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【我が家の元愛犬】
64.我が家の元愛犬は一瞬で正体を見破られる
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何やら悪巧みをするような笑みを浮かべたアルスは、フィリアナと手を繋いだ状態でシークの案内を受けながら、城内を移動し始める。そして、その後ろを半ば呆れ気味な様子のロアルドが続いた。
すると、客室のような部屋の前でシークが歩みを止める。どうやらこの部屋でパルマンの尋問が行われているようだ。その事をアルスがシークに確認する。
「パルマンが尋問を受けているのは、この部屋か?」
「はい」
すると、扉をノックしようとしていたシークをアルスが押し除けた。
そして自ら扉をノックすると同時に許可がおりる前にさっさと入室してしまう。
「お取り込み中のところ、失礼致します!」
一応、ラテール伯爵家のお抱え魔導士という自身の設定を忘れていないようだが、それでも許可なくアルスが入室してしまったので、室内が微妙な空気となる。そんなアルスの後をフィリアナとロアルドも慌てて続いた。
すると、室内でセルクレイスと向き合うように長椅子に座っている男性が目に入る。サラサラの肩ほどの銀髪を後ろに束ね、金の丸ぶち眼鏡をかけた線の細い40代前後のその男性は、入室したフィリアナ達にゆっくりと視線を向けてきた。地下道では俯き気味な様子でしか確認出来なかったが、どうやらこの男性がパルマンのようだ。
しかし、パルマンはアルスの姿を目にすると、茫然としながら予想外の言葉を口にした。
「アルフレイス殿下……?」
その瞬間、室内にいた全員が一斉にパルマンを警戒する。
中でもアルスは、一瞬で射殺すような鋭い視線をパルマンに放った。
「お前……何故、俺が本当の第二王子アルフレイスだと分かったんだ?」
現状、城内の者達が『第二王子』と認識している人物は、ルケルハイト公爵家嫡男のクリストファーが扮していたアルフレイスの姿だ。だが、パルマンは何の疑問も抱かずに7年間も時が経って成長したアルスの姿を目にして、すぐにこの国の第二王子だと認識した。すなわち、今までクリストファーが扮していた『第二王子』が、別人である事を知っていたという事だ。
「何故って……魔力オーラの色がアルフレイス殿下の物だったので……」
「魔力オーラ? 何だ、それは」
初めて聞くその単語にアルスが片眉を上げ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「ええと……。実は今、私がかけている眼鏡は、人の魔力が視覚化出来る魔道具でして。殿下の魔力オーラは、かなり特殊な色をなさっているので、どんな姿になられても分かったと言いますか……」
「ほう? それは少し前まで、犬の姿だった俺の事もお前は第二王子だと認識していたという事か?」
「は、はい」
「なるほど、そうか……。兄上、恐れ入りますが、尋問役を代わって頂けますか?」
そう言って、目が一切笑っていない笑みをアルスに向けられたセルクレイスは、苦笑しながらその席を譲る。
「アルス、あまり凄むとパルマンが怯えて、ますます口を割らなくなるぞ?」
「ご心配になく。こちらは、このバカが犯罪者である証拠を握っておりますので!」
そのアルスの言葉にパルマンが狼狽えだす。
「は、犯罪者!? お、お待ちください! 確かに先程は、飛び込んできたのが第二王子殿下とは気付かず、攻撃魔法を放ってしまいましたが……。私は殿下に危害を加えるつもりなど毛頭ございません! そ、それに私は……これまで法に引っかかるような罪など犯してはおりません!」
「ほぉ~? お前は国家予算から捻出された魔道具の研究費用の不正流用は法に引っかからない罪だと言うのか? 確かに犯罪者とまでは言わないが、立派な不正だぞ?」
「で、ですが……その分、私は数々の実用性ある魔道具を開発し、国益にはかなり貢献しているはずです……」
アルスの気迫に押されながらもパルマンが、かろうじて反論する。
