我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助

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【我が家の元愛犬】

100.我が家の元愛犬は逃げる事を許さない

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 リオレスの話にアーストン侯爵一家が一斉に衝撃を受け、茫然としてしまう。

「なっ……!」
「お、お爺様が!?」
「そ、そんなぁ……」

 そんな衝撃を受けているアーストン侯爵一家の様子に無理もないとリオレスは、憐憫の眼差しを向けてしまう。前宰相バッセムは、息子ラッセルにとっては敬愛する父であり、孫のユーベルにとっては目標とする宰相像の理想的人物でもあったのだ。そんなバッセムが、暴君とは言え王族である前王の殺害に関与していたとなれば、その衝撃は大きいはずだ……。それでもリオレスは、三人に真実を伝えるべきだと重苦しそうに口を開く。

「バッセムは、愚父が殺害された翌日、私のもとへ自らその件を報告しに来た。実行犯は教えられないが、愚父が幽閉されている塔に自分が犯人を招き入れたと。そんな人間には国王を補佐する資格などないから、宰相職を辞したいと……。だが、私は王位を継いだばかりで国を再建するには、どうしてもバッセムの存在が必要不可欠だった……。だから、この件については早々に捜査を打ち切り、深掘りする事を敢えて禁じた……」

 そこまでリオレスが語り尽くすと、ショックを受けながらもラッセルが再度確認する。

「ち、父が……あの真面目で実直な父が本当にそのような事をなさったのですか!?」
「ああ……。人格者と名高いバッセムだったが……。そんなバッセムですら、許す事が出来ない事を私の愚父は行った……。実の息子の私でさえ、バッセムからその報告を受けた際、思わず胸につかえていた嫌な物が、ストンと抜け落ちたような晴れやかな気持ちになってしまった……」

 そう口にしたリオレスは、どこか自己嫌悪に陥っているような皮肉めいた笑みを控え目に浮かべる。だが、その表情はすぐに厳しいものに変わった。

「だが、私はその事をどうしてもお前には話せなかった……。バッセムからも口留めをされていた事もあるが……まるで聖人のように父親を敬愛しているお前には、どうしても……。だが、お前はずっとバッセムを不幸にしてしまった存在だと、自身を責め続けていたのだな……」

 そのリオレスの言葉にラッセルが、グッと喉を押し殺しながら俯く。

「あの時、私が無理矢理にでもバッセムが愚父を酷く恨んでいる本当の理由を聞き出し、そしてお前にその事を話していれば……。お前はこのような重罪など犯さなかったはずだ……」

 絞り出すようにリオレスが口にした後悔の念にラッセルが、悲しそうな笑みを浮かべて返す。

「いいえ。たとえ陛下からその事について教えて頂いても私は信じず、今回と同じ過ちを犯していたと思います……。それだけ父バッセムは、私にとって完璧で理想の塊のような人だったのです……」

 そう語ったラッセルは、何故か拘束されているはずの状態でゆっくりと立ち上がる。
 すると、何かがカシャンと音を立てて落下した。その落下物に全員が気を取られていると、何故か後ろ手で拘束されていたはずのラッセルの左手が、魔法封じの首輪に伸びて行く。その瞬間、リオレスとユーベルが同時に叫び、ラッセルの方へと駆け出そうとした。

「ラッセル!!」
「父上ぇぇぇー!!」

 しかし、そんな慌てふためく二人をあざ笑うかのようにラッセルは儚げな笑みを浮かべまま、首元の魔封じの首輪を自分ごと凍らせ始めた。その行動から、今まさに目の前でラッセルが自身の氷属性魔法で自害を始めた事に室内の全員が気付く。

「ラッセル! やめろぉぉぉぉぉぉー!!」

 すでに首から下の胸部まで凍りつきかけているラッセルに、リオレスは即座に火属性魔法を放とうとした。だが、次の瞬間――――。

 隣にいたはずのアルスが、いつの間にか盛大にテーブルを踏み台にし、ラッセルに突っ込んでいった。そんなアルスはラッセルの右脇腹辺りを狙い、空中から鞘がついたままの剣を全力で叩き込む。

