〇〇と言い張る面倒な王子達

もも野はち助

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第一話:『真実の愛に目覚めたと言い張る婚約者』

【前編】

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――――――◆◇◆――――――
こちらは俺様お子様第四王子ルーレンスと、その婚約者で気が強い侯爵令嬢のシャノンの話になります。
尚、このお話はざまぁは一切ございません!
――――――◆◇◆――――――


心地よい爽やかな日差しが降り注ぐ城の中庭で、侯爵令嬢のシャノンは、婚約者でもある第四王子ルーレンスと、お馴染みともなっている義務的な・・・・お茶の時間を過ごしていた。

 だが、いつも何かに付けて突っかかってくる物言いをする婚約者は、今日は何故か神妙な面持ちをしている……。
 その様子にシャノンは、やや警戒しつつも気付かない振りを貫き通す。
 すると、ルーレンスが何かを決意したように重い口を開いた。

「シャノン……今日はどうしてもお前に伝えなければならない事がある」
「まぁ、何でございましょう? 先日の夜会でのわたくしのコーディネートに対するルーレンス様のご不満でしたら、もう十分お伺い致しましたが?」
「そんな事ではない! もっと重大な話だ……」
「重大?」

 いつもと違うルーレンスの重苦しい雰囲気に流石のシャノンも真面目に話を聞いた方がいいと判断する。
 すると、ルーレンスはジッとシャノンを見据えながら、ゆっくりとやや低い声である事を告げてきた。

「どうやら私は、真実の愛に目覚めたようだ……」

 その言葉にシャノンは一瞬だけ目を見開いて驚くが、すぐに呆れた表情を浮かべてしまった。
 今、社交界の貴族令息達の間では「真実の愛に目覚めた」と言っては、政略的な意味合いで交わされた婚約を破棄し、やや身分の低い別の女性を自分の婚約者にしようとする動きが流行っている……。
 どうやらルーレンスもその流行に乗っかるらしい。

「はぁ……。真実の愛……でございますか」
「そうだ。それ故、お前には頼みたい事がある」

 その後に続くと思われる言葉をすぐに予想出来たシャノンは、更に呆れた表情を浮かべ、大きなため息をつく。

 同じ16歳のルーレンスとは、6歳の頃に政略的な意味合いで婚約させられた。
 その背景には、フォレスティ家の子供が自分と姉だけという事が関係している。
 その為、代々王家の側近として仕えている家柄ではあるフォレスティ家だが、それはシャノンの父の代までとなってしまった。
 そんな跡継ぎ問題と希薄になりかけた王家との関係を繋ぎとめる為、父は王子の一人を姉の婿にと国王に進言した。
 しかし、その姉は王太子でもある第一王子に見初められてしまう。
 姉への婿入りどころか、姉が嫁入りする羽目になってしまったのだ。

 その結果、家を継ぐのは次女シャノンの夫となる男性だ。
 しかし侯爵家ともなると、それなりの爵位と能力のある男性でないと跡継ぎとしての婿とは認められない。
 同時に王家側でも第一王子の希望を通した所為で、本来婿入りではなく、長女を娶る形になってしまった事に対して、フォレスティ家に負い目がある。
 何よりも王家側では、長男以外の三人の息子に公爵として臣籍降下させる際に渡せる領地を現在は、あまり持ち合わせていない。
 この婚約は、王家とフォレスティ家のお互いの利害が一致したものだった。

 そういう背景もあり、シャノンは年齢が同じ第四王子でもあるルーレンスとの政略的な婚約を交わす事となったのだ。
 しかし幼少期のルーレンスは、今以上に俺様だった……。
 末っ子という事もあり、両親だけでなく三人の兄達からも可愛がられていたルーレンスは、世界は自分の為にあるという感じだった。
 その為、初の顔合わせの際、自信に満ちた表情のルーレンスは、威圧的な態度でシャノンに接触して来た。

 対するシャノンも妹気質な上に侯爵家で大切に扱われ、可愛がられていた。
 要するにシャノンの方も「嫌な物は嫌! 欲しい物は欲しい!」とハッキリ自己主張する子供だったのだ……。
 何よりもこの時のシャノンは、姉の事が大好きで、その姉に遊んで貰う事に夢中になっていた。

 だが初めて訪れた王城で待っていたのは、偉そうな態度で「遊んでやる!」と言って来た意地悪そうな男の子だった。
 この初対面で我が強い者同士の二人は、すぐに喧嘩を始めた……。
 そんな二人の仲裁役をしてくれたのが、4つ年上で第一王子に見初められた姉オフェリアだった。

