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第6章 新たな出会い
3.赤と青の悪魔
しおりを挟むシェニカの部屋から出ると、自分に用意された隣の部屋の前に立った。
この部屋はベッドの数とサイズは違うが、シェニカの部屋とほとんど変わらない間取りと家具の配置になっている。唯一大きく違うのは、窓の外に出られるかどうかだ。
俺はシェニカからもらった指輪にキスをして、扉を開けて中に入った。
リビングを通り過ぎて寝室へ繋がる奥の扉を開けると、さっきまで窓から出られるテラスでタバコを吸っていたレオンが、部屋の中に戻ってきていた。
俺を待ち構えていたかのようにL字型の大きなカウチソファに寛ぐように座って、鋭い目線で見てきた。
「久しぶりだなぁ。『赤い悪魔』」
「随分と久しぶりなことで『青い悪魔』」
「まさかここでお前に会おうとはな。世間は意外と狭いらしい」
「何でお前がここにいる」
俺はレオンと向かい合うようにカウチソファに座ると、一番聞きたい質問を投げかけた。
「それは俺も聞きたいね。『赤い悪魔』はウィニストラのバルジアラに討たれたって情報が流れたんだが、それもすぐに訂正された。なのに、お前はいつまで経ってもどの戦場にも姿を現さない。
まぁ、死んでいなくても深手を負ったんだとは思っていたが。何で『白い渡り鳥』の護衛なんてしている?」
「バルジアラに深手を負わされた後、戦場で動けなくなっていた所をあいつに偶然助けられた。
だが助けてもらうには護衛になるっていう条件がついていたんで、今こうして護衛なんてやってるわけだ。
それで?なんでお前は領主に雇われているんだ?」
俺が説明すると、レオンはソファの肘掛に頬杖をついて納得の表情を浮かべた。
「なるほどね。俺がここにいるのは、単純に金と遊びのためだな。最近、各地でコロシアムが盛んになっただろ?
俺も一度コロシアムに出てみたら、面白いような奴がたまに現れるんだよな。それが楽しくてコロシアムのあるこの街に居着いちまったところを、なんだかんだあってこの領主に雇われたんだ」
「コロシアムね…。もう戦場には戻らないのか?」
「気が向いたら戻っても良い。今、戦場じゃ『黒』『白』以外の奴らも名を上げているらしいから、戻れば戻ったで楽しみもあるだろうな。だが俺は今、コロシアムの方が楽しいんでね。
そういうお前はどうなんだ?
護衛なんかやってるよりも、戦場で血の雨を降らせている方がお前にはお似合いだ」
「戦場には戻りたいが、シェニカが許さなくてね」
俺の言葉にレオンは怒ったように顔を顰めた。
「はぁ?いちいち女のご機嫌を取らないといけないのか?
助けてもらった礼は必要だが、護衛なんか俺らがやる仕事じゃねぇんだ。すぐに辞めてしまえばいいだろ?『赤い悪魔』が随分と落ちこぼれたもんだな」
「俺は羊なんだよ」
俺は右手の手の平を見せると、奴は顰めて細くなっていた黒い目を丸々と見開いて驚いた。
「お前が?お前が羊なのか?じゃ、あの女が狼?冗談だろ?」
「本当だよ。だから今の俺は、髪も赤に染められていない『赤い悪魔』ってことだ」
俺がそう言うと、レオンは俯いて肩を震わせ始めた。
「あはははははは!!!!」
レオンは腹を抱えて、ソファにひっくり返るようにして豪快に笑い始めた。
「笑いたい気持ちは分かるが、そんなに笑わなくてもいいだろうが…」
しばらく経っても笑いが止まらないらしく、今ではソファの上をのたうち回るようにゴロンゴロンと転がりながら大笑いを続けている。
笑いたくなるのは分かる。
何も知らなければ、戦場で暴れまわっていた俺が非力なシェニカに主従の誓いなんて結ばされ、首輪をつけられて良いように命令されているマヌケな奴隷に見えるだろう。
俺だってシェニカと出会う前ならば、他のランクSSの傭兵が同じことになっていたら腹を抱えて笑っていただろう。
こいつが大笑いするのも分かるとは言え、こうして自分を見て大笑いされるのは腹が立つ。
