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第18章 隆盛の大国
15.グルグル渦巻く
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■■■前書き■■■
お気に入りや感想、web拍手、コメントをありがとうございます。
頂いた応援は更新の励みになっております。
更新お待たせしました。今回はルクト視点です。
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「妃殿下とは気が合うようですね」
「うん!スァンって王族って感じがしないし、動物好きだから不思議と話が合ったんだ!地元以外に友達って居なかったから、友達になれてすごく嬉しい」
「シェニカの嬉しい顔が見れて、私も嬉しいです」
ファズの先導で王宮の廊下を歩いていると、王宮内を警備する兵士は廊下の端で立ち止まって敬礼する。そいつらは真っ直ぐ前を見据えているのだが、俺の2歩前を歩くシェニカとディスコーニが通り過ぎると、前を見据えていた視線が一瞬俺に移る。
こいつらに限らずシェニカとディスコーニが隣り合って歩けば、こんな風に周囲からは好奇の目で見られる。それは癪に障るのだが、『ディスコーニが我が物顔でシェニカの隣にいられるのは、今のうちだけだ』と言い聞かせ、拳を握りしめて苛立ちを押し殺す。
「人混みで警備の者の姿が見えないかもしれませんが、周囲で警戒してますので、安心して下さいね」
「ありがとう。お昼ご飯は城下で済ませてくるね」
「分かりました」
以前はあれだけ柵を作って利用されることを嫌っていたのに。
鍾乳洞から戻ってきてからというもの、ディスコーニにすっかり気を許しているし、王族達と楽しそうに話すシェニカが信じられない。
俺の知らない1週間で、シェニカの考えを180度変えてしまうようなことってどんなことなのか。
鍾乳洞でディスコーニと何を話した?
1週間、あいつとどういう風に過ごした?
ディスコーニとはキスだけだって言ったけど、本当は最後までやったんだろ?
気持ちよかったか?どういう体位でやった?あいつは上手かったか?
鍾乳洞で何があったのか、最初から最後まで事細かに、あいつの心情の変化も合わせて聞き出したい。
でも、嫉妬に駆られて最後まで冷静に聞ける気がしない。きつい口調になって、また怖がられてしまっては困る。
ただでさえ信頼関係が壊れて、護衛としても微妙な立場なのに。そんな風になったら、もう修復不能な状態になって、ポルペアに辿り着く前に護衛をクビにされるかもしれない。
ディスコーニはシェニカを好きだとか、あいつのためなら何を犠牲にしても構わないとか言ってるが、いざ国とシェニカを天秤にかけるようなことがあれば、立場上国を取らざるを得ない。そんなこと、シェニカだって分かりそうなものなのに。
騙されてるって、どうして分からないのだろう。
「ステンドグラスが綺麗ね」
「見惚れて足を踏み外す方もいるので、足元には注意して下さいね」
廊下を曲がると、2階分ほどはありそうな長い下り階段に差し掛かった。
この場所の高い天井には幾何学模様のように彩色されたバラ窓、花や山などの風景や十字架に祈りを捧げる男女を描いたステンドグラスが嵌め込まれていて、シェニカは踏み外さないように気をつけながら上を見上げて歓声を上げた。
「この北門は他の城門に比べて人通りが少ないので、戻る時にもここを使って下さい」
「うん、分かった」
階段を下り終えて広い踊り場に出ると、シェニカはハンカチをあてた額飾りの上からスカーフを巻きつけた。それを見ていたディスコーニは、皺が寄ったところに手を伸ばし、見栄えが良くなるように直した。
するとシェニカは微笑を浮かべるあいつを見上げ、奴だけに聞こえるような小さい声で「ありがとう」と呟いた。
「楽しんで来てくださいね」
「うん!じゃあ、いってきます。ルクト行こう」
「あぁ」
ディスコーニが大きなアーチ型の扉の前にいる銅の階級章をつけた2人の兵士に目配せすると、1人が扉をノックして、扉にある小さな蓋をスライドさせた。そこに現れた小さな穴に、兵士が聞き取れないほどの小声で何かを言った後、2人の兵士は全身を使ってゆっくりと扉を開いた。
扉が完全に開くと、向こう側にいた2人の兵士は敬礼した姿で現れた。
扉の先にあったのは、緑の蔦を纏わり付かせた背の高い白い柱が両脇に建つ石畳の道で、その柱は大通りに繋がるデカイ柵の城門に向かって何本も建っている。
シェニカが敬礼したままの兵士たちの前を通り過ぎた時、それまで後ろを歩いていた俺はシェニカの隣に移動した。
ーーやっと2人きりになれた。やっとシェニカの隣に居られる。
ささやかな喜びを感じた瞬間、甘い香りが濃くなった気がした。
その香りをもっと近くで感じ取りたいと思った時、自分が踏んだ小枝の「パキ」と折れた微かな音で、ハッと我に返った。
一瞬の間に何が起こったのかと確認してみると、シェニカと少し距離をあけていたのに、距離を半歩詰めていた。
シェニカに嫌がられたかと思って顔色を伺ってみれば、通り過ぎる柱に彫られた馬や大きな鳥、狐などの動物を見ているばかりで、俺のことなんて全然気にしていなかった。
その様子に安心した反面、がっかりした気持ちになった。
ーー甘い香りはいつもしているけど、シェニカを意識した時には濃く感じるのかもしれない。強い香りは理性を飛ばすから危険だ。出来るだけ意識しないように、距離は少しあけておいた方が良いのかもしれない。
名残惜しく思いながらも、無意識にシェニカに手を出してしまわないようにするために、半歩離れて元の距離を保つことにした。
「気になるのか?」
「うん。今まで王宮から早く出ようと思って、美術品とか気に留めてなかったけど、やっぱり王宮にある物ってすごく上品で豪華な物が多いな~って思って」
「そうだな」
あの王族の女と友達になったって喜んでるが、そのうち国に来いとか手紙を送ってくる。王族や貴族、軍人なんて近寄るべきじゃないって、痛い目に遭わなければ前みたいに警戒しないのだろうか。
「いってらっしゃいませ」
「ありがとうございます」
城門の脇に控えた銅の階級章をつけた2人の兵士は、開いた城門を通り過ぎるシェニカに挨拶をしたのだが。どうやら返事をされると思っていなかったらしく、2人とも嬉しさを堪えるような顔をした。
そんな2人を背にしたシェニカは、真っ直ぐ行った先にある首都の外のスイートピーが見える開かれた城門を見たり、凱旋パレードで通った王宮の外周の道を見ようと顔を左右に動かしていたが、昨日の人混みが嘘だったような静けさを不思議に思ったのか首を傾げた。
「本当に人が少ないね」
「職人街が近いのかも知れないな」
主要な道にも関わらず、ここを行き交うのは草色の軍服の兵士達の他に、前掛けをした職人らしい不格好な男や、頭にスカーフを巻いて汚れた服を着た女。商店に買い出しに行ったのか、籐の籠を両手で抱えて重そうに歩く、ススや土で服を汚した子供ばかりだ。
真っ直ぐな通りの左側は、見るからに金がかかっていそうな洒落た煉瓦造りの建物群があるから、そっちは貴族達の屋敷があるのだろう。通りの右側にある建物群の上からは、いくつか白い煙が出ているところがあるし、鉄を叩くような音が聞こえるから、そのあたりに職人街があるのかもしれない。
城門を閉めた兵士からうっとりとした視線を背中に浴びるシェニカは、2つの大きな道がぶつかる場所にある掲示板を指差した。
「あそこに地図がある。見ていい?」
「あぁ」
通りを渡って地図の前に立つと、隣から甘い香りがふわふわと漂ってくる。思わず手を伸ばし、抱き寄せたくなる欲求を抑え込みながらシェニカを見た。
額飾りをスカーフで隠した代わりに、小さなピンク色の桜貝が並んでいる。シェニカは5色の額飾りも似合うが、ディスコーニが買ったスカーフも似合っているのが面白くない。
どうやってきっかけを作ればいいか分からないが、髪飾りやピアスを贈りたい。でも、受け取ってくれるだろうか。
「えっと、この辺は職人街と貧民街があるだけで、あとは東の大通りまで軍の敷地かぁ」
「見るところはなさそうだな」
シェニカの言葉に誘われるように掲示板の地図を見れば、首都の中心にある王宮から東西南北を区切るように大通りが走っていて、それぞれが首都の外に出る大きな城門に繋がっている。
北に真っ直ぐ伸びた大通りの右側を北エリアと呼び、北北東あたりに壁が作られていて、その壁と北の大通りの間に職人街と貧民街がある。壁から東の大通りまでの広大なエリアは軍の敷地になっていて、東の大通り沿いにある一際大きい黒い建物からは、王宮の東側に渡り廊下が伸びているらしい。
「東エリアは傭兵街と商人街か」
「市場もあるから、こっちは面白いお店がありそうね」
東の大通りから南の大通りまでの東エリアは、このエリアを半分にするように南東方向へ伸びる市場がある。そこから軍の建物側に傭兵街とコロシアムがあり、南の大通りにかけて商人街がある。この商人街や市場には、シェニカが好きそうな菓子や土産物といった店があるだろう。
「南エリアは市民街かぁ。こっちは行かなくて大丈夫そうだね」
「そうだな」
南の大通りから西の大通りにかけて広がる南エリアは、すべて市民街になっている。首都の住民に知り合いは居ないから、この区画に立ち寄る必要はないだろう。
「西エリアにも商人街と市場があるけど、このエリアは貴族の屋敷が連なってるから高そうだね」
「貴族御用達だろうから、大商人が牛耳っていそうだな」
西の大通りから今いる北の大通りにかけての西エリアは、王宮側に面した区画には商人街が広がり、エリアを半分にするように北西方向へ伸びる市場がある。
ここから一番近いのは西エリアの市場と商人街だが、敢えて貴族達の住む区画に店を出すということは、大商人しか店を出せないようになっているのだろう。
「じゃあ、東エリアの市場に行こうか」
「分かった」
シェニカと並んで東に向かって歩き出すと、すぐに北エリアを区切る壁が見えてきた。
軍の敷地と民間人が住むエリアを区切る壁だからか、城壁よりは低いが職人街や貧民街の建物よりも高く、分厚くて頑丈な石造りで出来ていた。
「壁の上、可愛い花が咲いてるね」
「そうだな」
外周の大通りと軍の敷地を隔てる石造りの壁は俺の背丈程度しかないが、延々と続く壁の上部には、赤やピンク、白の小さな花をつけた、ギフェルニアソウという蔦が生い茂っている。
この蔦は、目隠しになりそうなくらい隙間なく深緑色の小さな葉を茂らせる植物で、葉と花の茎に鋭いトゲがあり、タンポポに似た花びらは針のように鋭いという特徴がある。
そのトゲや花びらが皮膚に刺さると、身体を少し動かしただけでも小さく呻くほどの痛みが続くため、別名『呻き草』とも呼ばれ、侵入者を阻むために軍の拠点や関所、国境を隔てる杭などに利用されることが多い。
ーーこんな花の話題で会話が続くとは思わないが。何か話したいと思うのに、何て喋りかけて、どんなことを喋ればいいか分からない。
甘い香りに刺激される欲求を抑え込みつつ、話しかけるタイミングや内容を考えながらしばらく歩いていると、遠くに見えてきた軍の黒い建物や、立派な白い王宮を見ながら歩いていたシェニカが口を開いた。
「やっぱり大国の首都って、今まで立ち寄った街の何倍も大きいね。ドルトネアの首都も大きいの?」
「ドルトネアの首都は山の盆地を切り拓いて出来てるから、ここよりも規模は小さい」
「そうなんだ。ドルトネアの首都ってどんな感じ?」
