天使な狼、悪魔な羊

駿馬

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第12章 予兆

7.欲しい言葉 ※R18

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ギルキアの首都を出てアビテードに向かう途中、野宿をしながら私はルクトに読める字を書かせようと必死に教えていた。

宿で彼に文字を教えると襲われる、と学んだので野宿の時にやるように決めた。



食事を終え、身体に浄化の魔法をかけて後は寝るだけという状況になった時、切り株を机代わりにして便箋とペンをルクトに渡して文字を書かせていた。






「ルクト。…あのさ。少しは私の教えたこと分かってくれた?」


彼に教えたのは、机や便箋に並行になるように身体を向けること。
便箋に書かれている罫線をはみ出ないように、罫線に沿って文字を書くこと。
文字は読めるように、続けて書くのではなく一文字ずつ分かりやすく書くこと。


何度繰り返し言い聞かせても、文字はミミズが這ったような汚い字のままだけど、とりあえず斜めになる文章を真っ直ぐにするところから始めることにしたのだが…。



「姿勢を正しくして書け、罫線に沿って書け、読める字で書けだろ?書いてるだろうが。文句あんのかよ」



「……これが読める字だと本当に思ってる?」


私はルクトが書いた便箋を見て、ルクトにもう一度確認した。





「当然だ」


「じゃあさ、今度はシューザに手紙送ってみてよ」


読める字だと自信満々で言い切ったルクトに、私は『そんなことないと思う。絶対!』と思ったものの、彼の自信はただの思い込みだと証明するために今度はシューザの名前を出した。





ーーーーーーーーー



傭兵団『黒鷹』の各地にある根城の1つに向かって、リーダーであるシューザは視察に出かけていた。





「リーダー、フィラが来てるみたいですよ」


「誰からだ?」


数人の仲間と共に馬に乗って移動中、シューザは仲間が指差した自分の頭上を見ると、茶色のフィラが一生懸命はためきながら追いかけてきていた。

馬を止めてフィラから手紙を受け取り、いつも通りに手順を踏むと鳥を空へと放った。




馬に跨ったまま丸まった2枚の手紙を開き、1枚目の手紙から見てみるとシューザの顔は一気に強張った。


「なんだこれは!!こんな汚え傾いた字なんて読めるわけねぇだろうが!どこをどうやったら読めるんだよ!これは暗号か!?」




「えっ!!暗号っ!?」


シューザの周りにいた傭兵達の驚いた視線が一斉に集中した。






「いや、最後になんか書いてるな。えっと?

『シューザへ。
ルクトの字が物凄く汚くて読めないので、現在、読める字を目指して特訓中です。本人は読めるはずだと豪語していますが、私にはどうにも読める様には見えません。シューザは読めますか?読めなかったら読めないとルクトに言って下さい。
万が一読めない場合のことを考えて、手紙の2枚目は新聞の切り抜きで読めるように1行1行同じ文章を作らせました。

私は一生懸命読めるような字になるように教えていますが、あまりの出来の悪さに泣きそうです。新聞の切り抜き作業も手伝わされる羽目になってしまい、面倒になってきてしまいました。そのうち切り抜き部分がなくても読めるようになって欲しいです』

……シェニカ。可哀想に苦労してるな。あいつは性格に難ありだし、まともに字すら書けないとは。そんな奴なんてフッて、俺と付き合ってくれたら良いのに。
でも傭兵団のリーダーと付き合うと、あらぬ憶測を生んで軍が傭兵団を潰しに来るかもしれないし、シェニカも傭兵団への所属を疑われるかもしれないから現実的じゃないよなぁ。

さて2枚目は…。新聞の切り抜きなんてただの脅迫文じゃねぇか。どれどれ」


2枚目の手紙を読み始めたシューザは、次第に手が震えて最後にはグシャリと手紙を握り潰した。




「何!?シェニカと恋人になってから毎晩お楽しみだぁ?!右ストレートで沈められた俺の根性なしだと?!
何が『俺も右ストレートを貰って気絶したが、恐怖に負けることなく挑んでる。お前とは違う』だよ!
あいつだって殴られてるじゃねぇかよ!言いたいこと言いまくりやがって!」