でも目の前のこいつは俺と変わらない実力のある奴だから、睨んでも意味なんてないし、無用な手出しはするべきじゃない。ならば文句を言ってやりたいが、こんだけ大笑いしていると自分の笑い声で俺の声なんて聞こえないだろう。
だからこそ、こいつの重みと転がり回る衝撃で、今すぐにでも派手な音を立ててソファが壊れて欲しい。
そうは思っても、残念なことにこの部屋のカウチソファはベッドに使えそうな程デカくて頑丈だから、こいつのようなデカイ身体の奴が転がり回ってもギシリと軋むだけで全く問題なかった。
随分と長い時間笑われた後、レオンはヒーヒーと言いながら呼吸を整えた。
「まさか主従の誓いをしているとはなぁ。『赤い悪魔』が女一人に形無しだな。奴隷扱いされてる訳じゃないようだが、それでも……なぁ?あははははは!!」
散々笑ったのにまだ笑いが止まらないのか、もう一度腹を抱えて笑い始めた。
俺はそんな様子を見て、ため息を付きながらソファから立ち上り、自分の荷物を置いたクイーンサイズのベッドに腰掛けた。
「ダメだ。お前の顔見てたら笑えてくる。俺を笑い死にさせる気か?『赤い悪魔』の新たな攻撃手法は大笑いさせるってことか?あはははははは!!!!」
「もう好きに笑ってろ……。ついでに笑い死にすればいい」
笑いが落ち着いたレオンもソファから立ち上がって俺の隣に座ると、目に涙を浮かべながら俺の肩をがっしりと掴んだ。
「まぁまぁ、そう落ち込むなよ。お前が羊なのは不憫なことだ。ま、頑張れよ?
いやぁ、今までお前のことただのいけ好かない傲慢な野郎だと思っていたけど、不思議と好きになったかもしれない」
「男に好かれても嬉しくない」
「何だ、2人は良い仲じゃないのか?『白い渡り鳥』は大抵護衛とよろしくやってるじゃないか」
「別にそういう関係じゃねぇよ」
いつかはそういう関係になりたいが、そんなことをこいつに言う必要もない。
「まぁ、あの嬢ちゃんはウブそうだもんなぁ。先に言っておくが、領主は嬢ちゃんをこの街に居着かせたいと思ってるよ。
この国は、招いてもすぐ来てくれる『白い渡り鳥』がいない。あの嬢ちゃんをここの領主が捕まえられれば、国への色んな要望が通しやすくなるから随分ヤル気だよ。俺に監視と一緒に情報を探るように言ってきたからな」
「シェニカもそれには気付いているよ」
「へぇ!鈍そうな嬢ちゃんだが、そういうのは分かるのか」
レオンは意外そうな顔をした。
まだ若いシェニカは、一見すると人の意見に流されそうな穏やかな感じに見える。だが、それは見かけだけで、どんな相手だろうが自分の意見は言うし、領主や商人といった腹黒い目的を持つ奴の行動を見透かす。
加えてナンパしてくる奴には、俺でも感心するような鉄拳制裁を加える。
俺だってシェニカの言動には最初は驚いたが、そばにいる時間が長くなれば、その見た目から受ける印象は良い意味で裏切られることを身をもって体験している。
「今まで似たようなことは多々あったらしいから、そういうのは敏感に感じ取る。忠告はありがたく受け取る。だが俺に情報を漏らして良いのか?」
「言ったろ?お前のことが好きになったかもしれないって。元々俺はこの場所にも領主にも愛着なんてねぇし。だから情報を教えてやったんだ」
「そりゃどーも。そんで、お前は1週間後のコロシアムには出るのか?」
「もちろんだ。俺はそれ目的でここにいるんだからな。お前は?」
「あぁ。コロシアムの出場は許可してもらったからな」
「そうか、それは良かったな。許可してもらった……か。戦場じゃ、血の雨を降らせると言われて恐れられた『赤い悪魔』が、今じゃ女の許可がないと動けないなんてなぁ!あははは!!!」
再び派手に笑い転げ出したレオンを横目に、「笑い転げるのは良いが、俺の使うベッドの上でやるのはやめてくれ」と言っても無駄な言葉を飲み込む代わりに、俺は盛大なため息をついた。
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