「周囲が岩山ばっかりだから殺風景だし寒いし、首都といえど食糧は少ない。ウィニストラの方が食べ物の種類は多いし、味も良い」
「ルクトはそのうちドルトネアに帰るの?」
「なんで?」
思わぬ問いかけにシェニカを見ると、俺を見る緑の目に恐怖は浮かんでいないことに安心した。
「故郷が恋しくなったりしない?」
「ならない。お前はそのうちセゼルに帰るのか?」
「旅に出てから両親とも会ってないし、そのうち帰ろうと思ってるよ」
「何しに帰るんだ?」
「元気にしてるよって顔を見せたいし、私もお父さん達の元気な顔を見たいし。牧場の羊や犬達にも会いたいな。
友達とも会いたいし、同窓会に一度は行ってみたいな。みんなどんな風になってるのかな。もう結婚してる子もいるかなぁ」
シェニカが嬉しそうに喋っている内に、あっという間に黒い軍の建物の前に差し掛かった。
今までは下級・中級兵士が数人で大通りを巡回していたが、この重要拠点である建物周辺になると、銅の階級章の兵士が率いる部隊が巡回している。
小さく振り返ってみると、シェニカを警備する兵士は軍服ではなく、一般人に紛れるように旅装束を着ていて、俺達から一定の距離を保って歩いている。
あの男の話によれば少数精鋭にしたらしいから、副官に近い実力を持つ者なのだろう。
戦場から離れた今の俺は、どこまで通用するだろうか。
今、後ろをついてきている奴らには勝てると思うが、ファズは倒せるだろうか。
シェニカを我が物顔にしているディスコーニを倒せるだろうか。
勝ち誇った顔で俺を見下ろした、バルジアラを跪かせられるだろうか。
「一気に人が増えたね!」
「この先は商人街だからな」
そんなことを考えていると、いつの間にか東の大通りを抜けて傭兵街に差し掛かっていた。
さっきまでは軍人とすれ違ってばかりだったが、この先は商人街だからか、傭兵たちと同じくらい一般人や旅人も大通りを埋め尽くすように行き交っている。王宮の北門から軍の拠点までの人通りの少なさが、嘘だったかのような大賑わいだ。
大通りから一本入った道を見ると、そこは傭兵団の拠点に通じる道のようだが、今は道を占領するように長テーブルや丸テーブルなどがたくさん並べられ、昼間っからビールを片手にした傭兵達がひしめいていた。道の隅には何件かの出張酒屋がテントを張り、忙しそうにビールをジョッキに注いでいるが、追いついていないようでテントの前には行列が出来ている。
酔っ払った奴の笑い声や話し声も大きいが、楽器が得意な傭兵の一団が笛や太鼓、シンバル、トランペットなどを演奏していて、その音楽に合わせて踊る傭兵や娼婦らしき女達に、ほろ酔いの傭兵が歓声を上げている。
シェニカは周囲の騒がしさしか聞こえていないようだが、この先の商人街に広場でもあるのか、そっちからも楽器の声や歓声が聞こえる。
「なぁ、ちょっと一緒に飲まない?」
「え~?」
「酒は全部俺達が奢るからさ」
「じゃあ、ちょっとだけ!」
ほろ酔いの傭兵連中は大通りを歩く一般の女をナンパして、自分の拠点がある建物に連れて行ったり、道に並べられたテーブルに連れて行ったりしている。
シェニカや俺に声をかけようと近付いてくるランクの低い傭兵がいるが、近付くなと睨めば青い顔をして去っていく。
この先、シェニカが王族や貴族、将軍と絡むようになるのなら、あいつ目当てで面倒な奴らが休む間もなくやってくるのだろう。
そういう奴らはシェニカを『利用価値の高いモノ』としか見ていないのに、ディスコーニに騙されたように、あいつは他の面倒な奴にも引っかかるかもしれない。害のある奴なんて近付けたくないのに、今の関係性では俺が口を出すことは出来そうにない。
将軍だったら国に縛られるだろうが、そいつが自由の利く王族や貴族だったら、そいつが連れる護衛も同行してくるかもしれない。
そうなったら、俺はどうなるのだろう。用済みの邪魔者として捨てられるのだろうか。
恋人という立場を失った後、どうにかしがみつけた護衛という立場も失って、俺は側に居ることも出来なくなるのだろうか。
シェニカを諦めたくない気持ちは強いのに、もしそうなったらどうすればいいのだろう。
人混みのおかげで手が触れそうなほど近くなったシェニカをチラリと見れば、人混みを避けようと一生懸命歩いている。
戦闘能力なんて殆どないほど弱いのに、ちっぽけな実を立派な木に一瞬で成長させたり、どんな怪我も綺麗に治療したり、身分の高い横暴な奴をコケにしたり。優しくて、芯が強くて、子供っぽいところがあったり、小動物のように小さくて可愛いのに、初めて見たドレス姿は大人っぽくて、すごく綺麗で。
シェニカを見る度に好きだと思う気持ちと、もう一度俺を見て欲しい。触れたい、キスがしたい、抱きたいという願望が強くなる。
離れたくない。捨てられたくない。でも、捨てられるかもしれない。
ディスコーニが言っていた捨てられないように努力するって、考えても分からない。
俺が分からないことも、知らないことも。あいつはまるですべての答えを知っているみたいで、余裕綽々な態度も気に入らない。
甘い匂いを耐えつつ漠然とした不安に囚われていると、広い大通りは身動きが取れないほど混んできた。
人混みに押されて時折手が触れる距離になっても、シェニカは嫌そうな素振りを見せないことに安心するが、俺を意識してないのも伝わってくる。
その事実はとても寂しいものであっても、微かに触れた手が温かいと感じるだけで嬉しくて、甘い匂いがまた強くなる。
匂いに刺激されて理性が飛ばないように、爪が手のひらに食い込むように強く拳を握りしめ、出来るだけ触れないように歩いていると、傭兵街と商人街の間にある市場に差し掛かった。
入り口に吸い込まれる人混みの波に合流しようとすると、シェニカはその波に乗らずに市場の入り口を通り過ぎ、商人街の方に歩いていく。
「市場に行くんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、あの看板が気になっちゃって」
シェニカは明るい表情でそう言うと、入り口の先にある服屋の2階を指差した。そこには、古ぼけた木に『アルゥ古書店こちら』と書かれた吊り下げ看板があった。
「古書店に行きたいのか?」
「うん!もしかしたら、古い魔導書とかオオカミリスの本とかあるかもしれないし!」
シェニカは笑顔でそう言うと、人の波に上手く乗って服屋の先にある角を曲がった。その先は、馬車が1台なんとか通れるくらいの道が真っ直ぐに続いていて、道の両脇には服屋、土産物屋、飲食店などの店が並んでいる。この商店街も人気らしく、前を進む人を追い越せないほど混み合っている。
前に進むのがやっとの状態で通りを歩き、ようやく古書店に入ることが出来た。
「いらっしゃい」
この古書店は入り口は狭いが、店の奥に伸びる本棚は5列あり、棚のあちこちから本が飛び出た棚と向かいの棚の間は大人が2人通れるほど広い。どの店にもある控室や倉庫に繋がるドアなどは一切なく、入り口のすぐ横にある店主が座るカウンターの脇には、本が崩れ落ちそうなほど山積みされている。
「こんなめでたい日に古書を見に来るなんて、物好きだねぇ。うちはギリギリでやってるから、サービスなんてしてないよ」
カウンターに座る真っ白な頭の店主は、手にしていた本から視線をこっちに移すと、皺だらけの顔で物珍しそうに俺達を眺めた。
「あの。オオカミリスについて書かれた本はないでしょうか」
「オオカミリスねぇ……。ずっと前、貴族達が本を買い占めて行ったっきり、入ってきてなかった気がするような。まぁ、多分ないね」
爺さんが首を傾げながら言った適当な返事に、シェニカはしょんぼりとした表情になった。
「そうですか……。じゃあ、旧字で書かれた古い魔導書とかないでしょうか」
「旧字の古い魔導書ねぇ。一番左にあったか?いや、一番右……?いや、多分右から3番目の棚だ。適当に置いてるから自分で探してくれ」
記憶があやふやな様子の爺さんが指差した本棚に行ったシェニカは、色あせた本が並ぶ棚を丁寧に見始めた。その顔があまりに真剣だったから、俺は邪魔にならないようにシェニカが背にしている棚を眺めてみた。
ーーウィニストラの災害の歴史。ウィニストラ貴族名鑑。アルベルトの家庭料理。ジナ観光ガイド。黒魔法初級編。適当に並べたと言っていた通り、並べ方はバラバラだ。
この店にある本は今までの扱われ方が雑なのか、随分古いものが多いからなのか、表紙や中の紙が色褪せていたり、穴が空いていたりと状態の悪い本ばかり並んでいる。
そんな中、本棚の奥の方に小さいのにやたらと分厚く、青い表紙が特徴的な本が2冊あるのを見つけた。
背表紙を触ってみれば、ほとんどの本が紙の背表紙なのに、その本は青いベルベットで作られている。
人の目につかないような奥に追いやられ、小さく縮こまっている様にも見えるその異質な存在は、居場所のない俺と同じような気がして、なんとなく1冊に手を伸ばした。
ずっしりとした重さのある表紙には、金の刺繍で『スリヤワット動物図鑑1』と書いてある。
この本は保存状態が良かったのか、白い紙は褪せていないし、ベルベットの手触りも良い。前書きや目次を読み飛ばし、動物について書かれた最初のページを開くと、そこはスザクワシのページだった。
ページを埋める説明文よりも、巨大な翼を広げて空を飛ぶ姿、鋭い足で狐を狩る雄々しい姿といった、たくさんの絵が気になる。
どの絵も羽や尾羽根の1枚1枚が緻密な描写で描かれていて、ガキの頃に時間を忘れて読みふけった時のような、胸がザワザワするような高鳴りを感じた。
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スザクワシ。それは世の中の男性なら一度は憧れる、世界最大の猛禽類である。
警告色にも受け取れる派手な赤い身体で、尾羽と左右の翼には赤と緑の派手な飾り羽がある。
人に慣れることも懐いた例もなく、目撃情報は必ず1頭だけというところから、単独行動をすると考えられる。そんな様子から孤高で高貴な存在と認識され、特に動物学者の間では研究の難しさも相まって『空の覇者』と呼び、幻のような存在である。
この鳥は黒魔法の攻撃を軽々と躱し、拾った石や岩を投げつける、鋭い嘴で弱点となる目や口、首を狙うなど、知能が高いことが分かっている。
子供を攫われそうになった父親が黒魔法で追い払おうとしたところ、魔法を躱したスザクワシは思わず耳をふさぐようなけたたましい鳴き声を上げ、動きの止まった父親が持っていた剣を蹴り落とし、父親の両肩を掴んで空を飛んだ。数キロ先の川に父親を落とした後、その頭を足で押さえつけて溺死させ、全身を食い散らかしたという実話も残っている。
スザクワシはワニの硬い皮も抉る頑丈で鋭利な嘴、獲物を放さない鋭い鉤爪、思わず耳を塞ぎたくなるような劈く鳴き声、成人男性すら持ち上げて飛行出来る筋力を武器に、時に人間をも餌にする。
そのため、近付くのは非常に危険であるが、生息数は非常に少ないようで、他の絶滅危惧種に比べて目撃情報が極端に少ない。
他の絶滅危惧種の研究でも、生息地とされる場所を2年間くらい調査していれば、1度くらいは会えるものなのに、その生息地とされるドルトネアの山中に2年半籠もっても一度もお目にかかれなかった。
それでも世界で一番目撃情報が多いドルトネアでは、男女問わずスザクワシへの憧れは著しく、畏怖と敬愛の対象とされ崇拝されている。
ドルトネアではスザクワシの雌は雄よりも身体が大きいと言われているが、この国でも数年に1度、山に向かって空を飛ぶ姿を見ることがあるという程度であるため、誰も見比べたことがないことから大きさの真偽は不明である。
