花は花、鳥は鳥のように

真奈子

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3日目とエピローグ

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 朝になると、エリスの熱は下がっていた。
 
 台所で、ゆっくりおかゆを食べている。

 エリスは黙って食べ終わると、食器を流しへ持ってきた。

 熱の後遺症か、歩く姿が少しギクシャクしている。

「エリス、朝ごはんを食べ終わったら、もう少し寝ていなさい、昨日あんなに熱があったんだから」

 母のウエンディは、ねまきのまま窓から外を見ているエリスに言った。

 エリスはその声に反応することなく、じっと外を見ていたが、ついと窓から離れた。

 ウエンディはいつもと違う娘の様子に、不安げに目を向けた。

(ジョイと言いエリスと言い、一体どうしたのか。エリスはまだ熱が下がってないのかしら)

 今日の夜には、夫が帰って来る。帰って来るのをこれほど心待ちにするのは、久しぶりだと思い、ため息を飲み込んだ。
 ウエンディは今朝起きた時から頭痛がしていた。

(エリスの風邪がうつったのかしら)

 こめかみを押さえながら、洗い物をするために流し台の方へ行った。流し台の前の窓の外に虫がとまっていた。

      *

 昼前になってもウエンディの頭痛は治らず、心なしか熱も出てきた。

 階下の台所では、代わりにエリスが昼ごはんを作っていた。

「母さん、大丈夫?」

 コップに入れた水を持って、ジョイは静かに母のウエンディが寝ている部屋に入った。

「ありがとう、ジョイ。熱はそれほどないから大丈夫よ」

 ウエンディはコップを受け取って、水を飲んだ。

「おいしかった。ジョイ、悪いけど、そこのカーテンを閉めてくれる?何だか気になるのよ」

 ジョイは素直にカーテンを閉めたが、少し隙間を空けておいた。ちょうど虫が覗き込めそうなくらいの少しの隙間を。


      *      *

「あっ」

 夕方、元気になって遊びに来ていたルーシーの帽子が、強い風にあおられて、空高く舞い上がった。お気に入りの帽子とあって、ルーシーは必死で目で追った。

 それを見たエリスは助走もせずに、帽子を追って吹いてきた風に、乗るようにふわりと屋根の方まで飛びあがると、帽子を掴んだ。

「ほら、取れたわ」

 何でもないように言って、エリスはスカートのすそひるがえし、屋根の上からふわりと地面に着地した。

「ありがとう」

そう言いながらルーシーはうれしそうに帽子を受け取った。

 その時、門の方から車の入る音がした。

「父さんだ」

庭の隅にいたジョイが駆けていった。

 母のウエンディも家から出てきた。

「お母さん、もう熱が下がったの、早かったわね」

 ウエンディはエリスの方を見るとうなずいた。

 それを見て、エリスとルーシーはお互いに微笑みあった。



 
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