆無に等しいそうだ。
「我の力は風とは逆属性だからかもしれぬな……」
「では他の属性耐性値も?」
「そこまでは分からぬ。我が分かるのは地の力の耐性のみだ。ただ……全ての属性耐性を全く持たぬ人間というのは、我は今まで出会った事がない。そもそも今まで姿を現わしていた精霊達が、全く姿を見せぬというのもおかしな話だ……」
そう言って地の精霊王は考え込んでしまった。
「あの、精霊王様の配下でいらっしゃる地の精霊の方々は……」
「あやつらは、そなたらで言う所の言葉を話せぬ動物のような存在だからな。我にも何を考えておるのか分からぬ。まぁ、上位の精霊であれば会話は出来るが……。以前そなたの周りにいたのは、中級と下級精霊なのであろう?」
「はい」
「流石に言葉を語れぬ者より、話を聞く事は我にも出来ぬ」
「そう……ですか……」
そのまま、しゅんとしてしまったエリアテール。
「そのような顔をするでない! 我の方でも何故その様な現象が起こっているのか、調べておこう」
「精霊王様……ありがとうございます!」
「よいよい。気にするな」
そう言って地の精霊王は、チラリと神殿の出口を見てクスリと笑った。
「そろそろそなたを返さぬと、あの小童がヘソを曲げてしまうからな……。戻ってやれ」
「色々ご助言頂き、本当にありがとうございました」
「風巫女よ、今後もそなたの美しい歌声を聴く事を楽しみしておるぞ」
「はい! それでは失礼致します」
エリアテールは再び最上級の礼をとり、地の精霊王の元を去る。
結局、精霊達が姿を見せてくれなくなったかは分からなかったが……。少なくとも地の精霊達に関しては、嫌われていた訳ではないという事が分かった。ただ、残りの属性の精霊達に関しては、まだ不安が残る。
「話はもう済んだのか?」
エリアテールが神殿を出ると完全に気配を消していたイクレイオスが、いつもより低い声で話しかけて来た。そして相当機嫌が悪そうだ……。
「イ、イクレイオス様! は、はい……」
「……精霊王は何と言っていた?」
不機嫌な様子のイクレイオスに若干怯えながら、先ほどの地の精霊王との話を説明する。
「属性耐性か……。確かにお前は風巫女なのだから、逆の地属性は低そうだな」
「では風の耐性なら――」
「どうだろうな……。風の精霊王は大の人間嫌なので、仮にお前に風属性耐性があったとしても加護は難しいかもしれないぞ?」
「そ、そんなぁ……」
「そもそも全属性の精霊達が、お前の前に姿を現さないのだろう? 属性耐性値とは、また別の問題があるのではないか?」
「別の問題……ですか……」
イクレイオスの方は、その話で気が散ったのか機嫌の悪さがやや和らいだ様子だが、逆にエリアテールの方はガクリと肩を落としながら落胆する。
「だから初めから気にするなと言っただろうが……。分からん事を考えても時間の無駄だ! それよりも今は目の前の事に集中しろ!」
「目の前の事?」
「来月から本格的に挙式に向けての準備を開始する。今までお前の社交関係への参加は全て免除してきたが、これからはしっかりと取り組んでもらう! その手始めが婚約披露宴だ。披露宴でのお前の役割指示や進行説明は、全てファルモに任せてあるので問題ないとは思うが……。当日ヘマだけはするなよ?」
「は、はいぃ……」
そうエリアテールを叱咤したイクレイオスだが……正直、精霊王の話を聞いて、イクレイオス自身も今の状況に疑問を抱き始めていた。エリアテールの属性耐性が低い事が原因の可能性は、実は初期段階で予測はしていたからだ。そして実際に地の精霊王からは、その所為で加護や祝福を与えられないとの返答だった。
よって地の精霊達がエリアテールの前に現れないのは、理解出来る。だが、それならば何故、他の精霊達は姿を現さない?
そう考え込みながらスタスタと歩くイクレイオスの後ろを、落胆しながら重い足取りのエリアテールが後に続く。
そんな感じでいつの間にか無言になってしまった二人は、神殿のある地下通路を進み地上へと向った。
だが翌日、イクレイオスはこの問題で頭を抱える事となる。
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