繁殖の時期は不明だが、ドルトネアの山中を歩いていると、高い木の上に朽ちた何かの巣があるのを見つけた。その巣は8人掛けの丸テーブルくらいあったと思われるが、ボロボロの状態であったため想像の域を出ない。
だが、その木の下に降り積もった雪をかき分けると、赤い羽根が数枚出てきたことから、これがスザクワシの巣である可能性は高いと判断した。
彼らはどれほどの距離を移動するのか。普段はどのような生活をしているのか。羽の手触りはどんな感じなのか。
体温はどれほどなのか。どれほどの重さなのか。成人男性を持ち上げられる全身の筋肉は、どんな感じなのか。
巣はどんな感じなのか。雌は一度の産卵でいくつの卵を生むのか。卵の大きさ、形、色はどうなっているのか。
子育ては雄と雌でするのか。どれくらいで巣立つのか。どれくらいで繁殖が可能になるのか。
好む餌は何なのか。縄張りはあるのか。天敵は何なのか。
寿命はどれくらいなのか。人の言葉を理解するのか。手懐ける方法はあるのか。
知りたいことは山程あるのに、出会う機会が少な過ぎる上に、スザクワシに近付くのは危険かつ困難であるため、その幼体から成体まで謎が多い。だが、一番の謎はなぜ個体数を減らしたのかということだ。
家畜や子供を攫われそうになった者がスザクワシを攻撃をした例は報告されているものの、乱獲や虐殺、密猟が横行した事実は確認されていない。それにも関わらず絶滅危惧種となるまで個体数を減らしてしまった原因は何なのだろうか。
この謎が解けなければ、『空の覇者』はいつか絶滅してしまうかもしれない。
ちなみに、スザクワシを探すために岩だらけの山を歩いていると、脆くなっていた足元の岩が崩れ落ち、滑落して足を骨折してしまった。
助手や案内役を雇う金がない私は単独行動だったために、崖下に滑落しても誰にも発見されない可能性が高かった。しかし、幸運なことに数キロ先の坑道で働く鉱夫が、普段見ない色(私が着ていた服)が景色にあることを不思議に思い、確認しに来てくれたのだ。
助けてくれた鉱夫はとてもお喋りで、彼はドルトネアのみで採れる宝石アズネイトを採掘する現場で働いていること、スザクワシは見たことはないが、絵なら首都の神殿にたくさん描かれていること。ドルトネアに生まれる者は総じて目と鼻が優れているが、副官・将軍クラスになるともっと優れているらしいと、彼は成人男性の私をおんぶした状態にも関わらず、ケロリとした顔で話してくれた。
屈強な彼が働く鉱山の拠点に行くと、常駐している腕の良い白魔道士が無料で治療してくれた。
また、世話焼きの鉱夫達が私を大歓迎してくれ、なんと酒や食べ物、寝床まで提供してくれた。一宿一飯の恩義として私の今までの研究を話すと、とても楽しそうに聞いてくれた。
特にスザクワシの話になると、どこどこの山に巣があるらしいとか、どこそこの村で昔スザクワシに家畜を攫われたらしいと、大興奮で情報を提供してくれた。
残念ながら私はスザクワシに会えなかったため、スザクワシの絵はドルトネア首都の神殿の絵を書き写したが、いつか心優しい彼らに前にスザクワシが舞い降りてくることを願うばかりだ。
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この動物図鑑は、1ページにびっしりと絵と文字が書いてある状態が何ページも続いているが、不思議なことに作者の日記を読んでいるような感じになる。
内容が元々興味のあった動物についてだからなのか、この本に載っている他の内容が気になるし、この本を書いた人物についても興味が湧いた。
そこで開いた本を閉じ、一番最初に書いてある前書きのページを開いてみた。
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世の中には数多の本が存在するが、その中からこの1冊を手に取ってくれたことに心からの感謝を申し上げる。
私、スリヤワット・ギネガルデは、大陸の南部にあるワスクという国で生まれた。
小さい頃は虫取りが大好きで、たくさんの虫を集めては友達と見せ合って自慢していた。
学校に入ってからは、近所の牧場で羊や山羊、牛、馬といった動物とよく遊んでいた。羊や山羊に本気の頭突きをされたり、馬に蹴られそうになったり、木の下で昼寝をしていたら牛に踏みつけられそうになったりと、大変な思いをして親に心配をかけた。
しかし、そんな経験をしたからこそ、なぜ威嚇や攻撃をされたのか、いつもは仲良しなのになぜ突然そんな行動を取るのか、なぜ人に懐く動物と懐かない動物がいるのかなどの疑問を持った。それらを親や先生に質問したが、満足のいく答えは貰えない。分からないことはメモに書き留め続け、湧き上がる疑問を大人に質問し続けると、手に負えなくなった学校の先生は図鑑を渡してくれたのだ。
その古ぼけた図鑑を受け取った瞬間、私の動物学者への道が決まったのだ。
それからは貰った図鑑が手垢で汚れ、どこにでも持ち歩いたことで傷だらけになり、書いてある文字が雨や手についた水で滲んで読みにくくなってしまうまで愛読した。
成人してからは国の動物学者に弟子入りをして、助手として師匠と共に世界中を駆け回った。
ある時はいつの間にか背後にいた赤虎に襲われて死にかけた。
またある時は、茂みになりきって豹を観察していたら、蛇に尻を噛まれて大変な目に遭った。
またある時は、可愛いカワウソを水辺で観察したいと思って川に入ったら、ワニに追いかけられて死にかけた。
他にも一般人は経験しないような状況に陥って、生命が尽きかけたこともある。常に怪我が絶えず、私の今の手指や足の一部は、砂で形作っている状態ではあるが、幸運に恵まれてこうして生き残っている。
世界中に存在する数多の動物を研究してきたが、動物学者として一番心配しているのは絶滅危惧種の今後だ。
個体数を減らした原因はその動物によって違うが、天災や気候変動という理由を除けば、人間にとって脅威になるからと虐殺され、限られた生息地を人間に奪われてた結果、行き場を失って殺される。見た目の愛らしさの虜になった人間が、愛玩動物にしようと乱獲するなど、人間の身勝手な理由の場合が多い。
減ってしまった個体数を戻すには、乱獲や虐殺をさせない、繁殖率を上げる、子の生存率を上げる、密猟者を取り締まる、生息地を開拓しないなどの環境を整備することが大事であるが、何世代にも渡る長い時間と、現在と未来の人間の理解が必要になる。
しかし、政情や思考の変化によって絶滅危惧種への危機感や理解、優先度が移ろうために、絶滅危惧種はいつまで経っても個体数を増やすことが出来ず、絶滅してしまう可能性があるのだ。
また、今は絶滅の危機に瀕していない動物でも、何かのきっかけで絶滅危惧種になる可能性もある。もしかしたら、我々人間が絶滅危惧種になるかもしれないのだ。
私の人生をかけた経験と、あらゆる生物の研究の集大成として。絶滅危惧種の動物の現状を知ってもらうため。
これを読んでくれる人に共存する動物の未来を託すために、この図鑑を完成させた。
この本が人間と動物の共存に生かされることを祈って。
スリヤワット・ギネガルデ
ちなみに。
師匠から独立して現在に至るまで、知名度のない動物学者でしかなかったため、私に弟子入りしたいという物好きはいなかった。加えて稼ぎが乏しい上に、財産もないために良縁にも恵まれなかった。
しかし、せめてこの図鑑だけは華々しくしたいと思い、私の描く絵を気に入ってくれたジナのアシュベ公爵に借金をして、10巻すべてに頑丈な紙を使い、表紙はベルベットにした。
この図鑑が動物の共存に生かされるのが1番の願いだが、1人でも多くの人に買って貰って、借金が返済出来ますように。
私の血筋は絶えてしまうが、この本を子供として世の中に産み落としたことをとても誇らしく思う。
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前書きを読み終えると、目次を確認してスザクワシの次に書かれているドルトネア犬のページを開いた。
この犬は主人に対して従順なため、遭難者を探し出す山岳犬として調教されているが、秘密裏に国境を超える暗部の追跡や不法入国者も捕らえる役目を果たしている。
この犬の特徴は、凸凹した大地をしっかりと踏む太い脚、バランスを取るための長い尻尾を持ち、寒い環境に適応するために毛足が長い。強い風のせいで毛が絡まりやすいため、頻繁にブラッシングをしなければならないとは知っていたが、その時には愛情の籠もった言葉をかけながら、丁寧に丁寧にするのがコツであると書いてあった。
ドルトネア犬も含め、生態が分かる動物については外見的・性格的な特徴、個体数が減った場合の考察、幼体の様子、食事風景や子育ての様子、寝姿などを臨場感のある絵と共に説明している。それは自分のような素人にも分かりやすい内容で、堅苦しい感じがしない書き方ということもあって、次はどんなことが書いてあるのだろう、もっと読みたいと次々にページと捲った。
ざっと目を通し終わったが、もう1度ゆっくり読んでみたいという気持ちが高まって、本棚に戻す気にならない。本棚にあるもう1冊も手にとって見れば、『スリヤワット動物図鑑7』と書いてあり、目次には赤虎といった絶滅危惧種や、聞いたことのない動物の名前が載っていた。
このシリーズは値段が1冊金貨2枚と高価だが、読むのが苦じゃないと感じられる面白い本だし、暇つぶしに全部買おうと2冊手に取り、自分の背後に並ぶ本棚を探しているシェニカを見た。シェニカは本棚の端の方まで来ているが、その手には何も持っていなかった。
「欲しい本はあったか?」
「魔導書はあったけど、欲しいものじゃなかったや。ルクトは何の本を持ってるの?」
シェニカは俺の手にある本を見ると、意外そうな顔をして俺を見上げてきた。
「見るか?」
「うん!」
シェニカに1巻を渡すと、ベルベットの表紙を丁寧に撫でて俺を不思議そうに見た。
「動物図鑑?ルクトって動物に興味あるの?もしかしてオオカミリス?」
「別にオオカミリスには興味ないけど。ガキの頃、動物図鑑で猛獣のページは格好良いからよく読んだ。
この図鑑にはスザクワシが書いてあるし、結構読みやすし面白かったら、暇つぶしに買ってみようかと思って」
シェニカは目次を見てからスザクワシのページを開くと、文字を指でなぞりながら読み始めた。
「へぇ~!スザクワシって生態が謎なんだ。メロディちゃんは小さい頃、朱色一色で両手で抱えられるくらいの大きさで、ピヨピヨって言ってたんだよ。でも、他の子達よりも成長は遅かったなぁ」
俺に本を返しながらシェニカは懐かしそうにそう言ったが、いくら幼体の頃に保護したとはいえ、人に慣れることも懐くこともないスザクワシが、なぜおっさんとこいつに懐いているのか謎だ。
この学者が生きているのか知らないが、スザクワシを懐かせているシェニカの存在を知ったら、狂喜乱舞するような気がする。
「ねぇねぇ、この本にはオオカミリスは書いてなかったけど、そっちの本には書いてある?」
「なかった」
「そっか……。でも動物図鑑なら私も読みたいな」
「いいよ」
シェニカに7巻を渡すと、目次でページを確認してからパラパラと中を読み始めた。
「どっか座って読んだ方が良いんじゃないか?」
「そうだね。ちょうどお昼の時間だしどこかお店に入ろっか」
「じゃあ金払ってくる」
シェニカから本を受け取ると、新聞を読んでいた爺さんのカウンターに本を置いた。
