風巫女と精霊の国

もも野はち助

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【番外編】

生まれ変わった贈り物

――――――――◆◇◆――――――――――
時間軸は、婚約披露宴の日から2~3週間後くらいの話です。
示談金の足しにされそうになったエリア愛用のピアスのその後の話です。
―――――――――――――――――――――


「で? 何で僕に相談する訳……?」

 不機嫌さと呆れの入り混じった表情で、イクレイオスを見るアレクシス。

「こちらとしてもお前に相談する事は、非常に不本意だ……」

 そう答えたイクレイオスも不貞腐れたような表情をし、アレクシスから目を逸らしている。

「だったら、君の好きな様にデザインを決めればいいじゃないか!」
「そうしたいのは山々だが……実績的な部分で、お前の方がエリアの好みをよく知っていると思ったんだ!」
「実績って……。あれは単に大国の王太子の婚約者に選ばれてしまったリスクを考慮して、お守り効果の高い石を選んだだけで……。デザイン自体をエリアが気に入っていた訳じゃないだろう!?」
「では何故、お前が贈ったラピスラズリのピアスは片時も離さず愛用され、私が毎年贈っていた誕生日プレゼントは手にすら取って貰えなかったんだ!」
「それはイクスが、やたらと高価なダイヤをあしらう事に拘り過ぎたからだろ! エリアの貧乏性はよく知っている癖に……そういう部分で自己満足を押し付けるようなプレゼントをするから、使って貰えなかったんじゃないか!」
「別に自己満足の為に贈っていたわけではない!」

 珍しく年相応の十代若者らしい内容で言い争っている優秀過ぎる王太子二名に、もう一人呆れ顔をしている人物がいる。それがイクレイオスの側近、ロッドだ。

「ロッド! 君からも何か言ってやってくれないか!?」
「申し訳ございません……。我が主は初恋を相当拗らせているもので……こればかりはどうにも……」
「それは僕もよく知っているから分かるのだけれど……」
「お前達……まるで口裏を合わせたかのような茶番はやめろ!」

 アレクシスとロッドのやり取りにイクレイオスが苛立つ。

「大体……後は挙式の日を待つだけで甘々な新婚生活しかない君らに、何で僕が一肌脱がなきゃならないんだよ! こっちは10年以上、自身の婚約者から、まともに口を利いて貰えない様な辛辣な日々を送っているというのに!」
「自業自得だろ? 手紙だけでもやり取りして貰っているだけ、アイリス嬢に感謝すべきだな」
「最近は少し会ってくれるようにはなったよ! 毎回、腹の探り合いみたいになっちゃうけれど……。そもそも子供の頃のたった一度の失態を10年間も根に持たれるなんて、普通思わないだろ!?」
「それだけ許せなかったんだろ? 配慮が足りなかったお前が悪い!」
「うっわ……それが人に物事を頼む態度なわけ!? 婚約破棄されかけてたイクスにだけは、言われたくないよ!」
「協力する気のない相手に下手に出る必要などない!」

 頼んでおきながら協力が得られないと分かった途端、掌を返すイクレイオス。
 自分も大概性格は良くないが……イクレイオスも負けないくらい素晴らしい性格をしていると、アレクシスは思う。

「そんなに悩むくらいなら、エリアと一緒に決めればいいじゃないか……」
「お前……それをやったらどうなるか分かって言ってるだろう……」
「うん。確実に一番安価でシンプルなデザインをエリアは押してくるだろうね」

 そもそも何故こんな話を二人がしているかと言うと……。
 それは今から三日前まで遡る。


 滞りなく無事に終わった婚約披露宴から二週間目の事……。
 以前イクレイオスが宣言した通り、エリアテールは今まで免除されていた分を取り戻す様に、夜会三昧の日々を過ごしていた。

「エリアテール様、二日後の夜会でお召しになるドレスなのですが、こちらのスプリンググリーンのマーメイドドレスになります。装飾品の方はイクレイオス様が準備して下さったこちらの髪留めとピアス、そして……」
「待ってエリーナ! 装飾品に関しては、イクレイオス様から頂いてから、まだ一度も身に付けた事がないお品があるから、そちらを身に付けたいのだけれど……」
「そうはおっしゃられても装飾品等は、毎回イクレイオス様がご用意して下さるので、我々の判断では何とも……」
「そう……。ではあれらの装飾品は一体いつ身に付ければいいのかしら……」
「あれらと申しますのは、毎年イクレイオス様より頂いていたお誕生日のお品の事でございますか?」
「ええ……」