 
「リーダー、落ち着いて!」


馬から下り、手紙を更にグシャグシャにして踏みつぶそうとするシューザを、仲間達は乱心したと思って必死に落ち着かせようと慌てふためいていた。

踏み潰し損なった手紙はシューザが馬に餌として差し出したが、馬は『そんなもん食えるか!』とそっぽを向いた。




ーーーーーーーーー



「ルクト、フィラが来てるよ」



「シューザからの返事だろ」


ルクトはフィラから手紙を受け取って、嬉しそうに手紙を開いて読み始めると声を押し殺しながら笑い出した。





 「どうしたの?手紙読めたって?」


ルクトから手紙をもらって中を読み始めた。





「えっと…。
 『新聞の切り抜きは脅迫文だし、お前の字は汚すぎて暗号にしか見えねぇよ!
お前は何度もシェニカの右ストレートを食らって、たっかいお前のプライドもズタズタになって壊れてしまえばいい!アホ!馬鹿!
字すら書けない大馬鹿者のお前が死ぬときは予め連絡しろ。俺が迎えに行く』

へぇ。シューザってばルクトの最期の瞬間を見届けたいくらい好きってことなんだね」





「え、いや。違うと思うが…」



「照れなくて良いよ!私、そういうの慣れてるからっ!なんだかワクワクしてきたね!
ルクトとシューザの熱い友情と愛情!ルクトとレオンも仲良しで男の友情って感じだけど、シューザともすっかり打ち解けて仲良くなったんだね。ルクトの熱い友情が広がる感じで面白いねっ!」



「お前何を言ってるんだ?確かにレオンとは仲良くなったが、シューザは社交性があるだけだから、別に仲が良い訳じゃないんだが」



「はいはい、照れない照れない!友達が増えるって良いことだよ?それも最初は顔見知りだったり口聞かないレベルから、手紙のやり取りをするくらい仲良くなるなんて素敵じゃない。
この前、またレオンに手紙送ったんでしょ?」




「まあな。この間は全然読めなかったらしいから、ちゃんと新聞の切り抜きを付け加えておいた」


ルクトはそう言って満足そうな表情をしたので、最初は嫌がっていたけど文通の楽しさが分かってきたのかもしれない。

彼のそんな変化に私は嬉しくなった。









私とルクトは順調にアビテードへの道を歩き、ギルキア領内のダズという傭兵街に立ち寄った。


フードを外して街の中を歩いているのでいつも通り視線を浴びるのだが、この街では私よりも隣を歩くルクトに視線が集まっていた。





「なんかルクトを見る視線が凄いね」


「あまり姿を見なくなった『赤い悪魔』がいるからだろ」


「ルクトは有名人だもんね」


戦況が落ち着いているこの国は、ルクトが教えてくれた通り傭兵街であっても高ランクの傭兵はいないようだ。
だからこそ『赤い悪魔』として有名なルクトは、傭兵達から憧れの目で見られているのだろう。





「有名人ならお前もな」


ここに限って言えば、きっと私よりもルクトの方が有名人だと思う。
女性傭兵からはキャーキャーという黄色い声、男性傭兵からは羨望の眼差しを向けられる彼を見ると、とても誇らしく思う。


そんな彼が、私の護衛であり恋人であることがとても嬉しい。








この街で治療院を開いた初日、傭兵や民間人が治療を求めて列を作った。
治療の内容は剣や魔法での怪我ではなく、ギックリ腰だったり腱鞘炎だったりと肉体労働での怪我が多かった。






「はい、治療終わりました」


いつも通りナンパを躱しながら治療をしていると、治療を終えた女性傭兵とその付き添いの3人の女性傭兵がワクワクした気持ちを隠すことなく話しかけてきた。






「ねぇ、そこにいるのって『赤い悪魔』よね?先生の護衛なの?」



「ええ、そうですけど」


私がそう答えると、4人の女性傭兵達は一斉にキャー!と歓声を上げた。

チラリとルクトの方を振り返れば、彼は面倒くさそうな顔をして窓の方を向いている。彼女たちはみんな顔立ちは綺麗だし、全員旅装束を着ているがグラマーな感じは見て分かる。


