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小話

会報誌『あゝ素晴らしきMの同志よ』

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■■■前書き■■■

こびとさんより、『ゴシップ系の新聞はありますか?』という質問を頂きました。
シェニカ達の世界では、ゴシップの対象が王族や貴族、将軍だと世を乱すという理由で禁止されていることが多く、発行されている国はほとんどないようです。
ただ、シェニカを追っかけるドM達のように、趣味を同じにする人達がひっそりと新聞のような会報誌を発行していることがあります。


彼らの会報誌はどういうものだろうかと思って、こっそり一部を書き写してきました。会報誌はアツ~い想いと嗜好を共有するのが目的のため、濃ゆい世界の端っこにご招待する内容です。軽い気持ちでお読み下さい。(笑)


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これはドMの者達が愛読する会報誌『あゝ素晴らしきMの同志よ』より抜粋した、とある元傭兵の寄稿文である。



俺がシェニカ様と出会ったのは、トリニスタのテゼルという商人街。
痛む胸を治療してもらうため、シェニカ様が開いた治療院に行ったのだ。ちなみに、胸の怪我は娼婦に頭突きをしてもらった時のものだ。ここに辿り着くまで、並々ならぬ苦労があったから、まずは序章としてここで語りたいと思う。


同志の多くが言葉で罵られたり、ムチで打たれたり、ビンタされたり、蹴られたり、殴られたり、下僕のようにこき使われるのが好きだと思う。俺もその全てが好きだが、頭突きをして貰うのはもっと好きだ。頭突きプレイは同志の中でも少数だと思うが、一度試してみることを強くオススメする。しかし、自分自身も石頭でなければ下手すると死んでしまうから、自己責任で頼みたい。

女性に『いい加減にしろやオラァァ!』と罵られながらガツン!と脳天を直撃した瞬間、この世界とは違う夢の世界に旅立てるのが素晴らしい。
俺が見た中で印象的なものは、ピンクの蓮華草が一面に咲き誇る花畑に立ち、爽やかな風を手を広げて受け止めるメルヘンな世界と、手を伸ばせば空に瞬く星を取れそうなほどの高い場所から、風と同化しながら透明な滑り台を滑り、今まで出会った人物や思い出などを走馬灯のように振り返る爽やかな世界だ。今までの嬉し恥ずかしの過去を振り返れる貴重な体験だから、是非素敵な世界を感じてみてくれ。

そして、この素晴らしい頭突きプレイは何よりも相手選びが重要だ。
こんな要望を叶えてくれるのは普通の女では無理だから、行く先の街の娼館を一軒一軒訪ねることになる。まずは、その街で一番大きな娼館に行って、『この界隈で一番の石頭を教えて欲しい』と魔法の言葉を口にするのだ。すると、大抵『誰もそんなことを比べたことがないから分からない』という喜ばしい返事が来る。マイナーなプレイだから仕方がない。
しかし、自分の手で新たなプレイを開拓するのは、なんとも言えない特別感がある。俺は傭兵としての腕も金も心もとないから、生国トリニスタから出たことがない。新たなプレイを開拓する特別感が気になったら、同志がいる街の娼館に行って『この店で一番の石頭を教えて欲しい』と尋ねて欲しい。きっと俺と同じ返事が返って来て、胸の奥から湧き上がるワクワク感と高揚感で貴方も鼻息が荒くなるだろう。


話が脇にそれてしまったが、娼館での相手選びの話の続きをしよう。
街で一番大きな娼館で『誰もそんなことを比べたことがないから分からない』と素敵な返事をもらったら、「ならば誰が一番なのかを調べなければならない。試しに頭突きをしてみて欲しい」と言ってみよう。
良心的な娼館なら、その場で頭突きをして貰えることもあるが、街で一番大きな娼館はやり手なので「頭突きは貴方が1人1人指名して確認して欲しい」と言われるはずだ。稼ぎも手持ちも少ない俺は、全員を買う金なんて持っていない。足元を見やがって……と腹立たしくなるが、その時近くにいる娼婦の表情を見て欲しい。

嫌そうな顔をしている場合、その顔で『お前に見られるだけで汚れるわ。豚は四つん這いになってろ!』と怒鳴れながら尻にムチを入れてもらう場面を想像しよう。
無表情の場合、『クズは消えろ』と吐き捨てられて蹴られる時のことを想像しよう。
笑顔の場合、相手も頭突きが好きなんだ、これは連続でプレイできるぞと期待で胸を膨らませよう。
嘲笑の場合、『お前はこの程度か?だからパッとしねぇんだよ』と冷たく静かに言い放たれながら、鼻フックを引っ張られて泣いて謝る時のことを想像しよう。
表情を変えない娼婦が多いから、こういう顔はプレイする時にしか見れない。だからこそ、まだ指名してない段階でその顔が見れたことに喜び、タダで想像出来ることに心から感謝しなければならない。