 オフェリアは、母譲りの美しい金髪に淡い青緑色の瞳をした美少女だった。
 父譲りのはしばみ色の髪にグレーの瞳をした地味なシャノンとは、大違いである。
 優しい物腰と美しい所作を10歳と言う幼さで、すでに身に付けており、シャノンの自慢でもあった姉。
 そんな姉はシャノンの面倒を見ていた所為か、幼い子供の扱いも上手で、二人の仲裁に入った際、見事にルーレンスの心をも鷲掴みにする。
 それ以降、二人の喧嘩の主な原因は、シャノンの姉オフェリアの取り合いという事が殆どだった……。

 その姉も二年前に王太子である第一王子のルーレンスの兄の妻となり、現在は王太子妃となってしまった。
 しかしルーレンスの中での理想の女性像は、すっかり姉オフェリアのような女性となってしまっているようだ。
 その証拠に婚約が結ばれてからのこの10年間、事あるごとにルーレンスは、姉と比べながらシャノンを落とす言動を口にしていた。

 そして最近、そんなルーレンスは夜会等で姉と似た雰囲気を持つある伯爵令嬢との仲睦まじい姿が目撃されていた。
 その事も踏まえて、今自分がルーレンスから婚約破棄を突き付けられると、シャノンは確信したのだ。

 何が「真実の愛に目覚めた」だ。
 どうせなら「お前が気にくわないから婚約破棄したい」と言って貰った方が、まだスッキリする……。
 そう思ったシャノンは、敢えてニッコリと微笑む。

「どうぞ、そのご要望をおっしゃってください。出来る限り、ルーレンス様のお力になれるようご協力させて頂きます」

 穏やかそうな笑みと協力的な言葉とは裏腹にシャノンの声は冷たい。
 それは次に放たれるルーレンスの要望が、真実の愛を貫く為に自分との婚約破棄を希望する内容だと確信していたからだ。
 そのシャノンの態度にルーレンスが、やや後ろめたそうな表情を浮かべる。

「シャノン……。来週より城内に滞在し、本格的に挙式に向けての準備に全力で取り組んで欲しい」
「かしこまりました。婚約破棄でございますね? 謹んでお受け……」

 ルーレンスの言葉をよく聞きもせず、明後日の方向を向いたまま、用意していた言葉をツラツラと告げようとしたシャノンは、ピタリとその言葉を止めた。

 今、この第四王子は何と言った?

 シャノンは予想外の言葉を口にした婚約者の方へと、ゆっくり視線を向ける。
 すると、先程と変わらず神妙な顔つきのルーレンスが再度口を開いた。

「真実の愛に目覚めた。その為、お前との挙式を早めたいので来週から城に滞在し、早急に婚礼の準備に取り掛かって欲しい」

 そう言って真っ直ぐにシャノンを見据えるルーレンス。
 婚約者のその信じられない言葉にシャノンが目を丸くしたまま、空気を求めるように口をパクパクさせる。

「ご……ご冗談を! わたくし達の間には、真実の愛ではなく、いがみ合いという言葉の方がピッタリの関係だったと記憶しておりますが……」
「だから『目覚めた』と言っているだろう!!」
「どうしたら、そんな急速に目覚められるのですか!?」
「知るか! 急に目覚めてしまったのだから、理由など説明出来ない!!」

 やや不貞腐れた表情で言い切り、そっぽを向く婚約者を謎の生き物でも見る様な目で、茫然と見つめ返していたシャノンだが……。
 すぐに片手を額に当て、苦悩するような仕草をする。

 ルーレンスが俺様な性格なのは、昔からなのでよく知っている。
 だが、無能バカではない……。
 むしろ成長する上で公務に関しては、上の三人の兄達と同様に優秀にこなし、猫を被る事も覚えたので、幼少期を知る家族や側近、そして自分と姉以外から見れば、非の打ちどころがないこの国の王子の一人として見られる程だ。

 更に淡い薄茶色のサラサラな髪質に濃いエメラルド色の瞳を持つルーレンスの容姿は、一番人気だった第一王子の次に令嬢達から人気を得ている。
 逆に地味色で構成されている婚約者のシャノンの方が、見た目が不釣り合いだと周りの令嬢達から、陰口を叩かれる事が多いくらいだ……。

「ルーレンス様……。もしや体調が優れないのでは……?」
「熱などない!」
「ですが……このような突飛な事をおっしゃるのは、いささか尋常でないご様子としか思えないのですが……」
「私は至って正常だ!」