私にはない見事なプロポーションと大人な女性って感じの色気に、彼が惹き付けられているんじゃないかと心配したけど、彼はそんな風には思っていないことにホッとした。





「え~~!護衛なんてもったいなーい!先生の護衛なら、そこらへんの傭兵が喜んで引き受けるから、私達に『赤い悪魔』を紹介してよ」



「お断りします」


ルクトは護衛だし、何より私の大事な恋人なんだ。だから彼を他の女性に紹介するなんて絶対にお断りだ。







「え~!?酷いわぁ~。いくら身分が高いからって、独り占めなんてズル~い!」


「出口はあちらですよ」


「じゃあね!『赤い悪魔』さんっ!」


4人の女性傭兵達はルクトにそう声をかけて手を振っていたが、彼は睨みつけてその姿を見送っていた。




ーーーーーーーーー




ここは傭兵街だが他の国の傭兵街に比べて数も少ないし、戦場に行っているわけじゃないから軽い怪我の患者ばかりで、治療院はわずか数日開いただけで治療の手は行き渡ったらしい。


領主の屋敷に治療終了の報告を終え、宿へ続く一直線の道を歩いていると、脇道から治療院で俺を紹介して欲しいと言っていた頭の軽そうな女傭兵達が行く手を塞いだ。



「いたいた!」


「見つけたわ!」


こいつらはこちらに走り寄ってくると、俺の前を歩いていたシェニカを押しのける様にして、俺の腕や腰にしがみついたり胸元にしなだれかかりし始めた。


強い香水の匂いが臭いし、一刻も早く宿に戻ってシェニカを抱きたくて仕方ないのに、行く手を阻むこいつらの存在は邪魔で仕方がない。





「ねぇ、治療院終わったから護衛の仕事も終わりでしょ?私達と飲みに行こうよ」


「離れろ。邪魔だ」


掴まれた腕を払いのけるが、1人の腕を払いのけると別の女が腕を絡めてきて懲りる様子がない。




「なんでつれないこと言うの~?飲みに行った後は、私達が全員でおもてなししてあげるから!」



「お前らには用はねぇよ。ウゼェ 」



「え~?溜まってるでしょ?私達がスッキリさせてあげる!」



「間に合ってる」


少し離れた場所にいるシェニカを見れば、不安そうな顔をして俺を見ている。
そんな顔をしているより、俺が好きな快楽に蕩けた表情が見たくて、部屋に戻ってベッドに押し倒したくて堪らなくなる。


邪魔な女を払い除けて一歩シェニカに近付くが、懲りない女は俺に体当たりしてくるように抱きついてきた。





「間に合ってるって…。この『白い渡り鳥』とヤって満足するの?そんなチンチクリンじゃ、『赤い悪魔』が満足するわけないじゃない!」



「そうよ!娼婦ばっかり相手にしてきたから、ずんぐりむっくりが目新しくても、すぐに飽きちゃうわよ!」


女どもはシェニカを見て、笑い声を上げながら罵り始めた。
何も知らないこいつらに、自分の女を悪く言われて物凄く腹が立ってくる。




「『白い渡り鳥』なんて、移動は馬か馬車ばっかりで動かないから、ローブの下はポヨンポヨンだものね!あははは!」



「ほら、良く見てよ。私達の方がどう見ても素敵な身体でしょ?私達娼婦じゃないから、もちろんタダでヤらせてあげる!」



「あんたなんて、手っ取り早く手を出せるだけの存在なんだから。
私達なら一緒に戦場だって行けるし、手を取り合って戦う事だって出来るから、護衛なんか辞めちゃいましょうよ」






