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第1章 白い渡り鳥
2.白い渡り鳥
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それから成人を迎える18歳になるまでの6年間、私は神殿でただひたすら白魔法を学んだ。
というか、それしかやることがなかった。
他の人が黒魔法と白魔法の2つを学ぶ6年間、私はずっと白魔法を勉強するのだから早い段階で白魔法は初級から上級まで全て網羅してしまった。
白魔法を学び終えれば学校卒業と同じだから、18歳になる前でも家に帰れるんじゃないかと思っていたのに、成人するまでは神殿で学ぶことになっていると言われ家には帰れなかった。
あまりにも時間が余っていた私は、恩師であるローズ様の私室にお邪魔して、今では使われていない昔々に使われていた魔法が書いてある魔導書を貸してもらい勉強していた。
ちなみに暇つぶしに黒魔法も諦めずに頑張ってみたが、中級レベルの炎魔法を使おうとしても薪に火をつける程度、雷の魔法を使っても痴漢撃退くらいにしかならないという残念な威力…。
私は黒魔法の習得はやはり諦めざるを得なかった。
成人を迎える18歳を来年に控えた17歳のある日、私はローズ様の執務室に呼び出された。
今まで呼び出されても礼拝所や教室、ローズ様の私室だったので、執務室に呼び出されたということで私は嫌でも緊張してしまった。
「シェニカ、貴女に聞いて欲しいことがあります」
「は、はい…」
「この街は平和ですが、世界のあちこちでずっと戦争が行われています。
貴女はもうどこに出しても恥ずかしくないほどの優秀な白魔道士になりました。
だから貴女にはこの街で燻るのではなく、白魔法を必要とする場所に赴いて活躍してほしいのです」
「それは…『白い渡り鳥』になって欲しいということでしょうか?」
「そうです」
『白い渡り鳥』は神殿が認定した白魔法の適性が高い、白魔道士の中で最高位の職業だ。
この『白い渡り鳥』に共通するのは、高い白魔法の能力を持っているが黒魔法はほとんど使えない、という点だった。
私が中等科であれだけ黒魔法の練習をやってもダメだったのは、元々適性がなかったからだったんだろうとこの時初めて納得出来た。
『白い渡り鳥』の主な仕事は、渡り鳥の名前の様に各地を巡って患者を無料で治療をする代わりに、その街の長からお金を貰って旅を続けるというものだ。
どの街に立ち寄るかは自由だし、立ち寄った街で必ず治療しなければならないわけではない。
あくまでも、どこに行き、どれほどの期間滞在し、誰を治療するかどうかは『白い渡り鳥』の自由ということだった。
戦地が近い場合は勝敗が決するまで待ち、戦場の跡地に赴いて生存者を探して手当をするという過酷な仕事もある。
世界のあちこちで戦争をしている今、「攻撃は最大の防御」なのか白魔法より黒魔法を重用する傾向がある。
どの国の学校でも黒魔法の授業に時間が多く取られているくらいだから、黒魔法と白魔法の両方に適性のある人はいても白魔法を疎かにする人は多かった。
その結果、白魔法を苦手とする人は結構いて、優秀な白魔道士による治療はかなり需要があるらしく大抵の国は喜んで受け入れるものらしい。
他にも、『白い渡り鳥』は国に縛られない自由な信条で行動できることが保障されているので、例え王様でも強制的に自国に留めおくことは出来ないし、戦地の近くに来たからと言ってどちらかの勢力に加勢することは禁止されているなど、『白い渡り鳥』に関する自由や特権等が世界共通の法律で規定されている。
その法律で禁止されている有名なものが、『白い渡り鳥』が戦争に加担することだ。
戦場においてどこかの国の戦力として戦うこと、傭兵団に所属することなどが禁止されていて、それを破った『白い渡り鳥』には厳しい罰則があるし、禁を破った国や傭兵団にも相応のデメリットがあるので滅多に破るものはいない。
そして『白い渡り鳥』の特権は、供の者も含めて、普通なら煩雑な越境の手続きが簡略化されてどこへでも簡単に越境できることだ。
敵対し合う国同士にも簡単に入り込むことが出来ることから、用心深い国は受け入れた後に護衛という名の監視をつけたりするものの、『白い渡り鳥』の入国は拒否できないことが法律で決まっている。
「私が『白い渡り鳥』に?