 そう言ってエリアテールが、しゅんと落ち込む。

「それは……今後の夜会などで身に付ける事は、少々難しいかと思われます……」
「ど、どうして!?」
「あれらのお品物は、全てイクレイオス様の個人資産で購入なされたお品でございますよね? 王族の方が夜会等の公の場で身に付けらる衣裳や装飾品というのは、必ず王家御用達の所で吟味し選んだ物になります。婚約披露宴前のエリアテール様でしたら、まだ正式な婚約者ではなかったので、イクレイオス様が贈ってくださった様なお品を夜会等で気兼ねなく身に付ける事が出来たのですが……」

 そこで一端、エリーナが言いづらそうに言葉を切る。

「現状のエリアテール様では、次期王妃という事が確定しております。故にコーリングスターの王族という扱いになってしまい、公の場で身に付けるお品は全て、王家御用達の正規なルートでご用意した物しか身に付ける事が出来ないのです……」

 それを聞いたエリアテールの顔が青ざめる。

「では……頂いたお誕生日のお品を身に付けられる機会は……」
「城内での普段使いのみ、となりますかね……」
「普段使い……。あのような豪華なデザインの装飾品を? そ、そんな! 折角頂いたのに!」
「あとは……贈り物の中に王家御用達のお店でオーダーされたお品があれば、という形になりますが、そちらはイクレイオス様にご確認頂かないと……」
「そうね! 明日、すぐに伺ってみるわ!」


 しかし……エリアテールのその小さな希望はその翌日、見事に砕け散る……。

「誕生日に贈った品は、身分を隠してオーダーした為、今のお前では夜会で身に付けられる物はないな」
「そう……ですか……」
「そんなに身に付けたいのなら、普段使いで身に付けたらどうだ?」
「あのような夜会用の豪華な装飾品を日常的に身に付ける等、次期王妃としての品位が問われます!」
「ならば仕方ないだろう。もう過ぎてしまった事なのだから諦めろ」

 示談金の足しにされそうになっていた時は、物凄い剣幕で怒りを露わにしていたイクレイオスだが……エリアテール本体が確実に自分の物になるという事が確定してからは、やけにあっさりと切り捨てる。
 しかし、エリアテールの方はそういう訳にはいかない。

「ですが! あのような心のこもったお品を無下に致すのは……」
「心のこもったお品? アレクだな……あれらの経緯をお前に話したのは……」
「アレク様をお責めにならないでください……。もし教えて頂けなけば、わたくしの様な鈍い人間では気づけぬまま、後々深く後悔しておりましたので……」

 そう言ってエリアテールは、両手を胸の辺りでぎゅっと重ね、申し訳なさそうに俯いてしまった。

「だが、もうそのままにしておくしかないのではないか? 後は……以前アレクが提案していた様に売ってしまうとか……」
「売るっ!? と、とんでもございません!」
「だが使えもしない物を後生大事に持っていても仕方ないだろう。ならばいっそ全てを売却し、その売上を使って別の何かに変えた方がいいのではないか?」
「別の何か……でございますか?」

 あまりしっくり来ないエリアテールにイクレイオスが、少し提案してみる。

「例えば……マリアンヌ嬢が力を入れている慈善活動の手助けをしたいと、少し前のお前は言っていただろ? 後は……以前視察に行った城下の無料診療所の惨状にボロボロ泣いていた事もあったな……。そういう団体等に寄付してもいい」

 その提案にエリアテールの表情が、やや明るくなった。

「以前アレクが言っていた様に、私が個人的に勝手に贈った品をお前がどうしようと自由だ。しかも今回は贈った私が納得して許可しているのだから、宝物庫で眠らせ続けるよりかは、お前が自分の為になるような事に使うのも一つの手だろう」
「ですが……売却は……」
「一度も使われなかった上に何の役にも立たない状態を維持される方が、贈った側としては非常に心が痛むのだが?」
「うう……。も、申し訳ございません……。確かにおっしゃる通りですね……」

