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第20章 渦紋を描く
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第20章は色んな人たちの視点で更新していく予定です。
今回は関所に来た2グループから見たお話となります。
■■■■■■■■■
ウィニストラとフシュカードを隔てる関所。越境者が多数通る大きな門をくぐって大国に入国すると、2人の女傭兵は腕を高く上げて背伸びをした。
「あ~!もうっ!折角首都で祝賀ムードを楽しみたかったのにぃ~。越境に時間かかり過ぎて間に合わなかったじゃない!」
「大丈夫、大丈夫。フェアニーブから帰って来た時には、首都はもっと盛り上がってるわよ。それに、時間がかかったから、エラルド将軍を見れたじゃない。フシュカードで一番人気の将軍を近くで見る機会なんて滅多にないわよ。良かったじゃん」
「それもそうね。真剣な顔をしている時は凛々しくて、ニコッと笑ったらすごくチャーミングだなんて。あーいう人とお付き合いしたいわぁ。
それにしても、フシュカードの将軍3人が部隊連れて集まってるってことは、大物が越境するのかもしれないわね」
「ま。誰が来ようと、私達には関係ないことよ」
伸ばした手を下ろす時、その手が横を通り過ぎようとした旅人が抱く犬に当たりそうになった。旅人の男は咄嗟に避けてぶつかることはなかったが、ギロリと睨まれた。
「あぶねぇなぁ」
「あ、ごめんなさい」
大小様々な宿屋や土産物屋、道具屋、服屋、酒場などが軒を連ねる関所前の宿場町は、どの国もちょっとした町ほどの規模があるが、大国となると他国のそれよりも一際大きい。宿場町から街道に出るところまで歩いてきた2人は、図面を手にした兵士が指示を出しつつ、道や建物の土台の目印になる杭を打ち、ロープを張っている様子を見た。
「新しい区画を整備してるってことは、また広くなるのね。宿場町はどこの国も城壁がないから広げ放題だけど、大国ってどこも通るたびに大きくなってるわね」
「人も移動する家畜の量も多いからね。それにしても今回も家畜がたくさん待機してる割に、ぜんぜん臭わないなんて。さすがよね」
「城壁がないのって、動物が待機する場所の都合だって聞いてるけど。ちゃんと世話してないと、だだっ広い状況でも臭ってくるもんね」
関所周辺に広がる草原に目をやると、牛や馬、羊などが集団を作って越境待ちをしていた。たくさんある集団の中には、手綱を引っ張って運動させたり、ブラッシングしたり、糞尿の処理をする貧民が多数働いていて、家畜の飼い主達は離れた場所に椅子を置いて、その様子をのんきに見ているだけだ。
「子供の時は、なんで親が貧民を馬鹿にするなって言うのかよく分からなかったけど。あーいう仕事引き受けてくれるから快適に生活出来るって、最近やっと分かってきたわ」
「だねぇ。他所を知ってはじめて意味が分かったわ」
「特に大国はどこも貧民への扱いが丁寧よね」
「ねぇ!あっちの馬にウィニストラの国旗がついてる! フシュカードに向かう一行みたいよ」
「だから集まってたのね。大口路近くに行って、間近で見ようよ」
多数の家畜や荷馬車で越境する際に通る、大口路と呼ばれる関所の端にある大きな扉の近くに行くと、広い通路の両脇に設置されている柵の前には、ウィニストラ兵が2列で整列していた。青碧色のマントを靡かせた隊列が近付いて来ると、数人の兵士が国旗がついた旗棒を上げ、他の兵士は敬礼の状態になった。
それが合図になったのか、柵の周辺では一気に人が集まり、すし詰め状態になった。
「もうっ!ちょっと押さないでよ!あ!きたきた!」
「旗で見えにく~い!」
木製の柵越しに眺めていると、先頭を行くのはバルジアラの副官ニドニアーゼルで、その後ろに豪華な馬車を連れたバルジアラと腹心のエニアスが並び、馬車を囲むように4人の副官達が続いているのが見えた。2人は視線を塞ぐように掲げられた大きな国旗を避けようと移動しようとするが、一歩も動けない状態ではどうにもならなかった。