「こんな高い本を買う人がいようとはねぇ。あんた物好きだな。全部で金貨4枚だ」
俺が金をカウンターに置くと、本を分厚い紙袋に入れ終えた爺さんはニンマリと笑いながら金を懐に仕舞い込んだ。この様子だと、久しぶりの売上だったのかもしれない。
「あれ?なんでこんなに人が少なくなってるんだろ?」
店の外に出ると、地面の石畳が見え、通りを歩く人の会話がちゃんと聞き取れるほど人通りが少なくなっていた。
どうしたのかと周囲を見渡してみると、外周の大通りの方から大声が聞こえてきた。
「もうすぐレノアールで戦勝祝のダンスパーティーが始まるよ~!」
「昼から夜明けまで踊り通すわよ~!」
「酒は飲み放題!つまみも食い放題だ!」
「明日の朝までレノアールは眠らないぞ!」
「老若男女集まれ集まれぇ~!」
一団がそう言って大通りを過ぎると、それに応えるように城門に向かう人が増える。
どうやらこの呼びかけに誘われた連中が隣のレノアールに移動して、城下の人口が一時的に減ったようだ。
「ルクトも踊りたい?」
「別に興味ねぇな」
「じゃあ、お昼ご飯食べに行こうか。何が食べたい?」
「なんでも構わねぇよ」
「う~ん。じゃ、あそこのテラス席でスパゲッティ食べてる人がいるから、そこにする?」
「いいよ」
シェニカが指をさしたのは、古書店の通り挟んで斜め前にあるテラス席のある店で、ひさしで出来た日陰の下でスパゲッティとスープを食べている老夫婦がいて、他の席は空いている。
店内に入ると、デカイピザ窯があって、汗だくのおっさんがピザ生地を器用に伸ばしている。
店内席はワインやビールを片手に、肩を組んでウィニストラ国歌や戦勝の歌、凱旋の歌を歌う団体客が占拠していて、自分の声が聞こえないほど騒がしい。
「ニジマスの燻製クリームパスタをサラダセットで1人前。ハンバーグ乗せデミグラスソーススパゲッティの大盛りに、パンとサラダセットですね!出来上がり次第お席までお持ちいたします!」
シェニカと俺はそれぞれカウンターにあるメニューを指差して注文すると、金を受け取った若い女の店員は店内の騒がしさでも通るデカイ声で返事をした。
「このお店、すごく賑わってるね」
「大国が領土を増やす戦争なんてしないから、浮かれてんだろ。他の店も似た感じだと思う」
騒がしい店内からガラス扉を開けてテラスに出ると、短時間で更に人がレノアールに移動したのか、古書店とこの店を隔てる道にはほとんど人が居なくなっていた。
「ねぇねぇ、さっそく本読ませてもらってもいい?」
「どーぞ」
シェニカが待ちきれないようにそう言うのが可愛くて、『耐えろ、耐えろ。匂いを嗅ぐな』と言い聞かせながら1巻を手渡すと、椅子に座ったシェニカは嬉しそうに読み始めた。
周囲にいる人間が少ないから小さな音でも聞こえる中、真剣に読んでいるシェニカは時折クスリと小さく笑う。
本を読んでいるから当然俺と目が合うことはないし、シェニカは本に夢中だから会話もない。
ディスコーニがくっついている時と同様に、俺の存在が薄れているような状態だが、俺の選んだ本を読んでいるのなら許せるし、俺と2人きりだから気にならない。
シェニカが本を読んでいる姿を見るのも悪くないが、気をそらそうと紙袋から7巻出した。
「おまたせいたしました!」
最初に書いてあったアビテードにいるユキウサギのページを読み終えた辺りで、料理を持った2人の女が席にやって来た。
「こちらは戦勝祝のレモンソーダです」
「ありがとうございます」
シェニカは店員に礼を言うと、持っていた1巻を閉じて俺に差し出した。
「この図鑑、学者さんの動物愛に溢れてるし、失敗談とか観察が日記みたいに書いてあって面白いね。ルクトが読み終わったら私にも貸してくれる?」
「いいよ」
紙袋に本を戻して飯を食い始めると、シェニカが俺を凝視する視線を感じる。何かあったのかと思ってシェニカを見れば、フォークにパスタを巻きつけながら嬉しそうに微笑んでいた。
俺に向けてそんな表情と可愛い姿を見せてくれるのが嬉しくて、強い香りに身を任せて、手を伸ばしてキスをしたくなるのを必死に抑え込もうと、ナイフとフォークを手に取った。
「どうかしたのか?」
「ルクトって本読まないじゃない?だから本を読んでるのが新鮮だと思って」
「まぁ……。お前みたいに魔導書なんて読まないし」
シェニカは美味しそうに1口頬張ると、ニコニコしながらパスタをフォークに巻きつけ、2口目を頬張った。
「ん~!燻製の良い匂いも美味しい!ルクトのも美味しい?」
「美味い」
「昨日の晩餐会、楽しかったね」
「そうだな」
基本的に喋る必要性のない俺は、晩餐会も朝食もつまらなくて堪らなかった。
でも。俺の選んだドレスを着てくれたこと、今まで見たことがないくらい綺麗なシェニカを隣で見続けられたことは、とても嬉しかった。
「ルクトの燕尾服姿、とっても似合っててビックリした」
「お前も……。その。き、綺麗だったよ」
「あ、ありがとう」
ーー思ってるだけじゃ伝わらない。ディスコーニに出来て俺に出来ないはずはない。
恥ずかしくて堪らなかったけど、自分を追い込んで口に出してみれば、シェニカは一瞬ぽかんと口を半開きにしたあとに恥ずかしそうに頬を掻いた。
俺にもそんな表情を見せてくれたことが、とても嬉しかった。でもやっぱり柄にもないことを言ったのが恥ずかしくて、その後に何の言葉も浮かんでこなかった。
自分がまだ見たことがないシェニカの表情や仕草、行動が見たい。
シェニカは俺をどう思っているか、心の中が知りたい。
主従の誓いで結ばれているのにシェニカに何も変化がないから、俺を好きだと思っていないと分かる。なら、嫌いなのだろうか、どうでも良い存在なのだろうか。
聞きたいけど、聞いてしまえば別れに直結してしまいそうで聞けない。でも、どう思われているのか気になる。
「ごちそうさまでした。美味しかったね。隣の市場を見に行ってみる?」
「あぁ」
出口を求めて渦巻く思考を持て余しすぎて、結局飯を食っている間に会話はなかった。
店を出て人がまばらになった道を歩いて市場の入り口をくぐると、傭兵街を歩いていたような身動きが取りにくい状態ではないものの、両脇にテントが立ち並ぶ道は生活感のある服装の男女でごった返していた。人がレノアールに移動した今のうちに、住民たちが買い物をしようと集まったのだろう。
「ここは人が多いね」
「そうだな」
市場の奥に向かって歩いていると、シェニカは時折通り過ぎる人と肩がぶつかりそうになっている。シェニカより背が高く、人の動きが予想できる俺に密着すれば、もっと楽に歩ける。
人混みのおかげで物理的な距離は縮んでいるし、前よりも話せるようになったものの、拒絶されるのが怖くて声を掛けられないし、理性を溶かすような匂いに耐えられるか分からない。でも、指先だけでもいいから触れたい。
ーー俺が歩きやすいように誘導するから、手、繋ぐか?
喉元までせり上がっているセリフが、色々な可能性を考えてしまって、どうしてもそれ以上あがってこない。
お前がしたがっていたように手を繋いで歩くし、ちゃんと好きだって言うから。
泣かせないし、嫌がることはしないし、困らせることはしないと誓うから。
もう一度男として俺を見て欲しい。堂々とシェニカの隣に立っていられる恋人に戻りたい。
前までシェニカが欲していた俺の『好き』という言葉は、シェニカにはもう何の価値も失くなってしまったのかと思うと、自分が否定されているのをまざまざと突きつけられて、悲しくて胸が苦しい。
シェニカからディスコーニが消えるまで時間がかかるのなら、それまでずっと大人しく待つから。ポルペアに辿り着くまでに、なんとかシェニカとの関係を改善したい。
その先も、ずっと先の未来も変わらずに一緒にいたい。
自分の気持ちが拒絶されるかもしれない不安、言いたいのに言えない葛藤、言ってしまえば別れに繋がるかもしれない恐怖を抱えたまま、人にぶつからないように真剣に歩いているシェニカを見ているしかなかった。
「そろそろ戻ろうか」
「そうだな」
空が茜色に染まるまで、シェニカの様子を伺いながら市場と商人街を歩いたが、結局手を繋ごうと言い出せないまま、王宮の北門に向かって大通りの端を歩き始めた。
市場に入った時は、市場の道だけ混んでいたが、時間が経過すると空いていた外周の大通りも混み始めていた。
「人、増えたね」
「そうだな」
この流れで手を繋がないかって言えないだろうかと思った時、通り沿いの宿の前で固まっている女達のデカイ声の会話が聞こえてきた。
「あ~。踊った踊った!部屋に戻ったらすぐにシャワーを浴びなきゃね」
「その後は少し寝て、夜中にまたブラブラしちゃう?」
「いいねぇ~!またレノアールに行って、踊るのもいいわ!」
切り出すなら今しかないと思って呼吸を整えていると、シェニカが俺を見る視線を感じた。
「レノアールから戻った人がたくさんいるから、混んでたみたいね」
「みたいだな」
俺を見上げるシェニカはすぐに前方に視線を戻し、道のあちこちでナンパしているチャラそうな連中を見た。
そいつらに興味があるわけではなく、ただ何となく眺めているだけのようだから安心したのだが、話しかけるタイミングを逃してしまった。
「おかえりなさいませ」
「ただいまもどりました」
結局、喉元までせり上がっている言葉を口にすることが出来ないまま、柵の城門をくぐってしまった。
■■■後書き■■■
①ルクトの心と頭の中は、グルグルと渦巻いています。
②【お知らせ】
先日、web拍手のコメントで『恋するクルミ』はどんな味なのか?という疑問を頂きました。
作者特権を振りかざし、活動報告かweb拍手のオマケ小話として、誰かに恋するクルミを食べてもらおうと思いますが、誰にするかを決めかねています。
そこで、【誰に食べてもらいたいか】というご意見を伺えればと思いました。
詳細は2019/8/23の近況ボードに記載しましたので、ご一読頂き、リクエスト頂ければ光栄です。m(__)m
お気に入りや感想、web拍手、コメントをありがとうございます。
頂いた応援は更新の励みになっております。
更新お待たせしました。今回はルクト視点です。
■■■■■■■■■
「妃殿下とは気が合うようですね」
「うん!スァンって王族って感じがしないし、動物好きだから不思議と話が合ったんだ!地元以外に友達って居なかったから、友達になれてすごく嬉しい」
「シェニカの嬉しい顔が見れて、私も嬉しいです」
ファズの先導で王宮の廊下を歩いていると、王宮内を警備する兵士は廊下の端で立ち止まって敬礼する。そいつらは真っ直ぐ前を見据えているのだが、俺の2歩前を歩くシェニカとディスコーニが通り過ぎると、前を見据えていた視線が一瞬俺に移る。
こいつらに限らずシェニカとディスコーニが隣り合って歩けば、こんな風に周囲からは好奇の目で見られる。それは癪に障るのだが、『ディスコーニが我が物顔でシェニカの隣にいられるのは、今のうちだけだ』と言い聞かせ、拳を握りしめて苛立ちを押し殺す。
「人混みで警備の者の姿が見えないかもしれませんが、周囲で警戒してますので、安心して下さいね」
「ありがとう。お昼ご飯は城下で済ませてくるね」
「分かりました」
以前はあれだけ柵を作って利用されることを嫌っていたのに。
鍾乳洞から戻ってきてからというもの、ディスコーニにすっかり気を許しているし、王族達と楽しそうに話すシェニカが信じられない。
俺の知らない1週間で、シェニカの考えを180度変えてしまうようなことってどんなことなのか。
鍾乳洞でディスコーニと何を話した?