そもそも40代前後の男性が、まだ14歳の少年の気迫に圧されている状況が、おかしいのだが……。
しかし、このパルマンの反論がアルスの逆鱗に触れたらしい。その瞬間、アルスがカッと目を見開きながら、勢いよくテーブルに両手を突く。
「だからと言って、本来開発するべき魔道具の研究費用を個人的興味で開発していた魔道具につぎ込んでもいいと思っているのか!?」
「ヒィッ!」
「お前に与えられた研究費用は国民の血税から捻出されているのだぞ!? そもそも……その魔力オーラが視覚化出来る眼鏡もお前が勝手に開発し、しかも国の方に一切申請もせず、私物化しているじゃないか! あの地下道の部屋には、そういう魔道具が腐るほどあった……。この件に関しては、王家より魔法研究協会に断固抗議させてもらうからな!!」
「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁー‼」
完全に14歳の少年の気迫に呑まれてしまった哀れな銀髪40代の中年は、怯えながら座っている長椅子の背もたれにしがみつく。その状況から傍観していたフィリアナとロアルドは、同時にある事を思う。アルスと国王リオレスは、本当によく似ていると……。
対してセルクレイスやフィリックス達は、呆れ気味に苦笑を浮かべていた。
すると、アルスが後ろに控えていたシークに目配せをする。その合図でシークは一度部屋を出て行った後、すぐにある物を両手に抱え、再び入室してきた。
しかしシークが手にしていた物を見た瞬間、先程まで怯え切っていたパルマンの表情が険しいものへと変わる。だが、アルスはそんな事には、おかまないなしにそのある物をパルマンの目の前にドンっと置いた。
「これが何だか分かるな?」
「属性魔法を調べるための水晶……ですね……」
「そうだ。お前は先程から、この水晶に触れる事を拒んでいるそうだな? 何故だ?」
「…………」
「言っておくが、犯罪者のお前に魔法能力検査を拒否する権利などないからな! 何が何でもこの水晶には触れてもらう!」
そうアルスが啖呵を切り、パルマンの腕を掴もうとした。
しかし、先程まで弱々しい雰囲気でアルスに怯えていたパルマンは、何故か態度を一変させ、凄むような目つきでアルスを睨みつけながら、勢いよく手を振り払う。
「お断り致します!」
パルマンのその態度に一瞬、室内が静まり返った。
すると、客室のような部屋の前でシークが歩みを止める。どうやらこの部屋でパルマンの尋問が行われているようだ。その事をアルスがシークに確認する。
「パルマンが尋問を受けているのは、この部屋か?」
「はい」
すると、扉をノックしようとしていたシークをアルスが押し除けた。
そして自ら扉をノックすると同時に許可がおりる前にさっさと入室してしまう。
「お取り込み中のところ、失礼致します!」
一応、ラテール伯爵家のお抱え魔導士という自身の設定を忘れていないようだが、それでも許可なくアルスが入室してしまったので、室内が微妙な空気となる。そんなアルスの後をフィリアナとロアルドも慌てて続いた。
すると、室内でセルクレイスと向き合うように長椅子に座っている男性が目に入る。サラサラの肩ほどの銀髪を後ろに束ね、金の丸ぶち眼鏡をかけた線の細い40代前後のその男性は、入室したフィリアナ達にゆっくりと視線を向けてきた。地下道では俯き気味な様子でしか確認出来なかったが、どうやらこの男性がパルマンのようだ。
しかし、パルマンはアルスの姿を目にすると、茫然としながら予想外の言葉を口にした。
「アルフレイス殿下……?」
その瞬間、室内にいた全員が一斉にパルマンを警戒する。
中でもアルスは、一瞬で射殺すような鋭い視線をパルマンに放った。
「お前……何故、俺が本当の第二王子アルフレイスだと分かったんだ?」
現状、城内の者達が『第二王子』と認識している人物は、ルケルハイト公爵家嫡男のクリストファーが扮していたアルフレイスの姿だ。だが、パルマンは何の疑問も抱かずに7年間も時が経って成長したアルスの姿を目にして、すぐにこの国の第二王子だと認識した。すなわち、今までクリストファーが扮していた『第二王子』が、別人である事を知っていたという事だ。