私に務まるでしょうか。私は剣も黒魔法も使えませんが盗賊などに遭ったらどうすればいいのでしょうか」
「そういう時は護衛を雇うのですよ。旅の傭兵などを街で見つけて、護衛の依頼を受けてもらうのです」
「そう…ですか」
「大丈夫ですよ。貴女ならきっと上手くやれます。貴女が白魔法しか適性を示さなかったのは、高い白魔法の腕を活かすことだったのかもしれませんよ」
「…はい!」
それから成人を迎えるまでの間、私は若い頃に『白い渡り鳥』をしていたローズ様から色々な手ほどきを受けた。
旅の仕方、国王や領主らとの付き合い方、礼儀作法、トラブルの避け方など、今まで教えられた授業内容とは全く違う現実的な内容ばかりで新鮮な時間だった。
そして成人した日。
私は久しぶりに会う両親の立会いのもと、神殿でローズ様から直々に『白い渡り鳥』の洗礼を受けた。
「シェニカ。これは私の使っていた『白い渡り鳥』の証です。代々優秀な『白い渡り鳥』だけが受け継ぐ額飾りなんですよ。
貴女は私の大事な可愛い愛弟子。私の思いも先人達の思いも詰まったこの証を、貴女が引き継いでくれますか?」
「はい。しっかり受け継いでいきます」
額飾りは5本の銀の鎖に、それぞれ赤、青、黄、緑、黒の5つの小指の爪位の宝珠が台座に嵌め込まれているシンプルなものだった。
通常ならその時代の流行が取り入れたデザインのものが1人1人に作られるが、ローズ様のものは代々受け継いできたものだからか少し古めかしい感じがする。
でもそれは歴史ある物だし、銀の鎖も5色の宝珠も綺麗に輝いているので私は一目見てとても気に入った。
洗礼を終えて額飾りをつけた私の姿を見た私の両親は、涙を流しながら喜んでくれた。
そしてそれから数週間後。
いよいよ旅立ちの日を迎えると、6年ぶりに再会した友人たちだけでなく、街の人達や恩師であるローズ様まで見送りに来てくれた。
皆に別れを惜しんでもらえて、私は寂しさ半分嬉しさ半分だった。
「シェニカ、まさか貴女が『白い渡り鳥』になるなんて思ってもみなかったわ。
でも、誇り高いお仕事だから一生懸命頑張るのよ。
また離れ離れになってしまうけど、私達が両親であること、この町が故郷であることは変わらないからね。いつだって帰っておいでなさい」
「そうだよ。会えない日が続くが、たまには手紙を書いておくれ。父さんも母さんも、いつもシェニカを心配しているからね」
「お父さん、お母さん…」
私は両親に抱き着いて別れの挨拶をした。
別れの間際、ローズ様が私に小さな本を渡してくれた。
「ローズ様?」
「これは貴女が私の私室で学んだ便利な魔法の辞書です。旅先で便利な魔法の魔導書と出会うこともあるでしょう。
もう貴女には必要がないかもしれないけど、どこかで必要になるかもしれないから貴女がお使いなさい」
「ですがローズ様が困るのでは?」
「私はもうこの歳ですからね。新たな魔導書と出会うことはほとんどないでしょう。
私がかつての師から受け継いだように、若い貴女が受け継ぐべきです」
「ローズ様。ありがとうございます。大切にします」
私はみんなに見送られながら、大きな街まで護衛してくれる人と一緒に故郷の街を旅立った。
というか、それしかやることがなかった。
他の人が黒魔法と白魔法の2つを学ぶ6年間、私はずっと白魔法を勉強するのだから早い段階で白魔法は初級から上級まで全て網羅してしまった。
白魔法を学び終えれば学校卒業と同じだから、18歳になる前でも家に帰れるんじゃないかと思っていたのに、成人するまでは神殿で学ぶことになっていると言われ家には帰れなかった。
あまりにも時間が余っていた私は、恩師であるローズ様の私室にお邪魔して、今では使われていない昔々に使われていた魔法が書いてある魔導書を貸してもらい勉強していた。
ちなみに暇つぶしに黒魔法も諦めずに頑張ってみたが、中級レベルの炎魔法を使おうとしても薪に火をつける程度、雷の魔法を使っても痴漢撃退くらいにしかならないという残念な威力…。
私は黒魔法の習得はやはり諦めざるを得なかった。
成人を迎える18歳を来年に控えた17歳のある日、私はローズ様の執務室に呼び出された。
今まで呼び出されても礼拝所や教室、ローズ様の私室だったので、執務室に呼び出されたということで私は嫌でも緊張してしまった。
「シェニカ、貴女に聞いて欲しいことがあります」
「は、はい…」
「この街は平和ですが、世界のあちこちでずっと戦争が行われています。
貴女はもうどこに出しても恥ずかしくないほどの優秀な白魔道士になりました。
だから貴女にはこの街で燻るのではなく、白魔法を必要とする場所に赴いて活躍してほしいのです」
「それは…『白い渡り鳥』になって欲しいということでしょうか?」
「そうです」
『白い渡り鳥』は神殿が認定した白魔法の適性が高い、白魔道士の中で最高位の職業だ。
この『白い渡り鳥』に共通するのは、高い白魔法の能力を持っているが黒魔法はほとんど使えない、という点だった。
私が中等科であれだけ黒魔法の練習をやってもダメだったのは、元々適性がなかったからだったんだろうとこの時初めて納得出来た。