1週間、あいつとどういう風に過ごした?
ディスコーニとはキスだけだって言ったけど、本当は最後までやったんだろ?
気持ちよかったか?どういう体位でやった?あいつは上手かったか?
鍾乳洞で何があったのか、最初から最後まで事細かに、あいつの心情の変化も合わせて聞き出したい。
でも、嫉妬に駆られて最後まで冷静に聞ける気がしない。きつい口調になって、また怖がられてしまっては困る。
ただでさえ信頼関係が壊れて、護衛としても微妙な立場なのに。そんな風になったら、もう修復不能な状態になって、ポルペアに辿り着く前に護衛をクビにされるかもしれない。
ディスコーニはシェニカを好きだとか、あいつのためなら何を犠牲にしても構わないとか言ってるが、いざ国とシェニカを天秤にかけるようなことがあれば、立場上国を取らざるを得ない。そんなこと、シェニカだって分かりそうなものなのに。
騙されてるって、どうして分からないのだろう。
「ステンドグラスが綺麗ね」
「見惚れて足を踏み外す方もいるので、足元には注意して下さいね」
廊下を曲がると、2階分ほどはありそうな長い下り階段に差し掛かった。
この場所の高い天井には幾何学模様のように彩色されたバラ窓、花や山などの風景や十字架に祈りを捧げる男女を描いたステンドグラスが嵌め込まれていて、シェニカは踏み外さないように気をつけながら上を見上げて歓声を上げた。
「この北門は他の城門に比べて人通りが少ないので、戻る時にもここを使って下さい」
「うん、分かった」
階段を下り終えて広い踊り場に出ると、シェニカはハンカチをあてた額飾りの上からスカーフを巻きつけた。それを見ていたディスコーニは、皺が寄ったところに手を伸ばし、見栄えが良くなるように直した。
するとシェニカは微笑を浮かべるあいつを見上げ、奴だけに聞こえるような小さい声で「ありがとう」と呟いた。
「楽しんで来てくださいね」
「うん!じゃあ、いってきます。ルクト行こう」
「あぁ」
ディスコーニが大きなアーチ型の扉の前にいる銅の階級章をつけた2人の兵士に目配せすると、1人が扉をノックして、扉にある小さな蓋をスライドさせた。そこに現れた小さな穴に、兵士が聞き取れないほどの小声で何かを言った後、2人の兵士は全身を使ってゆっくりと扉を開いた。
扉が完全に開くと、向こう側にいた2人の兵士は敬礼した姿で現れた。
扉の先にあったのは、緑の蔦を纏わり付かせた背の高い白い柱が両脇に建つ石畳の道で、その柱は大通りに繋がるデカイ柵の城門に向かって何本も建っている。
シェニカが敬礼したままの兵士たちの前を通り過ぎた時、それまで後ろを歩いていた俺はシェニカの隣に移動した。
ーーやっと2人きりになれた。やっとシェニカの隣に居られる。
ささやかな喜びを感じた瞬間、甘い香りが濃くなった気がした。
その香りをもっと近くで感じ取りたいと思った時、自分が踏んだ小枝の「パキ」と折れた微かな音で、ハッと我に返った。
一瞬の間に何が起こったのかと確認してみると、シェニカと少し距離をあけていたのに、距離を半歩詰めていた。
シェニカに嫌がられたかと思って顔色を伺ってみれば、通り過ぎる柱に彫られた馬や大きな鳥、狐などの動物を見ているばかりで、俺のことなんて全然気にしていなかった。
その様子に安心した反面、がっかりした気持ちになった。
ーー甘い香りはいつもしているけど、シェニカを意識した時には濃く感じるのかもしれない。強い香りは理性を飛ばすから危険だ。出来るだけ意識しないように、距離は少しあけておいた方が良いのかもしれない。
名残惜しく思いながらも、無意識にシェニカに手を出してしまわないようにするために、半歩離れて元の距離を保つことにした。
「気になるのか?」
「うん。今まで王宮から早く出ようと思って、美術品とか気に留めてなかったけど、やっぱり王宮にある物ってすごく上品で豪華な物が多いな~って思って」
「そうだな」
あの王族の女と友達になったって喜んでるが、そのうち国に来いとか手紙を送ってくる。王族や貴族、軍人なんて近寄るべきじゃないって、痛い目に遭わなければ前みたいに警戒しないのだろうか。
「いってらっしゃいませ」
「ありがとうございます」
城門の脇に控えた銅の階級章をつけた2人の兵士は、開いた城門を通り過ぎるシェニカに挨拶をしたのだが。どうやら返事をされると思っていなかったらしく、2人とも嬉しさを堪えるような顔をした。
そんな2人を背にしたシェニカは、真っ直ぐ行った先にある首都の外のスイートピーが見える開かれた城門を見たり、凱旋パレードで通った王宮の外周の道を見ようと顔を左右に動かしていたが、昨日の人混みが嘘だったような静けさを不思議に思ったのか首を傾げた。
「本当に人が少ないね」
「職人街が近いのかも知れないな」
主要な道にも関わらず、ここを行き交うのは草色の軍服の兵士達の他に、前掛けをした職人らしい不格好な男や、頭にスカーフを巻いて汚れた服を着た女。商店に買い出しに行ったのか、籐の籠を両手で抱えて重そうに歩く、ススや土で服を汚した子供ばかりだ。
真っ直ぐな通りの左側は、見るからに金がかかっていそうな洒落た煉瓦造りの建物群があるから、そっちは貴族達の屋敷があるのだろう。通りの右側にある建物群の上からは、いくつか白い煙が出ているところがあるし、鉄を叩くような音が聞こえるから、そのあたりに職人街があるのかもしれない。
城門を閉めた兵士からうっとりとした視線を背中に浴びるシェニカは、2つの大きな道がぶつかる場所にある掲示板を指差した。
「あそこに地図がある。見ていい?」
「あぁ」
通りを渡って地図の前に立つと、隣から甘い香りがふわふわと漂ってくる。思わず手を伸ばし、抱き寄せたくなる欲求を抑え込みながらシェニカを見た。
額飾りをスカーフで隠した代わりに、小さなピンク色の桜貝が並んでいる。シェニカは5色の額飾りも似合うが、ディスコーニが買ったスカーフも似合っているのが面白くない。
どうやってきっかけを作ればいいか分からないが、髪飾りやピアスを贈りたい。でも、受け取ってくれるだろうか。
「えっと、この辺は職人街と貧民街があるだけで、あとは東の大通りまで軍の敷地かぁ」
「見るところはなさそうだな」
シェニカの言葉に誘われるように掲示板の地図を見れば、首都の中心にある王宮から東西南北を区切るように大通りが走っていて、それぞれが首都の外に出る大きな城門に繋がっている。
北に真っ直ぐ伸びた大通りの右側を北エリアと呼び、北北東あたりに壁が作られていて、その壁と北の大通りの間に職人街と貧民街がある。壁から東の大通りまでの広大なエリアは軍の敷地になっていて、東の大通り沿いにある一際大きい黒い建物からは、王宮の東側に渡り廊下が伸びているらしい。
「東エリアは傭兵街と商人街か」
「市場もあるから、こっちは面白いお店がありそうね」
東の大通りから南の大通りまでの東エリアは、このエリアを半分にするように南東方向へ伸びる市場がある。そこから軍の建物側に傭兵街とコロシアムがあり、南の大通りにかけて商人街がある。この商人街や市場には、シェニカが好きそうな菓子や土産物といった店があるだろう。
「南エリアは市民街かぁ。こっちは行かなくて大丈夫そうだね」
「そうだな」
南の大通りから西の大通りにかけて広がる南エリアは、すべて市民街になっている。首都の住民に知り合いは居ないから、この区画に立ち寄る必要はないだろう。
「西エリアにも商人街と市場があるけど、このエリアは貴族の屋敷が連なってるから高そうだね」
「貴族御用達だろうから、大商人が牛耳っていそうだな」
西の大通りから今いる北の大通りにかけての西エリアは、王宮側に面した区画には商人街が広がり、エリアを半分にするように北西方向へ伸びる市場がある。
ここから一番近いのは西エリアの市場と商人街だが、敢えて貴族達の住む区画に店を出すということは、大商人しか店を出せないようになっているのだろう。
「じゃあ、東エリアの市場に行こうか」
「分かった」
シェニカと並んで東に向かって歩き出すと、すぐに北エリアを区切る壁が見えてきた。
軍の敷地と民間人が住むエリアを区切る壁だからか、城壁よりは低いが職人街や貧民街の建物よりも高く、分厚くて頑丈な石造りで出来ていた。
「壁の上、可愛い花が咲いてるね」
「そうだな」
外周の大通りと軍の敷地を隔てる石造りの壁は俺の背丈程度しかないが、延々と続く壁の上部には、赤やピンク、白の小さな花をつけた、ギフェルニアソウという蔦が生い茂っている。
この蔦は、目隠しになりそうなくらい隙間なく深緑色の小さな葉を茂らせる植物で、葉と花の茎に鋭いトゲがあり、タンポポに似た花びらは針のように鋭いという特徴がある。
そのトゲや花びらが皮膚に刺さると、身体を少し動かしただけでも小さく呻くほどの痛みが続くため、別名『呻き草』とも呼ばれ、侵入者を阻むために軍の拠点や関所、国境を隔てる杭などに利用されることが多い。
ーーこんな花の話題で会話が続くとは思わないが。何か話したいと思うのに、何て喋りかけて、どんなことを喋ればいいか分からない。
甘い香りに刺激される欲求を抑え込みつつ、話しかけるタイミングや内容を考えながらしばらく歩いていると、遠くに見えてきた軍の黒い建物や、立派な白い王宮を見ながら歩いていたシェニカが口を開いた。
「やっぱり大国の首都って、今まで立ち寄った街の何倍も大きいね。ドルトネアの首都も大きいの?」
「ドルトネアの首都は山の盆地を切り拓いて出来てるから、ここよりも規模は小さい」
「そうなんだ。ドルトネアの首都ってどんな感じ?」
「周囲が岩山ばっかりだから殺風景だし寒いし、首都といえど食糧は少ない。ウィニストラの方が食べ物の種類は多いし、味も良い」
「ルクトはそのうちドルトネアに帰るの?」
「なんで?」
思わぬ問いかけにシェニカを見ると、俺を見る緑の目に恐怖は浮かんでいないことに安心した。
「故郷が恋しくなったりしない?」
「ならない。お前はそのうちセゼルに帰るのか?」
「旅に出てから両親とも会ってないし、そのうち帰ろうと思ってるよ」
「何しに帰るんだ?」
「元気にしてるよって顔を見せたいし、私もお父さん達の元気な顔を見たいし。牧場の羊や犬達にも会いたいな。
友達とも会いたいし、同窓会に一度は行ってみたいな。みんなどんな風になってるのかな。もう結婚してる子もいるかなぁ」
シェニカが嬉しそうに喋っている内に、あっという間に黒い軍の建物の前に差し掛かった。
今までは下級・中級兵士が数人で大通りを巡回していたが、この重要拠点である建物周辺になると、銅の階級章の兵士が率いる部隊が巡回している。