うざったく腕を絡めて来たりくっついてくる女を退けようとした時、シェニカが視界に入った。


「うるせぇよ。邪魔だ。あっちい…け…」




その時見たシェニカは悲しそうに泣いていた。
ポタリポタリと緑の目から大粒の涙が溢れ、自分が悪いことをしたかのように自分の胸が締め付けられた。



そして、その涙は『もっと見ていたい』と思えるような綺麗なもので、なぜだか高揚感が襲って来た。


女を振りほどくのも忘れてその姿に見惚れていると、シェニカは顔を手で押さえ、何も言わずに宿へと駆け込んで行った。





「やっと邪魔者がいなくなったわ。今から私達の拠点に行きましょ?すぐ近くなの」


「こんな国に『赤い悪魔』がいるなんて思わないから、みんな見たら驚くわよ~!」


掴まれていた腕を払い退け、俺はシェニカの後を追うために宿へと歩き始めた。





「ねぇ、どこ行くの?」


「お前らなんてお呼びじゃねえんだよ。俺に近付くな」


殺気を滲ませて睨みつければ、一気に顔色を失くした女どもは蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。







宿の部屋に戻れば鍵は開いていて、部屋の隅の冷たい床の上で小さく膝を抱え、肩を震わせながら泣いていた。




「おい、なんで泣いてんだよ」


シェニカの肩を掴んで顔を上げさせると、短時間で随分と泣いたのか手に持っている俺のあげたピンクのハンカチが随分と濡れているのが見えた。




「うっ…。ひっく…。うぅっ…」




「言わねぇと分かんねぇんだよ。なんで泣いてるか言えよ」


顔を上げさせたのに、また俯いて嗚咽を漏らしながら泣き続けていて埒が明かない。

女に罵られたことが原因だと思うが、どの部分に傷ついたのか分からないし、こういう時に俺はどうしたら良いのかも分からない。



とりあえず床に座ったままなのは良くないと思って、抱き上げてベッドの縁に座らせた。

場所を移動させても、それからどうしたら良いか分からないままなので、とりあえず俺はシェニカと向き合うように壁に背中を預けて立ったままにしておいた。





「ル、ルクトはやっぱりあんな感じのスタイル抜群の綺麗な人達が良い?わ、私はすぐに飽きられちゃう?」





「はぁ?そんなわけ…」


少しだけ嗚咽が落ち着いてようやく言葉を発したシェニカだったが、思いもよらなかったその内容に思わず顔を顰めてシェニカを見た。






「だってルクト、いつも他の女の人を抱きに行くって言うじゃない…」



「冗談だよ」


こいつに『他の女を抱くぞ』と言うのは本気なはずもない。そう言うと俺に縋ってくるのが嬉しいから言ってるただの冗談に過ぎないのに、こいつは気にしていたのだろうか。





「じゃあ戦場に一緒に行ける人が良い…?」



「別に関係ねぇよ。もういい加減泣くの止めろ」



「ルクト…。落ち着くおまじない、して」


シェニカはそう言って、あの綺麗な涙で濡れた目で俺を見上げてきた。






「落ち着くまじない?」


その場の雰囲気で適当にしてきたから、何が落ち着くまじないなのか正直覚えてない。
だが、どんなやつだったか聞ける空気でもない。





「もっと良いのをしてやるよ。結界張れよ」


涙を拭いながら結界を張り終えたシェニカの肩を押してベッドに倒すと、ポカンとマヌケな顔をして覆い被さる俺を見上げていた。



身体をベッドの上に移動させ、髪留めを外してサイドテーブルに置いてローブを開いて旅装束に手をかけた。





「ルクト…キスして」


まだ脱がせていないが、シェニカは俺に縋るような表情をして腕を伸ばして来た。望んだ通りキスをすると、珍しくシェニカの方から舌を入れて来た。





「ルクト好き。好きだよ」



「どうした?やけに積極的だな。いつもこんくらい積極的だと嬉しいんだがなぁ」


キスしたら落ち着いたのか、緑の目は涙で濡れたままだが言葉ははっきりしたものに変化した。






「ルクトは私のこと…好き?」



「言わなくても分かるだろ?俺が抱きたいって思うのはお前だけだ」


旅装束を脱がせながらそう言うと、視界の隅に入るシェニカの顔が一瞬苦しげな顔になった気がした。


ーーなんで苦しそうな顔なんてするんだ?好きだからこそ抱きたいって思うんだから、別に変なこと言ってないと思うんだが。





「ルクト…。ルクト…」


その表情に何か違和感を覚えたが、すぐにシェニカが俺に抱きついてきた。その仕草に煽られた俺は、早くこいつの体温を感じたくて考えるのはやめた。




「ルクト…好きって言って」



「そんな余計なことを考える余裕なんて無くしてやろうか」


そう言ってこいつの弱い首筋や胸元にキスマークをつけながら手で触れていったが、触れた指先から伝わる鼓動は早くないし、いつもならすぐに荒くなる吐息は、なぜかまた嗚咽が始まりそうな息が詰まりかけた苦しそうなものだった。