「何故って……魔力オーラの色がアルフレイス殿下の物だったので……」
「魔力オーラ? 何だ、それは」
初めて聞くその単語にアルスが片眉を上げ、怪訝そうな表情を浮かべる。
「ええと……。実は今、私がかけている眼鏡は、人の魔力が視覚化出来る魔道具でして。殿下の魔力オーラは、かなり特殊な色をなさっているので、どんな姿になられても分かったと言いますか……」
「ほう? それは少し前まで、犬の姿だった俺の事もお前は第二王子だと認識していたという事か?」
「は、はい」
「なるほど、そうか……。兄上、恐れ入りますが、尋問役を代わって頂けますか?」
そう言って、目が一切笑っていない笑みをアルスに向けられたセルクレイスは、苦笑しながらその席を譲る。
「アルス、あまり凄むとパルマンが怯えて、ますます口を割らなくなるぞ?」
「ご心配になく。こちらは、このバカが犯罪者である証拠を握っておりますので!」
そのアルスの言葉にパルマンが狼狽えだす。
「は、犯罪者!? お、お待ちください! 確かに先程は、飛び込んできたのが第二王子殿下とは気付かず、攻撃魔法を放ってしまいましたが……。私は殿下に危害を加えるつもりなど毛頭ございません! そ、それに私は……これまで法に引っかかるような罪など犯してはおりません!」
「ほぉ~? お前は国家予算から捻出された魔道具の研究費用の不正流用は法に引っかからない罪だと言うのか? 確かに犯罪者とまでは言わないが、立派な不正だぞ?」
「で、ですが……その分、私は数々の実用性ある魔道具を開発し、国益にはかなり貢献しているはずです……」
アルスの気迫に押されながらもパルマンが、かろうじて反論する。
そもそも40代前後の男性が、まだ14歳の少年の気迫に圧されている状況が、おかしいのだが……。
しかし、このパルマンの反論がアルスの逆鱗に触れたらしい。その瞬間、アルスがカッと目を見開きながら、勢いよくテーブルに両手を突く。
「だからと言って、本来開発するべき魔道具の研究費用を個人的興味で開発していた魔道具につぎ込んでもいいと思っているのか!?」
「ヒィッ!」
「お前に与えられた研究費用は国民の血税から捻出されているのだぞ!? そもそも……その魔力オーラが視覚化出来る眼鏡もお前が勝手に開発し、しかも国の方に一切申請もせず、私物化しているじゃないか! あの地下道の部屋には、そういう魔道具が腐るほどあった……。この件に関しては、王家より魔法研究協会に断固抗議させてもらうからな!!」
「も、申し訳ございませんでしたぁぁぁー‼」
完全に14歳の少年の気迫に呑まれてしまった哀れな銀髪40代の中年は、怯えながら座っている長椅子の背もたれにしがみつく。その状況から傍観していたフィリアナとロアルドは、同時にある事を思う。アルスと国王リオレスは、本当によく似ていると……。
対してセルクレイスやフィリックス達は、呆れ気味に苦笑を浮かべていた。
すると、アルスが後ろに控えていたシークに目配せをする。その合図でシークは一度部屋を出て行った後、すぐにある物を両手に抱え、再び入室してきた。
しかしシークが手にしていた物を見た瞬間、先程まで怯え切っていたパルマンの表情が険しいものへと変わる。だが、アルスはそんな事には、おかまないなしにそのある物をパルマンの目の前にドンっと置いた。
「これが何だか分かるな?」
「属性魔法を調べるための水晶……ですね……」
「そうだ。お前は先程から、この水晶に触れる事を拒んでいるそうだな? 何故だ?」
「…………」
「言っておくが、犯罪者のお前に魔法能力検査を拒否する権利などないからな! 何が何でもこの水晶には触れてもらう!」
そうアルスが啖呵を切り、パルマンの腕を掴もうとした。
しかし、先程まで弱々しい雰囲気でアルスに怯えていたパルマンは、何故か態度を一変させ、凄むような目つきでアルスを睨みつけながら、勢いよく手を振り払う。
「お断り致します!」
パルマンのその態度に一瞬、室内が静まり返った。
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