花は花、鳥は鳥のように

真奈子

文字の大きさ
2 / 3

2日目

しおりを挟む
 次の日の朝、

「あまい、いいにおいがする」

と、言いながらジョイが台所に入って来た。いつもならパジャマのまま降りて来るのに、今日は既に服を着替えている。
 
 しかも、今までは食べるの専門だったのに、料理を運ぶのをせっせと手伝っている。
 
 次に今までは名前を呼び捨てだったエリスに

「姉さん、」

と、呼びかけてきて、エリスは驚いて、危うくお茶を吹き出しそうになり、その次にはお茶が気管に入り大いに咳き込んでしまった。

「お母さん、ルーシーの様子を見に行って来る」

 エリスはウエンディに言って、家の外へ出た。

 そうして物置小屋から自転車を出す時、木の前に立っているジョイに声をかけた。

 だが返ってきた返事は、今までのジョイからはおよそ想像しがたいものだった。

(生きてるせみより、死んだせみを探してるって、どう言うこと)

 物置小屋にこもっている弟も謎だったが、出てきた弟も謎だった。

 そんなことを考えながら自転車を押すエリスを、木にとまっている白い鳥がじっと見ていた。

      *

 今日のルーシーは、熱は下がったが、まだ体調は戻らない様子だった。

「明日には会えると思うんだけど、せっかくきてくれたのに悪いわね」

 ルーシーの母は申し訳なさそうに、エリスに言った。

「いいえ、とんでもない。これ良かったらどうぞ」

 今朝焼いたばかりのクッキーが入った入れ物をわたすと、「お大事にして下さい」と、声をかけて、エリスはルーシーの家を出た。

(どうしようかしら)

 その時、カタンと窓が開く音がして、エリスは顔を上げた。

『ルーシー!』

と、かけようとした声を飲み込んだ。

 どこか遠くを見つめるルーシーの目は硬質で何もみていないようにも見えた。

 風が吹いてルーシーの長い髪が揺れる。ルーシーの目の前のサルスベリの木の白い花も揺れている。

 昼の熱い風がエリスの方にも吹いてきた。何故だかゾクっとしてエリスは身震いをした。

 風に乗ってフワッと白い鳥が飛び立ったことにエリスは気づかなかった。

      *

 その夕方、エリスは熱を出してベッドに寝ていた。

「姉さん、大丈夫?」

 弟のジョイは甲斐甲斐かいがいしく頭を冷やすものやお粥などを運んで来てくれた。

 母のウエンディが夜遅くまで、額のタオルを取り替えてくれていた。

「明日にはお父さんも帰って来るわ。おみやげが楽しみね」

と、熱にうなされるエリスを励ますようにつぶやいた。

「昨日はジョイも微熱があったみたいだし、悪い風邪が流行っているのでなければ良いけれど」

      *

 夜半過ぎ、エリスはじっと天井を見ていた。けれど、その瞳は瞬きもせず、何も目に写してないようだった。

 


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...