「好きって言って欲しいって余計なことなの?」



「余計だ。お前は俺のことだけ考えてれば良い」


いつもなら十分濡れて良いはずの愛撫を施したのに、挿入できるほど濡れていない。

余計なことを考えているから濡れないんだろう。さっさとそんな思考を止めて、俺とこうして快楽を共有すれば、俺がこいつを好きなんだと嫌でも分かるはずだ。




いつもの倍の時間をかけて胸や花芽を指や口で愛撫して、やっと濡れ始めて挿入できた。こいつがいつも悦ぶ奥を擦るように腰を動かしても、激しく突き上げてもなかなかそれ以上濡れない。


それどころか、こいつは悲しそうに涙を流して泣いてばかりで、口から漏れるのは嗚咽の苦しそうな吐息と声だけ。



「っは、は、はっ!気持ちが良いだろ?もう泣くなよ」


「……うん」


ーー俺はちゃんと気持ちよく快楽を得られているし、こいつの感じる所を責めているのに喘がない。なんでだ?






この晩、シェニカはずっとあの綺麗な涙を流して静かに泣いていた。
喘ぐ声は僅かにしか出ないし、いつもより濡れないし、イくのにかなり時間がかかったことに不満はあったが、俺の名前を縋るように呼び続け、シェニカが俺を好きだと繰り返し言うのが嬉しくて夢中でシェニカを貪った。





「ルクト…。私で満足してる?」


多少の不満はあるが、身体も心も満たされてベッドの上で身体を伸ばしていると、俺に背を向けて横になっていたシェニカは、こちらを見ないまま消え入りそうなか細い声で呟いた。




「満足はしてねぇかな。何回ヤってもヤり足らねぇし」



「それって、やっぱり私が貧相だから?」



「そういう意味じゃねぇよ。お前が欲しくて堪らないっていう意味だよ。ほら、こっち向け。どうしたんだよ」


剥き出しの肩をグッと押し付けてこっちを向かせると、シェニカはまたポロポロと涙を流していた。




「ルクト…」


「もう泣くなって。なんで泣くんだ」


泣き始めた理由が分からず、とりあえず抱き寄せて頭を撫でた。
しばらくそうしていると少し嗚咽が落ち着き始め、シェニカは悲しそうな声でポツリと呟いた。





「私、不安なの」



「不安?」




「ルクトに好きって言って貰いたい。もっと手を繋いだり、キスしたりしたい」



「またそれか。俺は好きな女しか抱かないし、手を繋いだり、キスしたりするのは、ベッドの上でやってるから良いんじゃないのか?まだ足りないのか?」




「ルクト…。素直に好きって言ってよ」



「そんな小っ恥ずかしいこと出来るわけねぇだろ」



「私には言わせるクセに…」



「なら、お前も俺に言わせれば良いだろ?」



「私に出来るわけないじゃない。そんな経験値ないって知ってるくせに」





しばらく無言のまま抱き寄せて頭を撫でていると、スースーと寝息が聞こえてきたから眠った様だ。



「お前が好きだ」

頭を撫でてそう言ったが、眠っているシェニカに聞こえないのは承知の上だ。
主従の誓いをしている時は何度も好きだと言いたくなっていたが、今はそうは思わなくなった。

こいつの望む様に好きだと言ってやっても良いが、どうにも気恥ずかしさが勝って言う気にならない。


言葉にしない代わりに、俺はこいつへの想いを込めて気持ち良くさせるように抱いている。言葉なんかよりも、こうして直接肌を合わせれば感じ合えるからそれで十分だと思う。




「他の女なんてどうでもいい。お前しか欲しくないんだよ」


眠るシェニカの額に軽く口づけてそう言って、俺は肌から伝わってくるシェニカの体温を感じながら目を閉じた。



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