話を戻してお試しの頭突きは出来ないと言われた場合、役者になったつもりで泣き落とすのだ。
『俺は街一番の石頭の女を指名したいが、誰が一番石頭なのか誰も知らないと言う。探し出したいのに、1人1人にお金を払うだけの甲斐性のない男だ。しょうもない男で申し訳ないが、どうしても!どうしても冥土の土産に探してもらえないだろうか!どうか頼むっっ!』というような台詞を、本物の涙を流しながら嗚咽をこらえながらゆっくりと。哀愁を感じさせるように、さめざめと泣きながら言うようにするのがコツだ。
泣きながら娼婦や店主の足にしがみついて、相手が折れるまで懇願を続けるのだ。男が本物の涙を流すことは一苦労だと思うが、我々は日頃から努力を続けているので、同志の殆どの涙腺がゆるくなっているだろうから楽勝だろう。
この演技はあの素敵な世界に辿り着くための前座。店の外に出されても引いてはいけない。むしろ、『頭突きプレイは自分が見つけた完璧なプレイだ。店の外に出されたからといって、簡単に引いて良いのだろうか。いや、ならない!』と、周囲の冷たい視線を浴びながら強い決意をしよう。

相手が根負けしたら、土下座で感謝の気持ちを示し、その場で1人1人に頭突きをやってもらおう。と言っても、『頭が丈夫でない者が頭に頭突きをすれば、怪我に繋がるかもしれない。怪我をすれば仕事に差し障りがあるから、胸にやってもらえないか』と提案すれば、それは良いことだとあっさり同意してもらえる。
その場で胸に頭突きをしてもらって誰の頭突きの威力が強かったのか確認したら、その娼婦に『貴女がこの店で一番頑丈な頭の持ち主だ』と伝えて胸を張ってもらおう。そして、ここまでのことを他の店でも繰り返し、街全部の娼館を制覇した時、胸には勲章の痣が出来ているだろうが、この街で一番石頭の娼婦を発見した証なのだから、見えるように服をはだけさせておこう。そして、その娼婦を指名してたっぷり頭突きプレイを楽しめば、きっと貴方も素敵な世界に飛んでいけるだろう。



どうして俺の胸が痛かったのかは、これで理解して頂けたと思う。いつもならば胸の痛みは余韻として楽しむのだが、テゼルには素晴らしい石頭の娼婦が5人もいたため、俺の胸は今までにないほど痛みを訴えていた。そんな時、シェニカ様が治療院を開いているというのだから、是非とも胸の勲章を見てもらいたいと思ったのだ。

シェニカ様は若く、治療を拒否しない優しい人だという噂を耳にしたことがあったが、実際に会ってみると、小柄で可愛らしくて穢れを知らない仔ウサギのように見えた。
誰もが可愛いと認める仔ウサギだからこそ、別の一面を見たくなる。無表情でムチを打ち込む、蔑む顔で冷たく罵るのも捨てがたいが、まずは極限まで怒らせたらどんな風になるのか、というのは是非とも確認しておきたい。
だから、まずは怒って『お前の粗末なものを潰されたいか!』とか罵って欲しい。もっと怒らせたら、どこか噛み付いてくれるだろうか。ちなみに俺が噛み付いて欲しい場所は、吐息がかかることでゾクゾクしてしまう耳。キスしちゃいそうだとドキドキしてしまう鼻先。その後の展開を考えると期待で胸が膨らむ尻。致命傷になるほど思いっきり噛んで欲しい首筋の4ヶ所だ。男の大事な部分、胸の先にも噛み付いて欲しい欲求はあるが、手加減せずに思いっきりやってもらうために、それはもう少し関係が進んでからお願いするのだ。初対面の時はどうしても遠慮してしまうから、こういうことはちゃんと見極めなければならない。これを読んだ同志も、今大きく頷いていることだろう。