 イクレイオスのその嫌味に海よりも深く反省するエリアテール。

「一応、それら全ての売却金の見積もりを出しておいてやる。品物はお前の部屋のクローゼットだな? 後で回収する者を向かわす。エリーナにも伝えておけ」
「かしこまりました」
「それと……その売却金が使える内容をいくつか提案してやる。お前の方でも何か案があれば出せ」
「はい。色々とありがとうございます!」


 翌日、仕事の合間にその売却金の見積もり額をイクレイオスが伝えに来た。

「では、売却金の4割はマリアンヌ様がお力を入れてらっしゃる慈善団体の方に。5割は国の福祉事業への寄付として無料診療所の増設費用としてお願い致します」
「残り1割は……どうするのだ?」

 すると、エリアテールが少し恥ずかしそうに俯いた。

「残り1割は……たった一つで構いませんので、毎日肌身離さず身に付ける事が出来るダイヤモンドをあしらったピアスを頂きたいのですが……」

 その言葉に一瞬、イクレイオスの動きが止まる。

「だが……そうなると今身に付けているラピスラズリのピアスが……」
「こちらのピアスには充分守って頂きました! だからそろそろお休みさせてあげたいのです」

 その言葉にイクレイオスが軽く口元を抑える。

「そうか……。分かった。ならば近々、手配しておく……」


 昨日そんな出来事があった経緯で、現在アレクシスに相談しているイクレイオスなのだが……。

「だからってそれを僕に相談するとか……イクスって変な所で逃げ腰だよね?」
「うるさい! 実際、お前が贈ったピアスは愛用品にまでなっていたんだぞ!?」
「そもそも……10年間無駄に贈り続けていた誕生日プレゼントに関しては、どうやって決めてたのさ?」
「初めの頃は……エリアに似合うかは二の次で、出来るだけダイヤが強調されるデザインという部分しか見ていなかった……」
「やっぱり自己満足で贈ってたんじゃないか……」
「うるさいっ! 子供の思考だと、その程度になるだろうが!」
「じゃあ成長してからは、その辺の事を少しは考えて選んでたんだ?」
「………………」

 そのイクレイオスの反応に、アレクシスは呆れて小さくため息をつく。

「悪いけど……僕は何もアドバイスはしないよ? だって僕の意見が入ってしまったら、君が贈る意味がなくなるじゃないか。君だって婚約披露宴で行う風呼びの儀の歌でエリアが悩んでいた時に、同じ事を言ったのだからよく分かるよね?」

 正論過ぎるアレクシスのその言い分に、イクレイオスが一瞬、黙り込む。

「そうだな……。分かった。ちゃんと自分の意思のみで決める……」
「ただし! またダイヤが目立つデザイン……とかは、絶対にやめなよ?」
「同じ失態を二度もするわけないだろうがっ!」


 後日、エリアテールのもとには、二重の円の中に片翼がデザインされているダイヤモンドのピアスが、イクレイオスから贈られた。

 二重の円は小さな一粒のダイヤモンドで繋がれ、まるで風をイメージした様なデザインをしている。中央の片翼には、羽に見立てたティアーズ型のダイヤモンドが6粒配置されており、翼の付け根部分と翼の先の部分にそれぞれついている小さなダイヤモンドが、二重の円の内側部分と結合されている。
 全体的に耳からぶら下げるようなデザインのそのピアスは、身に付けると裏表でクルクルと回転するので、ダイヤモンドがキラキラと煌めく。
 大きさもちょうど親指と人差し指で円を作った程なので、あまりかさばらない。

「こんなに素敵なピアスを……本当にありがとうございます!」
「気に入ったのなら良かった」

 頬を紅潮させて喜ぶエリアテールに、イクレイオスは内心胸を撫でおろす。

 そんな経緯で示談金の足しになりかけ、10年間分の無駄とも思われた誕生日の贈り物だが……最終的には最高の贈り物としての結果を叩き出す事となる。
 その証拠にそのダイヤモンドのピアスは、次期コーリングスター王妃の生涯の愛用品となったそうな……。
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