『白い渡り鳥』の主な仕事は、渡り鳥の名前の様に各地を巡って患者を無料で治療をする代わりに、その街の長からお金を貰って旅を続けるというものだ。
どの街に立ち寄るかは自由だし、立ち寄った街で必ず治療しなければならないわけではない。
あくまでも、どこに行き、どれほどの期間滞在し、誰を治療するかどうかは『白い渡り鳥』の自由ということだった。
戦地が近い場合は勝敗が決するまで待ち、戦場の跡地に赴いて生存者を探して手当をするという過酷な仕事もある。
世界のあちこちで戦争をしている今、「攻撃は最大の防御」なのか白魔法より黒魔法を重用する傾向がある。
どの国の学校でも黒魔法の授業に時間が多く取られているくらいだから、黒魔法と白魔法の両方に適性のある人はいても白魔法を疎かにする人は多かった。
その結果、白魔法を苦手とする人は結構いて、優秀な白魔道士による治療はかなり需要があるらしく大抵の国は喜んで受け入れるものらしい。
他にも、『白い渡り鳥』は国に縛られない自由な信条で行動できることが保障されているので、例え王様でも強制的に自国に留めおくことは出来ないし、戦地の近くに来たからと言ってどちらかの勢力に加勢することは禁止されているなど、『白い渡り鳥』に関する自由や特権等が世界共通の法律で規定されている。
その法律で禁止されている有名なものが、『白い渡り鳥』が戦争に加担することだ。
戦場においてどこかの国の戦力として戦うこと、傭兵団に所属することなどが禁止されていて、それを破った『白い渡り鳥』には厳しい罰則があるし、禁を破った国や傭兵団にも相応のデメリットがあるので滅多に破るものはいない。
そして『白い渡り鳥』の特権は、供の者も含めて、普通なら煩雑な越境の手続きが簡略化されてどこへでも簡単に越境できることだ。
敵対し合う国同士にも簡単に入り込むことが出来ることから、用心深い国は受け入れた後に護衛という名の監視をつけたりするものの、『白い渡り鳥』の入国は拒否できないことが法律で決まっている。
「私が『白い渡り鳥』に?
私に務まるでしょうか。私は剣も黒魔法も使えませんが盗賊などに遭ったらどうすればいいのでしょうか」
「そういう時は護衛を雇うのですよ。旅の傭兵などを街で見つけて、護衛の依頼を受けてもらうのです」
「そう…ですか」
「大丈夫ですよ。貴女ならきっと上手くやれます。貴女が白魔法しか適性を示さなかったのは、高い白魔法の腕を活かすことだったのかもしれませんよ」
「…はい!」
それから成人を迎えるまでの間、私は若い頃に『白い渡り鳥』をしていたローズ様から色々な手ほどきを受けた。
旅の仕方、国王や領主らとの付き合い方、礼儀作法、トラブルの避け方など、今まで教えられた授業内容とは全く違う現実的な内容ばかりで新鮮な時間だった。
そして成人した日。
私は久しぶりに会う両親の立会いのもと、神殿でローズ様から直々に『白い渡り鳥』の洗礼を受けた。
「シェニカ。これは私の使っていた『白い渡り鳥』の証です。代々優秀な『白い渡り鳥』だけが受け継ぐ額飾りなんですよ。
貴女は私の大事な可愛い愛弟子。私の思いも先人達の思いも詰まったこの証を、貴女が引き継いでくれますか?」
「はい。しっかり受け継いでいきます」
額飾りは5本の銀の鎖に、それぞれ赤、青、黄、緑、黒の5つの小指の爪位の宝珠が台座に嵌め込まれているシンプルなものだった。
通常ならその時代の流行が取り入れたデザインのものが1人1人に作られるが、ローズ様のものは代々受け継いできたものだからか少し古めかしい感じがする。
でもそれは歴史ある物だし、銀の鎖も5色の宝珠も綺麗に輝いているので私は一目見てとても気に入った。
洗礼を終えて額飾りをつけた私の姿を見た私の両親は、涙を流しながら喜んでくれた。
そしてそれから数週間後。
いよいよ旅立ちの日を迎えると、6年ぶりに再会した友人たちだけでなく、街の人達や恩師であるローズ様まで見送りに来てくれた。
皆に別れを惜しんでもらえて、私は寂しさ半分嬉しさ半分だった。
「シェニカ、まさか貴女が『白い渡り鳥』になるなんて思ってもみなかったわ。
でも、誇り高いお仕事だから一生懸命頑張るのよ。
また離れ離れになってしまうけど、私達が両親であること、この町が故郷であることは変わらないからね。いつだって帰っておいでなさい」
「そうだよ。会えない日が続くが、たまには手紙を書いておくれ。父さんも母さんも、いつもシェニカを心配しているからね」
「お父さん、お母さん…」
私は両親に抱き着いて別れの挨拶をした。
別れの間際、ローズ様が私に小さな本を渡してくれた。
「ローズ様?」
「これは貴女が私の私室で学んだ便利な魔法の辞書です。旅先で便利な魔法の魔導書と出会うこともあるでしょう。
もう貴女には必要がないかもしれないけど、どこかで必要になるかもしれないから貴女がお使いなさい」
「ですがローズ様が困るのでは?」
「私はもうこの歳ですからね。新たな魔導書と出会うことはほとんどないでしょう。
私がかつての師から受け継いだように、若い貴女が受け継ぐべきです」
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