「見上げる位置にいるとはいえ、バルジアラ様って近くで見ると存在感あるわね…」
「軍服なのに、厳しい表情もあって威圧感もすごい。怖すぎて近付きたくないわ」
「でもすごい肉体美に違いないわ!」
「そこは気になる~!遠くからちょっと覗いてみたい!」
歓声に包まれながらバルジアラの一行が門の中に入っていくと、その後ろに大きな荷馬車を連れたトゥーベリアス達が続いた。副官達に囲まれた荷馬車は、先程の馬車に比べると地面の凸凹を拾いやすいようで、時折ガタンゴトンと大きく揺れている。
「トゥーベリアス様~! あ!目が合った!ニコッてされた~!きゃぁぁ!」
「本当カッコいいわよね!」
「でも、ちょっと女ったらしそう…。やっぱりエラルド将軍が良いなぁ!」
「バルジアラ様とトゥーベリアス様は観賞用ね」
トゥーベリアスの後方では、これまで以上の歓声と『英雄様』という言葉が聞こえてきた。大きな歓声を連れた最後尾のディスコーニの一団が目の前にやって来ると、2人は柵から身を乗り出すようにして大きく手を振った。そんな大きな歓声と熱量が浴びせられる中、ディスコーニと5人の副官たち、彼らに囲まれたピンクのローブを被った人物と2人の傭兵も、真っ直ぐ前を向いたままで反応しない。
「ディスコーニさまぁ~!すてき~!」
「英雄様ぁ~!」
「おかえりをお待ちしてまーす!」
「きゃぁぁぁ!セナイオルさまよぉ!素敵ぃぃぃ!」
「よっ!色男~!」
1本の剣に炎が巻き付いた柄を白糸で刺繍した青碧色のマントを見送ると、周囲に集まっていた人々は波が引いたように一気に去っていった。そんな中、取り残されたように佇む2人は顔を見合わせた。
「ねぇ、あのさ。ディスコーニ様たちに囲まれてた男の人って」
「だよね!」
「なんでこんなところにいるの?それも将軍の部隊に囲まれた状況でさ」
「連行されてる感じではなかったけど…」
「前に『赤い悪魔』はいま『再生の天使』の護衛してるって話きいたことあるけど。あのフードの子がそうなのかなぁ?」
「多分、そうだよね」
「ってことは、『青い悪魔』も護衛にしてるってことかしら」
「そうなんじゃない?」
「有名傭兵を2人も護衛に出来るなんて。いいな~。羨ましい!」
「ね~。二つ名のついた有名傭兵なんて、近付きにくいし、ランクが高くないと相手にしてもらえないしね。ずっと前、胸がデカイだけのハーレム女が『青い悪魔』に話しかけてたの見たことあるけど、まったく相手にしてもらえなくて、逆ギレしてたわ」
「私は立ち寄った酒場でさ、仲間相手にクダ巻いてる女傭兵がいたから、聞き耳立ててたんだけど。その人、『黒い悪魔』に近付こうと傭兵団に入ろうとしたけど、魂胆がバレバレだったらしく、けんもほろろに断られたらしいよ。んで、今度は『白い悪魔』を探そう!って言い出したけど、居場所が全然分からないって言われてガッカリしてたわ」
「あ~あ。ほんと羨ましい。金持ちで、堂々とハーレム作れて、高い身分があって、行列並ばずにすぐ越境出来るし。ちょちょっと魔法かければいいだけの『白い渡り鳥』になりたいな~」
「ほんと、ほんと。わがまま放題でも文句言われないし。羨ましいわ」
2人はそう言いながら宿場町を出て、遠くに見える街の城壁を目指し砂地の街道を歩き始めた。
◆
フェアニーブに向かうウィニストラ一行が越境して半日後。フシュカードとの関所前にある宿場町の酒場に、3人の女性が集まった。彼女たちが気になるのか、酒場にいる男性たちの多くは鼻の下を伸ばしたり、うっとりしたような目で酒を飲みながら眺めている。その様子に耐えられなかったのか、男性と一緒に酒を飲んでいた女性は怒って席を立ったり、喧嘩を始める者が現れた。彼女たちはそんな原因を作ったとはつゆ知らず、「乾杯」と言ってグラスを合わせた。