「かはっ……!」

 するとラッセルが、一瞬だけせ酸欠状態に陥る。だが、そんなラッセルの状態に一切頓着しないアルスは、いつの間にか外していた自身の首のタイを素早く丸め、舌を噛み切られないように無理矢理ラッセルの口の中にねじ込んだ。その反動と脇腹の痛みで、ラッセルが床に転がる。

 そのあまりにも素早く容赦のない息子の攻撃にリオレスですら、唖然としたまま固まってしまう。そんな口に布製品をねじ込まれ、涙目になって床に転がっているラッセルをアルスが仁王立ちをしながら、見下ろした。

「肋骨を4本程へし折ってやった。お前みたいな典型的な魔導士タイプは、腹に力が入らなければ魔力など練り上げられないだろう?」

 そう言いながらアルスは、ゆっくりとラッセルの傍らにしゃがみ込み、前髪を乱暴に掴んでラッセルの顔を無理やり上げさせる。そして瞳孔が開いた状態の瞳でラッセルをめ付けた。

「何を勝手に死のうとしている? 俺はこの世に生を受けてから14年間、お前のせいで自由を奪われ、常に死と隣り合わせの状態を強いられても、必死で生に執着してきたのだぞ? それなのに……お前だけが自分のやりたい事をやり尽くしたからと言って、簡単に自身の命を絶つのか?」

 何の感情もない瞳のアルスが、穴が開きそうなくらいにラッセルの顔を凝視する。

「そんなお前が罪も償わずに簡単に死ねるわけがないだろう? お前はこれから罪を償う為、その身が尽きるまで一生、俺達リートフラム王家に隷属させられ、生きている事を後悔したくなる程、命が擦り切れるまで使い潰してやる……。だからお前が自ら命を絶って逃げるなど、絶対にさせない……。俺はお前を……絶対に許さない!!」

 激怒するように叫んだアルスがラッセルの前髪から手を離し、乱暴に床へと放つ。すると、肋骨が折られた痛みからか、ラッセルはそのまま意識を失ってしまった。そんなラッセルを一瞥したアルスは、父リオレスに視線を向ける。

「父上! さっさとこの不快な存在を俺の視界から排除してください! 内臓も破損しているようなので、早めに手当てをしないと本当に死ぬかもしれませんよ!?」
「アル……。お前、やり過ぎだ!!」
「俺はこいつのせいで何度も死にかけたのに……。その報復を肋骨数本程度に留めた俺は、むしろ慈悲深い方だと思います!」

 しれっと反論したアルスは、忌々しげにラッセルを視界から外す。すると、リオレスがユーベル達に話しかけた。

「すまない……。息子はかなり粗暴者ゆえ、君達の目の前で父であるラッセルを傷付けてしまって……」
「いえ……。むしろこの程度で済ませてくださったアルフレイス殿下には、感謝しかございません」
「そうか……。だがユーベル、父ラッセルが長きに渡り暗躍していた事は、確実に反逆罪に該当する……。それなりの重い処罰が下る事は、覚悟して欲しい」
「はい……」

 そう返答したユーベルの表情は、暗い雰囲気の中に少しだけ安堵感を見せた。
 すると、リオレスが今度はフィリックスに声を掛ける。

「フィリックス! ラッセルを拘束する為、マルコム達を呼んできてくれ!」
「かしこまりました!」


 こうして15年以上に渡る王太子ならびに第二王子の暗殺未遂の首謀者と、現リートフラム王家の転覆を謀ろうとした前国王派の貴族数名は全員捕縛され、罪状が確定するまで最長一カ月以上はかかる刑の執行までの間、罪人たちは貴族牢ではなく、一般的な犯罪者用の地下牢に投獄された。

 その瞬間、14年間も命を狙われ続けていた第二王子が、生命の危機的状況からやっと解放される。
 だが今回、あまりにも処罰対象者の数が多かった為、その後の後始末で王家は奮闘しなければならなかった……。

 そんな多忙な日々の中で少しだけ自由な時間を手に入れたアルスは、犯人が全員捕縛された一週間後、ある場所へと足を運んでいた。
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