小さく振り返ってみると、シェニカを警備する兵士は軍服ではなく、一般人に紛れるように旅装束を着ていて、俺達から一定の距離を保って歩いている。
あの男の話によれば少数精鋭にしたらしいから、副官に近い実力を持つ者なのだろう。
戦場から離れた今の俺は、どこまで通用するだろうか。
今、後ろをついてきている奴らには勝てると思うが、ファズは倒せるだろうか。
シェニカを我が物顔にしているディスコーニを倒せるだろうか。
勝ち誇った顔で俺を見下ろした、バルジアラを跪かせられるだろうか。
「一気に人が増えたね!」
「この先は商人街だからな」
そんなことを考えていると、いつの間にか東の大通りを抜けて傭兵街に差し掛かっていた。
さっきまでは軍人とすれ違ってばかりだったが、この先は商人街だからか、傭兵たちと同じくらい一般人や旅人も大通りを埋め尽くすように行き交っている。王宮の北門から軍の拠点までの人通りの少なさが、嘘だったかのような大賑わいだ。
大通りから一本入った道を見ると、そこは傭兵団の拠点に通じる道のようだが、今は道を占領するように長テーブルや丸テーブルなどがたくさん並べられ、昼間っからビールを片手にした傭兵達がひしめいていた。道の隅には何件かの出張酒屋がテントを張り、忙しそうにビールをジョッキに注いでいるが、追いついていないようでテントの前には行列が出来ている。
酔っ払った奴の笑い声や話し声も大きいが、楽器が得意な傭兵の一団が笛や太鼓、シンバル、トランペットなどを演奏していて、その音楽に合わせて踊る傭兵や娼婦らしき女達に、ほろ酔いの傭兵が歓声を上げている。
シェニカは周囲の騒がしさしか聞こえていないようだが、この先の商人街に広場でもあるのか、そっちからも楽器の声や歓声が聞こえる。
「なぁ、ちょっと一緒に飲まない?」
「え~?」
「酒は全部俺達が奢るからさ」
「じゃあ、ちょっとだけ!」
ほろ酔いの傭兵連中は大通りを歩く一般の女をナンパして、自分の拠点がある建物に連れて行ったり、道に並べられたテーブルに連れて行ったりしている。
シェニカや俺に声をかけようと近付いてくるランクの低い傭兵がいるが、近付くなと睨めば青い顔をして去っていく。
この先、シェニカが王族や貴族、将軍と絡むようになるのなら、あいつ目当てで面倒な奴らが休む間もなくやってくるのだろう。
そういう奴らはシェニカを『利用価値の高いモノ』としか見ていないのに、ディスコーニに騙されたように、あいつは他の面倒な奴にも引っかかるかもしれない。害のある奴なんて近付けたくないのに、今の関係性では俺が口を出すことは出来そうにない。
将軍だったら国に縛られるだろうが、そいつが自由の利く王族や貴族だったら、そいつが連れる護衛も同行してくるかもしれない。
そうなったら、俺はどうなるのだろう。用済みの邪魔者として捨てられるのだろうか。
恋人という立場を失った後、どうにかしがみつけた護衛という立場も失って、俺は側に居ることも出来なくなるのだろうか。
シェニカを諦めたくない気持ちは強いのに、もしそうなったらどうすればいいのだろう。
人混みのおかげで手が触れそうなほど近くなったシェニカをチラリと見れば、人混みを避けようと一生懸命歩いている。
戦闘能力なんて殆どないほど弱いのに、ちっぽけな実を立派な木に一瞬で成長させたり、どんな怪我も綺麗に治療したり、身分の高い横暴な奴をコケにしたり。優しくて、芯が強くて、子供っぽいところがあったり、小動物のように小さくて可愛いのに、初めて見たドレス姿は大人っぽくて、すごく綺麗で。
シェニカを見る度に好きだと思う気持ちと、もう一度俺を見て欲しい。触れたい、キスがしたい、抱きたいという願望が強くなる。
離れたくない。捨てられたくない。でも、捨てられるかもしれない。
ディスコーニが言っていた捨てられないように努力するって、考えても分からない。
俺が分からないことも、知らないことも。あいつはまるですべての答えを知っているみたいで、余裕綽々な態度も気に入らない。
甘い匂いを耐えつつ漠然とした不安に囚われていると、広い大通りは身動きが取れないほど混んできた。
人混みに押されて時折手が触れる距離になっても、シェニカは嫌そうな素振りを見せないことに安心するが、俺を意識してないのも伝わってくる。
その事実はとても寂しいものであっても、微かに触れた手が温かいと感じるだけで嬉しくて、甘い匂いがまた強くなる。
匂いに刺激されて理性が飛ばないように、爪が手のひらに食い込むように強く拳を握りしめ、出来るだけ触れないように歩いていると、傭兵街と商人街の間にある市場に差し掛かった。
入り口に吸い込まれる人混みの波に合流しようとすると、シェニカはその波に乗らずに市場の入り口を通り過ぎ、商人街の方に歩いていく。
「市場に行くんじゃなかったのか?」
「そうなんだけど、あの看板が気になっちゃって」
シェニカは明るい表情でそう言うと、入り口の先にある服屋の2階を指差した。そこには、古ぼけた木に『アルゥ古書店こちら』と書かれた吊り下げ看板があった。
「古書店に行きたいのか?」
「うん!もしかしたら、古い魔導書とかオオカミリスの本とかあるかもしれないし!」
シェニカは笑顔でそう言うと、人の波に上手く乗って服屋の先にある角を曲がった。その先は、馬車が1台なんとか通れるくらいの道が真っ直ぐに続いていて、道の両脇には服屋、土産物屋、飲食店などの店が並んでいる。この商店街も人気らしく、前を進む人を追い越せないほど混み合っている。
前に進むのがやっとの状態で通りを歩き、ようやく古書店に入ることが出来た。
「いらっしゃい」
この古書店は入り口は狭いが、店の奥に伸びる本棚は5列あり、棚のあちこちから本が飛び出た棚と向かいの棚の間は大人が2人通れるほど広い。どの店にもある控室や倉庫に繋がるドアなどは一切なく、入り口のすぐ横にある店主が座るカウンターの脇には、本が崩れ落ちそうなほど山積みされている。
「こんなめでたい日に古書を見に来るなんて、物好きだねぇ。うちはギリギリでやってるから、サービスなんてしてないよ」
カウンターに座る真っ白な頭の店主は、手にしていた本から視線をこっちに移すと、皺だらけの顔で物珍しそうに俺達を眺めた。
「あの。オオカミリスについて書かれた本はないでしょうか」
「オオカミリスねぇ……。ずっと前、貴族達が本を買い占めて行ったっきり、入ってきてなかった気がするような。まぁ、多分ないね」
爺さんが首を傾げながら言った適当な返事に、シェニカはしょんぼりとした表情になった。
「そうですか……。じゃあ、旧字で書かれた古い魔導書とかないでしょうか」
「旧字の古い魔導書ねぇ。一番左にあったか?いや、一番右……?いや、多分右から3番目の棚だ。適当に置いてるから自分で探してくれ」
記憶があやふやな様子の爺さんが指差した本棚に行ったシェニカは、色あせた本が並ぶ棚を丁寧に見始めた。その顔があまりに真剣だったから、俺は邪魔にならないようにシェニカが背にしている棚を眺めてみた。
ーーウィニストラの災害の歴史。ウィニストラ貴族名鑑。アルベルトの家庭料理。ジナ観光ガイド。黒魔法初級編。適当に並べたと言っていた通り、並べ方はバラバラだ。
この店にある本は今までの扱われ方が雑なのか、随分古いものが多いからなのか、表紙や中の紙が色褪せていたり、穴が空いていたりと状態の悪い本ばかり並んでいる。
そんな中、本棚の奥の方に小さいのにやたらと分厚く、青い表紙が特徴的な本が2冊あるのを見つけた。
背表紙を触ってみれば、ほとんどの本が紙の背表紙なのに、その本は青いベルベットで作られている。
人の目につかないような奥に追いやられ、小さく縮こまっている様にも見えるその異質な存在は、居場所のない俺と同じような気がして、なんとなく1冊に手を伸ばした。
ずっしりとした重さのある表紙には、金の刺繍で『スリヤワット動物図鑑1』と書いてある。
この本は保存状態が良かったのか、白い紙は褪せていないし、ベルベットの手触りも良い。前書きや目次を読み飛ばし、動物について書かれた最初のページを開くと、そこはスザクワシのページだった。
ページを埋める説明文よりも、巨大な翼を広げて空を飛ぶ姿、鋭い足で狐を狩る雄々しい姿といった、たくさんの絵が気になる。
どの絵も羽や尾羽根の1枚1枚が緻密な描写で描かれていて、ガキの頃に時間を忘れて読みふけった時のような、胸がザワザワするような高鳴りを感じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スザクワシ。それは世の中の男性なら一度は憧れる、世界最大の猛禽類である。
警告色にも受け取れる派手な赤い身体で、尾羽と左右の翼には赤と緑の派手な飾り羽がある。
人に慣れることも懐いた例もなく、目撃情報は必ず1頭だけというところから、単独行動をすると考えられる。そんな様子から孤高で高貴な存在と認識され、特に動物学者の間では研究の難しさも相まって『空の覇者』と呼び、幻のような存在である。
この鳥は黒魔法の攻撃を軽々と躱し、拾った石や岩を投げつける、鋭い嘴で弱点となる目や口、首を狙うなど、知能が高いことが分かっている。
子供を攫われそうになった父親が黒魔法で追い払おうとしたところ、魔法を躱したスザクワシは思わず耳をふさぐようなけたたましい鳴き声を上げ、動きの止まった父親が持っていた剣を蹴り落とし、父親の両肩を掴んで空を飛んだ。数キロ先の川に父親を落とした後、その頭を足で押さえつけて溺死させ、全身を食い散らかしたという実話も残っている。
スザクワシはワニの硬い皮も抉る頑丈で鋭利な嘴、獲物を放さない鋭い鉤爪、思わず耳を塞ぎたくなるような劈く鳴き声、成人男性すら持ち上げて飛行出来る筋力を武器に、時に人間をも餌にする。
そのため、近付くのは非常に危険であるが、生息数は非常に少ないようで、他の絶滅危惧種に比べて目撃情報が極端に少ない。
他の絶滅危惧種の研究でも、生息地とされる場所を2年間くらい調査していれば、1度くらいは会えるものなのに、その生息地とされるドルトネアの山中に2年半籠もっても一度もお目にかかれなかった。
それでも世界で一番目撃情報が多いドルトネアでは、男女問わずスザクワシへの憧れは著しく、畏怖と敬愛の対象とされ崇拝されている。
ドルトネアではスザクワシの雌は雄よりも身体が大きいと言われているが、この国でも数年に1度、山に向かって空を飛ぶ姿を見ることがあるという程度であるため、誰も見比べたことがないことから大きさの真偽は不明である。
繁殖の時期は不明だが、ドルトネアの山中を歩いていると、高い木の上に朽ちた何かの巣があるのを見つけた。その巣は8人掛けの丸テーブルくらいあったと思われるが、ボロボロの状態であったため想像の域を出ない。