「店という店に聞き込みしたけど、誰もイモ娘らしき人物を見てないって言ってた」
「行列に並んでる人と行列相手に声かける商人にも聞いたけど、そんな人並んでなかったって」
「ってことは、関所に来るまでの間で消えたのかしら」
「こっちに来る時に、すれ違う人もチェックしてたんだけど。似た特徴の人っていなかったわよ。どこかに潜んでいるのかしら」
「ここで絶対足止めされるから、見つけたら現実を見せてやろうと思ってたのに。田舎者は逃げ足が速くて、隠れるのが上手いのね」
「どこに行ったか分からないけど、ディスコーニ様が帰国した時に姿を現しそうね」
「じゃあ、帰国するまでここで待ってましょうよ」
「そうね、そうしましょ」
3人は同時にため息をつくと、テーブルに置かれた野菜スティックやジャーキーなどに手を伸ばした。
「それにしても。みんなセナイオル様に移っちゃったね」
「まったく、『あんな風に言われたら諦めるしかない』とか『もっと可能性のある方に行くわ!』とか言って諦めちゃってさ。でも私達はディスコーニ様狙いのままで行きましょ」
「ディスコーニ様だって、ずーっと同じ人からアピールされてたら顔も覚えてくれるはずだし、悪い気はしないはず。絶対私達の中から選ばれるわ!」
「まずは浮気されてるってことを教えてあげないと。手紙は受け取ってもらえないし…。どうすればいいかしら」
「ルージュに相談してみましょ」
「そうね。あの子なら、きっと良い案を出してくれるわ」
「私達の誰かがディスコーニ様と付き合えたら、ファズ様のファンの子がいるんですって紹介してあげなきゃ。あの子には本当に助けてもらってるから、ちゃんと橋渡ししないとね!」
「そうね!」
「ディスコーニ様って本当に素敵。威圧感がないし、優しそうだし。丁寧な言葉遣いや口調もカッコいいわ!」
「ほんと、ほんと!将来筆頭将軍間違いなしだもの。結婚したら安泰ね!」
「もしディスコーニ様とお付き合い出来たら。アミルとチェルシーなら浮気にカウントしないわ」
「私も同じ!結婚してもこの2人なら許せるわ」
「じゃあ私達の中で1人が選ばれたら、2人は家政婦として雇ってもらって、みんなでディスコーニ様を共有するっていうのはどう?」
「それいいわねぇ。浮気や不倫はご法度だけど、私達なら上手くやれるわ」
「もちろんよ。失脚されたら困るし!」
「あぁぁ!もうっ!ディスコーニ様に抱かれた~い!」
「きっとすごく情熱的よ」
「絶対すんごい肉体美よ。想像するだけで濡れちゃう」
「そう考えたら。イモ娘って、もうディスコーニ様と寝てるのかしら」
「宿まで一緒だったんだから多分してるんじゃない? 想像しただけで腹が立つわ!」
「絶対私達のほうが良いに決まってるのに。今度見つけたら、殺してやりたい!」
「落ち着いて、落ち着いて。気持ちはよく分かるけど、戦場以外での殺人は厳禁よ。ディスコーニ様と結婚するってのに、前科があるのは良くないわ」
「確かに。ルージュに殺し屋の知り合いがいないか聞いてみましょ」
「とりあえず。いまは楽しいことだけ考えましょ」
「そうね。イモ娘のことなんで考えるだけで虫酸が走るわ」
「王宮で働いてた元カレが、舞踏会では奥さんも連れてくることがあるんだって言ってたの。だから私達も社交マナーを身に着けておいたほうがいいわよ」
「えぇ~!そうなの?! 舞踏会なんてすごーい!」
「絶対綺羅びやかな世界よね。素敵…」
「ディスコーニ様と結婚したら、お金に困らず良い生活できて、お伽噺みたいな世界も体験出来るなんて。バラ色な人生間違いなしだわ!」
「絶対ディスコーニ様をおとさなきゃ!」
「帰国したら、首都はまたお祝いが開かれる予定よね。パレードが行われるかもしれないから、その時に着る服も買っておかないと!」
「どんなデザインにする?セクシー系?派手な色?」
「ファンゼオンで見つけた派手な色のタイトなワンピースにするつもりよ。肌の露出はあっても娼婦にも見えないし、なによりセクシーでオシャレだったのよ!」