そういう想像があまりに楽しすぎ、顔に喜びが出てしまうのを抑えきれなかったが、とりあえず胸が痛むと伝えると上着を脱ぐように言われた。目の前には若くて可愛いシェニカ様。すぐ側にはベッド。このシチュエーションで『上着を脱いで』と来たら、ベッドに誘っているのかと思ってしまうのは自然なことだろう。
久しぶりにノーマルプレイから入って、大丈夫そうだったら次の流れに……と思い、『服を脱ぐ時は椅子に座ったままじゃなくて、一緒にベッドに行って可愛くおねだりして言うのがセオリーって知らないの?俺が一から教えてあげるから安心して。コツは何事も思いっきりやることだよ。ちゃんとムチとか常備してるから使ってみようね』って言ってる途中で、問答無用で顎を下から押し上げられた。
胸の痛みは消えたが、その直後に来た衝撃で舌を少し噛んでしまった上に、呼吸が詰まって咳き込みながら椅子から滑り落ちてしまったが、優しげな顔からは予想出来なかった大胆不敵で、見込みのある押し上げに胸が熱くなった。

高鳴る胸の鼓動を感じながら見上げた先には、小さくて可愛らしいシェニカ様が目を釣り上げて怒っていた。元々可愛い仔ウサギが怒っても、全然怖くない。むしろもっと構って怒りを増幅させ、思いっきり蹴られたり、罵られたり、噛まれたい。
だから思わず『やっぱり怒った顔もすごく良いね。今度はもうちょっと俺を見下した感じでお願い…』とリクエストを言ったら、一呼吸置いた後、頬にものすごい衝撃が来た。


何が起こったのか理解できなかったが、真っ白な世界に足を踏み入れたのは確信出来た。この世界にいると絶対に足を踏み込むことが許されない、高潔で汚れのない純白のシルクで包まれる世界だったが、残念ながら一瞬で強制送還されてしまった。素晴らしい世界に誘ってくれた人は誰なのだろうかと、目の前で仁王立ちして何か怒鳴っている人を見上げると、そこには頬を膨らませてぷんぷんと怒る可愛い女の子がいた。
眉間に皺を寄せ、こちらを睨んで何か怒鳴っているが、その可愛い姿は小さい頃に幼馴染の女の子にスカートめくりをして、怒られた時の姿と重なる。誰もが人生で初めての親以外から貰うビンタだったであろう。
殴られた頬はジンジンと痛むが、甘酸っぱく懐かしい思い出を感じるのだから、もっとその怒った姿が見たい。頭突きプレイで感じる世界よりも、更に素晴らしい世界に誘われるビンタをもっと頂きたい。

残念ながらシェニカ様の護衛に部屋から追い出されてしまったが、頬に残る小さな手の跡と鏡で確認すると、ニヤニヤが止まらない。跡が無くなってしまっても、あの時に垣間見た世界の余韻、脳天を揺さぶる衝撃と痛みは身体に刻まれているから、いつまで経っても歓喜は続く。同志といえどそれぞれ違う嗜好を持っているが、あのビンタは誰もが納得し、昇天することが出来るだろう。最低でも人生に1度は味わうべきビンタであるため、是非とも経験するように強くお薦めする。

ビンタを経験した後、想像がどんどん膨らんで頭が追いつかない。
シェニカ様に「このクズ!」とか「出来損ない!」とか罵られたい。
「この汚い犬め!」と言われながら蹴られたい。
「私が躾けてやるわ!」と言われて踏みつけられたい。
「こんなに太りやがって!豚野郎め!」と鞭で打たれて、ご飯を目の前でちらつかせて焦らされたい。
「美味しい茶を淹れろと言っただろ!こんなマズい茶しか淹れられないのか!」とあっつい茶を投げつけられたい。
「新聞と飯を持ってこい、それが終わったら掃除しとけ!寝られると思うなよ!」と顎でこき使われたい。

全裸で四つん這いになり、ハイヒールを履いたシェニカ様に背中を踏みつけて貰いたい。尖ったヒールが無防備な皮膚に無遠慮に刺さる。その痛みはまさに悦楽の棘と言えるだろう!
あぁ、想像するだけで身体は熱くなり、モジモジと腰がくねり出す。きっとこれを読む同志も、その豊かな想像力で同じ様にくねっているだろう。想像しただけで、身体の奥に底知れぬエネルギーが集まっていくようだ。


我々の世界には、シェニカ様は無くてはならない神のような存在だ。
世界中を旅しているのに居場所が分からない。まさに女神のようなシェニカ様に出会うため、我々同志は結束を更に固くしようではないか。



トリニスタ在住の頭突きプレイの伝道師 (ペンネーム)




■■■後書き■■■

結構な濃ゆい内容だったため、一部を書き写すだけで私はお腹いっぱいになってしまいました。( ´д`ll)
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