だが、その木の下に降り積もった雪をかき分けると、赤い羽根が数枚出てきたことから、これがスザクワシの巣である可能性は高いと判断した。
彼らはどれほどの距離を移動するのか。普段はどのような生活をしているのか。羽の手触りはどんな感じなのか。
体温はどれほどなのか。どれほどの重さなのか。成人男性を持ち上げられる全身の筋肉は、どんな感じなのか。
巣はどんな感じなのか。雌は一度の産卵でいくつの卵を生むのか。卵の大きさ、形、色はどうなっているのか。
子育ては雄と雌でするのか。どれくらいで巣立つのか。どれくらいで繁殖が可能になるのか。
好む餌は何なのか。縄張りはあるのか。天敵は何なのか。
寿命はどれくらいなのか。人の言葉を理解するのか。手懐ける方法はあるのか。
知りたいことは山程あるのに、出会う機会が少な過ぎる上に、スザクワシに近付くのは危険かつ困難であるため、その幼体から成体まで謎が多い。だが、一番の謎はなぜ個体数を減らしたのかということだ。
家畜や子供を攫われそうになった者がスザクワシを攻撃をした例は報告されているものの、乱獲や虐殺、密猟が横行した事実は確認されていない。それにも関わらず絶滅危惧種となるまで個体数を減らしてしまった原因は何なのだろうか。
この謎が解けなければ、『空の覇者』はいつか絶滅してしまうかもしれない。
ちなみに、スザクワシを探すために岩だらけの山を歩いていると、脆くなっていた足元の岩が崩れ落ち、滑落して足を骨折してしまった。
助手や案内役を雇う金がない私は単独行動だったために、崖下に滑落しても誰にも発見されない可能性が高かった。しかし、幸運なことに数キロ先の坑道で働く鉱夫が、普段見ない色(私が着ていた服)が景色にあることを不思議に思い、確認しに来てくれたのだ。
助けてくれた鉱夫はとてもお喋りで、彼はドルトネアのみで採れる宝石アズネイトを採掘する現場で働いていること、スザクワシは見たことはないが、絵なら首都の神殿にたくさん描かれていること。ドルトネアに生まれる者は総じて目と鼻が優れているが、副官・将軍クラスになるともっと優れているらしいと、彼は成人男性の私をおんぶした状態にも関わらず、ケロリとした顔で話してくれた。
屈強な彼が働く鉱山の拠点に行くと、常駐している腕の良い白魔道士が無料で治療してくれた。
また、世話焼きの鉱夫達が私を大歓迎してくれ、なんと酒や食べ物、寝床まで提供してくれた。一宿一飯の恩義として私の今までの研究を話すと、とても楽しそうに聞いてくれた。
特にスザクワシの話になると、どこどこの山に巣があるらしいとか、どこそこの村で昔スザクワシに家畜を攫われたらしいと、大興奮で情報を提供してくれた。
残念ながら私はスザクワシに会えなかったため、スザクワシの絵はドルトネア首都の神殿の絵を書き写したが、いつか心優しい彼らに前にスザクワシが舞い降りてくることを願うばかりだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この動物図鑑は、1ページにびっしりと絵と文字が書いてある状態が何ページも続いているが、不思議なことに作者の日記を読んでいるような感じになる。
内容が元々興味のあった動物についてだからなのか、この本に載っている他の内容が気になるし、この本を書いた人物についても興味が湧いた。
そこで開いた本を閉じ、一番最初に書いてある前書きのページを開いてみた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
世の中には数多の本が存在するが、その中からこの1冊を手に取ってくれたことに心からの感謝を申し上げる。
私、スリヤワット・ギネガルデは、大陸の南部にあるワスクという国で生まれた。
小さい頃は虫取りが大好きで、たくさんの虫を集めては友達と見せ合って自慢していた。
学校に入ってからは、近所の牧場で羊や山羊、牛、馬といった動物とよく遊んでいた。羊や山羊に本気の頭突きをされたり、馬に蹴られそうになったり、木の下で昼寝をしていたら牛に踏みつけられそうになったりと、大変な思いをして親に心配をかけた。
しかし、そんな経験をしたからこそ、なぜ威嚇や攻撃をされたのか、いつもは仲良しなのになぜ突然そんな行動を取るのか、なぜ人に懐く動物と懐かない動物がいるのかなどの疑問を持った。それらを親や先生に質問したが、満足のいく答えは貰えない。分からないことはメモに書き留め続け、湧き上がる疑問を大人に質問し続けると、手に負えなくなった学校の先生は図鑑を渡してくれたのだ。
その古ぼけた図鑑を受け取った瞬間、私の動物学者への道が決まったのだ。
それからは貰った図鑑が手垢で汚れ、どこにでも持ち歩いたことで傷だらけになり、書いてある文字が雨や手についた水で滲んで読みにくくなってしまうまで愛読した。
成人してからは国の動物学者に弟子入りをして、助手として師匠と共に世界中を駆け回った。
ある時はいつの間にか背後にいた赤虎に襲われて死にかけた。
またある時は、茂みになりきって豹を観察していたら、蛇に尻を噛まれて大変な目に遭った。
またある時は、可愛いカワウソを水辺で観察したいと思って川に入ったら、ワニに追いかけられて死にかけた。
他にも一般人は経験しないような状況に陥って、生命が尽きかけたこともある。常に怪我が絶えず、私の今の手指や足の一部は、砂で形作っている状態ではあるが、幸運に恵まれてこうして生き残っている。
世界中に存在する数多の動物を研究してきたが、動物学者として一番心配しているのは絶滅危惧種の今後だ。
個体数を減らした原因はその動物によって違うが、天災や気候変動という理由を除けば、人間にとって脅威になるからと虐殺され、限られた生息地を人間に奪われてた結果、行き場を失って殺される。見た目の愛らしさの虜になった人間が、愛玩動物にしようと乱獲するなど、人間の身勝手な理由の場合が多い。
減ってしまった個体数を戻すには、乱獲や虐殺をさせない、繁殖率を上げる、子の生存率を上げる、密猟者を取り締まる、生息地を開拓しないなどの環境を整備することが大事であるが、何世代にも渡る長い時間と、現在と未来の人間の理解が必要になる。
しかし、政情や思考の変化によって絶滅危惧種への危機感や理解、優先度が移ろうために、絶滅危惧種はいつまで経っても個体数を増やすことが出来ず、絶滅してしまう可能性があるのだ。
また、今は絶滅の危機に瀕していない動物でも、何かのきっかけで絶滅危惧種になる可能性もある。もしかしたら、我々人間が絶滅危惧種になるかもしれないのだ。
私の人生をかけた経験と、あらゆる生物の研究の集大成として。絶滅危惧種の動物の現状を知ってもらうため。
これを読んでくれる人に共存する動物の未来を託すために、この図鑑を完成させた。
この本が人間と動物の共存に生かされることを祈って。
スリヤワット・ギネガルデ
ちなみに。
師匠から独立して現在に至るまで、知名度のない動物学者でしかなかったため、私に弟子入りしたいという物好きはいなかった。加えて稼ぎが乏しい上に、財産もないために良縁にも恵まれなかった。
しかし、せめてこの図鑑だけは華々しくしたいと思い、私の描く絵を気に入ってくれたジナのアシュベ公爵に借金をして、10巻すべてに頑丈な紙を使い、表紙はベルベットにした。
この図鑑が動物の共存に生かされるのが1番の願いだが、1人でも多くの人に買って貰って、借金が返済出来ますように。
私の血筋は絶えてしまうが、この本を子供として世の中に産み落としたことをとても誇らしく思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前書きを読み終えると、目次を確認してスザクワシの次に書かれているドルトネア犬のページを開いた。
この犬は主人に対して従順なため、遭難者を探し出す山岳犬として調教されているが、秘密裏に国境を超える暗部の追跡や不法入国者も捕らえる役目を果たしている。
この犬の特徴は、凸凹した大地をしっかりと踏む太い脚、バランスを取るための長い尻尾を持ち、寒い環境に適応するために毛足が長い。強い風のせいで毛が絡まりやすいため、頻繁にブラッシングをしなければならないとは知っていたが、その時には愛情の籠もった言葉をかけながら、丁寧に丁寧にするのがコツであると書いてあった。
ドルトネア犬も含め、生態が分かる動物については外見的・性格的な特徴、個体数が減った場合の考察、幼体の様子、食事風景や子育ての様子、寝姿などを臨場感のある絵と共に説明している。それは自分のような素人にも分かりやすい内容で、堅苦しい感じがしない書き方ということもあって、次はどんなことが書いてあるのだろう、もっと読みたいと次々にページと捲った。
ざっと目を通し終わったが、もう1度ゆっくり読んでみたいという気持ちが高まって、本棚に戻す気にならない。本棚にあるもう1冊も手にとって見れば、『スリヤワット動物図鑑7』と書いてあり、目次には赤虎といった絶滅危惧種や、聞いたことのない動物の名前が載っていた。
このシリーズは値段が1冊金貨2枚と高価だが、読むのが苦じゃないと感じられる面白い本だし、暇つぶしに全部買おうと2冊手に取り、自分の背後に並ぶ本棚を探しているシェニカを見た。シェニカは本棚の端の方まで来ているが、その手には何も持っていなかった。
「欲しい本はあったか?」
「魔導書はあったけど、欲しいものじゃなかったや。ルクトは何の本を持ってるの?」
シェニカは俺の手にある本を見ると、意外そうな顔をして俺を見上げてきた。
「見るか?」
「うん!」
シェニカに1巻を渡すと、ベルベットの表紙を丁寧に撫でて俺を不思議そうに見た。
「動物図鑑?ルクトって動物に興味あるの?もしかしてオオカミリス?」
「別にオオカミリスには興味ないけど。ガキの頃、動物図鑑で猛獣のページは格好良いからよく読んだ。
この図鑑にはスザクワシが書いてあるし、結構読みやすし面白かったら、暇つぶしに買ってみようかと思って」
シェニカは目次を見てからスザクワシのページを開くと、文字を指でなぞりながら読み始めた。
「へぇ~!スザクワシって生態が謎なんだ。メロディちゃんは小さい頃、朱色一色で両手で抱えられるくらいの大きさで、ピヨピヨって言ってたんだよ。でも、他の子達よりも成長は遅かったなぁ」
俺に本を返しながらシェニカは懐かしそうにそう言ったが、いくら幼体の頃に保護したとはいえ、人に慣れることも懐くこともないスザクワシが、なぜおっさんとこいつに懐いているのか謎だ。
この学者が生きているのか知らないが、スザクワシを懐かせているシェニカの存在を知ったら、狂喜乱舞するような気がする。