「すっごく高いやつよね。チェルシーったら、お金持ち!」
「すっげー楽しそうじゃん。俺達も仲間に入れてくれよ」
「一緒に飲もうよ」
「一杯奢るよ」
3人が楽しそうに酒を飲み交わしていると、見るからに傭兵の格好をした3人の男が声をかけてきた。しかし、彼女たちは彼らの容姿や格好を見ると、お断りとばかりに溜め息を吐き、存在を無視して再び酒を飲み始めた。
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「あ~!もうっ!折角首都で祝賀ムードを楽しみたかったのにぃ~。越境に時間かかり過ぎて間に合わなかったじゃない!」
「大丈夫、大丈夫。フェアニーブから帰って来た時には、首都はもっと盛り上がってるわよ。それに、時間がかかったから、エラルド将軍を見れたじゃない。フシュカードで一番人気の将軍を近くで見る機会なんて滅多にないわよ。良かったじゃん」
「それもそうね。真剣な顔をしている時は凛々しくて、ニコッと笑ったらすごくチャーミングだなんて。あーいう人とお付き合いしたいわぁ。
それにしても、フシュカードの将軍3人が部隊連れて集まってるってことは、大物が越境するのかもしれないわね」
「ま。誰が来ようと、私達には関係ないことよ」
伸ばした手を下ろす時、その手が横を通り過ぎようとした旅人が抱く犬に当たりそうになった。旅人の男は咄嗟に避けてぶつかることはなかったが、ギロリと睨まれた。
「あぶねぇなぁ」
「あ、ごめんなさい」
大小様々な宿屋や土産物屋、道具屋、服屋、酒場などが軒を連ねる関所前の宿場町は、どの国もちょっとした町ほどの規模があるが、大国となると他国のそれよりも一際大きい。宿場町から街道に出るところまで歩いてきた2人は、図面を手にした兵士が指示を出しつつ、道や建物の土台の目印になる杭を打ち、ロープを張っている様子を見た。
「新しい区画を整備してるってことは、また広くなるのね。宿場町はどこの国も城壁がないから広げ放題だけど、大国ってどこも通るたびに大きくなってるわね」
「人も移動する家畜の量も多いからね。それにしても今回も家畜がたくさん待機してる割に、ぜんぜん臭わないなんて。さすがよね」
「城壁がないのって、動物が待機する場所の都合だって聞いてるけど。ちゃんと世話してないと、だだっ広い状況でも臭ってくるもんね」
関所周辺に広がる草原に目をやると、牛や馬、羊などが集団を作って越境待ちをしていた。たくさんある集団の中には、手綱を引っ張って運動させたり、ブラッシングしたり、糞尿の処理をする貧民が多数働いていて、家畜の飼い主達は離れた場所に椅子を置いて、その様子をのんきに見ているだけだ。
「子供の時は、なんで親が貧民を馬鹿にするなって言うのかよく分からなかったけど。あーいう仕事引き受けてくれるから快適に生活出来るって、最近やっと分かってきたわ」
「だねぇ。他所を知ってはじめて意味が分かったわ」
「特に大国はどこも貧民への扱いが丁寧よね」
「ねぇ!あっちの馬にウィニストラの国旗がついてる! フシュカードに向かう一行みたいよ」
「だから集まってたのね。大口路近くに行って、間近で見ようよ」
多数の家畜や荷馬車で越境する際に通る、大口路と呼ばれる関所の端にある大きな扉の近くに行くと、広い通路の両脇に設置されている柵の前には、ウィニストラ兵が2列で整列していた。青碧色のマントを靡かせた隊列が近付いて来ると、数人の兵士が国旗がついた旗棒を上げ、他の兵士は敬礼の状態になった。
それが合図になったのか、柵の周辺では一気に人が集まり、すし詰め状態になった。
「もうっ!ちょっと押さないでよ!あ!きたきた!」
「旗で見えにく~い!」
木製の柵越しに眺めていると、先頭を行くのはバルジアラの副官ニドニアーゼルで、その後ろに豪華な馬車を連れたバルジアラと腹心のエニアスが並び、馬車を囲むように4人の副官達が続いているのが見えた。2人は視線を塞ぐように掲げられた大きな国旗を避けようと移動しようとするが、一歩も動けない状態ではどうにもならなかった。