 どう考えても異常としか思えない急激な心変わりをしたルーレンスにシャノンは、頭を抱えたくなった……。
 時折、突飛な事を言う事はあったが……いくら何でもこの心境の変化はおかし過ぎる。だが本人は、その異常さに全く気付いていない……。
 そんな頭を抱えかけていたシャノンは、ハタとある考えに辿り着く。
 そしてその考えを導き出した瞬間、キッとルーレンスを睨みつけた。

「ルー!! いい加減にして!! あなた、また私に嫌がらせ的な悪ふざけをしようと何か企んでいるでしょう!!」

 苛立ちから思わず幼少期から呼んでいた愛称で怒鳴りつけてしまったシャノンに対して、ルーレンスは無表情のまま、しれっと返す。

「企む? お前は随分と歪んだ考えをする人間なのだな。そこは素直に前向きに受け取ったらどうだ?」
「受け取れる訳ないでしょう!? 少し前まで会えば嫌味の言い合いか、倦怠期の夫婦のような義務的に一緒にいる時間の過ごし方をして、お互い嫌々面会しているような状態だったのよ!? それがいきなり『真実の愛に目覚めた』と言われても素直に受け止められる訳ないじゃない!!」

 先程までの淑女の仮面をかなぐり捨てたシャノンは、捲し立てるようにルーレンスに抗議した。
 今でこそ王族に対する接し方を多少なりとも心掛けるようになったシャノンだが、元々は幼少期からずっとこんな感じでルーレンスには接していたのだ。
 ルーレンスの方も特にそれを咎めもしなかったので、二人きりの時に感情的になるとシャノンは、その素の接し方に戻ってしまう。

 そんな感情的になったシャノンの抗議の声を聞いたルーレンスだが……こちらも急にガタンと席を立つと同時に勢いよくテーブルに手を突く。
 そして目を据わらせて、凄むようにシャノンをキッと睨みつけた。

「そのお前との関係に耐えかねたから、真実の愛に目覚める事にしたのだ!!」
「はぁ!?」

 訳が分からない……。
 それでは『真実の愛に目覚めた』ではなく、『真実の愛だと思い込む事にした』の間違いではないのか……?
 そもそも何故それでシャノンとの挙式を早めようとするのか、理解出来ない。
 バカではないと思っていたが、本当はバカだったのではないかと思い始めたシャノンは、段々とルーレンスに向ける視線が同情めいたものになっていく。
 その視線から、何となくシャノンの考えを読み取ったルーレンスが、更に目を凄ませて怒りを露わにしてきた。

「お前は初めて会った時からそうだ! こちらがどんなに誘っても『お姉様と遊ぶからルーレンス様とは遊ばない!』と、そればかりだっただろ!!」
「だって! あなたはいつも偉そうに『遊んでやる』って上から目線で、意地悪な誘い方しかして来なかったじゃない!! 大体その後、私がオフェリアお姉様と遊んでいると、いつもお姉様を独り占めしようと奪おうとしていたでしょ!? 本当は私ではなくてお姉様と婚約したかったのではないの!?」
「何故、そうなる!!」
「じゃあ、最近親しいあの伯爵令嬢は、何なの!? あのご令嬢、雰囲気や髪と瞳の色が妹の私よりもオフェリアお姉様にそっくりじゃない! だから彼女との真実の愛に目覚めたのではなくて!?」

 するとルーレンスが一瞬目を見張るが、その後に小さく息を吐く。
 そして再び椅子に腰を下ろし、一度話を仕切り直すような動きをした。

「それはセリーヌ嬢の事だな。彼女はフィリップ兄上が好意を寄せていたが、奥手過ぎて話しかけられず、私に間を取り持って欲しいと頼んでこられたから協力しただけだ。来月辺りに二人の婚約が発表されるぞ」
「間を取り持った……?」

 フィリップはルーレンスより一つ年上の第三王子だ。
 中性的な美しい容姿な上に物静かで内向的な性格なので、確かにその話は納得出来るが……だからと言って何故、姉と似たようなタイプへ恋に落ちたのかは、あまり考えたくはない……。

「そ、それでは……ルーは一体誰への真実の愛に目覚めたの?」
「先程から言っているだろうが! お前への真実の愛に目覚める事にしたから、さっさと挙式の準備をして欲しいと!」
「その『目覚める事にした』という言い方が引っ掛かるのよ!!」
「元々好意を寄せている相手であるのにその気持ちが、全く伝わらないのであれば、それ以上の愛情として称するのに『真実の愛』と言うふざけた言い回しをするしかないだろう!!」

 そのルーレンスの言葉に一瞬ポカンとしたシャノンだが……。
 見る見るうちに耳まで真っ赤になってしまった。
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