「ねぇねぇ、この本にはオオカミリスは書いてなかったけど、そっちの本には書いてある?」
「なかった」
「そっか……。でも動物図鑑なら私も読みたいな」
「いいよ」
シェニカに7巻を渡すと、目次でページを確認してからパラパラと中を読み始めた。
「どっか座って読んだ方が良いんじゃないか?」
「そうだね。ちょうどお昼の時間だしどこかお店に入ろっか」
「じゃあ金払ってくる」
シェニカから本を受け取ると、新聞を読んでいた爺さんのカウンターに本を置いた。
「こんな高い本を買う人がいようとはねぇ。あんた物好きだな。全部で金貨4枚だ」
俺が金をカウンターに置くと、本を分厚い紙袋に入れ終えた爺さんはニンマリと笑いながら金を懐に仕舞い込んだ。この様子だと、久しぶりの売上だったのかもしれない。
「あれ?なんでこんなに人が少なくなってるんだろ?」
店の外に出ると、地面の石畳が見え、通りを歩く人の会話がちゃんと聞き取れるほど人通りが少なくなっていた。
どうしたのかと周囲を見渡してみると、外周の大通りの方から大声が聞こえてきた。
「もうすぐレノアールで戦勝祝のダンスパーティーが始まるよ~!」
「昼から夜明けまで踊り通すわよ~!」
「酒は飲み放題!つまみも食い放題だ!」
「明日の朝までレノアールは眠らないぞ!」
「老若男女集まれ集まれぇ~!」
一団がそう言って大通りを過ぎると、それに応えるように城門に向かう人が増える。
どうやらこの呼びかけに誘われた連中が隣のレノアールに移動して、城下の人口が一時的に減ったようだ。
「ルクトも踊りたい?」
「別に興味ねぇな」
「じゃあ、お昼ご飯食べに行こうか。何が食べたい?」
「なんでも構わねぇよ」
「う~ん。じゃ、あそこのテラス席でスパゲッティ食べてる人がいるから、そこにする?」
「いいよ」
シェニカが指をさしたのは、古書店の通り挟んで斜め前にあるテラス席のある店で、ひさしで出来た日陰の下でスパゲッティとスープを食べている老夫婦がいて、他の席は空いている。
店内に入ると、デカイピザ窯があって、汗だくのおっさんがピザ生地を器用に伸ばしている。
店内席はワインやビールを片手に、肩を組んでウィニストラ国歌や戦勝の歌、凱旋の歌を歌う団体客が占拠していて、自分の声が聞こえないほど騒がしい。
「ニジマスの燻製クリームパスタをサラダセットで1人前。ハンバーグ乗せデミグラスソーススパゲッティの大盛りに、パンとサラダセットですね!出来上がり次第お席までお持ちいたします!」
シェニカと俺はそれぞれカウンターにあるメニューを指差して注文すると、金を受け取った若い女の店員は店内の騒がしさでも通るデカイ声で返事をした。
「このお店、すごく賑わってるね」
「大国が領土を増やす戦争なんてしないから、浮かれてんだろ。他の店も似た感じだと思う」
騒がしい店内からガラス扉を開けてテラスに出ると、短時間で更に人がレノアールに移動したのか、古書店とこの店を隔てる道にはほとんど人が居なくなっていた。
「ねぇねぇ、さっそく本読ませてもらってもいい?」
「どーぞ」
シェニカが待ちきれないようにそう言うのが可愛くて、『耐えろ、耐えろ。匂いを嗅ぐな』と言い聞かせながら1巻を手渡すと、椅子に座ったシェニカは嬉しそうに読み始めた。
周囲にいる人間が少ないから小さな音でも聞こえる中、真剣に読んでいるシェニカは時折クスリと小さく笑う。
本を読んでいるから当然俺と目が合うことはないし、シェニカは本に夢中だから会話もない。
ディスコーニがくっついている時と同様に、俺の存在が薄れているような状態だが、俺の選んだ本を読んでいるのなら許せるし、俺と2人きりだから気にならない。
シェニカが本を読んでいる姿を見るのも悪くないが、気をそらそうと紙袋から7巻出した。
「おまたせいたしました!」
最初に書いてあったアビテードにいるユキウサギのページを読み終えた辺りで、料理を持った2人の女が席にやって来た。
「こちらは戦勝祝のレモンソーダです」
「ありがとうございます」
シェニカは店員に礼を言うと、持っていた1巻を閉じて俺に差し出した。
「この図鑑、学者さんの動物愛に溢れてるし、失敗談とか観察が日記みたいに書いてあって面白いね。ルクトが読み終わったら私にも貸してくれる?」
「いいよ」
紙袋に本を戻して飯を食い始めると、シェニカが俺を凝視する視線を感じる。何かあったのかと思ってシェニカを見れば、フォークにパスタを巻きつけながら嬉しそうに微笑んでいた。
俺に向けてそんな表情と可愛い姿を見せてくれるのが嬉しくて、強い香りに身を任せて、手を伸ばしてキスをしたくなるのを必死に抑え込もうと、ナイフとフォークを手に取った。
「どうかしたのか?」
「ルクトって本読まないじゃない?だから本を読んでるのが新鮮だと思って」
「まぁ……。お前みたいに魔導書なんて読まないし」
シェニカは美味しそうに1口頬張ると、ニコニコしながらパスタをフォークに巻きつけ、2口目を頬張った。
「ん~!燻製の良い匂いも美味しい!ルクトのも美味しい?」
「美味い」
「昨日の晩餐会、楽しかったね」
「そうだな」
基本的に喋る必要性のない俺は、晩餐会も朝食もつまらなくて堪らなかった。
でも。俺の選んだドレスを着てくれたこと、今まで見たことがないくらい綺麗なシェニカを隣で見続けられたことは、とても嬉しかった。
「ルクトの燕尾服姿、とっても似合っててビックリした」
「お前も……。その。き、綺麗だったよ」
「あ、ありがとう」
ーー思ってるだけじゃ伝わらない。ディスコーニに出来て俺に出来ないはずはない。
恥ずかしくて堪らなかったけど、自分を追い込んで口に出してみれば、シェニカは一瞬ぽかんと口を半開きにしたあとに恥ずかしそうに頬を掻いた。
俺にもそんな表情を見せてくれたことが、とても嬉しかった。でもやっぱり柄にもないことを言ったのが恥ずかしくて、その後に何の言葉も浮かんでこなかった。
自分がまだ見たことがないシェニカの表情や仕草、行動が見たい。
シェニカは俺をどう思っているか、心の中が知りたい。
主従の誓いで結ばれているのにシェニカに何も変化がないから、俺を好きだと思っていないと分かる。なら、嫌いなのだろうか、どうでも良い存在なのだろうか。
聞きたいけど、聞いてしまえば別れに直結してしまいそうで聞けない。でも、どう思われているのか気になる。
「ごちそうさまでした。美味しかったね。隣の市場を見に行ってみる?」
「あぁ」
出口を求めて渦巻く思考を持て余しすぎて、結局飯を食っている間に会話はなかった。
店を出て人がまばらになった道を歩いて市場の入り口をくぐると、傭兵街を歩いていたような身動きが取りにくい状態ではないものの、両脇にテントが立ち並ぶ道は生活感のある服装の男女でごった返していた。人がレノアールに移動した今のうちに、住民たちが買い物をしようと集まったのだろう。
「ここは人が多いね」
「そうだな」
市場の奥に向かって歩いていると、シェニカは時折通り過ぎる人と肩がぶつかりそうになっている。シェニカより背が高く、人の動きが予想できる俺に密着すれば、もっと楽に歩ける。
人混みのおかげで物理的な距離は縮んでいるし、前よりも話せるようになったものの、拒絶されるのが怖くて声を掛けられないし、理性を溶かすような匂いに耐えられるか分からない。でも、指先だけでもいいから触れたい。
ーー俺が歩きやすいように誘導するから、手、繋ぐか?
喉元までせり上がっているセリフが、色々な可能性を考えてしまって、どうしてもそれ以上あがってこない。
お前がしたがっていたように手を繋いで歩くし、ちゃんと好きだって言うから。
泣かせないし、嫌がることはしないし、困らせることはしないと誓うから。
もう一度男として俺を見て欲しい。堂々とシェニカの隣に立っていられる恋人に戻りたい。
前までシェニカが欲していた俺の『好き』という言葉は、シェニカにはもう何の価値も失くなってしまったのかと思うと、自分が否定されているのをまざまざと突きつけられて、悲しくて胸が苦しい。
シェニカからディスコーニが消えるまで時間がかかるのなら、それまでずっと大人しく待つから。ポルペアに辿り着くまでに、なんとかシェニカとの関係を改善したい。
その先も、ずっと先の未来も変わらずに一緒にいたい。
自分の気持ちが拒絶されるかもしれない不安、言いたいのに言えない葛藤、言ってしまえば別れに繋がるかもしれない恐怖を抱えたまま、人にぶつからないように真剣に歩いているシェニカを見ているしかなかった。
「そろそろ戻ろうか」
「そうだな」
空が茜色に染まるまで、シェニカの様子を伺いながら市場と商人街を歩いたが、結局手を繋ごうと言い出せないまま、王宮の北門に向かって大通りの端を歩き始めた。
市場に入った時は、市場の道だけ混んでいたが、時間が経過すると空いていた外周の大通りも混み始めていた。
「人、増えたね」
「そうだな」
この流れで手を繋がないかって言えないだろうかと思った時、通り沿いの宿の前で固まっている女達のデカイ声の会話が聞こえてきた。
「あ~。踊った踊った!部屋に戻ったらすぐにシャワーを浴びなきゃね」
「その後は少し寝て、夜中にまたブラブラしちゃう?」
「いいねぇ~!またレノアールに行って、踊るのもいいわ!」
切り出すなら今しかないと思って呼吸を整えていると、シェニカが俺を見る視線を感じた。
「レノアールから戻った人がたくさんいるから、混んでたみたいね」
「みたいだな」
俺を見上げるシェニカはすぐに前方に視線を戻し、道のあちこちでナンパしているチャラそうな連中を見た。
そいつらに興味があるわけではなく、ただ何となく眺めているだけのようだから安心したのだが、話しかけるタイミングを逃してしまった。
「おかえりなさいませ」
「ただいまもどりました」
結局、喉元までせり上がっている言葉を口にすることが出来ないまま、柵の城門をくぐってしまった。
■■■後書き■■■
①ルクトの心と頭の中は、グルグルと渦巻いています。
②【お知らせ】
先日、web拍手のコメントで『恋するクルミ』はどんな味なのか?という疑問を頂きました。
作者特権を振りかざし、活動報告かweb拍手のオマケ小話として、誰かに恋するクルミを食べてもらおうと思いますが、誰にするかを決めかねています。
そこで、【誰に食べてもらいたいか】というご意見を伺えればと思いました。
詳細は2019/8/23の近況ボードに記載しましたので、ご一読頂き、リクエスト頂ければ光栄です。m(__)m
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