「見上げる位置にいるとはいえ、バルジアラ様って近くで見ると存在感あるわね…」
「軍服なのに、厳しい表情もあって威圧感もすごい。怖すぎて近付きたくないわ」
「でもすごい肉体美に違いないわ!」
「そこは気になる~!遠くからちょっと覗いてみたい!」
歓声に包まれながらバルジアラの一行が門の中に入っていくと、その後ろに大きな荷馬車を連れたトゥーベリアス達が続いた。副官達に囲まれた荷馬車は、先程の馬車に比べると地面の凸凹を拾いやすいようで、時折ガタンゴトンと大きく揺れている。
「トゥーベリアス様~! あ!目が合った!ニコッてされた~!きゃぁぁ!」
「本当カッコいいわよね!」
「でも、ちょっと女ったらしそう…。やっぱりエラルド将軍が良いなぁ!」
「バルジアラ様とトゥーベリアス様は観賞用ね」
トゥーベリアスの後方では、これまで以上の歓声と『英雄様』という言葉が聞こえてきた。大きな歓声を連れた最後尾のディスコーニの一団が目の前にやって来ると、2人は柵から身を乗り出すようにして大きく手を振った。そんな大きな歓声と熱量が浴びせられる中、ディスコーニと5人の副官たち、彼らに囲まれたピンクのローブを被った人物と2人の傭兵も、真っ直ぐ前を向いたままで反応しない。
「ディスコーニさまぁ~!すてき~!」
「英雄様ぁ~!」
「おかえりをお待ちしてまーす!」
「きゃぁぁぁ!セナイオルさまよぉ!素敵ぃぃぃ!」
「よっ!色男~!」
1本の剣に炎が巻き付いた柄を白糸で刺繍した青碧色のマントを見送ると、周囲に集まっていた人々は波が引いたように一気に去っていった。そんな中、取り残されたように佇む2人は顔を見合わせた。
「ねぇ、あのさ。ディスコーニ様たちに囲まれてた男の人って」
「だよね!」
「なんでこんなところにいるの?それも将軍の部隊に囲まれた状況でさ」
「連行されてる感じではなかったけど…」
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「多分、そうだよね」
「ってことは、『青い悪魔』も護衛にしてるってことかしら」
「そうなんじゃない?」
「有名傭兵を2人も護衛に出来るなんて。いいな~。羨ましい!」
「ね~。二つ名のついた有名傭兵なんて、近付きにくいし、ランクが高くないと相手にしてもらえないしね。ずっと前、胸がデカイだけのハーレム女が『青い悪魔』に話しかけてたの見たことあるけど、まったく相手にしてもらえなくて、逆ギレしてたわ」
「私は立ち寄った酒場でさ、仲間相手にクダ巻いてる女傭兵がいたから、聞き耳立ててたんだけど。その人、『黒い悪魔』に近付こうと傭兵団に入ろうとしたけど、魂胆がバレバレだったらしく、けんもほろろに断られたらしいよ。んで、今度は『白い悪魔』を探そう!って言い出したけど、居場所が全然分からないって言われてガッカリしてたわ」
「あ~あ。ほんと羨ましい。金持ちで、堂々とハーレム作れて、高い身分があって、行列並ばずにすぐ越境出来るし。ちょちょっと魔法かければいいだけの『白い渡り鳥』になりたいな~」
「ほんと、ほんと。わがまま放題でも文句言われないし。羨ましいわ」
2人はそう言いながら宿場町を出て、遠くに見える街の城壁を目指し砂地の街道を歩き始めた。
◆
フェアニーブに向かうウィニストラ一行が越境して半日後。フシュカードとの関所前にある宿場町の酒場に、3人の女性が集まった。彼女たちが気になるのか、酒場にいる男性たちの多くは鼻の下を伸ばしたり、うっとりしたような目で酒を飲みながら眺めている。その様子に耐えられなかったのか、男性と一緒に酒を飲んでいた女性は怒って席を立ったり、喧嘩を始める者が現れた。彼女たちはそんな原因を作ったとはつゆ知らず、「乾杯」と言ってグラスを合わせた。
「店という店に聞き込みしたけど、誰もイモ娘らしき人物を見てないって言ってた」
「行列に並んでる人と行列相手に声かける商人にも聞いたけど、そんな人並んでなかったって」
「ってことは、関所に来るまでの間で消えたのかしら」
「こっちに来る時に、すれ違う人もチェックしてたんだけど。似た特徴の人っていなかったわよ。どこかに潜んでいるのかしら」
「ここで絶対足止めされるから、見つけたら現実を見せてやろうと思ってたのに。田舎者は逃げ足が速くて、隠れるのが上手いのね」
「どこに行ったか分からないけど、ディスコーニ様が帰国した時に姿を現しそうね」
「じゃあ、帰国するまでここで待ってましょうよ」
「そうね、そうしましょ」
3人は同時にため息をつくと、テーブルに置かれた野菜スティックやジャーキーなどに手を伸ばした。
「それにしても。みんなセナイオル様に移っちゃったね」
「まったく、『あんな風に言われたら諦めるしかない』とか『もっと可能性のある方に行くわ!』とか言って諦めちゃってさ。でも私達はディスコーニ様狙いのままで行きましょ」
「ディスコーニ様だって、ずーっと同じ人からアピールされてたら顔も覚えてくれるはずだし、悪い気はしないはず。絶対私達の中から選ばれるわ!」
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「そうね。あの子なら、きっと良い案を出してくれるわ」
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「ディスコーニ様って本当に素敵。威圧感がないし、優しそうだし。丁寧な言葉遣いや口調もカッコいいわ!」
「ほんと、ほんと!将来筆頭将軍間違いなしだもの。結婚したら安泰ね!」
「もしディスコーニ様とお付き合い出来たら。アミルとチェルシーなら浮気にカウントしないわ」
「私も同じ!結婚してもこの2人なら許せるわ」
「じゃあ私達の中で1人が選ばれたら、2人は家政婦として雇ってもらって、みんなでディスコーニ様を共有するっていうのはどう?」
「それいいわねぇ。浮気や不倫はご法度だけど、私達なら上手くやれるわ」
「もちろんよ。失脚されたら困るし!」
「あぁぁ!もうっ!ディスコーニ様に抱かれた~い!」
「きっとすごく情熱的よ」
「絶対すんごい肉体美よ。想像するだけで濡れちゃう」
「そう考えたら。イモ娘って、もうディスコーニ様と寝てるのかしら」
「宿まで一緒だったんだから多分してるんじゃない? 想像しただけで腹が立つわ!」
「絶対私達のほうが良いに決まってるのに。今度見つけたら、殺してやりたい!」
「落ち着いて、落ち着いて。気持ちはよく分かるけど、戦場以外での殺人は厳禁よ。ディスコーニ様と結婚するってのに、前科があるのは良くないわ」
「確かに。ルージュに殺し屋の知り合いがいないか聞いてみましょ」
「とりあえず。いまは楽しいことだけ考えましょ」
「そうね。イモ娘のことなんで考えるだけで虫酸が走るわ」
「王宮で働いてた元カレが、舞踏会では奥さんも連れてくることがあるんだって言ってたの。だから私達も社交マナーを身に着けておいたほうがいいわよ」
「えぇ~!そうなの?! 舞踏会なんてすごーい!」
「絶対綺羅びやかな世界よね。素敵…」
「ディスコーニ様と結婚したら、お金に困らず良い生活できて、お伽噺みたいな世界も体験出来るなんて。バラ色な人生間違いなしだわ!」
「絶対ディスコーニ様をおとさなきゃ!」
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「どんなデザインにする?セクシー系?派手な色?」
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「すっげー楽しそうじゃん。俺達も仲間に入れてくれよ」
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